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精霊の加護089 エンシェントドラゴン
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精霊の加護
Zu-Y
№89 エンシェントドラゴン
教国北部の中心都市ルゥド・オーを出て1週間、教国東部の中心都市ヴァーに到着した。
ヴァーの町でも神の使徒と言うことで歓迎を受けたのだが、民の活気がイマイチである。しかも町の所々が破壊されており、その瓦礫の撤去作業の人員が少ない。
破壊された建物の瓦礫が、手付かず放置されたままの場所もある。民に活気がないことと関係があるのだろうか?
教国北部のルゥド・オーも最初は活気がなかったが、その活気のなさとは異質な気がする。
ルゥド・オーの活気のなさは、食糧不足と病気の蔓延~と言ってもその大半は栄養失調だったが~によるもので、体調を活性化させるヒール、病気を治すキュア、ケガを治すリペアにより改善でき、ポテトイモの普及で食糧難にも解決の目途が立った。
それに対して、ここヴァーの活気のなさは、疲れ切っていると言う感じだ。
しばらくして分かったが、俺が感じた活気のなさの違いは、実は的を射ていたものだった。と言うのも、ここヴァーでの活気のなさは、度重なるエンシェントドラゴンの襲撃によるものだったからだ。
エンシェントドラゴンが、ヴァーの町を襲撃すると、そのブレス攻撃でどこかしらの建物を破壊して行く。そうなると、破壊された建物の瓦礫を撤去して、新たな建物を建てる訳だが、その建物が完成する前に、次の襲撃で別の建物がやられる。
これが繰り返されれば、瓦礫の撤去と再建が間に合わなくなり、民は疲弊する。
俺が受けた、疲れ切った感じの活気のなさと言う印象は、ヴァーの現状を正しく言い当てていた訳だ。町の所々に、撤去が間に合っていない瓦礫が散乱していた事実とも、ピッタリ符合する。
俺たちは、ヴァーの教会に厄介になるとともに、大司教からヴァーの惨状を聞かされた。
「…、と言う訳なのです。」
大司教がエンシェントドラゴンの度重なる襲撃によるヴァーの現状を詳しく話してくれた。
「なるほど、それは厄介だな。」
「とにかく、東の龍山から前触れもなく飛来し、ブレスでヴァーを襲撃して行くのです。」
「町の衛兵は対応できないのか?」
「いきなり飛来するので、対応が間に合わないのです。衛兵が駆け付けたときには、すでに破壊されていて、エンシェントドラゴンは棲家の龍山へと、飛び去った後なのです。」なるほどな。
「では、冒険者に討伐を依頼してはどうか?」
「とうの昔にやっていますが、手練れの冒険者パーティが何組も返討ちに遭いました。もはや討伐クエストを受けてくれる冒険者パーティはいません。」
「八方塞がりか。」
「被害に遭った建物を撤去して再建している最中に、別の建物がなす術もなくやられ、それが繰り返されれば、再建自体が虚しくなる訳でして、それが民の心を折り、町の活気を奪って行くのです。」
「厄介だな。」
「もうお手上げです。このままではそう遠くない将来、ヴァーの町は廃墟と化してしまうでしょう。」非常に深刻な状況である。
「そもそもなんだが、いつ頃から、なぜ襲撃されるようになったんだ?」
「攻撃されるようになったのはここ1年ですね。1年前に、エンシェントドラゴンが、ヴァーを目の敵にする何かあったと考えるのが妥当でしょうが、何が原因なのか、さっぱり分からないのです。」
「ふうん。なら、東の龍山まで赴いて退治して来るしかないか。」
「なんと、使徒様が退治して来て下さるのですか?」
「ああ。乗り掛かった舟だしな。」
取り敢えずその日は教会でゆっくり休み、教国北部からの旅の疲れを落とした。もちろん宿坊の部屋は、精霊たちやわが妻たちと一緒。夜は生ぱふぱふ5連発だったが、調子に乗ってむしゃぶりついたら脳天チョップをかまされた。地味に痛かったし。泣
しかし教国北部から教国東部までの1週間の行程は、教国のお目付役どもが一緒だから、むふふな展開はなかった。このままではマイドラゴンが暴走してしまうと必死に訴えたら、わが妻たちの瞳が妖艶にきらりと光ったのだ。
