銀色の雲

火曜日の風

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2章 伝説の聖女様現る

15話 最後の仕上げ

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 瑠偉達はテーブル越しに、目の輝かせた少年と対面していた。その少年は、瑠偉とララが揃うと話し始めた。

「実は胸が締め付けられるように、痛くなります。あと呼吸も早くなります」
「どんな時に痛くなりますか?」

 瑠偉は、一応それらしく振舞うため、症状を深く聞いていった。

「えーっと、タニアちゃんと接している時です」
「なるほど・・・」ここで瑠偉は、嫌な予感がよぎった。

「タニアちゃんとは、どんな関係なの?」
「僕の憧れの子なんです。優しくて、可愛くてー・・・はぁ、考えるだけで…」

 少年は目を閉じると、若干上を向き、笑顔で何かを考え始めた。あおそらく、タニアちゃんの事であろう。そんな彼を瑠偉は、半口を開けながら呆然と眺めていた。

「なるほど、症状から狭心症の疑いがありますね」と瑠偉の横で、ララの声が聞こえた。
 瑠偉はララの方を見る「そんなわけないでしょ・・」

 それから、瑠偉によるプチ恋愛相談が、彼に対して始まった。時間にして数十分、彼とタニアちゃんについて話し合う瑠偉。彼は一通り満足すると、お礼の金銭をテーブルに置き「ありがとうございましたー」と晴々しい顔つきで、去って行った。

「しかし恋愛経験もないのに、小説の情報だけでよくできましたね。さすがです」
「それ、褒めてるんですか? と言うか、恋愛経験ぐらいありますよ」
「初耳です」

「ま、まぁ・・・小学校時代の話ですが・・・」
「嘘ですね?」とララは、上半身を瑠偉に近づける。顔を瑠偉の目の前に出した。

 目の前にララのかをが来た瑠偉は、素早く目線を外した。

「ほっといて下さい! と言うか、いきなり恋愛相談とか、意味わかりません」

 それから恋愛相談や、仕事の悩みを打ち明ける依頼者が、数多く現れた。怪我を直す行為は、昼から来た捻挫をした人だけだった。それから、興味本位でただ会いに来た人もいた。

「ホント、意味わかんない・・・」
「平和ですね、この街は。明日刺激でも求めて、クレハさんと狩りでも行きますか?」
「遠慮します。街でも歩き回ってますよ」
「聖女様、こんにちはー!」と元気よく、尻尾があるトッキア族の女性が現れた。

 瑠偉は、その彼女を見る。顔色もよく、元気よく笑顔である。その頭に乗っている三角耳は、忙しく前後に動いていた。とても、怪我を負っているとは思えない。ましてや、病気を患っているようにも見えない。

「こんにちは、どのようなご用件で?」と瑠偉は、一応丁寧な対応をした。
「じつはー・・・最近、お肌の調子がよくないんですよー」
「そ・・・そうですか。ははは・・・」

 瑠偉は、ただ乾いた笑いを繰り返していた。
 ……
 …

 日が落ち始め、外か暗くなり始めて頃。瑠偉は、全ての対応を終えた。夕食を朝と同じように、文句を言いながら食べていく。対面に座っていたララは、朝と同じように何も食べない。途中で、ファルキアが前を通ったが、瑠偉を見て微笑みかけるが、特に何も言わず彼女達の前を通り過ぎていった。どうやら朝、ララが言ったように、食事に関して疑問を抱いていない様子であった。

 食事が終わり、部屋に戻って来た。瑠偉はゆっくりとした足取りで、ベッドの近くに来ると、そのまま力なく倒れこむ。体をうまく転がし、ベッドの中央で枕に顔を押し付け、うつ伏せになった。

「なんだろう、凄く疲れた。精神的にきた…色んな意味で…」

 そんな彼女と同時に、部屋に入って来たララは暫らくドアの前で止まって、ベッドの彼女を観察していた。そして何故か振り返り、背面にあるドアを見る。そして再び前を向くと、彼女の元へ歩み寄った。彼女は枕に顔押し付けて周りは見えてないが、近寄ってくる足音が聞こえた。そして、首だけを回し彼女は近寄ったララを見上げた。その顔は疲労感に満ちていた。

