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天上の審判官

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「……んあ?」

目が覚めたら、真っ白だった。

いや、マジで。
右も左も上すらも真っ白の空間に、人がいっぱいいる。

俺は……どうしたんだろう? 思い出そうとするとズキッと頭が痛む。たしか……会社の出張帰りで……夜間バスに乗って……。

「あ、目覚めましたね。では、こちらにどうぞ」

グレーのスーツを着て黒縁眼鏡をかけた髪の毛を七三分けにしためちゃくちゃ公務員っぽい男の人が、俺の腕を掴みどこかへと連れていく。

「あのぅ……。ここはどこでしょうか? 俺はいったい……」
「ここは、天上の審判所です。さあ、ここに並んで。順番守ってくださいね」

そう言ってその人はまたどこかへと去って行ってしまった。

え? 何この列は? 俺と同じようにスーツを着た人もいれば、学校の制服を着た人、作業着の人もいる。年代も別々で男も女も……子供もいるけど?

「え?」

下を見て驚いた。地面が雲。いや雲じゃないのかもしれないけど、もくもくとした白い雲で、足踏みした感触もやや柔らかい……かも?

なんだろう、ここ? キョロキョロと周りを見ると、自分の何人か前に同じバスに乗っていた女子大生の子とくたびれた中年男性が居た。

「はい、32番、佐手川葵さてがわあおいさん。どうぞ」

どうぞって……これ、町内会の福引とかでやるガラガラじゃん。

「これ……なんですか?」
「え? あー、どうしてここに居るかわかんない感じかー? あなたは死にました。交通事故でバスの乗客は、ほぼ全員アウト。他にも高速道路で巻き込まれて死んだ人数が多くて、こっちも大変なんですよー。だから、早く回して、これ」
「これ、回すとどうなるんですか?」
「あー、もう! 魂の行き場所決めんの! 天国とか地獄とか」

マジかー! 天国とか地獄とかガラガラで決めんの? そんなもんなの?

「大丈夫。だいじょーぶ! 君の生前の善徳悪業考慮して玉が出るから。ほら、回して」

はい。
ガラガラ
ガラガラ
ポトン。

黄色の玉、出たけど……。どっち?

「あー、黄色ね。じゃあ、あっち行って。異世界行き、お願いしまーす!」
「えっ、異世界!?」

はいこっちこっちと、さっきとは違うグレーのスーツの人に誘導されて、別の受付へ。

ちょっと待って! 異世界って何?

「はい、今度はこれ投げて」

渡された玉に、ルーレット。今度はルーレットかよっ。なんだこのゲーム感覚は!

隣のおじさんは「おおぅ。剣と魔法の世界。RPGか!」とか叫んでるし。その隣の女子大生は「やった! 乙女ゲーム」とか喜んでるし。え? 死後の世界ってこんな感じなの?

「ほら、早く」
「ああ、はい」

くぅーっ、空気が読める日本人。流れに身を任せがちな俺。
回るルーレットに、玉をポイッと投げ込んだ。

「はいはい、君は剣と魔法の世界で……。……ああ……そう」
「え? なんですか? なに?」
「まぁ、なんとかなるよ。いってらっしゃい!」

え? なんだよっ。あのおじさんみたいにRPGの世界じゃないの? 何があるの?

「……男しかいない世界か……」

え? 何? 男しかいない世界? なんじゃ、そりゃ。おーい、やり直し、やり直し。もう、一回……。

「はい、いってらっしゃい」

ポーンと投げだされた体はそのまま下に落ちていく。下が見えない……ぐらいの高さから紐なしバンジージャンプだとぅ?

ぎゃーっ! 死ぬーっ、死んじゃうよーっ、誰かー助けてーっ! たーすーけーてー!

あ、もう死んでた、俺。
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