その後はご想像の通りである。この夜、わが妻たちの魔力量の上限が100ずつ上がったのだった。
翌朝、心身ともにすっきりして目覚めた俺は、朝餉を摂るとすぐに冒険者ギルドに出向いて、エンシェントドラゴン討伐のクエストを受けた。
その対応にはギルマス自らが出て来たが、ぶっちゃけ、ギルマスのおっさんよりも受付嬢の方が断然いい。
賞金は何と大金貨3枚だそうだ。それだけ、切羽詰まってるんだろうな。もっともこの賞金はヴァーの復興用に寄付することにしている。
と言うのも、今回の教国の巡検では、精霊魔法を派手に使って、教国の民の難儀を救い、大いに名声を高めて来い。と言う、王太子殿下の密命を帯びているからだ。
殿下は、教国での評判を使って、未だに恭順して来ない帝国へ、圧力を掛けるおつもりなのだ。
ヴァーの東の龍山へは、山道なので王国から使って来た馬車ではとうてい無理。その代わり馬車の曳馬4頭を借りた。
スノウはベス、ナイトはビーチェ。借りた曳馬に、俺、リーゼ、ジュヌ、カルメン。精霊たちはふわふわと飛びながらついて来る。
今まで乗馬する機会は、何度かあって、俺はスノウにもナイトにも乗ったことがある。
スノウはベスとの連携に影響が出るから、ベス以外は乗せないが、俺だけはいいらしい。その理由を聞いたとき、スノウは、『ゲオルクは、御主人の番いだからいい。』と答えた。番いって…。
ナイトは基本誰でも乗せる。ただし『できれば女の仔の方がいい。』のだそうだ。種族が違っても異性の方がいいのだろうか?それと、女の仔じゃなくて女の子だろうに。苦笑
その日の午前中は、ベスの指導の下、皆で乗馬の特訓を受けた。まぁ久しぶりだし、おさらいね。
乗馬で大切なのは、馬上での姿勢を維持して重心を安定させることと、適切な体重移動だ。馬が動きやすいか否かは、乗り手の重心の位置の安定と、馬を動きやすくするための重心移動に掛かっていると言っても過言ではない。
半日で勘を取り戻し、その日の午後には、龍山に向けて出発した。
ヴァーを出てさほど経たないうちに、精霊たちが反応した。
『ゲオルク、来る。』
『あっち。』え?どこよ?
『10km先。』精霊たちの索敵能力は実に素晴らしい!
確かに龍山の方角の空に点が見える。どんどん迫って来る。
すると、ヴァーの城壁の見張台から早鐘が聞こえ出した。ヴァーも気付いたようだ。
「迎撃するぞ。ソルとカルメンは皆にバフ、ベスは盾防御を展開して各種防御スキルを発動、ジュヌは魔法障壁展開、リーゼと、クレ、フィア、チル、ワラ、ウィン、クレはギリギリまで引き付けたら一斉にぶっ放せ。ツリとビーチェはエンシェントドラゴンが落ちたときに備えろ。」
「「「「「はい。」」」」」『『『『『『『『はーい。』』』』』』』』
ソルとカルメンによる各種バフの二重掛けの後、ベスが大盾を展開して各種防御スキルを発動し、ジュヌが魔法障壁を張った。
エンシェントドラゴンは、こちらには見向きもせず、一直線にヴァーを目指して飛んで行く。これがエンシェントドラノンの大きな誤算だった。
俺たちの上空を通過する直前、リーゼと精霊たちから、攻撃魔法が飛んだ。こちらを警戒していたら、あるいは躱せたかもしれない。しかしこちらを気にも留めていなかったエンシェントドラゴンにとっては、下方からのまったくの不意討ちとなった。
リーゼのウインドカッターを始め、精霊たちの各種属性弾がことごとく命中し、エンシェントドラゴンは、大ダメージを受けてあっと言う間に墜落。
ツリの蔓性植物による拘束で地面に縛り付けた。ブレスを吐けないように口まで縛り付ける稔の入れようである。流石ツリ。
ビーチェが、トドメとばかりに背中から突きを入れたが、固い装甲のため、貫通とまではいかなかった。しかし十分深手である。
「待って!」ビーチェが続けて二の太刀を入れる前に俺が止めた。
「ん?どうしたの?ダーリン」
「いや、ヴァーを執拗に襲った理由を聞こうと思ってさ。」
『くっ、殺せ。』おいおい、くっころかよ。テンプレ過ぎるぞ。笑
「俺はゲオルクだ。エンシェントドラゴンよ。なぜ執拗にヴァーの町を襲った?」
