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第115話 うっかり、心の声が

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ミロアとバーグが屋敷に帰ってくる頃にはすでに夕方になってしまっていた。屋敷についてすぐに着替えて夕食……になる前に、ミロアはスマーシュにつかまった。


「お姉様! どこへ行っていたのですか!? ワタシ、心配しました!」

「スマーシュ……」


姉のミロアに抱きつくなり、心配そうにミロアの顔を見上げるスマーシュ。あどけない女の子が抱きついて心配してくれる、その状況にミロアは思わず……


(か、可愛い! ああ、妹に心配されて抱きつかれるのってすごくいい!)


思わず、可愛いと思ってしまった。だが、ミロアも前世の記憶を持ったため、その精神は大人びたものである。すぐに、姉として取るべき行動に取らざるを得なかった。例えば、抱きしめ返して優しく語りかけるような。


「ごめんなさいね、スマーシュ。お姉様はね、婚約するために外に出ていたの」

「婚約ですか?」

「そう、大人になって結婚して夫婦になるっていう約束をするためにね。つまり、婚約者ができたの」

「そうなのですか! お姉様に婚約者ができたのですね! よかったのですね!」

「ええ、ありがとう」


スマーシュの笑顔がミロアを見る。女の子の笑顔が、妹の笑顔が向けられると思うとミロアはニヤケが止まらなくなりそうだった。


(うふふふふ……こういう子は駄目な親が溺愛すると姉を蔑ろにするのが『テンプレ』なんだけど、スマーシュは絶対そんなふうにならない……親以上に姉である私が溺愛するもんね~……うふふふふ)

「うふふふふ……」

「お姉様?」

「え? あ! いや、なんでもないわ……」


何でもなくはない。うっかり、心の声が口に出てしまっていたのだ。それも貴族令嬢とは思えないような少し品のない笑い声が。


(うーわ、やっば。うっかり声に出しちゃった。でもなんで……ああ、オルフェとの婚約が決まって嬉しくて気が緩んだせいか。気の緩みで心の声が出るなんて、今度から気をつけないと……)


とりあえず、スマーシュ以外に知られていないようで良かったと思うミロアだったが、実はそうでもなかった。


「お嬢様方、もう夕食のお時間なのですが?」

「ひゃあっ!? え、ええええ、エイル!? いつからそこに!?」

「……スマーシュお嬢様がミロアお嬢様に抱きついた時にいました」


どうやら、侍女にしっかり見られてしまっていたようだ。よく見ればエイルの顔が少し引き気味だった。気づいたミロアは赤面してその場で顔を覆ってしまうほど恥ずかしくなった。


夕食はいつもよりもやや遅い時間になったのは、ミロアのせいだが誰もミロアを咎めることはなかった。その代わりニヤつく者が多かったのだが。
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