110 / 248
第73話 豹変ぶりも知らずに
しおりを挟む
(宰相の息子視点)
グロンの暴走のおかげで、責任を取る形でギンベス伯爵が騎士団長を辞した。つまり、王家を支持する騎士団長が変わることを意味する。
「次の騎士団長は王家に忠誠を誓っている者に決まるとは限らない。そもそも、代わりになれる者がいるかも分からない。……これで王家を支える柱が揺らいだも同然」
長く騎士団長を努めた男がこんな形でその立場を降りるとすれば、少なからず王家の支持率も下がる要因になる。ただでさえ馬鹿な王子で問題となっている今の王家にとっては痛手だろう。
「これで、また一歩近づいたわけだ。私がこの国を支配する立場に……!」
王家の求心力が低下することは、将来的に支配者の座を奪われやすくなることを意味する。王家に近い有力貴族が反逆・もしくは近縁者として政を行う立場を奪うなど……ああ、こうしている今も私の夢が膨らんでしまう。
「私は有能な人間だ。決して父のように無欲な宰相止まりで終わることはない」
私の父、マッカー・アモウは今でこそ宰相の立場にいるが、もっと欲を持つべきだったと私は思っていた。優秀な人間なのは認めるところだが、今の王家に取って代わろうという野心がないことに私は不満があった。その思いをぶつけてみたのだが、身に余る野心を持つなと言われるだけ。言っても無駄だと分かった私は慎重かつ効果的に行動することにしたのだ。
「慎重に行動したつもりだったがどうだ? ガンマ殿下は失墜、グロンも追放処分。目障りなローイも勝手に離れたわけだ。私は上手くいったのだ。この調子であの公爵令嬢を上手く利用して、いずれは王位も……やはり私は伯爵や宰相では収まらない男なんだ」
この時の私はそんなことを確信していた。鍵となる公爵令嬢の豹変ぶりも知らずに。
(元側近視点)
「ミロア様、もうすぐ学園に復帰するのですね……」
学園ではミロア様がいつ復帰するかという情報が入ってこないです。だからこそ、父に頼んで王宮から情報が入るようにしてみれば、王宮にやってきた公爵が『娘が元気』という言葉を発したとか。その言葉だけでも僕は数日くらいすればミロア様が学園に復帰すると確信しました。
「ミロア様、学園では僕が味方して差し上げます。もうガンマ殿下に脅かされぬように守って差し上げます」
僕の脳裏に浮かぶのは、血のように赤い髪を腰まで長く伸ばし、切れ長の黒目、整った顔立ち、派手な装飾の美少女の姿。ミロア・レトスノム様。そのお美しい姿をもう一度……。
この時の僕はそんなことを思い描いていました。ミロア様のお姿とお心の豹変ぶりも知らずに。
グロンの暴走のおかげで、責任を取る形でギンベス伯爵が騎士団長を辞した。つまり、王家を支持する騎士団長が変わることを意味する。
「次の騎士団長は王家に忠誠を誓っている者に決まるとは限らない。そもそも、代わりになれる者がいるかも分からない。……これで王家を支える柱が揺らいだも同然」
長く騎士団長を努めた男がこんな形でその立場を降りるとすれば、少なからず王家の支持率も下がる要因になる。ただでさえ馬鹿な王子で問題となっている今の王家にとっては痛手だろう。
「これで、また一歩近づいたわけだ。私がこの国を支配する立場に……!」
王家の求心力が低下することは、将来的に支配者の座を奪われやすくなることを意味する。王家に近い有力貴族が反逆・もしくは近縁者として政を行う立場を奪うなど……ああ、こうしている今も私の夢が膨らんでしまう。
「私は有能な人間だ。決して父のように無欲な宰相止まりで終わることはない」
私の父、マッカー・アモウは今でこそ宰相の立場にいるが、もっと欲を持つべきだったと私は思っていた。優秀な人間なのは認めるところだが、今の王家に取って代わろうという野心がないことに私は不満があった。その思いをぶつけてみたのだが、身に余る野心を持つなと言われるだけ。言っても無駄だと分かった私は慎重かつ効果的に行動することにしたのだ。
「慎重に行動したつもりだったがどうだ? ガンマ殿下は失墜、グロンも追放処分。目障りなローイも勝手に離れたわけだ。私は上手くいったのだ。この調子であの公爵令嬢を上手く利用して、いずれは王位も……やはり私は伯爵や宰相では収まらない男なんだ」
この時の私はそんなことを確信していた。鍵となる公爵令嬢の豹変ぶりも知らずに。
(元側近視点)
「ミロア様、もうすぐ学園に復帰するのですね……」
学園ではミロア様がいつ復帰するかという情報が入ってこないです。だからこそ、父に頼んで王宮から情報が入るようにしてみれば、王宮にやってきた公爵が『娘が元気』という言葉を発したとか。その言葉だけでも僕は数日くらいすればミロア様が学園に復帰すると確信しました。
「ミロア様、学園では僕が味方して差し上げます。もうガンマ殿下に脅かされぬように守って差し上げます」
僕の脳裏に浮かぶのは、血のように赤い髪を腰まで長く伸ばし、切れ長の黒目、整った顔立ち、派手な装飾の美少女の姿。ミロア・レトスノム様。そのお美しい姿をもう一度……。
この時の僕はそんなことを思い描いていました。ミロア様のお姿とお心の豹変ぶりも知らずに。
18
お気に入りに追加
5,449
あなたにおすすめの小説
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
私の夫が未亡人に懸想しているので、離婚してあげようと思います
Kouei
恋愛
私は21歳になっても未婚の子爵令嬢。
世間では男女18歳までに、婚約もしくは結婚している事が常識だった。
なので将来は修道院に入ると両親に伝えた所、あわてて23歳になっても独身の伯爵令息との縁談を持ってきた。
見目麗しく、紳士的な性格の彼がなぜ今まで結婚しなかったのか?
異性に興味のない方なのかと思ったけれど、理由はいたって単純だった。
忘れられない女性がいるんですって!
そうして彼は私にある提案してきた。
「形式上の夫婦にならないか」と…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる