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3 王立べラム訓練学校 高等部1
3-16話 借刀殺人10
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朝も早い時間にアルガンザ王子が引き連れる軍がリレーシャの街へと到着する。部隊はすでにいくつかに分かれており、それぞれの門を封鎖するために動いていた。
王子がいる第三防御門の前、王家の紋章がなびく旗を見て、見張りの兵士が大慌てで防御壁の門を開門した。
詰所から飛び出してきたすべての兵士が、第一王子に対してひざまずき跪礼を行った。
門を管理する部隊長が何事か、と王子に対して問いかける。
「殿下、本日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょうか? 失礼ながら、我々にはなにも知らされておりません。どうかご無礼をお許しください」
「構わぬ。立つがいい」アルガンザが左手を伸ばして促した。
「感謝いたします」
門兵は門の正面、部隊長とそのうしろに五人の兵士が並んでいた。
王子が兵士を、防御壁を眺めた。
「誰でもかまわん。ここに県令と県尉をつれて参れ」
「か、かしこまりました。しかし、恐れながら申し上げます。県尉のコルプシオ様は、先日に心臓の病で急逝されております」
「それは誠か?」
王子は目を細め、剣の柄に手を置いた。そして、一気に引き抜くと、部隊長の首に触れるぎりぎりのところで止めた。
「うそを申せば、ここで貴様の首が飛ぶぞ」王子が冷徹な視線を部隊長に送る。
あと数ミリで首に触れる刃に、王子の殺気に恐れ、部隊長が青ざめた顔で首を縦に振るう。
「ほ、ほんとうにございます。遺体はいまだに病理診療院に安置されているはずです」
アルガンザは剣を納めると、隣にいた部下に確認にいかせる。
「ならば、県令をすぐに連れてこい」
部隊長が王子に恐れつつ、最初に目の合った部下に「早くお連れしろ」と急かすように命令を下した。
しばらくして、衣服を少し乱したままの県令が慌てた様子で現れた。
服装の乱れに気づいたペルソンが急いで服を整える。
「これはアルガンザ王子、こんな朝早くにどうされたのでしょうか? この兵士たちはいったい……」
王子は、ペルソンの言葉を無視して右手をゆっくりあげる。そこに、うしろに構えていた兵士が詔書を手渡した。
王子は、両サイドから巻かれた巻物のような黄色の布を広げて「勅命である」と声を発した。
その瞬間、門兵ならびにペルソンが跪礼を行った。
「県令ペルソン、県尉コルプシオ、この両名はリレーシャの街を管理し、民を守る身でありながら、不正に手を染め長年にわたって賄賂を受け取っていた。その上、傍若無人な行いによって余の民までをも害した。そればかりか、県尉にいたっては山賊ともつながりを持ち富ませている。また、その行動をすべて見逃していた県令も同罪とする。県令ペルソン、県尉コルプシオは、本日をもってすべての職務、官位を剥奪し死罪とする」
王子が部下に詔書を手渡すと「捕らえよ」と命じた。
兵士の二人が駆け出し、絶望に脱力状態のペルソンの腕をつかむ。
ペルソンがふらつきながらも兵士に立たせられると、急に逃れようとして暴れ出した。
「お待ちください! これは何者かの陰謀です。私はそのような覚えなどございません! 王子! 王子! 放せ! 私はなにもしていない! お聞きください! 王子!」
わめき散らすペルソンに一瞥することもなく、アルガンザは街に向かってゆっくりと歩き出した。そして、連れてきた兵士に大声で命令を下す。
「これより、県令、県尉の家族、直近の関係者をすべて捕らえよ。抵抗するもの、逃げ出すものは容赦なく斬り捨てろ! これは勅命である!」
兵士の全員がそろって返事を返して動き出した。
そこに、病理診療院から戻ってきた兵士が診断書を王子に手渡す。
