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異世界に召喚されました
空から悪魔が舞い降りて、僕は拐われる!?
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荷馬車に乗せてもらってゆっくりと街へと戻る途中、ガサガサと耳障りな音が聞こえた。
まだ、さっきの兎ちゃん首チョンパのショックが残っていてぐすぐすと鼻を啜っている僕は、荷台から体を乗り出してキョロキョロ辺りを見回してみる。
ガサガサって、なんか大きな物が上から落ちて柔らかい何かに突っ込んだような……、右見て、左見て、下は……見なくていいや。じゃあ、上? 上か……、あっ!
「すみません!おじさん、馬車止めてくださーいっ」
あったよ。あったじゃなくていたよ。あそこの木に引っかかってるのは、人だよね? それも子供だよね? たいへんだ! 助けなきゃ!!
馬車が完全に停まるよりも前にぴょんと荷台から飛び降りて、ダァーッと人が枝に引っかかってる木の下まで自分のできる精一杯の全力疾走!
上を見ながら走ってると、ユラユラ揺れる体がスローモーションのように下へと落ちていくのが見えた。
「わあああっ!」
たいへん! たいへん! と気持ちは焦るけど、走るスピードがこれ以上早くなるわけでもなく、無情にもバササササッと音を立て、凛の目の前で空から落ちてきただろう子供は木の枝からも落下してしまった。
ひーこらひーこらしながら、その木の下まで走り着いたときにはもう体力なんてありません。ゼーハーゼーハー荒い息を繰り返して、落ちた子供を目だけで探す。
ん? んんっ? いた。いた……けど……。
僕は、そろそろと子供に近づいてみる。子供は四肢を投げ出して気を失っていた。あちこち見て触ってみたけど、大きな怪我はしてないみたい。あんなに高い所から落ちたのに……。でもさ、でもさ、この子の頭を見たらそんな奇跡も納得だよね。
この子……頭にネコミミが付いてるの。猫の耳? はっ!まさか異世界あるあるの獣人とか? 確かめてみよう! モミモミ。モミモミモミモミモミモミ……。
「このネコミミ本物だー。ふわふわ、かわいい」
意識のない子供の耳に勝手に触るのはイケナイことだが、このもふもふには逆らえないっ。僕……動物が大好きで、犬とか猫とかずっと飼いたかったんだよねーっ。
にこにこと見ず知らずの子供のネコミミにセクハラしていると、馬車のおじさんがやっと追いついてきたらしく「おーい」と呼ぶ。
あ、この子も馬車で街まで運んでもらおう。僕だけじゃ、町まで連れていけないもんね。あー、よかった。馬車に乗せてもらっていて、僕ってば運がよかったな!
よっこいしょ、と子供の体をなんとか両脇に手を入れて持ち上げてズルズルと引きずって、木々の中から救出する。おじさんと一緒に馬車まで運んでもらって乗せてもらおう。おじさんの方へ顔を向けた僕が見たものは、顔面蒼白になって腰が抜けてる中年の姿だった。
へ? どうしたの、おじさん……と呆気に取られる、僕。
おじさんは、震える指で僕の上を指差し、パクパクと口を動かすけど、声になってない。
上? 上に何があるの? 不思議に思って上を向く僕。
「キエーッ!」
グルグルと僕たちの上を旋回して飛ぶ大きな何か……。似たような生き物を図鑑で見たことがある。恐竜図鑑だ。テラノドン、プテラノドンとかいう鳥型の恐竜に似ている。
いやいや、ここは異世界。つまり、あれって……、魔獣とか魔物とか呼ばれる……ワイバーンだったりする……のかな?
えーっ! ヤバいヤバい! あいつ、僕たちのこと狙ってる? ロックオンしてる?
「に、逃げなきゃ」
おじさんの馬車で逃げる? 怪我している子供を連れて馬車まで行く余裕はなさそう。馭者のおじさんは腰抜けちゃってるし。そもそも街道までは平地だから上から狙い放題なんじゃ……?
じゃあ、じゃあ林の中に戻るか? 木が邪魔で上から襲ってこれないし……。よし、そうしよう。
僕はクルリと来た方向に回転してズルズルと子供を引き摺るつもりが、ドテッと足が縺れて転んでしまった! 全力疾走の影響が今頃……動け、僕の足。
はっ! と気づいたときには……。
「う、嘘でしょーっ」
低空飛行で僕たちに近づき、グワシッと右に子供、左に僕を掴んでワイバーンは急上昇していく。
怖ーいっ。ワイバーンも怖いけどー、何この高さ! こんなところで絶叫マシーンもどきのアトラクションはいらないのにーっ。
わーん、誰か助けてーっ!!
「おっさん、もう一回話せ。いいや、俺をその場所に連れて行け」
「ひええぇぇっ。そんな無茶な。行って戻る頃には閉門の時間が過ぎてしまいますぅぅぅ」
泣いて鼻水を垂らす汚いおっさんの胸倉を掴み、きりきりと締め上げて見せる。どうやらこのおっさんが冒険者ギルドに助けを求めに来たワイバーンに攫われた者が凛のことらしい。
ちっ! この街の近くで探査魔法を切らなきゃよかった。凛がいる街だからと油断した。まさか、目の前でワイバーンなんかに攫われるなんて……。
異世界のよくわからん生物のくせに。魔獣で討伐対象のくせに。ちょっと空を飛べるからって凛を攫いやがって。許さんっ!
今頃、感動の再会。愛の告白。運命の恋人同士の爆誕。めくるめく愛の営みまでスムーズに進むはずが……ちくしょう。
悠真は凛欠乏症の弊害なのか、あっさりと没交渉時代を無視して凛に愛の告白をしたら成功して、剰え恋愛対象だったのかも怪しいのにそのまま愛の営みまで進めると確信していた模様。
――そんな腐女子のご褒美展開があるわけがない。
ガクガクとおっさんを揺さぶって失神させた悠真は、ギルド職員たちに羽交い絞めにされた。そのギルド職員たちの腕を力業のみで振り解き、街の門へと爆走する。
凛、待ってて。今、助けに行くよ。凛凛凛凛……。
悠真は愛の呪文である凛の名前を呟きながら凛の助けに向かう。凛は今頃、ジェットコースターならぬワイバーンコースターで息も絶え絶え、乗り物酔いのように酔っているだろう! 吐き気MAXに違いない!!
まだ、さっきの兎ちゃん首チョンパのショックが残っていてぐすぐすと鼻を啜っている僕は、荷台から体を乗り出してキョロキョロ辺りを見回してみる。
ガサガサって、なんか大きな物が上から落ちて柔らかい何かに突っ込んだような……、右見て、左見て、下は……見なくていいや。じゃあ、上? 上か……、あっ!
「すみません!おじさん、馬車止めてくださーいっ」
あったよ。あったじゃなくていたよ。あそこの木に引っかかってるのは、人だよね? それも子供だよね? たいへんだ! 助けなきゃ!!
馬車が完全に停まるよりも前にぴょんと荷台から飛び降りて、ダァーッと人が枝に引っかかってる木の下まで自分のできる精一杯の全力疾走!
上を見ながら走ってると、ユラユラ揺れる体がスローモーションのように下へと落ちていくのが見えた。
「わあああっ!」
たいへん! たいへん! と気持ちは焦るけど、走るスピードがこれ以上早くなるわけでもなく、無情にもバササササッと音を立て、凛の目の前で空から落ちてきただろう子供は木の枝からも落下してしまった。
ひーこらひーこらしながら、その木の下まで走り着いたときにはもう体力なんてありません。ゼーハーゼーハー荒い息を繰り返して、落ちた子供を目だけで探す。
ん? んんっ? いた。いた……けど……。
僕は、そろそろと子供に近づいてみる。子供は四肢を投げ出して気を失っていた。あちこち見て触ってみたけど、大きな怪我はしてないみたい。あんなに高い所から落ちたのに……。でもさ、でもさ、この子の頭を見たらそんな奇跡も納得だよね。
この子……頭にネコミミが付いてるの。猫の耳? はっ!まさか異世界あるあるの獣人とか? 確かめてみよう! モミモミ。モミモミモミモミモミモミ……。
「このネコミミ本物だー。ふわふわ、かわいい」
意識のない子供の耳に勝手に触るのはイケナイことだが、このもふもふには逆らえないっ。僕……動物が大好きで、犬とか猫とかずっと飼いたかったんだよねーっ。
にこにこと見ず知らずの子供のネコミミにセクハラしていると、馬車のおじさんがやっと追いついてきたらしく「おーい」と呼ぶ。
あ、この子も馬車で街まで運んでもらおう。僕だけじゃ、町まで連れていけないもんね。あー、よかった。馬車に乗せてもらっていて、僕ってば運がよかったな!
