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ピンチはいつでもそこに
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ガツガツと食べる不審者君。
なんか、ローブのフードで顔は分からないけど、もしかしたら年上かもしれないけど、運動部の高校生のような食べっぷりだね。
俺がもう一度屋台に買い直しに行って、帰ってきても食べてる。
人がいっぱい食べてるところって、見てて和むよね!
けふんと食べ終えて、また俺と目が合った……のかな?
顔が見えないからわからんが、ぴたっと動作が止まる不審者君。
「旨かった?」
コクン。おっ、反応した。
「じゃあ、気を付けて帰れよ」
まさか、同じ宿じゃないだろう。泊ってる宿屋の裏で空腹抱えて蹲ってるわけないし。
コクンと頷くと立ち上がった奴は……俺より背が高かった……。
ガッデーム!
お、お前、食った物の金を払え!
とギリギリ歯を食いしばってる俺の前で、軽くピョンと飛び上がって屋根に上る……、え?!
俺は奴を指差し、あわあわと口を震わす。
なんで、助走なしで飛んで屋根まで上がれるの?
なに、その身体能力……、凄いんだけど。
奴はペコンと俺に頭を下げて、再び軽くピョンピョンと屋根を飛んで渡っていき、夜闇に紛れて消えて行った。
「に、忍者みてぇな奴」
アホみたいに口を開けて見送ったあと、自分の腹の虫が鳴って、慌てて部屋に戻った俺だった。
屋台のメシは旨かったけど、すっかり冷めていたよ。
こそこそと店先から店先へと隠れながら、通りを進む。
右見て左見て、さささっと進んで店の看板とかに身を潜める。
朝はイリヤさんが宿まで迎えにくるが、今日は仕事を休むとタイタンの矢の主人に伝えておいたので、会うことはなかった。
タイタンの矢の主人夫夫は、イリヤさんの舎弟なので安心はできなかったが、流石に客室までお通しすることはなかった。
ん? 隠れながらどこに向かってるのかって?
冒険者ギルドだ!
昨日、ジンが俺に分けてくれた報酬の確認に行くのだ!
金額によっては、このカケスの街を出て違う街へ行くことも考えてる。
悩んで悩んで……俺は生活の安定よりも自分のお尻の安定を選んだ!
カケスの街と王都から離れれば、とりあえずは俺の純潔は守られる……はず。
今頃はイリヤさんは仕事だし、ジンにだけ警戒しなければ!
カランカラン。
朝遅く昼にはまだ早い時間。
ガラーンとした受付フロア。
俺は、こそこそといつもの受付のお兄さんニーナさんのカウンターへ。
「あれ? アオイさん、どうしたんですか?」
「ちょっと、今日はお仕事お休みで。あ、あのぅ、ギルドに預けてるお金の確認がしたいんですが……」
「はあ……。あっ、そうだ。アオイさん、たいへん言いにくいんですが……ギルド命令でしばらく街外の依頼は禁止になりました」
かわいい笑顔で言われたけど、意味が分かりません。
街外の依頼が禁止ってなんぞ?
「それ……具体的にはどういうことですか?」
「……街の外に薬草採取に行くことができません」
「……。はあああぁぁぁぁぁ?」
なんで? なに、それ? 薬草採取できなかったら、お金が稼げないじゃん。
俺の生活どうなるの? 宿屋だって泊まれなくなっちゃうし……。そもそも冒険者として働けるの?
「そ、それは、いつまで、ですか?」
「うーん、ギルマス命令なので期間はわかりません。ペナルティ扱いの禁止ではないので」
「ギルマスって……」
「はい。今は不在なので、正しくはサブマスのイリヤさん命令です」
ガックシ……。なんで……。
イリヤさん、俺が何しましたか……。いや、何もしなかったけども!
「俺でも……できる仕事って……。報酬がいいやつで……」
足に力が入らなくて、カウンターに縋って立ってるよ。
ガクガクするよ、足が。
「街での依頼って、家政のこととか、飲食店、屋台の売り子、公共施設の掃除……。報酬はアオイさんのいつもの薬草採取の半分ぐらいかなぁ。あははは」
詰んだ……。半分の報酬では生活が維持できない……。
「でも、大丈夫です!アオイさん用にお仕事がありますよ!」
「なになになになに、何ですか?」
「ギルマスの補佐です!」
「……それって……」
「まあ、イリヤさんのお手伝いですね。報酬は薬草採取の倍ですよ」
バチコーンとウィンクされても、男だったら嬉しくねぇーよっ!
ギルマス代理のイリヤさんのお手伝い。
防音のギルマスの部屋で二人きり。鍵のかかる部屋で一日中二人きりでお仕事……。
いーやー、ヤラれる! 絶対にヤラれるっ!
びゃあああと涙を溢れさせてニーナさんに縋る。
「他に、他にないですか? ほーかーにー」
血涙がでるぅ。
「え? ええ? あとは……あ、ありますけど……。これって問題があるんですよね……」
「なになになに、教えてくださーいっ。おーしーえーてー!」
その日、冒険者ギルドに俺の泣き叫ぶ声が木霊したという……。
なんか、ローブのフードで顔は分からないけど、もしかしたら年上かもしれないけど、運動部の高校生のような食べっぷりだね。
俺がもう一度屋台に買い直しに行って、帰ってきても食べてる。
人がいっぱい食べてるところって、見てて和むよね!
けふんと食べ終えて、また俺と目が合った……のかな?
顔が見えないからわからんが、ぴたっと動作が止まる不審者君。
「旨かった?」
コクン。おっ、反応した。
「じゃあ、気を付けて帰れよ」
まさか、同じ宿じゃないだろう。泊ってる宿屋の裏で空腹抱えて蹲ってるわけないし。
コクンと頷くと立ち上がった奴は……俺より背が高かった……。
ガッデーム!
お、お前、食った物の金を払え!
とギリギリ歯を食いしばってる俺の前で、軽くピョンと飛び上がって屋根に上る……、え?!
俺は奴を指差し、あわあわと口を震わす。
なんで、助走なしで飛んで屋根まで上がれるの?
なに、その身体能力……、凄いんだけど。
奴はペコンと俺に頭を下げて、再び軽くピョンピョンと屋根を飛んで渡っていき、夜闇に紛れて消えて行った。
「に、忍者みてぇな奴」
アホみたいに口を開けて見送ったあと、自分の腹の虫が鳴って、慌てて部屋に戻った俺だった。
屋台のメシは旨かったけど、すっかり冷めていたよ。
こそこそと店先から店先へと隠れながら、通りを進む。
右見て左見て、さささっと進んで店の看板とかに身を潜める。
朝はイリヤさんが宿まで迎えにくるが、今日は仕事を休むとタイタンの矢の主人に伝えておいたので、会うことはなかった。
タイタンの矢の主人夫夫は、イリヤさんの舎弟なので安心はできなかったが、流石に客室までお通しすることはなかった。
ん? 隠れながらどこに向かってるのかって?
冒険者ギルドだ!
昨日、ジンが俺に分けてくれた報酬の確認に行くのだ!
金額によっては、このカケスの街を出て違う街へ行くことも考えてる。
悩んで悩んで……俺は生活の安定よりも自分のお尻の安定を選んだ!
カケスの街と王都から離れれば、とりあえずは俺の純潔は守られる……はず。
今頃はイリヤさんは仕事だし、ジンにだけ警戒しなければ!
カランカラン。
朝遅く昼にはまだ早い時間。
ガラーンとした受付フロア。
俺は、こそこそといつもの受付のお兄さんニーナさんのカウンターへ。
「あれ? アオイさん、どうしたんですか?」
「ちょっと、今日はお仕事お休みで。あ、あのぅ、ギルドに預けてるお金の確認がしたいんですが……」
「はあ……。あっ、そうだ。アオイさん、たいへん言いにくいんですが……ギルド命令でしばらく街外の依頼は禁止になりました」
かわいい笑顔で言われたけど、意味が分かりません。
街外の依頼が禁止ってなんぞ?
「それ……具体的にはどういうことですか?」
「……街の外に薬草採取に行くことができません」
「……。はあああぁぁぁぁぁ?」
なんで? なに、それ? 薬草採取できなかったら、お金が稼げないじゃん。
俺の生活どうなるの? 宿屋だって泊まれなくなっちゃうし……。そもそも冒険者として働けるの?
「そ、それは、いつまで、ですか?」
「うーん、ギルマス命令なので期間はわかりません。ペナルティ扱いの禁止ではないので」
「ギルマスって……」
「はい。今は不在なので、正しくはサブマスのイリヤさん命令です」
ガックシ……。なんで……。
イリヤさん、俺が何しましたか……。いや、何もしなかったけども!
「俺でも……できる仕事って……。報酬がいいやつで……」
足に力が入らなくて、カウンターに縋って立ってるよ。
ガクガクするよ、足が。
「街での依頼って、家政のこととか、飲食店、屋台の売り子、公共施設の掃除……。報酬はアオイさんのいつもの薬草採取の半分ぐらいかなぁ。あははは」
詰んだ……。半分の報酬では生活が維持できない……。
「でも、大丈夫です!アオイさん用にお仕事がありますよ!」
「なになになになに、何ですか?」
「ギルマスの補佐です!」
「……それって……」
「まあ、イリヤさんのお手伝いですね。報酬は薬草採取の倍ですよ」
バチコーンとウィンクされても、男だったら嬉しくねぇーよっ!
ギルマス代理のイリヤさんのお手伝い。
防音のギルマスの部屋で二人きり。鍵のかかる部屋で一日中二人きりでお仕事……。
いーやー、ヤラれる! 絶対にヤラれるっ!
びゃあああと涙を溢れさせてニーナさんに縋る。
「他に、他にないですか? ほーかーにー」
血涙がでるぅ。
「え? ええ? あとは……あ、ありますけど……。これって問題があるんですよね……」
「なになになに、教えてくださーいっ。おーしーえーてー!」
その日、冒険者ギルドに俺の泣き叫ぶ声が木霊したという……。
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