「明日も・・・ですか?」

「お嬢様の疲労を考慮して、一日おきとなっております」と言いながらララは、瑠偉から離れ出入り口のドアの正面まで移動した。そこから、少しずつ距離を取りながら移動を始めた。

「お嬢様、最後の仕上げがあります。立ち上がってこちらに来てもらえますか?」
「最後の仕上げって?」

「毎日の日課、健康状態の確認を行います」
「この姿勢でも、出来るのでは?」

「重要なことです。こちらにお越しください」

「なにか…脅迫に近いものを、感じるんだけど」と言いながら瑠偉は、お尻を上げて上半身を起こすと、正座の状態になった。そこからララの見ると、その立ち位置に違和感を感じた。そして首を傾げ、ララを見つめた。そのララは顔だけで、瑠偉を方をずっと見ていた。

「解りましたっよ! 行けばいいんでしょ?」

 瑠偉はベッドから降りる「表情ないから、考え読めない…」と小声で言いながら、ララの元に向かった。彼女はララの前に立つ。

「これでいいですか?」

 瑠偉がララの前に立つと同時に、ララは歩き始めた。いつもは足音を消す様に歩いているララだが、何故か軽く床を叩くように歩いている。そして、瑠偉の前で行ったり来たりしている。

「しばらくお待ちください」

 そう言いながらララは、まだ瑠偉の前で足音を鳴らしながら、歩いていた。

「なにかの儀式ですか? それに何故、足音を強くして歩くの?」

 瑠偉は、歩いているララを、顔を動かし、その姿を追っている。その部屋には、ララの足音が大きく響いていた。彼女はララの様子を見ていると、なにやらドアの方を意識して見ている様な気がしてきた。時間にして10秒から15秒ぐらいだろう、ララは歩みをやめると瑠偉の正面立った。

 ララは瑠偉の正面に立つと、突然両膝を曲げ床に付けた。そして手を床につくと、頭を瑠偉の足元の床に付けた。時間にして、ほんの一瞬だった。あまりの速さに、瑠偉はララの姿が消えたと勘違いをしていた。しかし、床に固いものが当たる音で、それに気づいた彼女は下を見る。そこには、瑠偉の足元で額を床に付けている、ララの姿があった。全体を見渡すと、ちょうど額を付けている土下座の姿勢である。

 瑠偉はその姿を見てと驚き、思わず「え、なに? 電池切れ?」と不思議な表情を見せていた。

 その時、部屋のドアが突然、勢いよく開いた。

「ルイさーん、入りますよー!」

 そこにセーラ服姿の、ファルキアが笑顔で元気よく現れた。

 ファルキアの正面には、立ち尽くした瑠偉。そして、その足元で額を、床に付けているララの姿が、ファルキアの目に鮮明に映し出された。ファルキアは、彼女達を見ると「あっ」と口を開けて放心状態となった。

 瑠偉は突然開いたドアに、ファルキアの姿を見た時、全てを理解した。まずララが大きな音を立てて、歩いていた。それは…おそらく、ファルキアの足音と合わせ歩き、それを消す為だろう。彼女の接近を、気づかせないためだ。そしてタイミングを計り、額付け土下座をしたのだ。
 全ては、朝のロート夫妻との会話を、真実とするために…

「取り込み中でしたか、し…つ…れ…い…し・・・まーし・・・た」とファルキアは、徐々に声のトーンが下がっていった。それと同時に、ゆっくりと後退を始め、そーっとドアを閉めた。そして、勢いよく廊下を走る足音が、瑠偉達の部屋に響き渡った。そして…

「ヨルグー、聞いてくださーーい!」とファルキアの大声が、宿屋全体に広がっていた。

 その一連の結果を、固まって見ていた瑠偉。ファルキアの大声を聞いて、「っは」っと我に返る。そして、勢いよくドアに向かって走った。

「待って、待ってぇー! 誤解ですー! 止まってくださいーーーい!」

 瑠偉は大声で叫びながら、ドアを開けて、廊下を見た。しかし、ファルキアの姿は、廊下には無かった。そして、ファルキアの後を追おうと廊下に出ようとした。が、彼女の肩にララの手が掛かる。いつの間にか、ララは瑠偉の背後にいた。

