精霊の加護

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精霊の加護078 東府で足止め

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精霊の加護
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№78 東府で足止め

 国境の町ミュンヒェーから2日掛けてラスプ村に着いた。キタ――(゚∀゚)――!!今宵は実家だ。お姉様方と約束しているむふふな夜なのだ。

「なんかゲオっち、妙に嬉しそうじゃん。やっぱ実家っていいよね。落ち着くし。」
「違ーうっ!今宵に思いを馳せているのさ。ビーチェさん、例の約束、忘れたとは言わさないからね。」
「まぁ覚えてるけどさっ。」
「ゲオルク、そんなにがっつくんじゃないよ。」
「そんなの、無ぅー理ぃーっ!今宵は俺が攻めまくるっ。ふんっ、ふんっ。」
「むぅ、今日はまた、随分と鼻息が荒いのだな。」
「一応、念のために行っておくけど、ゲオルク君、妊娠するようなことはなしですからね。」
「ああ、それは分かってるよ。」
「まぁ、そこはあっさり納得するんですのね?」
「もちろんだよ。誰ひとりとして、スピリタスから離脱されたら困るからね。その代わりと言っちゃぁ何だけど、お口でお願い。」
 お姉様方はやれやれと言った感じで苦笑いしている。

 実家では、夕餉を済ませて軽く呑むと、姉様方と一緒に、早々に俺の部屋に引き籠って、お姉様方のメロンボールやら蜜壺やらを、指と舌で心行くまで堪能したのだった。
 で、この晩も、お姉様方の魔力の上限を100ずつ上げることになった。笑

 ラスプ村で1泊して東府へは3日。東府に着いてレンタル馬車を返却した。

 東府では、東府教会へ大司教様、東府魔法学院へルードビッヒ教授を訪問した。
 ルードビッヒ教授へ第三形態の全力放出の威力を語ると、すぐさま見せてくれとなったが、披露する場所がない。東府魔法学院の敷地内で、第三形態の精霊魔法を全力で放ったら、それこそ魔法学院が吹っ飛んでしまう。
 東府近郊でも、豊かな森を破壊することになる。もちろんツリの魔法で樹々を生やして森を再生することは可能だが、森に棲んでいた動物までは再生できない。遠慮なくぶっ放せるとしたら、南部湾内の海上か、北部の雪山地帯の奥地か、西部の荒野か。
 これは新たな懸案事項となってしまった。ルードビッヒ教授が歯噛みをして悔しがったのは言うまでもないか。笑

 それと俺は実家で思い付いたスピリタスの仮説も、教授に話してみた。
 古代語のスピリタスは、精霊と言う意味と酒と言う意味を持つ。第三形態の精霊たちは、酒を呑むようになったし、酒には明らかに供給する魔力を増幅する効果がある。
 つまり、スピリタス=酒は、スピリタス=精霊への魔力供給を増幅することに由来しているのかもしれない。この仮説にはルードビッヒ教授も、新たな視点だと言って、大いに興味を示し、喜んでくれた。

 それからしばらくの間、東府魔法学院での研究対象の日々となった。俺が気付いた精霊と酒の関係を解明する研究だ。

 その間、お姉様方は、俺抜きで冒険者としての活動に明け暮れた。俺がパーティにいなくても、アタッカーとしてSレンジのビーチェさんにLレンジのリーゼさん、タンクにベスさん、ヒーラーにジュヌさん、バッファーにカルメンさんと、お姉様方のジョブバランスは、理想的な構成なのだ。

 精霊たちは、東府魔法学院の魔法訓練場で抑えた魔法を何発も放たせられ、キスだけによる魔力供給と、酒とキスを併用した魔力供給についての検証がなされ、酒による魔力増幅効果が立証された。
 このひたすら魔法を放つだけの研究協力なのだが、なぜか精霊たちはとても喜んでいる。単調過ぎてつまらないと思うのは俺だけなのだろうか?