「怪しいところはなさそうだな。しかし、このタイミングで病死か……。まあいい、コルプシオの遺体も王城に連れていく。回収をしてこい」
「かしこまりました」兵士は再び病理診療院へと戻っていった。
そこに、アルガンザの護衛が「殿下はどちらへ参られますか?」と聞いてくる。
少し考えよどむ王子は「ディフィニクスに会いに行く」と答えた――。
将軍が宿の窓から街並みを見下ろしていると、扉をたたく音とともに聞きなれた男の声が部屋の中に響いた。
「兄貴いるか? 戻ったぞ」
「ウォルビスか、思ったよりも早かったな」
扉を開けるディフィニクスの前に立つウォルビスは、少し疲労をにじませる顔をしていた。
「いや~、さすがに強行軍は疲れるぜ。馬に乗っている分だけまだ歩兵よりましだけどさ」
「その様子だとうまくいったようだな。取り合えず中に入れ、詳しいことはそれからだ」
将軍に促されたウォルビスは、部屋の中に入ると肩を揉みながらテーブルの椅子に座った。
ウォルビスは国王との会話を思い出し、両手を軽く上げながらうんざりしたように伝える。
「兄貴に言われた通りにして無事に陛下に会ったまではいいんだけどよ、まだリレーシャの街にいるって言ったら激怒よ、激怒」
「無理もないな、勅命を受けて一週間近くたつのに、いまだに王都から一日そこらの距離だからな。で、そのあとはどうした?」
将軍は同情するように苦笑いを浮かべる。そして、テーブルの上にあるティーセットを手に取り、ウォルビスにお茶を淹れた。
ティーカップを手に取るウォルビスは、片手でジェスチャーを交えながら拝謁時の会話を続ける。
「もう怖いのなんの、とばっちりを受けない内に兄貴の書状をさっさと手渡したさ。それで、兄貴の書状を読んでさらに激怒よ、すぐに尚書令が呼び出しくらって勅命が下された」
「そうか、ずいぶんとすんなり行ったな。もう少し手間取ると思っていたんだがな」
お茶を飲んでいたウォルビスは一度大きくうなずきティーカップを置くと、少し険しい表情を浮かべつつ再び口を開いた。
「それなんだけどよ、司徒が口添えしたら陛下は簡単に信じきってたな。ただ、あの人が一度こっちを向いて、にやっと笑ったときはヒヤヒヤしたぜ。あれは絶対に兄貴の作戦を見抜いてやがったぜ」
「あいつは軍師としても優秀だからな。前にも同じような手段を使っているから気付いたのかもな」
「前にも……? ああ、レフィアータの大将軍をでっち上げで始末したときか! あの時はみんなが兄貴の作戦を褒めまくってたな。それに、あれで前将軍になれたんだから感謝しないとな。確か帝国で反乱のうわさが出たのを利用したんだっけ?」
当時、訓練学校を出たばかりのウォルビスにはうわさ程度でしか知るよしもなく、作戦の詳細を聞こうと目を輝かせてテーブルに身を乗り出した。
将軍もまんざらではなく、その表情は誇らしそうに当時を思い出そうと一度だけ目を閉じた。
「そうだ。あの時は帝国に謀反者が出てな、粛清が盛んに行われていた時だった。その対象はレフィアータ帝国の大将軍といえども免れることはできなかったようだな。当時の大将軍、ガラターファにも謀反を扇動したのではないか、と疑いが掛けられていた。たしか謀反が出る少し前だったか。何度か衝突はしたが、互いにたいした被害もなく膠着状態が長く続いていた。それが敵と通じているのではないか、と疑われているようだったな」
当時の状況をよく知らなかったウォルビスは、身を乗り出したまま言葉の続きを待った。
将軍はお茶を一口飲むと、再び当時を思い出し語り始める。
「せっかく燻っているのなら、燃料を突っ込んで燃やしてやろうと思ってな。レイラが率いる諜報部隊に証拠を捏造するように指示を出してやった。例えば、ガラターファと謀反を起こした将軍との私信のたぐい、アンゲルヴェルク王国に帝国の情報を売った状況や報酬額の一覧。こっちからガラターファに宛てた返書とかだな。もともと疑われていた所にこれだ、捕縛された後は言い分も聞き入れてもらえず、すぐに処刑されたと聞いた。今回の件も似てるだろ? だから気付いたんだろう。まあ、あのときは今回とは違って、一から十まで全部がでっち上げだったけどな」
