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84.反対/走り去る
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「な、なんなのですか、お姉様は……王子であるアクサン様が口説いてきたのに断る……? どうして、」
「私には愛する婚約者がいるのです。ただそれだけですよ」
「アキエーサ……!」
真顔で「愛する婚約者がいる」と言ってテールの顔を見るアキエーサ。そんなアキエーサの仕草が嬉しくてテールは人目をはばからずにアキエーサを抱きしめた。その姿を多くの貴族が微笑ましく見守る。
ただ一人を除いては。
「そ、そんな……伯爵令息程度の男が、そんなにいいというのですか……!? 今のお姉様は伯父様の養女になって侯爵令嬢になったのでしょう……もっと身分の高い男を狙おうとは思わないのですか!? アクサン様ほどではないにしろお姉さまの立場なら、」
ワカマリナは信じられないものを見るような目でしかアキエーサを見れなくなっていた。かける言葉も震えるほど、アキエーサとテールの関係が理解できないでいたのだ。それでも理不尽であろう話を続けようとしたが、ここで待ったの声がかけられる。
「もう止めろ小娘」
「!? お、伯父様……!」
「ああ、そうだ。一応、俺のことは覚えてるんだな。それは良かった。あまりにも聞くに堪えんことばかり聞かされるからここいらでやめてもらおうか」
「は? え?」
それはルカスの声だった。ルカスは、あまりにもワカマリナの言動が理不尽すぎてもう聞く必要もないと思い、自分がこの会話を終わらせようと口を挟んできたのだ。
「お前には一生理解できんのだろうが、アキエーサにとって婚約する相手はもうテール以外にはあり得んのだ。お前さんは知らんだろうが二人は幼馴染でな、テールはずっとアキエーサに片思いをしていたんだ。そんなテールの思いをアキエーサは受け入れて今に至るんだ。その深い関係は地位や名誉や富がどうこうとか関係ない。……細かいことは省略して分かりやすく言えばそうだな、ワカマリナ、お前とは正反対ってことだよ」
「は、反対……?」
正反対と言われても、もちろんワカマリナは理解できない。それでもルカスは一方的に言葉を続ける。
「そうだ。人の金で遊んでばかりで誰のためにもならないお前と、商会を立ち上げて自分で金を稼いで多くの人々のためになれるアキエーサ。生き方がこれだけ正反対なんだ。好きになる男も反対に決まってるだろう?」
「そ、そんなの……」
「まだ分からないか。まあしょうがないな。婚約者がいるのに他の女にばかり目移りしがちな王子なんぞが婚約者であるお前の馬鹿さ加減を考えると、俺がいくら言っても理解できんか」
「な、何ですって……っ!?」
「それに、こうしている間にもアクサン王子は他の女に夢中になるかもしれないな。いいのかな? こんなところで油を売っていて?」
「…………っ!?」
ルカスに馬鹿にされたということだけは理解したワカマリナは、その怒りをルカスに向けようとしたが、アクサンのことを言われて不安になって口を閉ざした。しまいには、辺りを見回してアクサンを探し始める。ここに居るはずのないアクサンを。
「そ、そうでしたわ……! お姉様以外の女にもアクサン様が誑かされては困りますわ!」
そして、それで言ってその場から走り出して去っていってしまった。しかも、アクサンが去っていった方向とは反対の方向に。
更に、去っていくワカマリナの姿が、アキエーサたちを含め、多くの貴族に笑われていることも気付かずに。
「私には愛する婚約者がいるのです。ただそれだけですよ」
「アキエーサ……!」
真顔で「愛する婚約者がいる」と言ってテールの顔を見るアキエーサ。そんなアキエーサの仕草が嬉しくてテールは人目をはばからずにアキエーサを抱きしめた。その姿を多くの貴族が微笑ましく見守る。
ただ一人を除いては。
「そ、そんな……伯爵令息程度の男が、そんなにいいというのですか……!? 今のお姉様は伯父様の養女になって侯爵令嬢になったのでしょう……もっと身分の高い男を狙おうとは思わないのですか!? アクサン様ほどではないにしろお姉さまの立場なら、」
ワカマリナは信じられないものを見るような目でしかアキエーサを見れなくなっていた。かける言葉も震えるほど、アキエーサとテールの関係が理解できないでいたのだ。それでも理不尽であろう話を続けようとしたが、ここで待ったの声がかけられる。
「もう止めろ小娘」
「!? お、伯父様……!」
「ああ、そうだ。一応、俺のことは覚えてるんだな。それは良かった。あまりにも聞くに堪えんことばかり聞かされるからここいらでやめてもらおうか」
「は? え?」
それはルカスの声だった。ルカスは、あまりにもワカマリナの言動が理不尽すぎてもう聞く必要もないと思い、自分がこの会話を終わらせようと口を挟んできたのだ。
「お前には一生理解できんのだろうが、アキエーサにとって婚約する相手はもうテール以外にはあり得んのだ。お前さんは知らんだろうが二人は幼馴染でな、テールはずっとアキエーサに片思いをしていたんだ。そんなテールの思いをアキエーサは受け入れて今に至るんだ。その深い関係は地位や名誉や富がどうこうとか関係ない。……細かいことは省略して分かりやすく言えばそうだな、ワカマリナ、お前とは正反対ってことだよ」
「は、反対……?」
正反対と言われても、もちろんワカマリナは理解できない。それでもルカスは一方的に言葉を続ける。
「そうだ。人の金で遊んでばかりで誰のためにもならないお前と、商会を立ち上げて自分で金を稼いで多くの人々のためになれるアキエーサ。生き方がこれだけ正反対なんだ。好きになる男も反対に決まってるだろう?」
「そ、そんなの……」
「まだ分からないか。まあしょうがないな。婚約者がいるのに他の女にばかり目移りしがちな王子なんぞが婚約者であるお前の馬鹿さ加減を考えると、俺がいくら言っても理解できんか」
「な、何ですって……っ!?」
「それに、こうしている間にもアクサン王子は他の女に夢中になるかもしれないな。いいのかな? こんなところで油を売っていて?」
「…………っ!?」
ルカスに馬鹿にされたということだけは理解したワカマリナは、その怒りをルカスに向けようとしたが、アクサンのことを言われて不安になって口を閉ざした。しまいには、辺りを見回してアクサンを探し始める。ここに居るはずのないアクサンを。
「そ、そうでしたわ……! お姉様以外の女にもアクサン様が誑かされては困りますわ!」
そして、それで言ってその場から走り出して去っていってしまった。しかも、アクサンが去っていった方向とは反対の方向に。
更に、去っていくワカマリナの姿が、アキエーサたちを含め、多くの貴族に笑われていることも気付かずに。
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