76 / 229
76.求婚/怒り
しおりを挟む
突然、アキエーサに求婚してくるアクサンの姿に誰もが驚いた。
「……何をおっしゃるのですかアクサン殿下?」
アキエーサから出た言葉は、その場にいる誰もが同じように思ってことだ。アキエーサはもちろん、周囲にいる同国の貴族、諸外国からの要人、更に控えていた使用人達、そしてアキエーサの婚約者のテールもその一人だ。
「言葉の通りだ! 私はワカマリナと別れるから、今すぐ私と婚約しろと言っているのだ! 君なら分かるだろ!」
「いいえ、分かりませんわ。そもそも、私には既に婚約者がいるのですよ。私の話を聞いてくださらなかったのですか?」
「え?」
アクサンは聞いていなかった。アキエーサとワカマリナを比べるように見てはいたが、自分の身の振り方を考えてばかりいたのでアキエーサの話の全てを聞いていたわけではなかったのだ。
「そ、それは……」
「聞いていなかったのですね」
「う…………」
アクサンはアキエーサに冷たい目を向けられてたじろぐ。ただ、冷たい目を向けているのはアキエーサだけではない。周りにいる者の半数がそうだった。そして、アクサンを嘲笑う者もいれば、テールのように憤る者もいる。
「そ、それはいいじゃないか! そ、その婚約者との婚約は白紙にして、私と改めて婚約を、」
「そんなことはさせない!」
「「「「「っ!?」」」」」
突然、誰かが叫ぶような声で怒鳴った。それくらいに大きな声を発したのはテールだ。彼は身勝手なアクサンに対して鬼気迫る顔で詰め寄る。
「ひっ! な、何だね、お前は?」
「初めましてアクサン殿下、私がアキエーサの婚約者テール・イーリュ。イーリュ伯爵の息子です。単刀直入に言いますが、アキエーサは決して私以外の男に渡すつもりはないので、どうかお引き取りください」
「な、何だと!?」
アクサンはテールの気迫に怯みかけたが、「アキエーサを渡さない」と言われたことで、押し負けまいとテールを睨めつける。しかし、テールは気にすることなくアクサンを責めるように怒りを込めながら言葉を続ける。
「無礼を承知で進言させていただきますが、貴方の行動は非常識極まりない。エリザ・ベスクイン公爵令嬢という婚約者がありながらワカマリナ嬢と不貞を働いて婚約を破棄されたら、そのワカマリナ嬢を無理矢理婚約者にする。それだけでも問題なのに、今度はワカマリナ嬢との婚約を破棄すると言ってアキエーサに求婚するなど、あまりにも恥という行為を知らない者の行いではないですか。王太子としても、一人の男としても示しがつかないとは思われないのですか?」
「貴様……! 誰に向かって、そ、そんなこと……!」
アクサンは羞恥と怒りで顔を真っ赤に染める。王族として、伯爵令息に説教のようなことをされることが許せないからだ。たとえ自業自得だとしても。
「貴様は……伯爵令息ごときが! 誰に向かってそんな生意気なことを言っているのか分かってるのか!」
「はい。私は今、王太子殿下に進言しています。多くの貴族に見守られる中で。周りをご覧になれば、私の言い分が理にかなっているとご理解いただけるとは思えませんか?」
「はっ!? な、な……!?」
多くの貴族と聞いて、アクサンは今になって周りを見回してみた。そして自分にとってマズい状況になっていると顔を青褪める。
「し! しまった……!」
アクサンとアキエーサとテールの周りには、アキエーサに関心を寄せる貴族が大勢いた。その中にはもちろん、外国からやってきた要人も含まれる。それも、この国の第一王子程度の立場では、権力で圧力をかけられない立場の人々だ。そんな人達が、アクサンの愚行を間近で見てしまったのだ。
『それ』の意味することは、アクサンでも悪い意味で理解できることだ。
「……何をおっしゃるのですかアクサン殿下?」
アキエーサから出た言葉は、その場にいる誰もが同じように思ってことだ。アキエーサはもちろん、周囲にいる同国の貴族、諸外国からの要人、更に控えていた使用人達、そしてアキエーサの婚約者のテールもその一人だ。
「言葉の通りだ! 私はワカマリナと別れるから、今すぐ私と婚約しろと言っているのだ! 君なら分かるだろ!」
「いいえ、分かりませんわ。そもそも、私には既に婚約者がいるのですよ。私の話を聞いてくださらなかったのですか?」
「え?」
アクサンは聞いていなかった。アキエーサとワカマリナを比べるように見てはいたが、自分の身の振り方を考えてばかりいたのでアキエーサの話の全てを聞いていたわけではなかったのだ。
「そ、それは……」
「聞いていなかったのですね」
「う…………」
アクサンはアキエーサに冷たい目を向けられてたじろぐ。ただ、冷たい目を向けているのはアキエーサだけではない。周りにいる者の半数がそうだった。そして、アクサンを嘲笑う者もいれば、テールのように憤る者もいる。
「そ、それはいいじゃないか! そ、その婚約者との婚約は白紙にして、私と改めて婚約を、」
「そんなことはさせない!」
「「「「「っ!?」」」」」
突然、誰かが叫ぶような声で怒鳴った。それくらいに大きな声を発したのはテールだ。彼は身勝手なアクサンに対して鬼気迫る顔で詰め寄る。
「ひっ! な、何だね、お前は?」
「初めましてアクサン殿下、私がアキエーサの婚約者テール・イーリュ。イーリュ伯爵の息子です。単刀直入に言いますが、アキエーサは決して私以外の男に渡すつもりはないので、どうかお引き取りください」
「な、何だと!?」
アクサンはテールの気迫に怯みかけたが、「アキエーサを渡さない」と言われたことで、押し負けまいとテールを睨めつける。しかし、テールは気にすることなくアクサンを責めるように怒りを込めながら言葉を続ける。
