精霊の加護

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精霊の加護148 王太子殿下からの無理難題の解決策

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精霊の加護
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№148 王太子殿下からの無理難題の解決策

 翌日の昼過ぎ、俺たち一行は、帝都イスタナンカラに到着した。
 前回来たときにはなかったが、王帝同盟が締結されて急ぎ建設された王国大使館へ、俺たち一行は入った。
 イゴールどのの戴冠式は明後日だ。ちょうどいいタイミングでの到着である。

 俺とわが妻たちと精霊たちは大部屋である。
 マリーは王族専用部屋でひとりになるのを拒んで、アイチャとエカチェリーナと同室、ヘルムートとディエゴも同室、それから外交役人の部屋が2部屋、護衛の王都騎士団員20名にも数部屋があてがわれた。
 イゴールどのに、到着を知らせる使者を送ると、明日、会いたいと言って来たので、午前中に帝都宮殿=帝宮を訪ねると返答した。戴冠式で特赦を与える予定の、謀反3家の子弟の、教国への護送についての相談だろう。

「エカチェリーナは、今日は帝宮に戻らないのか?」
「はい。使者どのが明日、帝宮に行かれるときに一緒に戻ります。どうせ私が戻っても、帝宮では戴冠式の準備でいろいろと忙しくて、私は邪魔になりますから。それならば、マリーやアイチャと一緒にいます。」
 この旅で天才3人娘は、互いをマリー、リーナ、アイチャと呼ぶようになっていた。身分の垣根を越えたのだ。ついでに言うと、ヘルムートとディエゴとも、互いに呼び捨てになっていた。ガキンチョ5人組は親密になったのだ。
 なお、ヘルムートだけは、リーナではなくエカチェリーナと呼んでいる。帝国のしきたりでは、女性を愛称で呼んでいい男は、家族か恋人以上に限定されるからだ。
 それとアイチャは、ヘルムートとふたり切りのときは、ヘルムートのことを、より親密な呼び方のムートと呼んでいる。ヘルムートとアイチャはそのことを隠しているつもりだが、すでに皆にはバレバレである。笑

「ゲオルク卿、王太子殿下より鳩便が届いています。」大使館の職員が手紙を持って来たので目を通した。

~~ミカエル王太子殿下からの指令書~~

ゲオルク・スピリタス侯爵

 イゴール帝即位式のロビー外交で、エカチェリーナ姫と東部公爵家嫡男ヘルムートとの婚約の下交渉を命ず。

 なお、帝国に続いて訪れる教国では新教皇に対し、アイチャと西部公爵家嫡男ディエゴとの婚約の下交渉も命じる予定であるが、帝国との交渉が成らなければ、教国との交渉は不要となる。

 万が一、ヘルムートとディエゴが不服を唱えたら、余の命令であると伝えよ。

王太子ミカエル・パリセイユ・トレホス

~~ゲオルク視点~~

 いちいち、ふたりが不服を唱えたら…、なんて言って来なくても、あのふたりが不服を唱えるものか!エカチェリーナとアイチャも含めて、4人は大喜びだろうよ。

 パリセイユ・トレホス王家の分家筋の4公爵家。ベルリブルグ家、マドリドバルサ家、ロマミラン家、ロンドミンガム家は、王家に次ぐ家格で、トレホス王国では、貴族最上位である公爵位は、この4家にしか認められていない。
 パリセイユ・トレホス王家の分家筋である4家のうちの2家、ベルリブルグ東部公爵家に、教国の天才巫女アイチャ迎え、マドリドバルサ西部公爵家に帝国の新帝妹の天才剣士エカチェリーナを迎えれば、3国同盟の盟主である王国は、教国と帝国を分家の姻戚とし、盟主の座を不動のものにできる。

 そして、何より、パリセイユ・トレホス王家に対する、帝国と教国からの婚姻申込を牽制することができる。
 殿下御自身が、帝国からも教国からも『婚姻の申し込みを受けるつもりはない。』と言う強いメッセージなのだ。
 3国同盟の継続には、3国のパワーバランスの維持が欠かせない。王太子殿下がどちらか一方とだけ婚姻を結ぶことは考えられず、もし后を迎えるなら、両国から迎えねばならないが、両国と婚姻を結べば、どちらを正妻にするかで揉めるし、子供が出来たらどちらを後継者にするかで揉める。王国の跡目争いを、帝国や教国に介入させる訳には行かない。

 そういや、殿下は御正室をどこから迎えるのかな?やはり4公爵家の姫君か?ってか、4公爵家に姫君っているの?気にしたことないから知らないんだよな、俺。
 しかしなぁ、あの殿下だからなぁ。常識なんか気にしないで、しがらみのまったくないところで、王都の民から御正室を選んだりして。あるいは王宮の侍女とか?流石に色街の女とかはないだろうけど…、でもやりかねないんだよな。あの人は。苦笑

 もう一度、読み返すと…、あれ?組み合わせが逆じゃん。
 エカチェリーナとヘルムート、アイチャとディエゴになってる。どういうことだ?単に間違えんだろうか?
 …いや、違うな。わざと入れ替えたんだ。だから、不服を唱えたら…、とわざわざ書いて来たんだ。そもそもなぜ入れ替える?

