精霊の加護

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精霊の加護084 神聖ニュシト教国へ

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精霊の加護
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№84 神聖ニュシト教国へ

「殿下ー、酷いじゃないですかー!」
 結婚披露宴の翌日、俺は王太子殿下の執務室で、殿下に文句を言っていた。

「何のことだ?昨日の結婚披露宴は大成功だったではないか。」
「いやいや、殿下が三の姫殿下と俺の婚約のことをばらしたせいで、話題はそっちで持ち切りだったじゃないですか!」
「うむ、あれはちと口が滑ったな。許せ。しかし、口止めはしたし、私のまわりではその話題は出ていなかったぞ。」
「そりゃそうですよ。殿下と一緒に主賓テーブルにいらしたのは、4人の公爵様方と宰相様じゃないですか。皆さん既にご存知の方ばかりですからね。」
「では、他のテーブルでは違ったのか?」
 いけしゃあしゃあと、ほざきやがる!

「他のテーブルだけではありませんよ。給仕をしていた侍従たちや、侍女たちもその話題で持ち切りでしたよ。」
「なんだと?その者たちは、余の『忘れろ。』と言った命を無視したのか?」
「いやいや、それって煽り文句にしかなってませんって。」
 そのつもりだったくせに惚けやがって。

「ふむ。まぁよい。そのうちに公になるのだ。隠す程のことでもあるまい。」
「え?流石にそれは。」
「こちらは公にしても差し支えない。
 ゲオルクよ、そなたが隠したいなら、それはそなた都合だ。すべてそなたの身内なのだから、そなたが何とかすればよかろう。余に尻拭いをさせるのは、お門違いと言うものぞ。」
 尻拭いって…何と言う殿下の暴論!頭が痛くなる。

「さて、ゲオルクよ。本題だがな、そなたを正使として、神聖ニュシト教国に同盟締結使節団を遣わす。そなたは、余の名代として、王国と教国との同盟について、正式に調印して参れ。」

 こうして俺は、3日後には、精霊たちとわが妻たちを引き連れて、神聖ニュシト教国に向けて旅立つことになった。
 俺たち以外にも、トレホス王国の高官が10名ほど同行するのだそうだ。なお、4頭立ての豪勢な馬車が2台用意されていたのには驚いた。1台は俺たち用、もう1台は高官用である。国の使節団ともなると待遇が違う。苦笑

 大陸の東側およそ3割を領する神聖ニュシト教国は、神=精霊神を信仰する宗教の国である。万物には、天使=精霊が宿り、その天使が神格化されているので、多神教の一面もあるのだが、すべての天使は、唯一無二なる神=精霊神によって統率されていると言う教えなので、一神教の側面も持つ。

 神と交信できる聖職者が崇められ、聖職者の合議によって国を治めている。
 聖職者の最高峰は教皇であるが、神の意向を伝えるのがその主な役目であり、ゆえに教皇は世襲ではない。常にその時々において、神の声を聞く能力の高い者が教皇となる。
 権勢を誇った教皇であっても、神との交信能力が疑われた瞬間、すべてを失い、あっという間に失脚する。前教皇がまさにそれだ。

 俺のように精霊と契約できる者は、教国では神の使徒と呼ばれ、ともすると教皇より尊敬の念を集める。
 東部国境での、俺と俺の精霊による精霊魔法での示威行動は、神の使徒=精霊使い=精霊魔術師の俺の意向に、前教皇が背いたと教国の民から解釈された。そのせいで前教皇は神の言葉を解さぬ偽教皇と言うレッテルを張られて即失脚し、そして地下牢に幽閉されてしまった。おそらく二度と日の光を浴びることはないだろうし、それどころかいつ処刑されてもおかしくないのだそうだ。

 このような背景があったため、教国からの使節団は俺の要求を呑み、王国への属国化を受け入れたのだ。このせいで使節団は教国に帰ったら袋叩きに会うのではないかと心配したのだが、俺から教国へ行くと言う約束を取り付けたと言うことで、教国ではヒーロー扱いらしい。
 しかも、俺の取り成しで賠償金が半減したと言うことになっていて、使節団は神の使徒=俺の信頼を取り付けて、俺から賠償金半減の慈悲を引き出したと言う、最大級の評価なのだそうだ。
 もうここまで来ると、判断基準がさっぱり分からない!苦笑

 俺たち使節団の教国訪問の行程は、王都から東府へ数日、さらに東府から俺の故郷で領主に任じられたラスプ村へ3日、ラスプ村から国境の町ミュンヒェーへ2日、国境を越えて神聖ニュシト教国へ入ってから1週間で神聖ニュシト教国の首都、教都である。

