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新しい出会いは求めてない

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死の恐怖に怯えて、体を縮めてガクブルしてる俺の肩を揺さぶるのは誰?
それは見たこともないトレーラー並みの大きさの猪の魔獣です。
いーやー!

「おい、もう大丈夫だから。ボアは倒したから、大丈夫だよ」

「ひー! 喰われるっ……。くわ……くわ……れ、ない?」

はれ?
猪って俺の肩を掴んで揺さぶるなんて動作できないよね? あいつら、蹄じゃん。
あれあれ? じゃあ、この人だあれ?

俺は涙と鼻水でぐしゃぐしゃであろう醜い顔を上げて、その人を見た。
え? 誰、こいつ。

緑の髪の毛を短く刈り込んで、ツンツン立てたイケメン。
キラキラした濃い青い瞳で、鍛えられながらもまだ成長途中の身体つき。
イケメン。……イケメンですよ、また!

けっ。

スンと表情を無くした顔で俺は「あ、どうも」と軽く会釈した。
まだ腰は立たない。

「お、おう。あんたは冒険者か?」

「……ついこないだなったばかりの初心者です」

ほらっ、と採取した薬草とギルドカードを見せる。
町の外の草原に浮かれ気分でピクニックにきた頭の軽い若者と一緒にすんなっ!
ちゃんと仕事で来たんだぞ。

「……。俺はジン・シュヴァンガウ。王都で活動している冒険者だ。よろしくな」

出された手におざなりに握手して、
「アオイです」とイケメンに挨拶を返した。
イケメンに媚びを売っても意味はない。
イケメン死すべし! と態度でも示しておく。

「折角、薬草採取してたのに邪魔してごめんな。いやー、暇つぶしにボア狩りしてたら、変異種のビックボアが出てきて……つい、夢中になって追いかけてしまった」

「はあ」

ビックボアってことはデカイ猪だよね。
それの変異種がそれ……。
えっ、デカすきないか?
ビックボアって、もともとどんな大きさなんだよっ。
軽トラぐらいの大きさだったりして。
わー、俺、絶対森とか行かないわー。行けないわー。

チラッと倒された猪を見ると、首の辺りからゴボゴボと血が溢れ出している。
時折ピクッと四肢が痙攣しているのが、ちょっと怖い。

「あいつら追いかけると逃げるんだよなー、向かってこないで。森を抜けたところでマズイと思ったんだけど……、まさか人が居るとはねー」

「はあ」

そりゃ居るだろうよっ。
ここ立ち入り禁止区域じゃねぇし。
なんだ、こいつ、謝ってんのか馬鹿にしてんのか、わからない奴だな……なんかめっちゃイラつくが……。

さっさっとこの場を去りたいが、いまだに抜けた腰が元に戻らないのだから、しょうがない。
苦虫を嚙み潰したような顔をする俺の前に差し出される手。
? なんだよっ?

「手、貸すよ。怖かったろう? 立てなくなっちゃった? 肩、貸そうか? それとも……」

「だっ、大丈夫です!」

大丈夫じゃなくても大丈夫と言ってしまう、それが日本人クオリティ。
そうじゃなくてもイケメンに貸しなんて作れるかーっ!

なんとか立ち上がろうとするが、ぷるると足が震えてべしゃと崩れること数回、イケメンに爽やかに姫抱っこされました。

…………ぐはっ。

なんで姫抱っこ……。
肩に担ぐとか荷物持ちとか、運び方にもいろいろあるだろうよっ。
それでも腰が立たない俺は放してくれっとも言えないのです。
ぐすん。

「あー、こいつも持ってかないとな」

イケメン冒険者ことジンが猪に手を翳すと、猪の巨体はシュルルルとどこかに収納された。
これは……収納魔法か?

「じゃあ、町に戻ろうか」

ニッコリ笑って告げられた言葉に、羞恥に顔を染めてコクンと頷くことしかできない俺……。
そこへ、

ピロリン♪

【人生の選択】

A級冒険者 ジン・シュヴァンガウ

・抱く
・抱かれる

な、な、な、なんでーっ!

今までのやりとりでこいつと俺の間に、そんなピンクの空気これっぽちもなかったじゃないかーっ!
イリヤさんに続いて二人目のエッチの相手候補なんていらんわーっ。

ドギドキと衝撃に胸を弾ませ、ハクハクと声にならない叫びをあげてる俺に、ジンは微笑んでぎゅっと抱きしめる。

「ゆっくり戻ろうね」

たーすーけーてー!
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