『…そこに、人がいるからじゃ。』
「なぜ人を目の敵にする?」
『ふん、わが同族を狩るからよ。龍族は随分と減ってしもうた。』
「それはお互い様だ。龍族も人を襲う。お前のようにな。」
『わらわは人など襲わぬ。ごふっ。』エンシェントドラゴンは血を吐いた。
「詭弁だ。町を襲って建物を破壊すれば、その下敷きになった人は死ぬ。ヴァーでもお前の襲撃で多くの人が死んだ。」
『戦じゃ。仕方あるまい。ごほっ。ごほっ。』エンシェントドラゴンは再び血を吐いた。
「ジュヌ、ソル、エンシェントドラゴンにリペアとヒールを。」
「え?」『はーい。』
ジュヌは一瞬ためらったが、ソルが回復魔法を掛けたので、それにつられてジュヌも回復魔法を掛けた。
『そなた、どう言うつもりじゃ?』
「被害はお互い様だ。もうよかろう。ここらで争いを収めよ。」
『わらわが再びヴァーを襲わぬ保障はないぞえ。』
「だから停戦を誓えと言っている。高潔なエンシェントドラゴンは、停戦の誓約を違えまい。」
『…。』
「どうした、それともここで滅ぶか?龍族は減っているのだろう?その首魁たるそなたが滅んでよいのか?」
『…分かったのじゃ。しかし条件があるぞえ。』エンシェントドラゴンは、しばらく考えた後、応諾にあたっての条件を出して来た。
「なんだ?」
『種族を増やすために、そなたの子種を所望する。』
「へ?って言うか、そもそも種族が違うだろ?」ってか、こいつ雌?
『われら龍族の遺伝子は強いゆえ、他種属の子種でも龍族が生まれる。そなたは精霊をも従える強き男ゆえ、その子種を所望する。』
「いやいや、そもそも龍と交われる訳ねぇだろ。」
『これでどうじゃ?』エンシェントドラゴンは眩く輝くと、人型になった。当然一糸まとわぬ姿で。ドラゴンは服を着てないからな。いわゆる龍人である。
全長約10mのエンシェントドラゴンが人型になったのだ。蔓植物の拘束からはあっさり抜け出した。
立ち上がった龍人は、両腕両脚を広げて大の字になった。一糸まとわぬ肢体が眩しい。俺好みの飛び切りの美人で、メロンボールはわが妻たち並の迫力だ。ボンキュッボンだ。合格っ!竜人特有の龍の角は、まぁ仕方あるまい。それと背が高い。俺より少し高いな。
マイサンはマイドラゴンと化した。うーん、実は同種族?苦笑
龍人になって、念話から直接会話に変わった。
「どうじゃ?と聞いておる。」いや、凄いっす。後でぱふぱふお願いします。
…じゃなくて、ここで再びエンシェントドラゴンに変身されたらやばい。停戦した方がいい!
「分かった。受け入れよう。」とっさの判断だ。俺、GJ♪
「「「「「えっ?」」」」」わが妻たちが素っ頓狂な声を上げて、その後、ジト目が飛んで来た。
「わらわは負けた。主様に従おう。その代わり主様の子種を所望じゃ。しかし、身籠ったら早々に龍山に帰る。それでよいな?」
「うむ。承知した。俺はゲオルク・スピリタスだ。そなたは?」
「ドーラ。」ドラゴンのドーラって安易すぎねーか?と思ったが黙っておく。
その場でドーラは俺に跪き、首を垂れた。
「主様、寛大な御心に感謝する。」
「ところでドーラ、何か着ろよ。」
「わらわは服など持たぬ。」
「仕方ねぇなぁ。」
俺は精霊たちの服を作るための、絹の薄織の反物を出した。これを体に巻かしたのだが、薄絹だから透ける。ボンキュッボンのドーラにこりゃアウトだな。
するとわが妻たちが、自分たちの衣類を貸してくれた。一件落着。笑
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/7/17
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№89 エンシェントドラゴン
教国北部の中心都市ルゥド・オーを出て1週間、教国東部の中心都市ヴァーに到着した。
ヴァーの町でも神の使徒と言うことで歓迎を受けたのだが、民の活気がイマイチである。しかも町の所々が破壊されており、その瓦礫の撤去作業の人員が少ない。
破壊された建物の瓦礫が、手付かず放置されたままの場所もある。民に活気がないことと関係があるのだろうか?