 精霊たちは、精霊を見る力がない教授と直接話すことはめったにないから、教授と精霊たちの会話は、必ず俺を介することになる。同じ言葉を通訳するって、何なの?違和感ありまくり。苦笑

 東府魔法学院での研究協力は1ヶ月に及んだが、この1ヶ月で、論文を仕上げるのに十分な研究成果を得られたと、教授は大喜びだ。
「ゲオルク、今、執筆している精霊と酒に関する論文は、私と君の共同研究と言うことで、君の名前を出させてもらうからそのつもりでな。」
「いや、教授。執筆のお手伝いは勘弁して下さい。」
「論文は私が書くから心配しなくていい。君はこの論文の根幹となる素晴らしいアイディアを出してくれた。それに研究対象としての実験と検証へ協力してくれた功もある。この研究成果については、君の方の貢献度が高いと言っても過言ではない。」
「はぁ。」

「それとな、この研究の発表で君を、精霊および精霊魔法分野の専門家として、博士に推したい。」
「えぇ?」
「いわゆる論文博士と言う奴だ。まぁ魔法学会での研究発表の際には、他の研究者からの質問に答えて、状況によっては精霊魔法を実演してもらうことになるがな。」
「俺が学界に出るんですか?」
「いかにも。次の学会は王都開催だから、これから王都に行く君にとっても都合がいいだろう?」
「俺が王都に行くことをよくご存知ですね。実は、王太子殿下から、いい加減、王宮に出仕せよとの命令が届きまして。ちょうど教授にもお話しようと思っていたのです。」
「うむ。私の所にも公爵様から、ゲオルクを独り占めするな、足止めせずに王都に寄越せ、と言う催促の手紙が来たのだ。だから学会への参加を兼ねて一緒に王都へ参ろう。」教授の言う公爵様とは、当然、東部公爵様のことだ。
「そうだったんですか。」

「それと先程、教会から大司教様からの使いの者が来たのだがな、公爵様は、私にだけではなく、大司教様にも同じ手紙を寄越しておられる。私が公爵様の命を無視するとでも思ったんだろうか。だとすれば心外だな。
 それにしても大司教様をお目付役に使うとは、公爵様も随分強引なことをなさるものよ。」
 なんか公爵様の心配は、とても分かる気がするのだが、それは教授には言わないでおく。苦笑
「では大司教様も王都に一緒に行かれるので?」
「そうなのだ。教会の方も、ちょうどお偉いさんの集まりが王都であるらしい。」
「教授と大司教様と一緒ですか。楽しい旅になりそうです。」

 宿屋に戻ると、お姉様方から嬉しい報告を聞いた。この1ヶ月間、俺は東府魔法学院に通ってルードビッヒ教授の研究に付き合っている間、お姉様方はずっと、冒険者としての活動をしていた。
 この期間の冒険者としての活動で、リーゼさん、ジュヌさん、カルメンさんはCランクに昇格しており、ベスさんとビーチェさんはBランクに昇格していた。

 さらに、東府ギルドでは、超美人で抜群のスタイルの女性5人パーティと言うことで、スピリタスは物凄く有名になっていたのだ。
 俺は?俺はどうなるの?スピリタスのリーダーは、俺なんだけどぉぉぉ!泣

 しかも、スピリタスには、東府ギルドの首席受付だったリーゼさんがいる。東府ギルドのほとんどの冒険者は、少なからずリーゼさんを、あわよくば狙っていた~俺もそのひとりだった~ので、その点でもスピリタスは大いに目立つことになっていた。
 この1ヶ月で、スピリタスの中での俺の存在感は、急速にしぼんでしまっていた。ってか、すでになきに等しくなってるじゃんよ。泣

 さらに、この間、スノウはベスさんだけだが、ナイトはビーチェさんだけでなく、リーゼさん、ジュヌさん、カルメンさんも、乗せるようになっていた。
 5人の超美女のうちふたりが馬上の人となって、そこそこ難易度の高いクエストをガンガンこなして行くのだから、東府ギルドで噂にならない訳がない。

 当然、身の程知らずの馬鹿な男どもが、玉砕覚悟でお姉様方にコクる訳だ。
 しかしお姉様方からは、婚約者がいる。とばっさり切り捨てられる。ばっさり切り捨てられた男どもの恨みは当然の如く、5人の婚約者の俺に集まることになる。理不尽だ!

 俺が東府ギルドで活動してたのは、もう4~5年前の話だし、ゲオルクなんて名前はポピュラーだから、東府の冒険者連中にとって俺は、正体不明の新参者扱いである。多少は顔見知だった奴もいるのに、向こうは俺のことをはっきりと覚えてくれていないのが、何ともやり切れない。
 とは言っても、当時の俺は、ゲオルギウスの新米の射手、くらいにしか、他の冒険者たちからは、認識されてなかった訳だしな。泣

 まあ、今となっては、超美人でボンキュッボンなお姉様を5人も侍らせているのだから、以前の新米の射手よりは、インパクトが強いに違いない。
 ならば、この程度の嫉妬は、優越感に浸りつつ、男として潔く受け止めようではないか!

