上 下
9 / 27

第9話 ギルドマスター

しおりを挟む
「詳しい話はギルドマスターから聞こうじゃないか。呼んできてくれるか」

 ゼクトがそういうと、職員たちは皆暗い顔になった。ルルも何やら悲しそうな顔になっていた。ここで職員側から口が開いた。

「そのギルドマスター何だが、流行り病に罹って安静にしているんだ。頼ろうとしても無駄だ」
「そうなのよ。あの人がいてくれたら、あんな奴らなんて領主の後ろ盾があっても追い払えるのに」

 二人の職員が悔しそうに説明する。どうやら、この町に流行り病が流行しており、町に住む多くの人々が病に苦しんでいるそうだ。ギルドマスターもその一人であり、ギルド内に人が少ないのもそれが原因だった。冒険者たちも病気で冒険どころではなかったのだ。病気で死んだものが出始めているというらしい。

「病を治す薬とかはどうしてるんだ? ギルドでも対処には出てるんだろ?」

「それが薬の大半は領主が独占してしまって……冒険者も半数以上が病に罹ってるから薬草を探す人も少ないんだ……」

「国はどうしてるのよ、医者が来たり薬を運んできてもらったりしてないの?」

「そういうのも領主が担ってるんだが……おろそかにしてるみたいなんだ」
「意見しようにも、会う機会がもらえないし……」

「「…………」」

 この町は結構深刻な状況にあるようだ。病気で町全体が病んでいるところに暴力を自由に振るう輩がいるなどかなり最悪だ。ここで、人間の世界に疎いミエダが気になることを質問した。

「ねえ、ギルドマスターが元気になれば、何か変わる?」

「そうだな、少なくともあいつらの好きにはさせないし、領主と面会できることもできるだろうな。もっとも、あの人も今は深刻な状況だしな……」

「そんな病気が流行か、だが……」
「治れば変わるのよね。なら私が治して見せるわ! ギルドマスターのところまで案内して」

「「「「ええっ!!??」」」」

 職員たちとルルが一緒に驚いた。少し間をおいて、彼らは少し怒った口調で口を開いた。

「ば、馬鹿言っちゃいけないよ! 薬を使ても中々治らないというのに、君みたいな魔法使いの魔法程度で治せるはずがないじゃないか! ましてや、今日来たばかりで病気のこともよく分からないくせに、無責任なことを言わないでくれ!」
「気持ちは嬉しいけど、質の悪い病気なのよ! もっと高名な魔法使いか神官でないと治せないわよ!」

「…………」

 職員の言葉を聞いたルルはうつむく。彼女の母親もその病気に罹っているのだ。それでもミエダの余裕は変わらない。

「高名な魔法使いか神官ね。どちらか一方の条件を満たしていればいいのよね?」
「ふむ、大丈夫……かもしれないぞ?」

「ええ!? 何だって!?」

「やるだけやらせてもらえないか? 相棒は結構すごい魔法使いなんだ。さっきも見てただろ、生活魔法であれだけの威力を発揮できる様を」
「そういうこと!」

「ま、まあ、それは……」
「やるだけやってみるのも……」

 職員たちが相談し始める。本来ならば、突然現れた見慣れぬ冒険者を信用してギルドマスターに合わせるなどあってはならないのだが、彼らも追い詰められていたために一度試してみるということになった。




※ギルドマスターの病室

「何ですって、意識が戻らない!?」
「は、はい。薬を投与したのですが、体調が戻らず……」

 病室で看護師の女性に職員が詰め寄った。看護師によると、ギルドマスターは昼頃に病状が悪化して意識を失ったというのだ。しかも、薬を投与しても変化が起きないという。職員は事態が重くなったことを知り、もうすがるしかないと判断した。

「鑑定魔法・ボディースキャン! ……なるほどね」

「ゼクト君、ミエダ君! 時間がない! こうなったら、君たちに……」

「拒絶魔法・ウイルスデリート!」

「……頼むしかって、ええ!?」
「な、何を!?」

 職員が看護師と話している間に、ミエダの左目は金色に右目が銀色に輝いたり、赤い魔力を輝かせながらギルドマスターに魔法を掛けていた。ミエダは鑑定魔法でギルドマスターの体を検査して、必要な魔法を掛けたのだ。……職員が話している間に。

「ちょ、お、おおい! 私が話している間に何しているんだ!?」
「困ります! 勝手に患者さんにこんなことを!」

 職員と看護師が同時に怒り出した。他の職員とルルも驚いている。だが、ゼクトとミエダは気にしていない。

「どうだ、ミエダ?」
「いい感じに効果が効いたはずよ」

「何を言ってるんだ! いきなりこんなことをし……」

「う、ううん……?」

「……て?」

「な、何だい? うるさくて眠れやしないじゃないか……?」

 職員が起こっている最中に、意識が無かったギルドマスターが目を開けた。更には、眠たそうに声を出している。この後、その場にいた職員たちと看護師とルルは大喜びした。ギルドマスターが復活したからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...