よっこいしょ、と子供の体をなんとか両脇に手を入れて持ち上げてズルズルと引きずって、木々の中から救出する。おじさんと一緒に馬車まで運んでもらって乗せてもらおう。おじさんの方へ顔を向けた僕が見たものは、顔面蒼白になって腰が抜けてる中年の姿だった。
へ? どうしたの、おじさん……と呆気に取られる、僕。
おじさんは、震える指で僕の上を指差し、パクパクと口を動かすけど、声になってない。
上? 上に何があるの? 不思議に思って上を向く僕。
「キエーッ!」
グルグルと僕たちの上を旋回して飛ぶ大きな何か……。似たような生き物を図鑑で見たことがある。恐竜図鑑だ。テラノドン、プテラノドンとかいう鳥型の恐竜に似ている。
いやいや、ここは異世界。つまり、あれって……、魔獣とか魔物とか呼ばれる……ワイバーンだったりする……のかな?
えーっ! ヤバいヤバい! あいつ、僕たちのこと狙ってる? ロックオンしてる?
「に、逃げなきゃ」
おじさんの馬車で逃げる? 怪我している子供を連れて馬車まで行く余裕はなさそう。馭者のおじさんは腰抜けちゃってるし。そもそも街道までは平地だから上から狙い放題なんじゃ……?
じゃあ、じゃあ林の中に戻るか? 木が邪魔で上から襲ってこれないし……。よし、そうしよう。
僕はクルリと来た方向に回転してズルズルと子供を引き摺るつもりが、ドテッと足が縺れて転んでしまった! 全力疾走の影響が今頃……動け、僕の足。
はっ! と気づいたときには……。
「う、嘘でしょーっ」
低空飛行で僕たちに近づき、グワシッと右に子供、左に僕を掴んでワイバーンは急上昇していく。
怖ーいっ。ワイバーンも怖いけどー、何この高さ! こんなところで絶叫マシーンもどきのアトラクションはいらないのにーっ。
わーん、誰か助けてーっ!!
「おっさん、もう一回話せ。いいや、俺をその場所に連れて行け」
「ひええぇぇっ。そんな無茶な。行って戻る頃には閉門の時間が過ぎてしまいますぅぅぅ」
泣いて鼻水を垂らす汚いおっさんの胸倉を掴み、きりきりと締め上げて見せる。どうやらこのおっさんが冒険者ギルドに助けを求めに来たワイバーンに攫われた者が凛のことらしい。
ちっ! この街の近くで探査魔法を切らなきゃよかった。凛がいる街だからと油断した。まさか、目の前でワイバーンなんかに攫われるなんて……。
異世界のよくわからん生物のくせに。魔獣で討伐対象のくせに。ちょっと空を飛べるからって凛を攫いやがって。許さんっ!
今頃、感動の再会。愛の告白。運命の恋人同士の爆誕。めくるめく愛の営みまでスムーズに進むはずが……ちくしょう。
悠真は凛欠乏症の弊害なのか、あっさりと没交渉時代を無視して凛に愛の告白をしたら成功して、剰え恋愛対象だったのかも怪しいのにそのまま愛の営みまで進めると確信していた模様。
――そんな腐女子のご褒美展開があるわけがない。
ガクガクとおっさんを揺さぶって失神させた悠真は、ギルド職員たちに羽交い絞めにされた。そのギルド職員たちの腕を力業のみで振り解き、街の門へと爆走する。
凛、待ってて。今、助けに行くよ。凛凛凛凛……。
悠真は愛の呪文である凛の名前を呟きながら凛の助けに向かう。凛は今頃、ジェットコースターならぬワイバーンコースターで息も絶え絶え、乗り物酔いのように酔っているだろう! 吐き気MAXに違いない!!
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