「それであの人は、こっちを見てほほ笑んでいたのか。反対も追求もしてこなかったってことは、容認したってことでいいのか?」
ウォルビスは不安げに将軍の顔を見つめると、将軍は安心をさせるように笑みを返した。
「心配するな、もともとの賄賂だけで死罪に相当する。ファンゲルも越権行為にならないためにしたことだって理解してるさ。でなければ、書状を見せたときに反対してるだろ。陛下とて、国民からの評価をあげられる絶好の機会だ。自らつぶすことなどなさらないだろう。ところで勅命は誰が受けたんだ? お前か?」
「いや、まさか! 勅命は第一王子が受けたよ。おかげで演習以外の命令で燃えちゃってさ。ここまで強行軍をする羽目になっちまったぜ。……ああ、あとで兄貴に会いに来るって言ってたぞ」
ウォルビスは困った顔で行軍を思い出してうんざりしていた。
将軍はねぎらうように、ウォルビスのカップにお茶を注いだ。
「それは災難だったな。王太子になるための実績が欲しかったんだろう。明日は一日休息にあてる。ゆっくり休め」
「お、それはありがてぇな。それじゃあ、明日はのんびりさせてもらうか」
ウォルビスはうれしそうにカップを手を取り、数口お茶を飲むと一息ついた。
その時、扉がノックされ兵士の声が部屋に響いた。
「将軍、アルガンザ王子がお越しです」
「分かった、すぐにお通ししろ」
兵士が「かしこまりました」と返事をすると部屋を離れていった。少しして再びノックされると扉が開き、アルガンザ第一王子が現れた。
将軍は余裕を見せつつ、弟のウォルビスは緊張した面持ちで王子を出迎える。
ウォルビスは王子を視界に捉えると、すぐにテーブルの上にある自分のカップを取って、新しいものと変えるため場を離れていった。
王子が空いた椅子に座る。
少しして、ウォルビスが新たに淹れ直したお茶をテーブルに置いた。
王子はカップに手を伸ばし、お茶を一口飲み干すと話し始めた。
王子がいる第三防御門の前、王家の紋章がなびく旗を見て、見張りの兵士が大慌てで防御壁の門を開門した。
詰所から飛び出してきたすべての兵士が、第一王子に対してひざまずき跪礼を行った。
門を管理する部隊長が何事か、と王子に対して問いかける。
「殿下、本日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょうか? 失礼ながら、我々にはなにも知らされておりません。どうかご無礼をお許しください」
「構わぬ。立つがいい」アルガンザが左手を伸ばして促した。
「感謝いたします」
門兵は門の正面、部隊長とそのうしろに五人の兵士が並んでいた。
王子が兵士を、防御壁を眺めた。
「誰でもかまわん。ここに県令と県尉をつれて参れ」
「か、かしこまりました。しかし、恐れながら申し上げます。県尉のコルプシオ様は、先日に心臓の病で急逝されております」
「それは誠か?」
王子は目を細め、剣の柄に手を置いた。そして、一気に引き抜くと、部隊長の首に触れるぎりぎりのところで止めた。
「うそを申せば、ここで貴様の首が飛ぶぞ」王子が冷徹な視線を部隊長に送る。
あと数ミリで首に触れる刃に、王子の殺気に恐れ、部隊長が青ざめた顔で首を縦に振るう。
「ほ、ほんとうにございます。遺体はいまだに病理診療院に安置されているはずです」
アルガンザは剣を納めると、隣にいた部下に確認にいかせる。
「ならば、県令をすぐに連れてこい」
部隊長が王子に恐れつつ、最初に目の合った部下に「早くお連れしろ」と急かすように命令を下した。
しばらくして、衣服を少し乱したままの県令が慌てた様子で現れた。
服装の乱れに気づいたペルソンが急いで服を整える。
「これはアルガンザ王子、こんな朝早くにどうされたのでしょうか? この兵士たちはいったい……」