「無礼を承知で進言させていただきますが、貴方の行動は非常識極まりない。エリザ・ベスクイン公爵令嬢という婚約者がありながらワカマリナ嬢と不貞を働いて婚約を破棄されたら、そのワカマリナ嬢を無理矢理婚約者にする。それだけでも問題なのに、今度はワカマリナ嬢との婚約を破棄すると言ってアキエーサに求婚するなど、あまりにも恥という行為を知らない者の行いではないですか。王太子としても、一人の男としても示しがつかないとは思われないのですか?」
「貴様……! 誰に向かって、そ、そんなこと……!」
アクサンは羞恥と怒りで顔を真っ赤に染める。王族として、伯爵令息に説教のようなことをされることが許せないからだ。たとえ自業自得だとしても。
「貴様は……伯爵令息ごときが! 誰に向かってそんな生意気なことを言っているのか分かってるのか!」
「はい。私は今、王太子殿下に進言しています。多くの貴族に見守られる中で。周りをご覧になれば、私の言い分が理にかなっているとご理解いただけるとは思えませんか?」
「はっ!? な、な……!?」
多くの貴族と聞いて、アクサンは今になって周りを見回してみた。そして自分にとってマズい状況になっていると顔を青褪める。
「し! しまった……!」
アクサンとアキエーサとテールの周りには、アキエーサに関心を寄せる貴族が大勢いた。その中にはもちろん、外国からやってきた要人も含まれる。それも、この国の第一王子程度の立場では、権力で圧力をかけられない立場の人々だ。そんな人達が、アクサンの愚行を間近で見てしまったのだ。
『それ』の意味することは、アクサンでも悪い意味で理解できることだ。
1
お気に入りに追加
863
あなたにおすすめの小説
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
わたしを追い出した人達が、今更何の御用ですか?
柚木ゆず
恋愛
ランファーズ子爵令嬢、エミリー。彼女は我が儘な妹マリオンとマリオンを溺愛する両親の理不尽な怒りを買い、お屋敷から追い出されてしまいました。
自分の思い通りになってマリオンは喜び、両親はそんなマリオンを見て嬉しそうにしていましたが――。
マリオン達は、まだ知りません。
それから僅か1か月後に、エミリーの追放を激しく後悔する羽目になることを。お屋敷に戻って来て欲しいと、エミリーに懇願しないといけなくなってしまうことを――。
亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます
夜桜
恋愛
共和国の大聖女フィセルは、国を安定させる為に魔力を使い続け支えていた。だが、婚約を交わしていたウィリアム将軍が一方的に婚約破棄。しかも大聖女を『大魔女』認定し、両親を目の前で殺された。フィセルだけは国から追い出され、孤独の身となる。そんな絶望の雨天の中――ヒューズ辺境伯が現れ、フィセルを救う。
一週間後、大聖女を失った共和国はモンスターの大規模襲来で甚大な被害を受け……滅びの道を辿っていた。フィセルの力は“本物”だったのだ。戻って下さいと土下座され懇願されるが、もう全てが遅かった。フィセルは辺境伯と共に農業を始めていた。
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
親からの寵愛を受けて育った妹は、私の婚約者が欲しいみたいですよ?
久遠りも
恋愛
妹は、私と違って親に溺愛されて育った。
そのせいで、妹は我儘で...何でも私のものを取るようになった。
私は大人になり、妹とは縁を切って、婚約者と幸せに暮らしていた。
だが、久しぶりに会った妹が、次は私の婚約者が欲しい!と言い出して...?
※誤字脱字等あればご指摘ください。
※ゆるゆる設定です。
私が王女だと婚約者は知らない ~平民の子供だと勘違いして妹を選んでももう遅い。私は公爵様に溺愛されます~
上下左右
恋愛
クレアの婚約者であるルインは、彼女の妹と不自然なほどに仲が良かった。
疑いを持ったクレアが彼の部屋を訪れると、二人の逢瀬の現場を目撃する。だが彼は「平民の血を引く貴様のことが嫌いだった!」と居直った上に、婚約の破棄を宣言する。
絶望するクレアに、救いの手を差し伸べたのは、ギルフォード公爵だった。彼はクレアを溺愛しており、不義理を働いたルインを許せないと報復を誓う。
一方のルインは、後に彼女が王族だと知る。妹を捨ててでも、なんとか復縁しようと縋るが、後悔してももう遅い。クレアはその要求を冷たく跳ねのけるのだった。
本物語は平民の子だと誤解されて婚約破棄された令嬢が、公爵に溺愛され、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である
あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?
AK
恋愛
「お前とはもうやっていけない。婚約を破棄しよう」
私の婚約者は、あっさりと私を捨てて王女殿下と結ばれる道を選んだ。
ありもしない噂を信じ込んで、私を悪女だと勘違いして突き放した。
でもいいの。それがあなたの選んだ道なら、見る目がなかった私のせい。
私が国一番の天才魔導技師でも貴女は王女殿下を望んだのだから。
だからせめて、私と復縁を望むような真似はしないでくださいね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる