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157.偽物/他国
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ショウがならず者のリーダーと戦っている間にフィルは、アクサンとクァズに近づいていった。
「やあ馬鹿王子様、お初にお目に掛かります。全く光栄ではないですけどね」
「ひっ、ひいいいいいっ!」
アクサンは情けない悲鳴を上げながら後ずさりする。それも仕方がないことだった。アクサンは傲慢で自分勝手なうえにかなりバカだが、小心者で小物でもあったのだ。そんな男が、大勢を相手に勝利した少女が『敵』として近づいてきたら恐ろしくて仕方がない。
「た、たたたた助けてぇ!」
アクサンは遂には命乞いまでしてしまう。その場に佇むのは、王族としてのプライドがあるからではなく、逃げ出したくても足が震えてうまく動かせないだけ。本当に情けない男なのだ。
「王子様、静かにしてくれない? 今は君よりも隣の男の方が重要だからさ」
「ひえええええ…………え? クァズが?」
「…………」
アクサンが隣を振り返ると、無表情でフィルを眺めるクァズの姿があった。
「……僕に何か用ですか? このクァズは、ジューンズ侯爵家から追放された男でしかないのですが?」
「白々しいね。何が『クァズ』だよ。全然違うじゃん」
「ほう……」
「え? どういうことだ?」
フィルは呆れるように言った。自分たちのことを棚に上げて。
「君と本物の『クァズ・ジューンズ』で同じなのは、髪と瞳の色だけ。他は身長も顔つきも体格も違うじゃん」
フィルがエリザの、ショウがアキエーサの影武者。つまり、偽物。それと同じように、目の前の男はクァズ・ジューンズの偽物であるということを。
「君さあ、どこの誰だか分かんないけど、追放された侯爵令息になりすますとか手の込んだことするよね」
「………………」
「な、何だって? 成りすますだって? 誰が誰に?」
どうもアクサンは、状況が分からないらしい。
「馬鹿王子はまだ分からないの? この男はね、ジューンズ家の元侯爵令息なんかじゃないってことだよ」
「な、何!?」
「おかしいと思わなかったの? どうしてこんなことをとか……いや、分かるはずもないか。何しろ『馬鹿王子』だからね」
「そ、それは………って、馬鹿王子とはなんだ!」
アクサンの文句を聞き流して、フィルは更に『クァズ』との距離を狭くする。
「ねえ、どうなの?」
フィルが目の前までくると、『クァズ』は、笑い出した。
「ふっ、くふふふ、ふはははは! そうだよ。僕は『クァズ・ジューンズ』なんかじゃない。別人さ」
「やっぱりね」
「っ!?」
クァズ、いや、アクサンに対して『クァズ』と名乗っていた男は、自分が別人と言いだした。それを聞いてアクサンもようやく状況が見えてきた。
「なっ!? お前、私を騙したのか!?」
「まあ、そういうことになりますね。元貴族と言っておいた方が馬鹿な王子様をうまく丸め込めそうでしたからね。実際に王子様は僕の話に乗ってくれたでしょう?」
「く、くそぉ………」
アクサンは悔しそうに顔を歪める。その一方で、フィルは顔が少し険しくなる。
「随分と手の込んだことするねえ。そこまでする目的は何かな?」
「もちろん、商会の情報入手ですよ。我が国の発展のためにね。もちろん、フーシャ王国ではないほうの国になりますが」
「やはり、他国の勢力か………!」
フィルの顔の険しさが深くなった。他国の勢力と聞いて危機感を強めたのだ。
「もっとも偽物になることは本人からも同意を得ていることなのですよ」
「何だって? それじゃあ本物のクァズ・ジューンズもこの件に加担しているのかい?」
「そういうことですよ。彼は自分の浮気相手だった女に復讐したいようでしてね。今は、そっちの方に集中しているのですよ」
「え? それって………」
フィルの脳裏に浮かぶのは、自身の主アキエーサ……の義理の妹の太った女性だった。
「やあ馬鹿王子様、お初にお目に掛かります。全く光栄ではないですけどね」
「ひっ、ひいいいいいっ!」
アクサンは情けない悲鳴を上げながら後ずさりする。それも仕方がないことだった。アクサンは傲慢で自分勝手なうえにかなりバカだが、小心者で小物でもあったのだ。そんな男が、大勢を相手に勝利した少女が『敵』として近づいてきたら恐ろしくて仕方がない。
「た、たたたた助けてぇ!」
アクサンは遂には命乞いまでしてしまう。その場に佇むのは、王族としてのプライドがあるからではなく、逃げ出したくても足が震えてうまく動かせないだけ。本当に情けない男なのだ。
「王子様、静かにしてくれない? 今は君よりも隣の男の方が重要だからさ」
「ひえええええ…………え? クァズが?」
「…………」
アクサンが隣を振り返ると、無表情でフィルを眺めるクァズの姿があった。
「……僕に何か用ですか? このクァズは、ジューンズ侯爵家から追放された男でしかないのですが?」
「白々しいね。何が『クァズ』だよ。全然違うじゃん」
「ほう……」
「え? どういうことだ?」
フィルは呆れるように言った。自分たちのことを棚に上げて。
「君と本物の『クァズ・ジューンズ』で同じなのは、髪と瞳の色だけ。他は身長も顔つきも体格も違うじゃん」
フィルがエリザの、ショウがアキエーサの影武者。つまり、偽物。それと同じように、目の前の男はクァズ・ジューンズの偽物であるということを。
「君さあ、どこの誰だか分かんないけど、追放された侯爵令息になりすますとか手の込んだことするよね」
「………………」
「な、何だって? 成りすますだって? 誰が誰に?」
どうもアクサンは、状況が分からないらしい。
「馬鹿王子はまだ分からないの? この男はね、ジューンズ家の元侯爵令息なんかじゃないってことだよ」
「な、何!?」
「おかしいと思わなかったの? どうしてこんなことをとか……いや、分かるはずもないか。何しろ『馬鹿王子』だからね」
「そ、それは………って、馬鹿王子とはなんだ!」
アクサンの文句を聞き流して、フィルは更に『クァズ』との距離を狭くする。
「ねえ、どうなの?」
フィルが目の前までくると、『クァズ』は、笑い出した。
「ふっ、くふふふ、ふはははは! そうだよ。僕は『クァズ・ジューンズ』なんかじゃない。別人さ」
「やっぱりね」
「っ!?」
クァズ、いや、アクサンに対して『クァズ』と名乗っていた男は、自分が別人と言いだした。それを聞いてアクサンもようやく状況が見えてきた。
「なっ!? お前、私を騙したのか!?」
「まあ、そういうことになりますね。元貴族と言っておいた方が馬鹿な王子様をうまく丸め込めそうでしたからね。実際に王子様は僕の話に乗ってくれたでしょう?」
「く、くそぉ………」
アクサンは悔しそうに顔を歪める。その一方で、フィルは顔が少し険しくなる。
「随分と手の込んだことするねえ。そこまでする目的は何かな?」
「もちろん、商会の情報入手ですよ。我が国の発展のためにね。もちろん、フーシャ王国ではないほうの国になりますが」
「やはり、他国の勢力か………!」
フィルの顔の険しさが深くなった。他国の勢力と聞いて危機感を強めたのだ。
「もっとも偽物になることは本人からも同意を得ていることなのですよ」
「何だって? それじゃあ本物のクァズ・ジューンズもこの件に加担しているのかい?」
「そういうことですよ。彼は自分の浮気相手だった女に復讐したいようでしてね。今は、そっちの方に集中しているのですよ」
「え? それって………」
フィルの脳裏に浮かぶのは、自身の主アキエーサ……の義理の妹の太った女性だった。
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