教国北部のルゥド・オーも最初は活気がなかったが、その活気のなさとは異質な気がする。
ルゥド・オーの活気のなさは、食糧不足と病気の蔓延~と言ってもその大半は栄養失調だったが~によるもので、体調を活性化させるヒール、病気を治すキュア、ケガを治すリペアにより改善でき、ポテトイモの普及で食糧難にも解決の目途が立った。
それに対して、ここヴァーの活気のなさは、疲れ切っていると言う感じだ。
しばらくして分かったが、俺が感じた活気のなさの違いは、実は的を射ていたものだった。と言うのも、ここヴァーでの活気のなさは、度重なるエンシェントドラゴンの襲撃によるものだったからだ。
エンシェントドラゴンが、ヴァーの町を襲撃すると、そのブレス攻撃でどこかしらの建物を破壊して行く。そうなると、破壊された建物の瓦礫を撤去して、新たな建物を建てる訳だが、その建物が完成する前に、次の襲撃で別の建物がやられる。
これが繰り返されれば、瓦礫の撤去と再建が間に合わなくなり、民は疲弊する。
俺が受けた、疲れ切った感じの活気のなさと言う印象は、ヴァーの現状を正しく言い当てていた訳だ。町の所々に、撤去が間に合っていない瓦礫が散乱していた事実とも、ピッタリ符合する。
俺たちは、ヴァーの教会に厄介になるとともに、大司教からヴァーの惨状を聞かされた。
「…、と言う訳なのです。」
大司教がエンシェントドラゴンの度重なる襲撃によるヴァーの現状を詳しく話してくれた。
「なるほど、それは厄介だな。」
「とにかく、東の龍山から前触れもなく飛来し、ブレスでヴァーを襲撃して行くのです。」
「町の衛兵は対応できないのか?」
「いきなり飛来するので、対応が間に合わないのです。衛兵が駆け付けたときには、すでに破壊されていて、エンシェントドラゴンは棲家の龍山へと、飛び去った後なのです。」なるほどな。
「では、冒険者に討伐を依頼してはどうか?」
「とうの昔にやっていますが、手練れの冒険者パーティが何組も返討ちに遭いました。もはや討伐クエストを受けてくれる冒険者パーティはいません。」
「八方塞がりか。」
「被害に遭った建物を撤去して再建している最中に、別の建物がなす術もなくやられ、それが繰り返されれば、再建自体が虚しくなる訳でして、それが民の心を折り、町の活気を奪って行くのです。」
「厄介だな。」
「もうお手上げです。このままではそう遠くない将来、ヴァーの町は廃墟と化してしまうでしょう。」非常に深刻な状況である。
「そもそもなんだが、いつ頃から、なぜ襲撃されるようになったんだ?」
「攻撃されるようになったのはここ1年ですね。1年前に、エンシェントドラゴンが、ヴァーを目の敵にする何かあったと考えるのが妥当でしょうが、何が原因なのか、さっぱり分からないのです。」
「ふうん。なら、東の龍山まで赴いて退治して来るしかないか。」
「なんと、使徒様が退治して来て下さるのですか?」
「ああ。乗り掛かった舟だしな。」
取り敢えずその日は教会でゆっくり休み、教国北部からの旅の疲れを落とした。もちろん宿坊の部屋は、精霊たちやわが妻たちと一緒。夜は生ぱふぱふ5連発だったが、調子に乗ってむしゃぶりついたら脳天チョップをかまされた。地味に痛かったし。泣
しかし教国北部から教国東部までの1週間の行程は、教国のお目付役どもが一緒だから、むふふな展開はなかった。このままではマイドラゴンが暴走してしまうと必死に訴えたら、わが妻たちの瞳が妖艶にきらりと光ったのだ。
その後はご想像の通りである。この夜、わが妻たちの魔力量の上限が100ずつ上がったのだった。
翌朝、心身ともにすっきりして目覚めた俺は、朝餉を摂るとすぐに冒険者ギルドに出向いて、エンシェントドラゴン討伐のクエストを受けた。
その対応にはギルマス自らが出て来たが、ぶっちゃけ、ギルマスのおっさんよりも受付嬢の方が断然いい。
