精霊の加護

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精霊の加護077 夜伽

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精霊の加護
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№77 夜伽

 教国の国境砦をふたつとも、跡形もなく壊滅させて来たその夜、俺たちの宿屋に来客があった。ミュンヒェー辺境伯の長女で末娘のクラーラ・ミュンヒェーである。
 もちろん夜なので、護衛の国境警備兵数名を連れて来ていた。

 ロビーに面会に出ると、クララがさっと立って深々とお辞儀した。
「先程は母が調子に乗り、ゲオルク様を御不快にさせてしまいまして、誠に申し訳ございませんでした。」
「ああ、そのことならもういいよ。」
「精霊様やお仲間の皆様は?」
「ん?部屋にいるけど…。」

「ゲオルク様に折り入ってご相談したいことがございます。ここでは護衛の者たちの目もありますので、お部屋にお邪魔してよろしいでしょうか?」
「部屋はちょっとなぁ。」精霊たちが素っ裸でふわふわしてるからあらぬ誤解を受けるに決まっている。精霊たちは衣類を嫌うから、部屋では素っ裸を容認しているのだ。
「どうかお願いします。」必死の懇願に俺は折れた。
「精霊たちが、自由にしてるんだ。驚かないでくれよ。」
「もちろんです。」

 護衛をロビーに残したまま、クララを俺と精霊たちの部屋に案内すると、部屋に入るなり、
「ええ~?」と言って真っ赤になって俯くクララ。まぁ仕方ないよな。
「精霊たちは衣類が嫌いでね、いつも部屋ではこうなんだ。驚かせて悪かったな。」
「いえ。こちらこそ驚かないと申し上げましたのに、驚いてしまいまして申し訳ありませんでした。」
「まぁ、適当に座って。で、相談って何?」
「はい。母上の御申し付けで、ゲオルク様の夜伽に参りました。」

「は?クララ、自分が何を言ってるのか、分かってる?」
「詳しくは存知ませんが、ゲオルク様にそうお伝えしてすべてをお任せすればよいと、母上から申し付かっております。」
「いや、それは無理でしょ。そもそもクララって未成年だよね?」クララの見てくれは第三形態の精霊たちと大差ない少女+αだ。
「はい。14歳です。母上からは、夜伽が叶わなければ、跡目は継がせぬと言われましたので、夜伽をさせて頂かないと困るのです。」
「はぁ?なんだそれ。」

「私は、これでもミュンヒェー辺境伯家の一員です。兄ふたりは残念ながら魔法の才に乏しいので、私が辺境伯家を継いで、教国の脅威から領民たちを守らなくてはなりません。ですから跡目を継げないと困るのです。」
「なるほどねぇ。で、その様子だと夜伽の意味をよく知らないまま、ここへ来たって訳か?」
「はい。でもゲオルク様がご存知ゆえ、問題ないと母上が仰いました。」
 なるほどね。さて、どうしたもんか?

 俺はツリに向けて舌を出し、レロレロと上下に動かした、魔力補給に来ないかと言う合図だ。
 ツリがふわふわとやって来て、ぶっちゅーっ、ちゅーちゅーと、濃厚なキスを始めた。そして緑色に輝く。魔力が満タンになった。
 クララに見せ付けるようにツリを抱えつつ、あちこちを撫でてやる。ツリはキャハハと嬌声を上げた。流石ツリ、俺の裏の意図までしっかり理解している。
「ゲオルク様、その、そういうことは…。」真っ赤になって俯き、声が消え入りそうだ。
「クララ、お前は俺にこう言うことをされに来たのだぞ。」それはそう言いつつ、ツリを解放した。
「え?」

「クララ、ハイジが情夫たちと、夜な夜な大人の秘めごとをしているのは知っているな?夜伽と言うのはあれだ。」
「え?ええー!」驚くクララ。
「ハイジは、クララに大人の秘めごとを、俺と行えと申し付けたのだ。そこんとこ、クララはきちんと理解しているか?」
「そんな…、嘘です。」
「嘘なものか。俺にすべてを任せろ言われて来たのだろう?」
「それは、そうですが…。」
「つまり身を任せろと言う意味だぞ。
 でもな、安心しろ。それに対する俺の答えはノーだ。その理由は、クララが未成年であること、そして俺には婚約者がいることだ。
 ハイジはその点については実に奔放なようだが、普通、夜伽と言うものは夫婦間や恋人同士で行うもので、クララと俺のような、単なる知り合い程度では行わない。」

「でも…それでは、私は辺境伯家を継げなくなってしまいます。」
「では、このまま俺に、クララの初めてを摘み取らせるつもりか?」
「それは…。」俯くクララ。必死に考えを巡らせているのだろう。可哀想に。では助け舟を出してやるか。
「要はクララが、俺と夜伽をせずとも辺境伯家を継げればいいのだろう?」
「え?…あ、はい。」
「今宵ハイジはどこにいる?」
「館におります。」
「館はどこにある?」
「詰所に隣接しています。」

 俺は、2階にある部屋の窓を開けて、クララに確認した。
「クララ、館はあれだな?」
「はい。」
「フィア、あの館の真上にでかい花火をな。クレ、同時に地震で館を半壊させろ。標的は館だけだ。詰所には被害を出すなよ。」
『『はーい。』』
 ヒュールルルルル、ドッガーン。と、同時に遠目からでも分かる程、館が揺れて館は半壊した。
「ゲオルク様、何と言うことをなさるのですか!」
「うん、それでいい。クララ、そなたが今、俺の怒りを鎮めた。」
「え?」

