銀色の雲

火曜日の風

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5章 寄せ集めの村

7話 忍び寄る足音

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 兼次とリディが寝付いた頃。リディ達の村の近くにある、ルサ族側のクトスオジラウ。この街のはずれに、捕虜収容所兼犯罪者収容所があった。周囲を木の塀に囲われた中に、1階建ての大きな平屋の木の建物があり。塀には出入り口として一カ所開かれてた部分があった。門は無くただ開いているだけの簡素な作りだ。そこから建物の入り口まで、5メートルほどある。その建物の扉の前には、見張りの男が椅子に座って睡魔と戦っていた。

「はぁーあぁ… 誰も来ねーのになー、見張る必要なんてあるのかー」

 見張りの男は、眠気を覚ます様に独り言を言い、両手を上げ大きな欠伸あくびをして眠気を払しょくしようとした。欠伸の為に斜め上に上げた頭を正面に戻した時、入り口に女が立っているのが見えた。

「ねーちゃん、こんな夜中に何か用か?」

 男は立ち上がると、数歩進み女に近づいた。

 (この女、やけに背が高いな… しかし、なかなかの見ごたえだぞ…)

 と男は考えながら、女の上から順に凝視ぎょうしした。顔、胸、腰、尻、足と見ると、一番特徴的な胸の部分に視線が釘付けになると。男は大きい、大きいと心の中で何度も繰り返すのであった。

「お兄さん、交代はいつですか? どうですか?」

 と、女は抑揚のない声で言うと、手でスカートを股の付け根ギリギリまで、ゆっくりと上げた。片足を前に出すと、少し前屈みになり男に向け手招きをした。
 男はしばらく女に見とれていた、呑み込んだ唾が喉を鳴らす。男はゆっくりと、女に向かって歩き始めた。

「朝までなんだよなー… だが、どうせ誰も来ないぜぇー、何時もの事だ。そこの奥でどうだ?」

 と、男はニヤケ顔で言いながら女の目の前に立った。手を伸ばし女の腰に回そうとした時、女の服と皮膚が崩れ粒子状になった。その粒子は男と女の周辺を、回り始めた。男は、その光景を見て体を膠着こうちゃくさせ、声を出すことも忘れ、目を丸くさせていた。そして男の目の前には、全身が金属光沢の皮膚を持つ体が現れた。

 男の額に、金属光沢の細く綺麗な指が触れた。周辺を回っていた粒子は、金属光沢の体にまとわりつき始める。頭、首… 順番に上から覆い始め最後に、男が着ている服と同じものが形成された。

 そこには男と瓜二つの男が立っていた。

「な… な… お、おー… 俺?」

 男は驚きながら、目の前の自分そっくりの体を、顔から足まで何度も見ていた。

「しばらく、寝てろ」

 男の目の前の自分、声も同じだった。男は、その言葉と同時に強烈な睡魔に襲われ、膝から崩れ落ち前のめりに倒れた。

「声も同じ、完璧だな」

 男に成り代わった人は、歩き始めると建物の中に入っていった。
 建物の出入り口すぐに、小さな部屋があった。テーブル1つに椅子が2つ、そのうちの1つに男が座って入ってきた男を見た。

「おい、どうした?」
「わるいわるい、腹が痛くてな。ちょっくら出してくる、長くなる」
「おいおい、大丈夫かー? すぐに戻れよー」
「ああ、すまんな。ちょっと、時間が掛かるかもな」

 男は、その小さな部屋を後にした。

 部屋を抜けると中央に通路があり、左にベッドが四つ並んだ部屋が1つ、看守の仮眠室であろう。4つのベッドのうち、3つに人が寝ていた。右側にトイレ、そして休憩室らしき部屋。調理場と、並んでいた。通路の奥には両開きのドアがあった。

 部屋から出た男は、トイレを通り越して歩いていった。奥の扉の前に立つと、ゆっくりと扉を開けた。扉の先は、長い通路が一直線に伸びていた。通路の両脇には、木の格子で区切られた牢屋があった。周囲は暗く、牢屋一つ一つにある高い位置の小さな窓から、星の光がわずかに入り込んでいるだけで、ほんの僅かに見える状態だった。

 男は背後の扉を、振り向かずに静かに閉めた。首を回し周囲を見渡と、ゆっくりと歩き始めた。硬いものが床を鳴らす音が、周囲に静かに響き渡った。

 通路を挟んで並んでいる牢屋は、2階建てのベットが2つあり、4人収容されていた。どの牢屋も、満室のようで人が寝ていた。男は左右の牢屋を、一室ずつ調べながら進んでいった。最初は男性ばかり、通路の中盤辺りから女性が寝ていた。

 男は一つの牢屋で止まった。体を横に回転させ、牢屋の出入り口まで進んで行った。男は格子の扉前に立つと、扉にかかっている南京錠を手に取とった。そして、人差し指を鍵穴に狙いを定めた。すると人差し指は伸び始め、細く長い棒状になると、それを鍵穴に差し込んだ。そして、ガチャリと南京錠は外れた。

 男は扉を開けると、牢屋の中に入ると。2階建てベッドの1階で寝ている者に、近づいていった。そこには頭に三角耳を携えた、トッキア族の女が寝ていた。男は女に掛かっている薄い布を手に取る。そして、ゆっくりと布をまくり上げると、手を女の口に当てた。

「ふぐううぅ!」

 目覚めた女は、男の手に遮られ口から籠った声を出す。目を大きく開け、口を塞いでいる男の顔を見た。すると男は、腰を曲げ顔を女に近づけた。

「喋るな、いいな? 喋ったら… わかるな?」

 女は首を、縦に何度も振ると。男はゆっくりと、女の口から手を離した。

「起きて俺の前に立て」

 男は小さな声で、女の耳元でささやく。男は曲げていた腰を伸ばし、後退して女が起き上がるの待った。女は上半身を起こし、男を見上げた。女は何かを言いたそうな表情で、口を動かすと。男の手が素早く、女の口元に近づいた。そして男の手は、ゆっくりと動き床を指した。女は男の手を見ながら、ベッドから降りると、男の前に立った。

「喋ってもいいぞ」
「看守さん… 私… 出れるんですか?」
「違うな、そのまま立ってろ」

 男は目の前の女を頭から順番に、丹念に観察していった。女の身長は男の肩まであり160cm位だろう、頭にはトッキア族特有の猫耳が2つ。暗くて分かりにくいが、髪の色は茶色だ。収容所では体が洗えないのか、髪は乱れ所々跳ねた細い毛が、肩甲骨辺りまで伸びていた。

「後ろを向け」
「え? 何をするの?」
、と言っている」

 男は女に顔を近づけた。女は仰け反ると、仕方なく一歩下がり後ろを向いた。

「よし、前を向け」

 女は男に言われるがままに、振り返り男と対面する。女は何が起きているか分からず、不思議な表情で男を見上げていた。

「あの… 看守さん?」

 男は女に近づくと、女の両肩に手を置いた。

「合格だ!」
「え? ごうかく?」

 男は肩においている手を上げると、両側から頬を挟み込んだ。男は顔を女に近づけ、自身の額を女の額にあてた。

「ひうぅ、つめたっ! あぅ… なんか、変な気分…」

 女の目から焦点が失われた。女の意識が遠のき、首の力が抜ける。女の全身から力が抜けると、瞳は重くなり昏睡状態となった。男は優しく女を抱き上げると、ベットに寝かしつけた。

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