賞金は何と大金貨3枚だそうだ。それだけ、切羽詰まってるんだろうな。もっともこの賞金はヴァーの復興用に寄付することにしている。
と言うのも、今回の教国の巡検では、精霊魔法を派手に使って、教国の民の難儀を救い、大いに名声を高めて来い。と言う、王太子殿下の密命を帯びているからだ。
殿下は、教国での評判を使って、未だに恭順して来ない帝国へ、圧力を掛けるおつもりなのだ。
ヴァーの東の龍山へは、山道なので王国から使って来た馬車ではとうてい無理。その代わり馬車の曳馬4頭を借りた。
スノウはベス、ナイトはビーチェ。借りた曳馬に、俺、リーゼ、ジュヌ、カルメン。精霊たちはふわふわと飛びながらついて来る。
今まで乗馬する機会は、何度かあって、俺はスノウにもナイトにも乗ったことがある。
スノウはベスとの連携に影響が出るから、ベス以外は乗せないが、俺だけはいいらしい。その理由を聞いたとき、スノウは、『ゲオルクは、御主人の番いだからいい。』と答えた。番いって…。
ナイトは基本誰でも乗せる。ただし『できれば女の仔の方がいい。』のだそうだ。種族が違っても異性の方がいいのだろうか?それと、女の仔じゃなくて女の子だろうに。苦笑
その日の午前中は、ベスの指導の下、皆で乗馬の特訓を受けた。まぁ久しぶりだし、おさらいね。
乗馬で大切なのは、馬上での姿勢を維持して重心を安定させることと、適切な体重移動だ。馬が動きやすいか否かは、乗り手の重心の位置の安定と、馬を動きやすくするための重心移動に掛かっていると言っても過言ではない。
半日で勘を取り戻し、その日の午後には、龍山に向けて出発した。
ヴァーを出てさほど経たないうちに、精霊たちが反応した。
『ゲオルク、来る。』
『あっち。』え?どこよ?
『10km先。』精霊たちの索敵能力は実に素晴らしい!
確かに龍山の方角の空に点が見える。どんどん迫って来る。
すると、ヴァーの城壁の見張台から早鐘が聞こえ出した。ヴァーも気付いたようだ。
「迎撃するぞ。ソルとカルメンは皆にバフ、ベスは盾防御を展開して各種防御スキルを発動、ジュヌは魔法障壁展開、リーゼと、クレ、フィア、チル、ワラ、ウィン、クレはギリギリまで引き付けたら一斉にぶっ放せ。ツリとビーチェはエンシェントドラゴンが落ちたときに備えろ。」
「「「「「はい。」」」」」『『『『『『『『はーい。』』』』』』』』
ソルとカルメンによる各種バフの二重掛けの後、ベスが大盾を展開して各種防御スキルを発動し、ジュヌが魔法障壁を張った。
エンシェントドラゴンは、こちらには見向きもせず、一直線にヴァーを目指して飛んで行く。これがエンシェントドラノンの大きな誤算だった。
俺たちの上空を通過する直前、リーゼと精霊たちから、攻撃魔法が飛んだ。こちらを警戒していたら、あるいは躱せたかもしれない。しかしこちらを気にも留めていなかったエンシェントドラゴンにとっては、下方からのまったくの不意討ちとなった。
リーゼのウインドカッターを始め、精霊たちの各種属性弾がことごとく命中し、エンシェントドラゴンは、大ダメージを受けてあっと言う間に墜落。
ツリの蔓性植物による拘束で地面に縛り付けた。ブレスを吐けないように口まで縛り付ける稔の入れようである。流石ツリ。
ビーチェが、トドメとばかりに背中から突きを入れたが、固い装甲のため、貫通とまではいかなかった。しかし十分深手である。
「待って!」ビーチェが続けて二の太刀を入れる前に俺が止めた。
「ん?どうしたの?ダーリン」
「いや、ヴァーを執拗に襲った理由を聞こうと思ってさ。」
『くっ、殺せ。』おいおい、くっころかよ。テンプレ過ぎるぞ。笑
「俺はゲオルクだ。エンシェントドラゴンよ。なぜ執拗にヴァーの町を襲った?」
『…そこに、人がいるからじゃ。』