 トレホス王国では、王都が王国の国土のほぼ中央に位置するのに対し、神聖ニュシト教国の教都は、国土の西、すなわち王都側に寄っている。これは教都が、魔力が集まり易い地形で、その結果、光の特大精霊が出現し易い場所だからである。
 よって、教都は聖人や聖女を輩出して来た。聖人や聖女は光の特大精霊と契約した精霊魔術師である。光の特大精霊は回復と能力上昇を司るから、その精霊魔術師は回復とバフを行うことになって、聖人や聖女と呼ばれたのだ。

 教国への使節団が王都を出立する際、東部公爵様の一行が、見送りを兼ねて同行することになった。
 途中の宿場町には、東部公爵様が移動する際の御本陣として高級宿屋が用意されており、当然のことながら、俺たちは使節団なので東部公爵様とともに御本陣に宿泊した。
 毎晩、御本陣では夕餉の席が宴となるのだが、最初は東部公爵様に恐縮していたわが妻たちも、日を追うごとに慣れて来た。もっとも、北部伯爵家出身のベスは、東部公爵様に恐縮することもなく、堂々と振舞っていた。流石貴族様。
 その一方で、東部出身のリーゼにとっては、東部公爵様はご領主様であるから、リーゼが一番ガチガチに緊張していた。笑

 東府では、東部公爵様のお屋敷に泊まることになったので、流石に恐縮した。東府公爵邸では、当然の如く晩餐会が催された。
「教国への正使、ゲオルク・スピリタス子爵は、この東部出身で、数百年のときを経て出現した精霊魔術師である。しかも前代未聞のマルチの精霊魔術師だ。一時期は、短期間ではあるが、余の側近としても仕えてくれた。此度の正使の役割を存分に果たしてくれることを大いに期待している。
 皆の者、スピリタス卿の前途を祝して、いざ乾杯。」
「乾杯!」×多。やんややんやと歓声が上がり、晩餐会は大いに盛り上がった。

「ゲオルク、わが奥だ。見知りおいてくれ。」おお、美人だ。30半ばと言ったところか。
「お初にお目に掛かります。ゲオルク・スピリタスです。東部公爵様にはいろいろな場面でお引き立て頂きまして、散々お世話になりっ放しです。」
「御屋形様のお気に入りと聞いていますよ。今後とも、御屋形様を支えて下さいね。」
「ありがたいお言葉です。きっと御意に沿いますよう精進致します。」

 晩餐会では、東部教会の大司教様と、東府魔法学院のルードビッヒ主任教授とも、久しぶりに再会した。
「ゲオルク、光の特大精霊と必ず契約して参るのだぞ。」のっけからその話題かい!いつも通りブレない教授であった。笑
「ゲオルクや、領主の就任式を行うのにラスプ村に寄るのであろう?御師様にくれぐれもよろしくな。」
 東府教会の大司教様は、ラスプ村の神父さんの御弟子さんなのだ。てか、王都、西府、南府、北府のすべての大司教様も、神父さんの御弟子さんなのだ。
 よくよく考えるとラスプ村の神父さんって、どんだけ大物なの?って話だよな。

 東部公爵邸での晩餐会は賑やかに続いたのだった。

 翌日、東府を発ってからラスプ村までの村々では、それぞれの村の村長宅に泊まることになった。
 王国から教国への外交使節団である俺たちに東部公爵様も同行したものだから、村々では大騒動になっていた。村を上げての大々的なもてなしとなってしまったのだが…、迷惑掛けて申し訳ない。

 ラスプ村では、東部公爵様や外交使節団は、俺が領主に就任したことによって代官となった元村長宅に泊まった。もちろん俺とわが妻たちと精霊たちは、俺の実家に泊まったけれどもな。
 弟のアル~アルベルト~が大喜びしたのは言うまでもない。

 ラスプ村には数日滞在し、俺の領主就任式も行われた。
「ゲオルク・スピリタス子爵を、東部ラスプ村の領主に任ず。」東部公爵様が国王様の勅許を代読し、俺は晴れてラスプ村の領主となった。

「領主となったゲオルクだ。ぶっちゃけ、この村にはろくな思い出がない。10才で膨大な魔力があると分かって東府に行った後、魔力が放出できないと分かって失意のまま帰った俺を、お前らは詐欺師扱いしたからな。」
 シーンとなる村民一同。まさか就任の挨拶で俺がこんなことを言い出すとは思っても見なかったのだろう。

「唯一、神父さんと家族だけが俺の味方だった。神父さんと家族には返しきれない恩があると思っている。この度、俺の領主就任にあたり、神父さんには相談役をお願いすることにした。」
 村人の注目が神父さんに集まる。神父さんは軽く手を上げて村人たちの視線に応えていた。

「また、元村長は俺の代官に任命し、これまで通り村のために働いてもらう。以後、村長ではなく代官と呼ぶように。
 なお、代官に不審な行いがあった場合は、いつでも更迭し、別の者と挿げ替えるゆえ、代官の不審な行いについてはいつでも申し出よ。」
 これには元村長=代官が引きつっていた。そりゃそうだ。いまここで初めて言ったことだからな。代官にしてみれば寝耳に水だ。これで代官も、多少はピリッとして仕事をするだろう。

「そんなラスプ村の領主となった訳だが、私的な思いと領主としての責任は別だ。俺はラスプ村を大いに富ますことを約束しよう。村民の所得を倍増し、その分税収を増やして、東部公爵様への上納をしっかり行うつもりだ。
 その手始めとして、村営のキノコ栽培会社を設立することにした。」

 厄介者扱いで村人たちから相手にされていなかった俺の領主就任について、正直、村人たちの中には微妙な空気が流れていたし、歯に衣を着せぬ就任挨拶のせいで、ぶっちゃけほとんどの村民たちはドン引きしていたが、精霊魔法の披露と称して、村の畑で作物を育てて収穫すること3回、予定していたキノコ栽培用の樹木畑~キノコ畑~を完成させ、高級キノコを収穫すること3回をやって見せると、村人たちの眼の色は大きく変わった。

 俺の肝入りで設立したラスプ村村営キノコ栽培会社で、手始めに何人かの村人を雇用し、キノコ畑を管理させ、パインダケやトリュフダケなどの高級キノコや、シイキノコやマシュルムコなどの身近な食材キノコの生産体制を整えた。
 この村営キノコ栽培会社はじきに軌道に乗って急成長を始め、数年後にはラスプ村の主要産業へと成長して行くのだ。もともと狩猟一辺倒だったラスプ村は、狩猟とキノコ栽培の両輪で栄えて行くことになる。それは後日譚。

 俺の就任挨拶での宣言通り、翌年から、村人たちの収入は飛躍的にアップし続け、村人たちからは大いに感謝されることになる。
 余談だが、幼馴染の女子の中には、俺に色目を使い出す者が何人か出て来ることになるのだが…。苦笑
 まあ、敢えて言う必要はないかもしれないが、その糞ビッチどもは、超美人揃いのわが妻たちを前にして、尻尾を巻いて逃げ帰って行くことになる。笑

 話は逸れたが、村人たちの収入増に伴い、ラスプ村の税収は、数年後には2倍どころか5倍にまで跳ね上がって行く。そのお陰で、俺と税収を折半する東部公爵様からお褒めのお言葉を頂くことになるのだが、まあそれも後日譚。

 ラスプ村を出て2日で国境の町ミュンヒェーに到着。ここではミュンヒェー辺境伯のハイジ、ハイジの末娘で世継のクララ、クララの長兄のジークが出迎えてくれた。
 なお、クララの次兄のヴォルは、一兵卒から叩き直されているため、今は領主一族として扱われていないそうだ。当然ここにはいない。

「おお、これは東部公爵様。かような僻地によくお出で下さいました。」
「うむ。大儀。」東部公爵様が応じた。
「ゲオルク様、お久しゅうございまする。」
「ああ、ハイジ。ひと晩世話になる。」
 このやり取りを聞いていた、高官たちがギョッとしている。いったいどうしたんだ?

「先だってはおもてなしをできませんでしたゆえ、今宵はたんとおもてなしをさせて頂きまする。」
「夜のもてなしは遠慮しておくぞ。」俺のハイジに対する軽口に、東部公爵様が横でぷっと吹き出した。
「お戯れを。」
 ハイジはさらりと躱した。もちろんこの程度ではハイジは動じない。それどころか、表情を見る限り、むしろ楽しんでいるようだ。
 しかしなぜか、横で高官たちがおろおろし出した。

「クララの夜伽もなしだからな。」
 ハイジの横にいたクララが真っ赤になって俯いた。クララはこういう戯言の応酬については、まだまだ覚束ない。一方、百戦錬磨のハイジは、おーっほほほ。と豪快に笑い飛ばした。
「妾も屋敷を潰されては敵いませぬ。もう懲り懲りです。」
 前回ミュンヒェーを訪れたとき、俺との関係を築きたがったハイジが、年端も行かぬクララを夜伽に寄越したので、少々懲らしめてやったのだ。ま、領主館を半壊させた程度だがな。

「ゲオルクどの、相手は辺境伯様ですぞ。」見かねた高官がこそっと囁いて来た。そう言うことか。辺境伯は子爵の上だからな。
「そうそう、ゲオルク様は男爵を飛ばして子爵へご昇進とか。おめでとうござりまする。」ハイジが俺に対して丁寧にお辞儀をして、
「「おめでとうございます。」」クララとジークが続いた。
「ご丁寧に痛み入る。」

 東部公爵様と俺たち使節団一行は、ミュンヒェー辺境伯の屋敷でもてなしを受け、その晩は辺境伯邸に泊まった。

 翌日、俺たちは東部公爵様御一行とミュンヒェー辺境伯のハイジ以下その手勢に見送られて、ミュンヒェーを出発し、国境を越えて神聖ニュシト教国領に入った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/7/3

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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