 しかしだ、お姉様方に色目を使って来る奴は、まだ健全でいいと思うのだが、お姉様方には一切興味を示さず、俺の精霊たちにぞっこんな奴らが、ごく一部にいる。
「ツリたん、萌えええー。」とか言いながら、いきなり寄って来る奴を許せると思うか?敬称が「たん」とか、鳥肌立つし!さらに、
「ゲオ氏、クレたんが着た衣を、わが輩の全財産と交換して欲しいのであります。断ったら、五寸釘で呪うしかないのであります。」
とか、言って来る奴、グーパンで撃退したけど、俺、間違ってないよな!そもそも、ゲオ「うじ」とか、「わが輩」とか、そう言う独特の言い回しも、イラっと来るし。

 実は、俺もうすうすは感じていたのだが、俺の精霊たちは、目鼻立ちがはっきりしていて、いわゆる美少女なのである。しかも飛び切りの。さらに、薄絹の衣を纏っているのが、神秘的な雰囲気を醸し出しているのだとか。それと、精霊たちは、精霊を見る能力がある者以外とは関わろうとしないから、それがツンツン塩対応で、なんともたまらないのだそうだ。
 つまり精霊たちは、ロリ系な奴らから見ると、非の打ち所のない、どストライクヒロインだったのだ。

 しかし俺の精霊たちがそう言う眼で見られていると思うと、なんか凄ぇムカつく。年頃になりつつある娘に近付いて来る、どこの馬の骨とも分からない男どもを、片っ端から排除したがっている、世の父親たちの気持ちが痛い程、よく分かるのだ!

 奴らを俺の精霊たちに近付かせないためには、心を折るのが一番の近道と考えた俺は、奴らが来るたびに、わざと魔力補給を繰り返し行ったのだ。いわゆるべろちゅーね。ついでにちょっとだけ過激なスキンシップも。
「そ、そんな!フィアたん、嘘だと言ってくれぇーーー!」
「おのれ、チルたんの穢れを知らぬ唇を汚しおってっ!」
「あああ、ワラたんに触るなぁぁぁ!」
 勝手に落ち込んでろよ、バァーカ!

 魔力補給をすると、奴らが大袈裟に嘆くことを覚えた精霊たちは、奴らに呼び掛けられると、自ら魔力補給にやって来るようになった。さらにはお触りまでも要求して来るのだ。
 奴らを嘆かせて、その大袈裟な打ちひしがれた仕草を見て、コケティッシュな笑みを浮かべつつ、大いに楽しんでいる。小悪魔どもめ。
 俺は、特殊な奴らから精霊たちを守りたい一心で、べろちゅーもお触りもやりたい放題にやっていたのだが、そのせいで、いつの間にか東府ギルド内で、ロリコンのレッテルを貼られていたのは、俺の方だった。泣

 そんな感じのちょっと特殊な奴らも含んだ、東府ギルドの冒険者たちとも、おさらばする日が来た。教授や大司教様と一緒に、王都へ出発する日になったのだ。

 教授も大司教様も取り巻きが5名程いるので12名、スピリタスが俺とお姉様方5名と精霊たち7名で13名に馬2頭。結構な大所帯になった。
 大司教様と教授はいわゆるVIPなので、スピリタスは護衛としてのクエストを受けた。定期馬車隊を警護しながら王都まで数日の旅だ。

 東府を出るときに、
「ウィンたーん、行くなぁぁぁ!」とか、
「メタたーん、俺はずっと待ってるぞぉぉぉ!」とか…。もうマジで放っとくに限る。笑

 数日掛けて無事王都に着いて、大司教様たちは王都教会へ、ルードビッヒ教授たちは王都魔法学院近くの御用宿へと、それぞれの宿舎へ行った。
 俺たちは王都での定宿を取ると、その後は、お姉様方に促されて、王宮御用達の仕立屋へと向かった。

 前回、最終段階で合わせた宝石の装飾が仕上がっており、これで完成だ。
 俺のたっての願いである、胸元のV字の切れ込みを強調するために、襟元から肩口に掛けてのシンプルな装飾のみである。俺が顔を埋める予定のふたつのメロンボールの間には、ごたごたした宝石が一切ない。しかしこれが、本来の生地の鮮明な色を強調しており、何ともシックでエレガントなのだ。うーん、これはセンスがいい。
 リーゼさんの紺碧、ジュヌさんの山吹、カルメンさんの純白、ベスさんの漆黒、ビーチェさんの深紅。5色のドレスの共演は間違いなく、結婚披露宴へ招いた客たちの眼を奪うことだろう。

 なお、この装飾を抑えて、ドレスの生地のよさを引き立てた仕上げは、一流の仕立屋からは非常に好評であった。
 曰く、装飾で誤魔化さず、生地と縫製技術の差がはっきり出るのだとか。
 この様式はスピリタス調として王都で定着し、その後、王都のドレスファッションに革新をもたらすのだが、それは後日譚。

 さて、じゃぁ、結婚披露宴を行う場所を探すかね。そのためには、後は呼ぶ人のリストを作成して、どのくらいの規模になるかも試算しないとな。

 夕餉を摂りながら、その辺の話をお姉様方と詰めた。
 精霊たちは相変わらず、俺のまわりでふわふわしている。第三形態になった精霊たちは、口移しで酒を呑むようになったので、今宵は、ジュヌさんの実家のシャンパンを与えていた。ほろ酔いになった精霊たちは、頗る機嫌がいい。

「俺の関係者としては、取り敢えず、両親と弟のアルベルト、それとラスプ村の神父さんに、東府の大司教様とルードビッヒ教授かな。」
「私は両親と妹とのクラウディアね。」
「わたくしは両親と姉のシュザンヌですわね。あと、レノーが姉と婚約しているならレノーもですわ。」
「あたしゃ、ひとりっ子だから両親だね。あとはメイドのアリシアもいいかい?」
「もちろんだよ。」
「私は多くて済まぬが、父上様と御正室様と母上様、そして兄上様とその妻のジェニファー義姉様、それに嫁いでいる姉上様とその夫君の義兄様、そして家令のセバスとその妻で長年メイド長を務めてくれたアンナの9名だ。」
「ベスさんの所はそうなるよね。気にしないで。」
「僕は、両親と弟のロレンツォ、あとはリシッチャ亭の叔父夫婦で5名だね。」
「マルコさんとジューリアさんにはみんなお世話になったからね。」リシッチャ亭は、俺たちの南府での定宿である。

「総勢31~32名ですわね。レノーのことは早急に確認しますわ。」
「それとさ、現上司の王太子殿下と前上司の東部公爵様なんだけど、どうしたらいいかな?お呼びしたいのは山々だけど、お付きの護衛も来るだろうし、警備とか一気にややこしくなりそうだよね。」
「それなら王太子殿下に相談してみればいいのではないか?もしかすると王宮の一室を借りられるかもしれないぞ。」
「はい?」「「「「えー?」」」」

「皆、何を驚いておる?わが家からも、姉上様たちの嫁ぎ先からも、警備の者は来ようし、王宮の一室を借りられれば一石二鳥ではないか。まぁ多少は、費用が余分に掛かるとは思うが、警備の手配などが要らなくなるのだから、トータル的には却ってて安上がりとなろうぞ。」
「いやいやいやいや、うちの両親なんか、王宮っていったら言ったらぶっ魂消て卒倒しかねないよ。母さんなんか中部にすら来たことがないんだ。」

「そうは言ってもゲオルクどのも騎士爵で貴族なのだぞ。ひょっとすると西部国境と東部国境での手柄により爵位が上がる可能性もあるだろうしな。」
「へ?なんで?」
「国境で帝国と教国に痛打を見舞ったではないか。」
「あれは威嚇しただけだよ。」
「その威嚇で帝国と教国が怯んでおれば、無駄な戦を回避できたことになるのだぞ。」
「そうなの?」
「なんだ、自覚せずにやっていたのか?まったく、ゲオルクどのは、恐ろしい程の切れ味を見せるかと思えば、このようにのほほんとした一面もある。正しくギャップ萌えと言う奴だな。」

「だねー、ゲオっちはそう言うとこあるよ。夜だってさ、僕たちにされるがままのときもあれば、僕たちをいいように蹂躙して散々嬲ることもあるしさ。」
「ちょちょちょ、ちょっと!」
「ほら、すぐそうやってテンパる。そのくせ、ミュンヒェー辺境伯様相手には一歩も引かずにとことん追い込みを掛けたわよね。」
「…。」もう、何も言えねぇ。返す言葉が見当たらない。

 取り敢えず明日出仕したら、殿下に聞いてみよう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/6/19

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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