「なぜ人を目の敵にする?」
『ふん、わが同族を狩るからよ。龍族は随分と減ってしもうた。』
「それはお互い様だ。龍族も人を襲う。お前のようにな。」
『わらわは人など襲わぬ。ごふっ。』エンシェントドラゴンは血を吐いた。
「詭弁だ。町を襲って建物を破壊すれば、その下敷きになった人は死ぬ。ヴァーでもお前の襲撃で多くの人が死んだ。」
『戦じゃ。仕方あるまい。ごほっ。ごほっ。』エンシェントドラゴンは再び血を吐いた。
「ジュヌ、ソル、エンシェントドラゴンにリペアとヒールを。」
「え?」『はーい。』
ジュヌは一瞬ためらったが、ソルが回復魔法を掛けたので、それにつられてジュヌも回復魔法を掛けた。
『そなた、どう言うつもりじゃ?』
「被害はお互い様だ。もうよかろう。ここらで争いを収めよ。」
『わらわが再びヴァーを襲わぬ保障はないぞえ。』
「だから停戦を誓えと言っている。高潔なエンシェントドラゴンは、停戦の誓約を違えまい。」
『…。』
「どうした、それともここで滅ぶか?龍族は減っているのだろう?その首魁たるそなたが滅んでよいのか?」
『…分かったのじゃ。しかし条件があるぞえ。』エンシェントドラゴンは、しばらく考えた後、応諾にあたっての条件を出して来た。
「なんだ?」
『種族を増やすために、そなたの子種を所望する。』
「へ?って言うか、そもそも種族が違うだろ?」ってか、こいつ雌?
『われら龍族の遺伝子は強いゆえ、他種属の子種でも龍族が生まれる。そなたは精霊をも従える強き男ゆえ、その子種を所望する。』
「いやいや、そもそも龍と交われる訳ねぇだろ。」
『これでどうじゃ?』エンシェントドラゴンは眩く輝くと、人型になった。当然一糸まとわぬ姿で。ドラゴンは服を着てないからな。いわゆる龍人である。
全長約10mのエンシェントドラゴンが人型になったのだ。蔓植物の拘束からはあっさり抜け出した。
立ち上がった龍人は、両腕両脚を広げて大の字になった。一糸まとわぬ肢体が眩しい。俺好みの飛び切りの美人で、メロンボールはわが妻たち並の迫力だ。ボンキュッボンだ。合格っ!竜人特有の龍の角は、まぁ仕方あるまい。それと背が高い。俺より少し高いな。
マイサンはマイドラゴンと化した。うーん、実は同種族?苦笑
龍人になって、念話から直接会話に変わった。
「どうじゃ?と聞いておる。」いや、凄いっす。後でぱふぱふお願いします。
…じゃなくて、ここで再びエンシェントドラゴンに変身されたらやばい。停戦した方がいい!
「分かった。受け入れよう。」とっさの判断だ。俺、GJ♪
「「「「「えっ?」」」」」わが妻たちが素っ頓狂な声を上げて、その後、ジト目が飛んで来た。
「わらわは負けた。主様に従おう。その代わり主様の子種を所望じゃ。しかし、身籠ったら早々に龍山に帰る。それでよいな?」
「うむ。承知した。俺はゲオルク・スピリタスだ。そなたは?」
「ドーラ。」ドラゴンのドーラって安易すぎねーか?と思ったが黙っておく。
その場でドーラは俺に跪き、首を垂れた。
「主様、寛大な御心に感謝する。」
「ところでドーラ、何か着ろよ。」
「わらわは服など持たぬ。」
「仕方ねぇなぁ。」
俺は精霊たちの服を作るための、絹の薄織の反物を出した。これを体に巻かしたのだが、薄絹だから透ける。ボンキュッボンのドーラにこりゃアウトだな。
するとわが妻たちが、自分たちの衣類を貸してくれた。一件落着。笑
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設定を更新しました。R4/7/17
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
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