 そうか!そう言うことか。立地条件だ。帝国と西部、教国と東部が隣接しているせいだ。
 可能性は低いかもしれないが、西部が帝国に、東部が教国に、それぞれ寝返ることを、殿下は警戒しているんだ。
 これは確かに、警戒すべきかもしれないな。しかし、組み合わせを入れ替えるのは、4人には酷だよなぁ。くっつけちゃおう大作戦を実施した俺としては、何とかしてやりたい。

 ふた組を入れ替えずにくっつけて、立地条件の問題を解決するには…。
 あ、東部と西部で所領を入れ替えりゃいいじゃん。…いや、流石にそれは無理か。公爵家はそれぞれのご領地に根付いているものな。
 エカチェリーナとアイチャを王都に住まわせるか?そしたらディエゴとヘルムートは王都に居付いて、領地に行く機会が減るな。それはそれで問題だな。
 嫡男夫婦の交換はどうだ?東部をディエゴに継がせて、西部をヘルムートに継がせる。いやいや、いくらなんでもこれは現実離れしてるよな。
 ふた組の子供をすべて王都で養育するのはどうだ?しかしな、子供を取り上げたら、王家が東部公爵家と西部公爵家を疑ってると公言するようなものだしな。そしたら離反を煽ることに繋がり兼ねないよな。
 って言うか、殿下の懸念を突き付けて、寝返ることがないように起請文でも書かせるか?実際に寝返る動きがあったら、大元の帝国や教国を、俺がぶっ潰せばいいんだものな。
 組み合わせを変えるか、起請文かで迫れば、4人とも答えはひとつだろう。

 俺がいろいろ考えているとマリーが心配して尋ねて来た。
「兄上様は何と言って来てますの?」
 俺は無言で殿下からの指令書をマリーに手渡した。それを読むマリー。

「ゲオルク様、ご心配には及びませんわ。兄上様は、組み合わせを間違えただけですわ。」
 そう言って、殿下の指令書を4人に回した。見る見る表情が曇る4人。
「マリーが言う通り、殿下は組み合わせを間違えたようだな。」ディエゴが不安を吹き飛ばすように言い、
「だなー。意外とおっちょこちょいだな。」ヘルムートも同意したが、その表情は不安そうだ。
「わざわざお前らふたりが『不服を唱えたら、余の命令だと伝えよ。』と念を押して来てるのにか?」
「「「「「…。」」」」」

「殿下はな、帝国も教国もいずれかの公爵家と婚姻させたいのだ。でもな、帝国と西部公爵家、教国と東部公爵家、このふた組の婚姻は望んでおられない。それぞれ所領が隣だからだ。この意味が分かるか?」
 俺はガキンチョ5人組に質問を投げ掛けて、反応を待った。

「殿下は僕たちが寝返ると?」憮然としてヘルムートが聞いて来た。
「違うな。寝返るとは思っておらん。しかし万が一、寝返られたとしたら、その公爵領はそのまま地続きで敵国領となる。その危険性を回避したいのだ。」
「敵国…ですか?同盟を結んだのに?」エカチェリーナがムッとして聞いて来た。
「今は同盟国だが、帝国とは半年前まで敵対していた。教国も1年前は敵国だった。もし、将来、帝国が西部公爵領を取り込んだら帝国は再び敵国だ。教国も東部公爵領を取り込んだらやはり敵国だ。」
「そんな。僕たちが取り込まれる訳ないでしょう。」ディエゴが気色ばんだ。
「俺もそう思う。しかしな、あくまでも可能性の話だ。隣接していると言うのは、そう言う可能性を含むと言うことだ。殿下はそこまで用心深いんだよ。」
「教国は使徒様がおわす王国には逆らいませんよ。」アイチャが断言した。
「だろうな。でも俺が死んだら分からないよな?殿下はそんな先々の可能性まで見越しているのさ。」

「兄上がこんなに小心者とは思いませんでした。」マリーがふんすと鼻息荒く、怒りを顕わにした。
「マリー、それは違うぞ。殿下は小心ではなく用心深いのだ。何たって、王宮に泊まれば、夜通し監視が付けられるからな。そして殿下はそのことを隠しもせず、シレっと言ってのける。これはな、王宮では備えているから、余計な考えを起こすなと言う警告であり、宿泊客に妙な気を起こさせないための布石なのだ。」
「ではゲオルクどのは、今回のことも、僕たちに邪な考えを起こさせないための布石だと言うのですか?」ディエゴのこの指摘に俺は目を開かれた。
 あ、そうか。そう言うことか。これが殿下の真意か。気付かなかった。まだまだだな、俺も。苦笑

「それだけのために、相手を入れ替えろと?俺は絶対に嫌ですよ。エカチェリーナは大事な友人ですが、生涯の伴侶はアイチャ意外に考えられません。」ヘルムートが言い切ると、
「ムート…。」とアイチャの目ん玉がハートマークになった。皆がいる前で、ムート呼びしちゃってるよ。笑
「ゲオルクどの、俺だって、リーナ以外は考えられません。」
「ディエゴ、私もよ。」はいはい、こっちもいい雰囲気になってるのな。

「ゲオルク様、お願いです。皆のために、兄上の指令書を破棄してください。」
「マリー、それはできない。」
「「「「「…。」」」」」ガキンチョ5人組から恨めしそうな眼差しが飛んで来た。
「しかしな、うっかり・・・・読み違えることはあるかもしれんな。」
「ゲオルク様!」「「ゲオルクどの!」」「使者どの!」「使徒様!」5人のガキンチョの表情が、ぱぁっと明るくなった。
「その代わり、将来、絶対に余計な考えは起こしてくれるなよ。3国はいつまでも同盟関係を維持した方が、お互いのためだからな。」

 ガキンチョ5人組がぶんぶんと頷いた。

 その後、大使館の大浴場を借り切って、わが妻たち、精霊たちと恒例のむふふな入浴タイム。
 そして、夕餉は晩餐会形式で、大使以下大使館職員たち、俺たちスピリタス一行、王都の外交役人たち、護衛に当たった王都騎士団が、一堂に会した。

 そしてその晩は、道中の禁欲明けである。輪番で、ジュヌ、カルメン、ベスを美味しく頂いたのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/11/27

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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