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138.報告/旧友

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イムラン侯爵とベスクイン公爵の馬車が襲撃された事件はすぐに王宮にいる国王の耳に届いた。ちょうどその日のうちに早馬で『アクサンとワカマリナが脱走したから気を付けてほしい』と伝えようとしていた矢先のこと。その伝令役が襲撃後の馬車に鉢合わせして事件のことを知ったのだ。そして、そのまま王宮に戻って国王に報告というわけだ。

「な、何と!? イムラン侯爵とベスクイン公爵の馬車が賊共に同時に襲撃されたと!? この王宮に向かう道中でそのようなことが!?」

襲撃事件を知った国王は驚愕した。王宮に向かう貴族を襲撃される事件など前代未聞。ましてや侯爵と公爵の立場の馬車を襲うなど並の者ならできることではない。大事件が起こってしまったことに国王は戦慄した。


「何ということだ……このタイミングで彼らの馬車を狙うなど……」


そして、同じくらいに嫌な予感を感じ取った。昨日はアキエーサの殺害未遂事件が起こったばかりだ。昨日の今日でこんなことが起こるとなると、間違いなく『あの二人』の関与を疑わずにはいられないでいる。それはもちろん、昨日の事件の前に婚約者がいるにもかかわらずに保身のためにアキエーサに求婚した馬鹿王子とその婚約者だ。



「……アクサンとワカマリナだろ……少しばかり遅かったか……」



……時すでに遅しとはこのことか。国王は素直にそう思った。


「嗚呼……あやつらはとうとう大罪を犯してしまったか……。もはや平民落ち程度では済まされまいな……」

「へ、陛下……まだ王子とワカマリナが関係していると確定したわけでは……」

「無駄だ。少なからず関わっている可能性が高すぎる。分かっているだろう……」

「…………」

傍にいる部下ですら、項垂れる国王にかける言葉が見つからない。正直、報告を聞いた国王以外の者達も『アクサン王子が関わっているのでは!?』と思っているのだ。アクサンの父でもある国王の気持ちを考えると何を言っても同じにしか思えない。黙って国王の言葉に従うしかない。

「それで……被害はどれほどに及んだ? アクサンの手掛かりも見つかったのか? 賊の詳細は!?」

「賊の一人一人が腕の立つ者のようで、奴らの詳細はもちろんアクサン王子の手掛かりはありません。イムラン侯爵とベスクイン公爵、両家の護衛騎士の中に負傷者が出ました。馬車も破損したものもあり、馬も数頭やられてますね。両家が王宮にたどり着くのは少し遅れるでしょう」

「むぅ……」


もはやアクサンの顔を思い浮かべるだけでも胃が痛くなりそうだ。しかし、それでも国王は職務を全うすべく詳しい話を冷静に聞くのだ。

「賊が現れた以上王都に厳戒態勢を取ろう。兵士や騎士たちも総動員させよ。無論、アクサンとワカマリナのことも容赦は無用に伝えよ」

「それには、及ばないかもしれません、陛下」

「ん? どういうことだ?」

「イムラン侯爵とベスクイン公爵の伝言を預かっているのですが……」

「ぬっ、伝言だと!?」

イムラン侯爵とベスクイン公爵。襲撃を受けた側からの伝言とはどういうことか。彼らの伝言を聞いた国王は驚いてつい立ち上がってしまった。

「も、申せ……どんな伝言だ?」

「何でも……『娘を襲おうとした賊は今日のうちに仕留める』だそうです」

「…………そうか」

彼らの、旧友の伝言を聞いた国王は心に落ち着きを取り戻して椅子に座り直した。
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