上 下
13 / 33

13.

しおりを挟む

「……いい提案に聞こえるかもしれないが、父上がそんなことを許してくれるはずが……」

「陛下の許しなど婚約を破棄した後でもよいでしょう。そうでもしなければ王宮はリリィ嬢の顔色をうかがう者ばかりになり、王国の政を担うのもリリィ嬢の実家のプラチナム公爵家だけになってしまいます。それだけは避けなければなりません」


ロカリスの言葉を聞いて俺は納得した。確かに、あの女の実家の公爵家が権力を独占する事態になるなんてあってはならない。もはや俺の気持ちだけの問題じゃないのだ。


「そもそも、リリィ嬢には殿下を軽んじたこともそうですが何よりも我が娘を虐めたという婚約破棄を突きつけられる理由があります。そのような者が将来まともな王妃になれると思われますか?」

「!」


そうだった、リリィ、あの女は俺を見下しアノマを苦しめた大罪があるじゃないか! 婚約破棄をされて当然の悪女そのもの! なんだ! 何の問題もなく婚約破棄できるじゃないか!


「ロカリス! よくぞ言ってくれた! なんだか目が冷めた気分だ!」

「お役に立てて何よりです」

「早速、婚約破棄の準備をしなくては。そして、新たな婚約者にアノマを選ぶ!」

「え! 私ですか!?」


アノマとロカリスは目を見開いて驚いたが当然だ。王太子たる俺が婚約破棄したならば次の婚約者を選ばなければならないはずだ。それなら俺の好きな人がいい。


「当然さ! アノマ以外に誰がいると言うんだ? 俺はお前が好きだ!」

「殿下! 嬉しい! 私も殿下が好きです!」


アノマが俺に抱きつく。ああ、癒やされる。やはり俺に必要なのはアノマのような理解者なんだ……。


「殿下、微力ながら私も協力させていただきます。これでも他国との貿易に顔が聞きますので」

「そうか頼んだぞ」

「かしこまりました」


ロカリスはそう言って部屋を出ていった。おそらく、早速俺の力になるために動いてくれたのだろう。ああ、なんて信頼できる頼もしい家臣だ。王宮の者たちにも、ロカリスのような人がたくさんいればよかったのに。


「殿下、今まで酷い婚約者がそばにいて大変だったでしょう。お辛い中よく頑張りました」

「ああ、俺の周りには優しい人がいなかった。父と母ですらもな……」


両親が優しかったかといえば微妙なところだ。あの二人は滅多に俺に干渉してこない本当に『息子』というよりも『王子』としか見てくれなかったような気がする。弟たちのことはどうかと言えばなんとも言えない。上の弟は兄の俺が見て分かるほど優秀だ。下の弟はまだ十歳にもなっていないし。


「大丈夫です殿下。私と父上は何があっても殿下を裏切ったりしませんから」


俺を抱きしめるアノマの言葉から王宮の家臣達から感じられなかった誠実さを感じる。ああ、ずっとこの時間が続けばいいのにと思ったが多忙な俺にはそんな時間はない。

だけど、今だけはゆっくりしていこうと思った。


「そうか、それなら今日は屋敷でゆっくりしていこう」

「はい、この屋敷にいる時ぐらいは心を楽にしてください」


こうして俺はメアナイト男爵の屋敷でくつろいでいくのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】何故か私を独占崇拝している美人の幼馴染を掻い潜って婚約したいのですが

葉桜鹿乃
恋愛
フリージア・ドントベルン侯爵令嬢は、自分のことをどこにでもいる平凡な令嬢だと思っている。内心で自分のことを『テンプレート』『判で押したような』と思っているが、それを口に出すのは避けていた。 ブルネットの髪に茶色の瞳、中肉中背で、身分に見合ったドレスを着ていなければ、きっと誰からも見落とされると。 しかし、見るからに『ヒロイン』な分家の従姉妹であり幼馴染のジャスミン・ユルート伯爵令嬢からの強い崇拝を受けている。お陰で少しでも「私なんて」と言ってはいけないとクセがついていた。言えば、100倍の言葉で褒め称えてくるからだ。怒りもするし泣きもする。 彼女の金の眩い髪に夏の空色の瞳、メリハリのある何を着ても着こなす身体。 一体何が良くてフリージアを崇拝しているのかは謎だが、慕われて悪い気はしないので仲良くしていた。 そんなフリージアとジャスミンは同い年で、デビュタントの日も一緒となり……そこに招かれていた公爵家のバロック・レディアン令息と侯爵家のローラン・フュレイル令息は、それぞれ一目惚れをした。 二人の美形青年令息と従姉妹命のヒロイン属性令嬢による、テンプレ令嬢を中心にしたドタバタ恋愛騒動、開幕。 ※コメディ風味です、頭を緩くしてお読みください。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも別名義で掲載中です。

災厄の婚約者と言われ続けて~幸運の女神は自覚なく、婚約破棄される~

キョウキョウ
恋愛
「お前が居ると、いつも不運に見舞われる」 婚約相手の王子から、何度もそう言われ続けてきた彼女。 そして、とうとう婚約破棄を言い渡されてしまう。 圧倒的な権力者を相手に、抗議することも出来ずに受け入れるしか無かった。 婚約破棄されてたことによって家からも追い出されて、王都から旅立つ。 他国を目指して森の中を馬車で走っていると、不運にも盗賊に襲われてしまう。 しかし、そこで彼女は運命の出会いを果たすことになった。

気弱令息が婚約破棄されていたから結婚してみた。

古森きり
恋愛
「アンタ情けないのよ!」と、目の前で婚約破棄された令息がべそべそ泣きながら震えていたのが超可愛い!と思った私、フォリシアは小動物みたいな彼に手を差し出す。 男兄弟に囲まれて育ったせいなのか、小さくてか弱い彼を自宅に連れて帰って愛でようかと思ったら――え? あなた公爵様なんですか? カクヨムで読み直しナッシング書き溜め。 アルファポリス、ベリーズカフェ、小説家になろうに掲載しています。

精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜

水都 ミナト
恋愛
精霊王を信仰する王国で、マナの扱いに長けた侯爵家の娘・ナターシャ。彼女は五歳でレイモンド王太子殿下の婚約者に抜擢された。 だが、レイモンドはアイシャ公爵令嬢と想い合っていた。アイシャはマナの扱いが苦手で王族の婚約者としては相応しくないとされており、叶わない恋であった。 とある事件をきっかけに、ナターシャは二人にある提案を持ち掛けるーーー これはレイモンドとアイシャ、そしてナターシャがそれぞれの幸せを掴むまでのお話。 ※1万字程度のお話です。 ※他サイトでも投稿しております。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

次に貴方は、こう言うのでしょう?~婚約破棄を告げられた令嬢は、全て想定済みだった~

キョウキョウ
恋愛
「おまえとの婚約は破棄だ。俺は、彼女と一緒に生きていく」  アンセルム王子から婚約破棄を告げられたが、公爵令嬢のミレイユは微笑んだ。  睨むような視線を向けてくる婚約相手、彼の腕の中で震える子爵令嬢のディアヌ。怒りと軽蔑の視線を向けてくる王子の取り巻き達。  婚約者の座を奪われ、冤罪をかけられようとしているミレイユ。だけど彼女は、全く慌てていなかった。  なぜなら、かつて愛していたアンセルム王子の考えを正しく理解して、こうなることを予測していたから。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

処理中です...