138 / 229
138.報告/旧友
しおりを挟む
イムラン侯爵とベスクイン公爵の馬車が襲撃された事件はすぐに王宮にいる国王の耳に届いた。ちょうどその日のうちに早馬で『アクサンとワカマリナが脱走したから気を付けてほしい』と伝えようとしていた矢先のこと。その伝令役が襲撃後の馬車に鉢合わせして事件のことを知ったのだ。そして、そのまま王宮に戻って国王に報告というわけだ。
「な、何と!? イムラン侯爵とベスクイン公爵の馬車が賊共に同時に襲撃されたと!? この王宮に向かう道中でそのようなことが!?」
襲撃事件を知った国王は驚愕した。王宮に向かう貴族を襲撃される事件など前代未聞。ましてや侯爵と公爵の立場の馬車を襲うなど並の者ならできることではない。大事件が起こってしまったことに国王は戦慄した。
「何ということだ……このタイミングで彼らの馬車を狙うなど……」
そして、同じくらいに嫌な予感を感じ取った。昨日はアキエーサの殺害未遂事件が起こったばかりだ。昨日の今日でこんなことが起こるとなると、間違いなく『あの二人』の関与を疑わずにはいられないでいる。それはもちろん、昨日の事件の前に婚約者がいるにもかかわらずに保身のためにアキエーサに求婚した馬鹿王子とその婚約者だ。
「……アクサンとワカマリナだろ……少しばかり遅かったか……」
……時すでに遅しとはこのことか。国王は素直にそう思った。
「嗚呼……あやつらはとうとう大罪を犯してしまったか……。もはや平民落ち程度では済まされまいな……」
「へ、陛下……まだ王子とワカマリナが関係していると確定したわけでは……」
「無駄だ。少なからず関わっている可能性が高すぎる。分かっているだろう……」
「…………」
傍にいる部下ですら、項垂れる国王にかける言葉が見つからない。正直、報告を聞いた国王以外の者達も『アクサン王子が関わっているのでは!?』と思っているのだ。アクサンの父でもある国王の気持ちを考えると何を言っても同じにしか思えない。黙って国王の言葉に従うしかない。
「それで……被害はどれほどに及んだ? アクサンの手掛かりも見つかったのか? 賊の詳細は!?」
「賊の一人一人が腕の立つ者のようで、奴らの詳細はもちろんアクサン王子の手掛かりはありません。イムラン侯爵とベスクイン公爵、両家の護衛騎士の中に負傷者が出ました。馬車も破損したものもあり、馬も数頭やられてますね。両家が王宮にたどり着くのは少し遅れるでしょう」
「むぅ……」
もはやアクサンの顔を思い浮かべるだけでも胃が痛くなりそうだ。しかし、それでも国王は職務を全うすべく詳しい話を冷静に聞くのだ。
「賊が現れた以上王都に厳戒態勢を取ろう。兵士や騎士たちも総動員させよ。無論、アクサンとワカマリナのことも容赦は無用に伝えよ」
「それには、及ばないかもしれません、陛下」
「ん? どういうことだ?」
「イムラン侯爵とベスクイン公爵の伝言を預かっているのですが……」
「ぬっ、伝言だと!?」
イムラン侯爵とベスクイン公爵。襲撃を受けた側からの伝言とはどういうことか。彼らの伝言を聞いた国王は驚いてつい立ち上がってしまった。
「も、申せ……どんな伝言だ?」
「何でも……『娘を襲おうとした賊は今日のうちに仕留める』だそうです」
「…………そうか」
彼らの、旧友の伝言を聞いた国王は心に落ち着きを取り戻して椅子に座り直した。
「な、何と!? イムラン侯爵とベスクイン公爵の馬車が賊共に同時に襲撃されたと!? この王宮に向かう道中でそのようなことが!?」
襲撃事件を知った国王は驚愕した。王宮に向かう貴族を襲撃される事件など前代未聞。ましてや侯爵と公爵の立場の馬車を襲うなど並の者ならできることではない。大事件が起こってしまったことに国王は戦慄した。
「何ということだ……このタイミングで彼らの馬車を狙うなど……」
そして、同じくらいに嫌な予感を感じ取った。昨日はアキエーサの殺害未遂事件が起こったばかりだ。昨日の今日でこんなことが起こるとなると、間違いなく『あの二人』の関与を疑わずにはいられないでいる。それはもちろん、昨日の事件の前に婚約者がいるにもかかわらずに保身のためにアキエーサに求婚した馬鹿王子とその婚約者だ。
「……アクサンとワカマリナだろ……少しばかり遅かったか……」
……時すでに遅しとはこのことか。国王は素直にそう思った。
「嗚呼……あやつらはとうとう大罪を犯してしまったか……。もはや平民落ち程度では済まされまいな……」
「へ、陛下……まだ王子とワカマリナが関係していると確定したわけでは……」
「無駄だ。少なからず関わっている可能性が高すぎる。分かっているだろう……」
「…………」
傍にいる部下ですら、項垂れる国王にかける言葉が見つからない。正直、報告を聞いた国王以外の者達も『アクサン王子が関わっているのでは!?』と思っているのだ。アクサンの父でもある国王の気持ちを考えると何を言っても同じにしか思えない。黙って国王の言葉に従うしかない。
「それで……被害はどれほどに及んだ? アクサンの手掛かりも見つかったのか? 賊の詳細は!?」
「賊の一人一人が腕の立つ者のようで、奴らの詳細はもちろんアクサン王子の手掛かりはありません。イムラン侯爵とベスクイン公爵、両家の護衛騎士の中に負傷者が出ました。馬車も破損したものもあり、馬も数頭やられてますね。両家が王宮にたどり着くのは少し遅れるでしょう」
「むぅ……」
もはやアクサンの顔を思い浮かべるだけでも胃が痛くなりそうだ。しかし、それでも国王は職務を全うすべく詳しい話を冷静に聞くのだ。
「賊が現れた以上王都に厳戒態勢を取ろう。兵士や騎士たちも総動員させよ。無論、アクサンとワカマリナのことも容赦は無用に伝えよ」