王子は、ペルソンの言葉を無視して右手をゆっくりあげる。そこに、うしろに構えていた兵士が詔書を手渡した。
王子は、両サイドから巻かれた巻物のような黄色の布を広げて「勅命である」と声を発した。
その瞬間、門兵ならびにペルソンが跪礼を行った。
「県令ペルソン、県尉コルプシオ、この両名はリレーシャの街を管理し、民を守る身でありながら、不正に手を染め長年にわたって賄賂を受け取っていた。その上、傍若無人な行いによって余の民までをも害した。そればかりか、県尉にいたっては山賊ともつながりを持ち富ませている。また、その行動をすべて見逃していた県令も同罪とする。県令ペルソン、県尉コルプシオは、本日をもってすべての職務、官位を剥奪し死罪とする」
王子が部下に詔書を手渡すと「捕らえよ」と命じた。
兵士の二人が駆け出し、絶望に脱力状態のペルソンの腕をつかむ。
ペルソンがふらつきながらも兵士に立たせられると、急に逃れようとして暴れ出した。
「お待ちください! これは何者かの陰謀です。私はそのような覚えなどございません! 王子! 王子! 放せ! 私はなにもしていない! お聞きください! 王子!」
わめき散らすペルソンに一瞥することもなく、アルガンザは街に向かってゆっくりと歩き出した。そして、連れてきた兵士に大声で命令を下す。
「これより、県令、県尉の家族、直近の関係者をすべて捕らえよ。抵抗するもの、逃げ出すものは容赦なく斬り捨てろ! これは勅命である!」
兵士の全員がそろって返事を返して動き出した。
そこに、病理診療院から戻ってきた兵士が診断書を王子に手渡す。
「怪しいところはなさそうだな。しかし、このタイミングで病死か……。まあいい、コルプシオの遺体も王城に連れていく。回収をしてこい」
「かしこまりました」兵士は再び病理診療院へと戻っていった。
そこに、アルガンザの護衛が「殿下はどちらへ参られますか?」と聞いてくる。
少し考えよどむ王子は「ディフィニクスに会いに行く」と答えた――。
将軍が宿の窓から街並みを見下ろしていると、扉をたたく音とともに聞きなれた男の声が部屋の中に響いた。
「兄貴いるか? 戻ったぞ」
「ウォルビスか、思ったよりも早かったな」
扉を開けるディフィニクスの前に立つウォルビスは、少し疲労をにじませる顔をしていた。
「いや~、さすがに強行軍は疲れるぜ。馬に乗っている分だけまだ歩兵よりましだけどさ」
「その様子だとうまくいったようだな。取り合えず中に入れ、詳しいことはそれからだ」
将軍に促されたウォルビスは、部屋の中に入ると肩を揉みながらテーブルの椅子に座った。
ウォルビスは国王との会話を思い出し、両手を軽く上げながらうんざりしたように伝える。
「兄貴に言われた通りにして無事に陛下に会ったまではいいんだけどよ、まだリレーシャの街にいるって言ったら激怒よ、激怒」
「無理もないな、勅命を受けて一週間近くたつのに、いまだに王都から一日そこらの距離だからな。で、そのあとはどうした?」
将軍は同情するように苦笑いを浮かべる。そして、テーブルの上にあるティーセットを手に取り、ウォルビスにお茶を淹れた。
ティーカップを手に取るウォルビスは、片手でジェスチャーを交えながら拝謁時の会話を続ける。
「もう怖いのなんの、とばっちりを受けない内に兄貴の書状をさっさと手渡したさ。それで、兄貴の書状を読んでさらに激怒よ、すぐに尚書令が呼び出しくらって勅命が下された」
「そうか、ずいぶんとすんなり行ったな。もう少し手間取ると思っていたんだがな」
お茶を飲んでいたウォルビスは一度大きくうなずきティーカップを置くと、少し険しい表情を浮かべつつ再び口を開いた。
「それなんだけどよ、司徒が口添えしたら陛下は簡単に信じきってたな。ただ、あの人が一度こっちを向いて、にやっと笑ったときはヒヤヒヤしたぜ。あれは絶対に兄貴の作戦を見抜いてやがったぜ」