『ゲオルクー、お腹すいたー。』『フィアも、ご飯ー。』
 クレとフィアに濃厚なキスで魔力を補給し、ふたりがそれぞれ輝いた。
 俺は両腕でふたりを抱えたまま、あちらやこちらへのスキンシップを繰り返す。やはり俺の裏の意図を理解しているふたりも、キャッキャと嬌声を上げた。クララがまた真っ赤になって俯く。

「しつこいハイジに怒った俺が、領主館に攻撃を仕掛けたので、クララが必死になって俺を止めたんだ。いいな。」
「でも。」
「これ以上俺にちょっかいを出すと、領主館を教国の国境砦のようにしてやると、ハイジに伝えてくれ。」
「承知しました。」
「では、護衛とともに館に戻るがいい。クララが俺に追い返されたのは、ハイジのせいだからな。」クレとフィアがふわふわと離れて行った。

 翌朝、朝餉の席でお姉様方に昨夜の出来事を話すと、
「それで外が騒がしかったんですのね。」
「しかしゲオルクどのも容赦ないな。少々やり過ぎたのではないか?」
「追手が来なきゃいいけどなー。ゲオっち、大丈夫?」
「奴らも馬鹿じゃない。わざわざ全滅しに来るもんか。」
「それもそうね。」

 宿屋を発つとき、宿屋の主人から、昨日の騒ぎでハイジがケガをしたらしいと言うことを聞いた。流石にちょっとやり過ぎたか。
 俺たちは出発の挨拶がてら、ハイジを見舞うことにした。ジュヌさんに回復魔法を掛けてもらうためだ。

 レンタル馬車に乗って領主館に行くと、半壊した館で国境警備兵たちが忙しく後片付けをしていた。
 片付けの指揮を執っていたジークに状況を聞くと、昨日の一件でハイジは軽傷を負ったらしい。ハイジのケガはひどいものではないが、倒れて来る家具からハイジを庇った3人の情夫が皆骨折したそうだ。
「情夫3人から庇われたってことは、4Pでもしてたのか?」と聞くと、ジークが黙って眼を逸らした。あらら、図星のようだ。苦笑
 まったくあの女領主ときたら…。娘を夜伽に出しておきながら、自分は何をやってるんだか。本当に自由奔放だな。苦笑

 ジークから、ハイジは医務室にいると聞き、ヴォルが医務室まで案内してくれた。
 ヴォルは、ビーチェさんと眼を合わそうともしない。昨日コテンパンにやられたのが相当堪えてるようだ。笑

 医務室に着くと、案内してくれたヴォルは逃げるように去って行き、ハイジはベッドで上半身を起こしつつも、ベッドにもたれ掛かっていた。
 横にクララが付いている。ハイジの世話をしているようだ。
「帰るので挨拶に来た。ハイジ、ケガの具合はどうだ?」
「これはゲオルク様。わざわざのお運び、痛み入りまする。わらわは大したケガではござりませぬ。」
「ジュヌさん、頼む。」ジュヌさんが回復魔法のリペアを掛けて、ハイジの軽傷は完全に癒えた。
「おお、これは相すまぬ。礼を申すぞ。」ハイジがジュヌさんに頭を下げた。

「情夫3人は骨折したと聞いたが?」
「わらわを庇ってくれましての。
 そなた、済まぬがその者たちの治療も頼めぬだろうか?」
「よろしいですわ。」
「それとゲオルク様、申し訳ありませんでした。わらわが浅はかでした。」
「そうだな、未成年の娘を夜伽に出すなどもっての外だ。その娘に、領主館が助けられたこと、ゆめゆめ忘れるでないぞ。」
「はい。ゲオルクどのの御配慮、身に沁みましてござります。」あれ、ひと芝居打ったの、分かっているのかな?

「まぁ、いずれにせよクララはよくやったよ。領主館があの程度の被害で済んだのはクララが必死に俺を止めたからだ。」
「はい。末娘ゆえ、ヴォルはまだしもジークを差し置いて跡目を継がすには、余程の手柄が必要と考えておりました。身を犠牲にさせれば、十分な理由になろうかと思うて夜伽に出しましたが、そのせいでわらわはゲオルク様のご不興を買ってしまいました。クララはそのわらわの尻拭いをしてくれた訳です。本当によくやってくれました。申し分ない大手柄です。わらわの自慢の娘です。」
「母上、勿体ないお言葉です。」クララが涙ぐんだ。

「それに万が一、俺の子を宿せば切り札になるとでも思ったか。」
「はい。ゲオルク様は何もかもお見通しで。」
「まぁ、そんなことせずとも、俺の助けが必要になったらいつでも言って来い。」
「え?それは真でしょうや?」
「ああ。お前のことは結構気に入っている。それにクララのこともな。ふたりとも一途にミュンヒェーとその領民のことを考えている。いい領主と跡継ぎだ。ミュンヒェーは安泰だな。」
「嬉しいことを。」ハイジとクララの眼に涙が光った。
「ではハイジ、これにてな。傷は治ったが、今日はしっかり休めよ。
 クララ、情夫どもの所に案内せよ。」

 それからジュヌさんが骨折している情夫3人にリペアを掛けて骨折を治し、俺たちは帰路に就いたのだった。

 目指すはラスプ村経由で東府、そして王都だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/6/19

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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