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精霊の加護066 ゲオルク学校との連携
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精霊の加護
Zu-Y
№66 ゲオルク学校との連携
西部の大平原を馬車2台が行く。
1台は俺たちスピリタス。もう1台はゲオルク学校。そして俺たちの馬車に付いて来る2頭の仔馬。
西府で受けたクエストのうち、大平原でのビッグボア3頭の討伐があったのだが、早々に精霊たちがビッグボア1頭を感知して、居場所を教えてくれた。取り敢えず、ゲオルク学校の連中の手際を見ようと、俺は手を出さないことにしたのだが、横で精霊たちがうずうずしてやがる。笑
まず支援術士のカルメンさんが、皆にバフを掛けた。そして、遠目から、魔術師のリーゼさんとレベッカが、隠れているビッグボアを燻り出すように、ビッグボアのまわりにファイアボールを雨あられと降らせた。慌てて茂みから飛び出したビッグボアが、こちらを認識するとそのまま一直線に突進して来る。猪突猛進とはよく言ったものだ。笑
神官のジュヌさんとルイーザが魔法障壁を張り、巨体の突進を重騎士のベスさんと軽歩兵のホルヘが受け止めた。すかさず刀剣士のビーチェさん、狂戦士のアルフォンソ、剣士のマチルダの3人がビッグボアを切り刻む。そこへベスさんの突きとホルヘの切込みも加わり、巨大なビッグボアは断末魔の声を上げてドウと倒れた。
なんか、すっげぇぞっと。超いい連携じゃん。
最後にジュヌさんとルイーザで皆にヒールを掛けている。
「なんかさー、初めて組んだにしては、連携、凄ぇよかったじゃん。」
「やっぱ俺たちも、カルメンさんたちも、師匠と連携して来たからじゃないっすかね?」え?
「確かにそうかもしれませんわね。」
「なるほどねぇ。さしずめあたしたちゃ、ゲオルク学校三期生ってとこかい?」
「えー、なにそれー?」
「ゲオルクは、西府にいた頃、初心者パーティの面倒を見てたのさ。西府ギルドでは、ゲオルクが最初に面倒を見たアルマチを一期生、次に面倒を見たホレルを二期生と呼んでたんだ。で、アルマチとホレルが合併してゲオルク学校になったんだよ。」
「それで、ゲオルクさんから面倒を見て頂いたわたくしたちは、三期生になる訳ですのね?」
「そう言うこった。」カルメンさんが笑っている。
「ではまさかゲオルクどのは、この少女たちにも手を付けていたのか?」
「いやいや、付けてねーし。てかどうしてそう言う話になるのさ。」
「ちょっと待って下さい。師匠!今のベスさんの言い方って…、まさかベスさんと、そう言う…。」後半の声が小さくなって顔を赤くするルイーザ。
「え?師匠ってカルメンさんが本命じゃないんすか?」アルフォンソも突っ込んで来る。
「あ、いや、その…。」しどろもどろになる俺に、お姉様たちがぷっと吹き出す。
「えー、まさか全員ですか?師匠、あなたって人は!」レベッカの眼がきつくなる。
「いや、ほんと皆とは遊びじゃないよ。しっかり全員と結婚するしな。」
「ショックー、私、一途に師匠のこと、想ってたのにー。」半泣きになるレベッカ。
「皆さんと結婚って…、師匠、それって重婚罪じゃないっすか?」
「いや、俺、騎士爵になったから、一応貴族の端くれでさ、で、貴族には重婚罪が適用されないんだよね。」
「「「「「えー!」」」」」
「師匠、騎士爵って、いつなったんです?聞いてないっすよぉ。」
「ゲオルク君、続きは夕餉のときにでもいかが?さっさと解体して出発しないと日が暮れちゃうわよ。」
「そうだな。夕餉のときに話すよ。」
俺はビックボアを素早く解体し、魔石を取り出して、チルに肉のブロックを冷凍してもらった。肉のブロックはすべて、東部公爵様から下賜された異空間収納袋へ。
出発してしばらく行くと、もう1頭のビッグボアに出くわした。
「よし、今度は俺がやる。」
「おお、師匠の弓術見るの、久しぶりだなー。」え?いや、精霊魔法で片付けるよ。
ビッグボアがこちらを見付けて突進して来る。
「ウィン。」『はーい。』強烈な突風が巻き起こり、ビッグボアを怯ませて突進を止めた。
「ツリ。」『はーい。』立ち往生しているビッグボアの4本脚を、地面から生えて来た蔓が巻き付いて、絡め取った。
「メタ。」『はーい。』落雷が一撃でビッグボアを倒した。非常に呆気なかった。
俺はビックボアを素早く解体して、魔石を取り出し、
「チル。」『はーい。』ビッグボアの肉は瞬時に凍った。凍った肉のブロックをすべて異空間収納袋へ。
ゲオルク学校の連中はと言うと、完全に眼を見開いたまま固まっていた。
「おい、どうした?」
「魔法?師匠、いつから使えるんです?」
「おいおい、さっきから使ってるだろ。お前らが討伐したビッグボアも、チルが凍らせたじゃないか。」
「あれは精霊がやったんですよね?」
「今のだって、全部精霊たちだよ。」
「師匠。射手…でしたよね?」
「ああ、俺は射手だが、今は、精霊魔術師も兼ねている。」
「「「「「えー!」」」」」
「師匠、もしかして伝説の精霊魔術師?それって、いつなったんです?聞いてないっすよぉ。」
「そう言えば、東部で精霊魔術師が出たって話、あれ、師匠のことなんすか?」
「はーい、それも夕餉のときだよっ!日が暮れちゃうからねっ。」ビーチェさんが話をバッサリとぶった切った。
その後は、クエストの獲物に遭遇することもないまま、馬車は進んだ。
「今日はこの辺にするか?」
もうすぐ日が暮れるのでこの辺りで野営の準備に入ることにした。
馬車を2台並べて停めて、クレを呼んで、馬車のまわりに20m四方の土壁を地面からせり上がらせる。高さは2m。それから曳馬たちとうちの仔馬たちを一画に集めて、ツリを呼んで牧草を生やさせた。馬たちは喜んで草を食み出した。
その間にお姉様方は野営の定番、鍋の準備を始めたのでその手伝いに行く。
ワラを呼んで水を出し、フィアを呼んで火を熾し、ツリに何種類かの野菜をさっと育てさせて、ぶつ切りにして鍋の中にぶち込む。
討伐クエストの出ていたビッグボア2頭は、解体して凍らせていたので、肉のブロックをぶつ切りにして鍋にぶち込んだり、ソテーにしたりした。
料理の準備が一段落したところで、火の番をお姉様方に任せ、寝床作りに入る。ツリに牧草を生やさせ、これをクレの土窯で囲ってフィアが外から炙ると、しばらくして窯の中には干し草が出来上がる。これを寝床にたっぷり敷いて、大きな布で包むと、簡易干し草ベッドの出来上がりだ。これを人数分11個作った。
そしてクレに浴槽を作らせ、ワラに水を溜めさせ、フィアにその水を湯に沸かさせて簡易風呂の出来上がり。いつもはひとつだが、今日はゲオルク学校の連中がいるので、男湯と女湯のふたつを造った。もちろん女湯が倍の大きさだ。
ここでもゲオルク学校の連中は、完全に固まっていたのだが、特に魔術師のレベッカと来たら、完全に放心状態だった。
「こんな風に魔法を使うなんて。こんな風に…。大体、魔力は…。なによ、この魔力の無駄遣い。なんで魔力切れにならないの?おかしい、絶対おかしい、こんなのあり得ない。」
ぶつぶつと言いながら打ちひしがれているレベッカをリーゼさんが気遣う。
「比べちゃダメよ。私たちの魔法と精霊魔法は別物なのよ。」
『『『『『ゲオルクー、お腹すいたー。』』』』』』
ウィンとメタを除く、5人が魔力補給に来た。
「キ、キス!しかもディープなやつ。私もして欲しい。」「噓、何あれ、羨ましい…。」「私も精霊になりたい。」
なんか、マチルダとレベッカとルイーザがぶつぶつ言ってるが無視!
飯ができるまで、俺たち男性陣は男湯に入った。ちなみに、精霊たちも一緒だ。俺が精霊たちを順に洗っていると、アルフォンソが話し掛けて来て、ホルヘも続く。
「師匠、子煩悩っすね。」
「師匠は昔っから面倒見、いいすよねぇ。俺たちも散々世話になったしなぁ。」ホルヘが右胸の傷をさすっている。
ホレルと初めて出会ったとき、ホレルの3人はキングシンバ3頭に襲われていて、ほんとに間一髪だった。ホルヘは一番深い傷だったが、レベッカとルイーザを先に治療してくれと言った。
ホルヘがさすっているのはその際に、キングシンバにやられた傷だ。
「今も痛むのか?」
「いいえ。師匠の応急手当のお陰っす。」
「キャー、カルメンさん、凄ーい。」「わー、ベスさんもー。」「羨ましい。触っても?」
「こらこら、お前ら、いいと言う前に触るな。」
こっちがまったりしていると言うのに女湯は!
「こらー!俺のメロンボールに触るなー!」
「「「す、すみません!」」」3人とも触ってやがったのか!横でアルフォンソとホルヘが爆笑していた。
風呂を出て火の番を代わり、リーゼさん、ジュヌさん、ビーチェさんを風呂に行かせた。
「うおー、凄いぃ!」「皆さん何なんですかー?」「うー、師匠はこれに…。」
「ダメダメ、今はゲオっち専用なんだからねっ。」ちっ、また盛り上がってやがる。
「だーかーらー!俺のメロンボールに触るなって言ってんだろー!」俺が女湯に咆え掛けると、
「「「ごめんなさーい!」」」また3人か!俺はアルフォンソとホルヘに向き直った。
「お前らなー、しっかり手綱を握っとけよ。」
「いや、無理っす。尻に敷かれっぱなしっす。」
「てか、師匠。八つ当たりは勘弁。」
「う…、すまん。」
鍋もすっかり煮えた。肉と野菜のごった煮、味付けは塩胡椒をベースに、ニンニクや生姜をガツンと効かせている。
頃合いを見計らったように、女性陣が風呂から出て来た。待ちに待ってた夕餉だ。
「う、旨ぇ。それにしても、なんなの?この肉の大きさ。」
「俺たちは体が資本だからな。飯はその体の素になる。しっかり食え。」
「遠征飯でこんな贅沢、初めてっす。師匠、あざーっす。」
夕餉を摂りながら、俺はこれまでの経緯を話し始めた。
西府付近でクレと契約して精霊魔術師になったこと。
その足で東部にある故郷のラスプ村に帰り、ツリと契約したこと。
それから東府教会に逗留しつつ東府魔法学院で精霊魔術師の研究に付き合わされたこと。
東府でリーゼさんとスピリタスを結成したこと。
王都に行ってジュヌさんを、西府に戻ってカルメンさんを、それぞれスピリタスに誘ったこと。
「じゃぁ、カルメンさんをスカウトに来たときは、もう精霊魔術師になってたんですか?」
「そう言えばあのとき、小さい子たちを連れてましたけど、あの子たちが精霊だったんですか?でも、あの子たち、今はいませんね。」
「いるよ。このふたり。」
「え?なぜ大きくなってるんです?」
「精霊はね、成長するときは一気に形態進化をするんだよ。」
「でもなんであのとき、教えてくれなかったんですか?」
「いやいや、俺が西府を離れるって言ったら、お前ら、行くなとか、連れてけとか、それどころじゃなかったじゃん。」
「「「うっ。」」」当時、ギャン泣きした女子3人が縮こまる。
