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48.一週間/大変
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アキエーサがリーベエとフミーナと親子の縁を切って、イカゾノス伯爵家からイムラン侯爵家の養子になった日から一週間が経過した。その一週間の中で、アキエーサとルカスは貴族として養子縁組の複雑な手続きを行い、更に社交にも顔を出してアキエーサがルカスの養女になったことを貴族の社会に周知させた。
もちろん、イカゾノス家の現状も自然に知られることとなった。何故なら、イムラン侯爵家を注目する貴族は多いため、アキエーサのもとの家も調べられるのは当然のことなのだ。つまり、イカゾノス家がワカマリナのせいで財政状況が極めて良くないことも、特にワカマリナが馬鹿な王太子の婚約者の座についたことも知られることとなったのだ。
イムラン侯爵家とアキエーサ、イカゾノス家と財政問題、ワカマリナと王太子。これだけ噂の種が広まれば、王宮も動くこともありえた。その際は、間違いなくアクサン王太子が父親である国王に厳しく追及されることだろうと、政治に敏感な貴族の誰もが思った。
◇
「……大変でしたわ。名前が変わった後での貴族の方々との社交。様々なことを質問攻めされて答えていくのに必死でしたわ。」
「まあ、仕方がないさ。それでも、まったく止まることなくお前は答えてきたけどな。すぐにほとぼりも冷めるからもう少し我慢しな」
今、アキエーサはイムラン侯爵家の屋敷で疲れた様子で紅茶を飲んでいた。普段のアキエーサは渋いコーヒーの方を好むのだが、義父となったルカスの勧めに従って甘みのある紅茶を飲んでいたのだ。ルカスが言うには、疲れた時には気分転換に普段しないことをすればいいらしい。
「もう少しですか。義父様の知名度の高さを考えるととても『すぐに』とは思えないのですが?」
「あ~……それもそうだな? 後数週間から一か月ってとこかな?」
「ほら、すぐではないではありませんか」
「ははは、悪い」
アキエーサはムッとなった顔になるが、どこか楽しそうに会話を楽しんでいるように見えるのはルカスの気のせいではない。それはアキエーサをイカゾノス家にいた頃から見守っていた専属使用人のメイドも同じ思いだった。
イムラン家に来てからアキエーサはいい方に変わっていった。イカゾノス家で強要されてきた使用人のような扱いも理不尽な暴力もされなくなったことで、笑顔が増えて少し明るくなり、より美しくなった。更に、屋敷に来てから一週間の間に使用人達やルカスの息子達にも打ち解けることができたのだ。この変化にルカスは驚かされた。
「アキエーサよ。お前をうちで引き取ってよかったよ。この数日でお前はいい方向に変われたと思うんだ。道理でたくさん縁談を申し込まれるわけだよ」
「縁談に関してはもう大丈夫でしょう。すでに婚約者を決めたと三日前に発表したのですからね」
「まだ、三日前だ。知らない貴族の令息も多いさ。今だに縁談の申し込みが来るんだよ。面倒くさいくらいな」
「! これはびっくりですね。私のどこがいいのでしょうか。変わり者は『彼』だけなのでしょうか?」
アキエーサのいう『彼』とは、アキエーサの幼馴染にして今の婚約者のことだ。アキエーサが正式にイムラン姓になってからすぐにアキエーサと婚約を交わしたのだ。
もちろん、イカゾノス家の現状も自然に知られることとなった。何故なら、イムラン侯爵家を注目する貴族は多いため、アキエーサのもとの家も調べられるのは当然のことなのだ。つまり、イカゾノス家がワカマリナのせいで財政状況が極めて良くないことも、特にワカマリナが馬鹿な王太子の婚約者の座についたことも知られることとなったのだ。
イムラン侯爵家とアキエーサ、イカゾノス家と財政問題、ワカマリナと王太子。これだけ噂の種が広まれば、王宮も動くこともありえた。その際は、間違いなくアクサン王太子が父親である国王に厳しく追及されることだろうと、政治に敏感な貴族の誰もが思った。
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「まあ、仕方がないさ。それでも、まったく止まることなくお前は答えてきたけどな。すぐにほとぼりも冷めるからもう少し我慢しな」
今、アキエーサはイムラン侯爵家の屋敷で疲れた様子で紅茶を飲んでいた。普段のアキエーサは渋いコーヒーの方を好むのだが、義父となったルカスの勧めに従って甘みのある紅茶を飲んでいたのだ。ルカスが言うには、疲れた時には気分転換に普段しないことをすればいいらしい。
「もう少しですか。義父様の知名度の高さを考えるととても『すぐに』とは思えないのですが?」
「あ~……それもそうだな? 後数週間から一か月ってとこかな?」
「ほら、すぐではないではありませんか」
「ははは、悪い」
アキエーサはムッとなった顔になるが、どこか楽しそうに会話を楽しんでいるように見えるのはルカスの気のせいではない。それはアキエーサをイカゾノス家にいた頃から見守っていた専属使用人のメイドも同じ思いだった。
イムラン家に来てからアキエーサはいい方に変わっていった。イカゾノス家で強要されてきた使用人のような扱いも理不尽な暴力もされなくなったことで、笑顔が増えて少し明るくなり、より美しくなった。更に、屋敷に来てから一週間の間に使用人達やルカスの息子達にも打ち解けることができたのだ。この変化にルカスは驚かされた。
「アキエーサよ。お前をうちで引き取ってよかったよ。この数日でお前はいい方向に変われたと思うんだ。道理でたくさん縁談を申し込まれるわけだよ」
「縁談に関してはもう大丈夫でしょう。すでに婚約者を決めたと三日前に発表したのですからね」
「まだ、三日前だ。知らない貴族の令息も多いさ。今だに縁談の申し込みが来るんだよ。面倒くさいくらいな」
「! これはびっくりですね。私のどこがいいのでしょうか。変わり者は『彼』だけなのでしょうか?」
アキエーサのいう『彼』とは、アキエーサの幼馴染にして今の婚約者のことだ。アキエーサが正式にイムラン姓になってからすぐにアキエーサと婚約を交わしたのだ。
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