「それには、及ばないかもしれません、陛下」
「ん? どういうことだ?」
「イムラン侯爵とベスクイン公爵の伝言を預かっているのですが……」
「ぬっ、伝言だと!?」
イムラン侯爵とベスクイン公爵。襲撃を受けた側からの伝言とはどういうことか。彼らの伝言を聞いた国王は驚いてつい立ち上がってしまった。
「も、申せ……どんな伝言だ?」
「何でも……『娘を襲おうとした賊は今日のうちに仕留める』だそうです」
「…………そうか」
彼らの、旧友の伝言を聞いた国王は心に落ち着きを取り戻して椅子に座り直した。
0
お気に入りに追加
863
あなたにおすすめの小説
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます
夜桜
恋愛
共和国の大聖女フィセルは、国を安定させる為に魔力を使い続け支えていた。だが、婚約を交わしていたウィリアム将軍が一方的に婚約破棄。しかも大聖女を『大魔女』認定し、両親を目の前で殺された。フィセルだけは国から追い出され、孤独の身となる。そんな絶望の雨天の中――ヒューズ辺境伯が現れ、フィセルを救う。
一週間後、大聖女を失った共和国はモンスターの大規模襲来で甚大な被害を受け……滅びの道を辿っていた。フィセルの力は“本物”だったのだ。戻って下さいと土下座され懇願されるが、もう全てが遅かった。フィセルは辺境伯と共に農業を始めていた。
わたしを追い出した人達が、今更何の御用ですか?
柚木ゆず
恋愛
ランファーズ子爵令嬢、エミリー。彼女は我が儘な妹マリオンとマリオンを溺愛する両親の理不尽な怒りを買い、お屋敷から追い出されてしまいました。
自分の思い通りになってマリオンは喜び、両親はそんなマリオンを見て嬉しそうにしていましたが――。
マリオン達は、まだ知りません。
それから僅か1か月後に、エミリーの追放を激しく後悔する羽目になることを。お屋敷に戻って来て欲しいと、エミリーに懇願しないといけなくなってしまうことを――。
親からの寵愛を受けて育った妹は、私の婚約者が欲しいみたいですよ?
久遠りも
恋愛
妹は、私と違って親に溺愛されて育った。
そのせいで、妹は我儘で...何でも私のものを取るようになった。
私は大人になり、妹とは縁を切って、婚約者と幸せに暮らしていた。
だが、久しぶりに会った妹が、次は私の婚約者が欲しい!と言い出して...?
※誤字脱字等あればご指摘ください。
※ゆるゆる設定です。
婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。
鈴木べにこ
恋愛
幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。
突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。
ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。
カクヨム、小説家になろうでも連載中。
※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。
初投稿です。
勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و
気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。
【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】
という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。
ウソつき殿下と、ふつつか令嬢
たつみ
恋愛
伯爵家の1人娘セラフィーナは、17歳になるまで自由気ままに生きていた。
だが、突然、父から「公爵家の正妻選び」に申し込んだと告げられる。
正妻の座を射止めるために雇われた教育係は魔術師で、とんでもなく意地悪。
正妻になれなければ勘当される窮状にあるため、追い出すこともできない。
負けず嫌いな彼女は反発しつつも、なぜだか彼のことが気になり始めて。
そんな中、正妻候補の1人が、彼女を貶める計画を用意していた。
◇◇◇◇◇
設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。
R-Kingdom_10
他サイトでも掲載しています。
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
私が王女だと婚約者は知らない ~平民の子供だと勘違いして妹を選んでももう遅い。私は公爵様に溺愛されます~
上下左右
恋愛
クレアの婚約者であるルインは、彼女の妹と不自然なほどに仲が良かった。
疑いを持ったクレアが彼の部屋を訪れると、二人の逢瀬の現場を目撃する。だが彼は「平民の血を引く貴様のことが嫌いだった!」と居直った上に、婚約の破棄を宣言する。
絶望するクレアに、救いの手を差し伸べたのは、ギルフォード公爵だった。彼はクレアを溺愛しており、不義理を働いたルインを許せないと報復を誓う。
一方のルインは、後に彼女が王族だと知る。妹を捨ててでも、なんとか復縁しようと縋るが、後悔してももう遅い。クレアはその要求を冷たく跳ねのけるのだった。
本物語は平民の子だと誤解されて婚約破棄された令嬢が、公爵に溺愛され、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる