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第134話 二人の令嬢(2)
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学園は昨日に続き今日も騒がしくなった。昨日の朝に第一王子が、自分の元婚約者が別の男と婚約したと叫んで側近と元側近と揉めたばかりなのに、今日はその側近が国家反逆罪という理由で連行されていったのだ。しかも、教室から学園を出ていくまで目撃者は多い。
「「「「ヒソヒソヒソヒソ……!」」」」」
王子の側近が国家反逆罪の嫌疑で連行……学園の生徒達が騒ぐ話題としてはもってこいだった。しかも、今回は対象が『一人』。つまり、連行されてしまった側近だけを面白おかしく騒ぎ立てるのは間違いなかった。何しろ、理由は不明瞭だが仮にも『国家反逆罪』だと言うのだから悪意をもって噂が流れるに違いない。『宰相の息子』という肩書を背負う青年を悪意に襲いかかる理由としては十分すぎるのだ。
そもそも、元から立場が悪かったのも大きい。何しろ、王太子の座を失った王子の側近という立場だ。宰相の息子ということもあって敵が多い。こんな事になっては、側近マーク・アモウの人生は下手をするとここで終わるかもしれないだろう。貴族の社会はそれだけ複雑で残酷なのだ。それは学生という立場も例外ではない。
「……予想通りというか、見苦しい騒ぎになりましたわね」
「本当に、息苦しくなりました。こんなのが私達の通う学園だなんて……」
そんな多くの生徒が悪意を口にし続ける学園の中で、二人の令嬢が複雑な心境で学園の様子を眺めていた。
「まさか、私が大勢の生徒に混じって、あのマーク・アモウが兵士の方々に連行されて行く姿を見ることになるなんて……正直、複雑ですわ」
「レイダ様……」
二人の令嬢は伯爵家のレイダ・ブラッドとアギア・ファング。つい最近友人になったばかりの二人は、多くの生徒達のように悪意を込めて会話することはしなかった。それ以上に困惑した気持ちのほうが大きいのだ。
「アギア様……もしかして私が喜んでいるように見えないのが不思議ですか?」
「え? いえ、決してその様な……」
「いいのです……私も、あの男の立場が窮地に立たされたりすれば喜ぶだろうと思っていたのですが……」
レイダは本当に喜べなかったのだ。彼女は、あのマーク・アモウが国家反逆罪を犯すような愚行をするとは本気で思えなくて懐疑的だった。仮にも婚約していたこともあるため、マークのことはある程度理解しているつもりなのだ。大きな罪を犯すようなことはしないし、しても証拠を残すようなこともしないだろうと。
だからこそ、この状況に疑問を感じざるを得ない。
「あの男のことを心配するわけではありませんが、なんだかキナ臭いですわね。誰かしらのろくでもない思惑を感じざるを得ません……」
「え、それってやっぱり……」
「あの馬鹿王子が何か絡んでいるということですわ。もしくは元側近のローイ・ミュド。昨日、彼らがマークと一緒にミロア様のことで騒ぎ立てたばかりですしね」
馬鹿王子と口にしただけで不愉快そうな顔になるレイダ。アギアも顔をしかめる。それだけ、昨日の騒ぎの元凶である王子がろくでもないということだ。
「「「「ヒソヒソヒソヒソ……!」」」」」
王子の側近が国家反逆罪の嫌疑で連行……学園の生徒達が騒ぐ話題としてはもってこいだった。しかも、今回は対象が『一人』。つまり、連行されてしまった側近だけを面白おかしく騒ぎ立てるのは間違いなかった。何しろ、理由は不明瞭だが仮にも『国家反逆罪』だと言うのだから悪意をもって噂が流れるに違いない。『宰相の息子』という肩書を背負う青年を悪意に襲いかかる理由としては十分すぎるのだ。
そもそも、元から立場が悪かったのも大きい。何しろ、王太子の座を失った王子の側近という立場だ。宰相の息子ということもあって敵が多い。こんな事になっては、側近マーク・アモウの人生は下手をするとここで終わるかもしれないだろう。貴族の社会はそれだけ複雑で残酷なのだ。それは学生という立場も例外ではない。
「……予想通りというか、見苦しい騒ぎになりましたわね」
「本当に、息苦しくなりました。こんなのが私達の通う学園だなんて……」
そんな多くの生徒が悪意を口にし続ける学園の中で、二人の令嬢が複雑な心境で学園の様子を眺めていた。
「まさか、私が大勢の生徒に混じって、あのマーク・アモウが兵士の方々に連行されて行く姿を見ることになるなんて……正直、複雑ですわ」
「レイダ様……」
二人の令嬢は伯爵家のレイダ・ブラッドとアギア・ファング。つい最近友人になったばかりの二人は、多くの生徒達のように悪意を込めて会話することはしなかった。それ以上に困惑した気持ちのほうが大きいのだ。
「アギア様……もしかして私が喜んでいるように見えないのが不思議ですか?」
「え? いえ、決してその様な……」
「いいのです……私も、あの男の立場が窮地に立たされたりすれば喜ぶだろうと思っていたのですが……」
レイダは本当に喜べなかったのだ。彼女は、あのマーク・アモウが国家反逆罪を犯すような愚行をするとは本気で思えなくて懐疑的だった。仮にも婚約していたこともあるため、マークのことはある程度理解しているつもりなのだ。大きな罪を犯すようなことはしないし、しても証拠を残すようなこともしないだろうと。
だからこそ、この状況に疑問を感じざるを得ない。
「あの男のことを心配するわけではありませんが、なんだかキナ臭いですわね。誰かしらのろくでもない思惑を感じざるを得ません……」
「え、それってやっぱり……」
「あの馬鹿王子が何か絡んでいるということですわ。もしくは元側近のローイ・ミュド。昨日、彼らがマークと一緒にミロア様のことで騒ぎ立てたばかりですしね」
馬鹿王子と口にしただけで不愉快そうな顔になるレイダ。アギアも顔をしかめる。それだけ、昨日の騒ぎの元凶である王子がろくでもないということだ。
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