「あいつは軍師としても優秀だからな。前にも同じような手段を使っているから気付いたのかもな」
「前にも……? ああ、レフィアータの大将軍をでっち上げで始末したときか! あの時はみんなが兄貴の作戦を褒めまくってたな。それに、あれで前将軍になれたんだから感謝しないとな。確か帝国で反乱のうわさが出たのを利用したんだっけ?」
当時、訓練学校を出たばかりのウォルビスにはうわさ程度でしか知るよしもなく、作戦の詳細を聞こうと目を輝かせてテーブルに身を乗り出した。
将軍もまんざらではなく、その表情は誇らしそうに当時を思い出そうと一度だけ目を閉じた。
「そうだ。あの時は帝国に謀反者が出てな、粛清が盛んに行われていた時だった。その対象はレフィアータ帝国の大将軍といえども免れることはできなかったようだな。当時の大将軍、ガラターファにも謀反を扇動したのではないか、と疑いが掛けられていた。たしか謀反が出る少し前だったか。何度か衝突はしたが、互いにたいした被害もなく膠着状態が長く続いていた。それが敵と通じているのではないか、と疑われているようだったな」
当時の状況をよく知らなかったウォルビスは、身を乗り出したまま言葉の続きを待った。
将軍はお茶を一口飲むと、再び当時を思い出し語り始める。
「せっかく燻っているのなら、燃料を突っ込んで燃やしてやろうと思ってな。レイラが率いる諜報部隊に証拠を捏造するように指示を出してやった。例えば、ガラターファと謀反を起こした将軍との私信のたぐい、アンゲルヴェルク王国に帝国の情報を売った状況や報酬額の一覧。こっちからガラターファに宛てた返書とかだな。もともと疑われていた所にこれだ、捕縛された後は言い分も聞き入れてもらえず、すぐに処刑されたと聞いた。今回の件も似てるだろ? だから気付いたんだろう。まあ、あのときは今回とは違って、一から十まで全部がでっち上げだったけどな」
「それであの人は、こっちを見てほほ笑んでいたのか。反対も追求もしてこなかったってことは、容認したってことでいいのか?」
ウォルビスは不安げに将軍の顔を見つめると、将軍は安心をさせるように笑みを返した。
「心配するな、もともとの賄賂だけで死罪に相当する。ファンゲルも越権行為にならないためにしたことだって理解してるさ。でなければ、書状を見せたときに反対してるだろ。陛下とて、国民からの評価をあげられる絶好の機会だ。自らつぶすことなどなさらないだろう。ところで勅命は誰が受けたんだ? お前か?」
「いや、まさか! 勅命は第一王子が受けたよ。おかげで演習以外の命令で燃えちゃってさ。ここまで強行軍をする羽目になっちまったぜ。……ああ、あとで兄貴に会いに来るって言ってたぞ」
ウォルビスは困った顔で行軍を思い出してうんざりしていた。
将軍はねぎらうように、ウォルビスのカップにお茶を注いだ。
「それは災難だったな。王太子になるための実績が欲しかったんだろう。明日は一日休息にあてる。ゆっくり休め」
「お、それはありがてぇな。それじゃあ、明日はのんびりさせてもらうか」
ウォルビスはうれしそうにカップを手を取り、数口お茶を飲むと一息ついた。
その時、扉がノックされ兵士の声が部屋に響いた。
「将軍、アルガンザ王子がお越しです」
「分かった、すぐにお通ししろ」
兵士が「かしこまりました」と返事をすると部屋を離れていった。少しして再びノックされると扉が開き、アルガンザ第一王子が現れた。
将軍は余裕を見せつつ、弟のウォルビスは緊張した面持ちで王子を出迎える。
ウォルビスは王子を視界に捉えると、すぐにテーブルの上にある自分のカップを取って、新しいものと変えるため場を離れていった。
王子が空いた椅子に座る。
少しして、ウォルビスが新たに淹れ直したお茶をテーブルに置いた。
王子はカップに手を伸ばし、お茶を一口飲み干すと話し始めた。
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