 瑠偉はララを振り張って、ファルキアの元に行こうとした。足を前に出し、お腹に力を入れて前に出ようとする。すると自然に彼女の口から「うぎぎぎ」と声が漏れた。しかし瑠偉の体は、その場所から動く事はなかった。

「離してください、誤解を解かないと!」と瑠偉は振り返り、ララを見上げた。
「大丈夫です。問題ありません。さあ、お嬢様。お休みの時間です」

「何言ってるんですか! 問題ありますよっ!」
「安心してください。何も起きません」

おきましたっ・・・・・・! いま・・ここで・・・! 事件が発生しました!」と瑠偉は、強い口調で言いながら。肘を曲げて勢いよく、その腕を振っていた。

 しばらく見つめあう二人。観念したのか、瑠偉はベッドに向かって歩き始めた。その足取りは、非常に重かった。そして、ベッドに倒れこむのであった。

「もういやー。あの時、飛行機で旅行に行かなきゃよかった・・・」

 ララはベッドに入った瑠偉を確認すると、そのままドアの前で立ち尽くした。瑠偉はそれを見て<部屋からは、出しません>と聞こえてきそうな、ララの姿が映った。そして、何かを思い出したように、勢いよくベッドから立ち上がる。

「決めました! 隣町に移動します。いいですよね?」
「そうですか、残念です。ただし私は、マスターからの命令があるので、お嬢様自身で何とかしてください」

 あっさり引き下がったララに、瑠偉は違和感を感じた。しかし先ほどの事件で頭がいっぱいで、何も考えられずにいた。彼女はスマホを取り出すと、ベッドに転がり昨日の続きの、恋愛小説を読み始めた。それから30分ぐらいだろうか、彼女はいつの間にか眠っていた。

 ……
 …

 翌朝、朝食を食べようと彼女達は、1階に降りる。ヨルグを見かけ、瑠偉は彼に話しかけた。

「おはようございます。ヨルグさん」

 瑠偉達に対し背を向けていたヨルグは、声を掛けられる。笑顔を準備しながら、挨拶をかわそうと、振り返る。そこに瑠偉、その背後にララの姿が飛び込んできた「ヒィ!」と彼は、思わず言い、何故か一歩後退してしまった。

「お、おはよう・・・ございま・・・すぅ」

 腕を胸元に上げ、驚きの表情を見せるヨルグ。そんな彼の姿を見た瑠偉は、昨日の出来事を鮮明に思い出すのであった。そんな彼にも、あの話が伝わっているんだな、と感じ取るのであった。

「大丈夫ですよ、何もしませんよ」

 そう言って瑠偉は、優しく彼に微笑みかけた。しかし、彼の表情はこわばったままだ。

「隣町行きの馬車の予約を取りたいのですが、何処でとればいいのでしょう?」
「よーやく?」とヨルグは、聞いたことのない単語に、頭の耳がピコピコ動き始めた。

「予約です」
「予約とは、何でしょう?」

 瑠偉は予想を超えた返答が返ってきた為、顔が引きつる。どうしていいか分からず、後ろにいるララに助けを求めようと振り返る。しかし、ララは黙ったままだった。仕方なく彼女は、もう一度ヨルグと向き合う。

「とにかく、隣町行きの馬車に乗りたいのです」
「ああー、馬車ですか。先ほど聞いたんですが、隣町へ行く橋が崩れたんです。直すのに時間が掛かるんですよ。暫らくは、無理かと思います」

「橋が壊れた?」
「はい。よくある事ですよ? でも、なぜか今回は、新調してから早かったですね」

「なぜ…このタイミングで?」と瑠偉は、振り返りララを見る。
「私は何もしてませんよ? ナノマシンも使用できませんし。昨日も一昨日も、お嬢様の側に居ましたよね?」

「あや…し…い」と瑠偉は口に手を当て、考え込む「まさか・・・ありえる」
「あまり人を疑うのは、よろしくないかと」
「まぁ、いいです。後で麻衣に、聞いてみます。食事にしましょうか・・・」

 瑠偉達は、朝食をとるためにテーブルに向かって歩き始めた。それから数日、瑠偉はファルキアとヨルグへの誤解を解くために、忙しく動き回るのであった。
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