西府を発って北府に行き、ベスさんと出会ってスピリタスに加えたこと。
リーゼさん、ジュヌさん、カルメンさんと合流して北部各地を巡り、フィア、チルと契約し、スノウを仲間にしたこと。
この途中でCランクに上がったこと。
北府で南府からの指名依頼を受け、俺が先行して南府に直行したこと。
そこでビーチェさんと出会ってスピリタスに加えたこと。
南部湾で無力化されてたワラを救出して契約し、南部湾を荒らしていたリヴァイアサンを南部湾から追い払ったこと。
その功績でBランクに昇格したこと。
「ちょっと待って下さい。リヴァイアサンを追い払ったってどう言うことです?」
「え、精霊たちが全員で魔力放出して威嚇しただけだけど。それで一目散に逃げて行ったんだよ。」
皆絶句しているので、俺はそのまま続けた。
精霊の無力化にはどこかの工作員が関与しており、非常に深刻な事態だったので、皆と合流してから東府に行って、懇意にしていた東府大司教様と東府魔法学院主任教授に相談したこと。
工作員の件を東部公爵様へ報告することになり、そのまま配下となって支援と自由行動権を与えられたこと。
再び南部に行って、リシッチャ島でウィンと契約し、ナイトを仲間にしたこと。
その帰りに、ワラを無力化した工作員と遭遇し、全員捕縛したこと。
南府で修行することになったお姉様方と別れ、南府衛兵隊とともに王都に工作員を護送たこと。
王都で東部公配下から皇太子殿下直属になったこと。
北部に行ってメタと契約し、そのついでに雪崩で通行止めになった街道を復旧し、盗賊団を一網打尽にしたら、Aランク相当になったこと。
王都に戻って報告したら、王家付精霊魔術師に任命され、騎士爵に任じられたこと。
南府に行って修行していたお姉様方と合流し、プロポーズしたこと。
「で、今は、お姉様方の実家を巡って、ご家族に婚約の挨拶をして回ってるところだよ。」
「じゃぁ国境の町バレンシーにどなたかのご家族がいるんですか?もしかしてカルメンさん?」
「あたしゃ西府出身だよ。両親は隠居してリャビーセ村にいるけどね。」
「バレンシーに行くのは、王太子殿下からのお遣いだよ。」
「「「「「はぁ~?」」」」」
「師匠、王太子殿下って…、殿下にお会いできるんですか?」
「そりゃあね。俺の直属の上司だし。」
「で、殿下のご命令って?」
「今は言えない。国家機密だから。」そんなんじゃないけど、こいつらの反応があまりにも面白いから、ちょっと調子に乗ってみる。笑
「え?それって、俺たち師匠と一緒にいても大丈夫なんですか?」
「さぁ?」
「そなたら、余り詮索しない方がよいぞ。知らなくてよいことを知ると、不幸を招き入れることもあるからな。」ベスさんが俺の悪戯に気付いて乗って来た。
「そうね、ゲオルク君の昔馴染みで、たまたま久しぶりに会っただけの、ただの道連れのまんま。と言う方がいいわよ。」リーゼさんも乗って来た。
「わたくしたち、どっぷりゲオルクさんに絡んでしまいましたので、もうゲオルクさんからは離れられませんのよ。あなたたちは、深く関わらない方がいいですわ。」ジュヌさんもだ。
「え?え?僕もそうなの?ゲオっち、どうしよう。僕、知らなかったよぉ。」ビーチェさんだけ気付いてないのかと思ったら、ニヤッとコケティッシュ笑みを浮かべた。知ってて煽ってる!
シーンとなる、ゲオルク学校一同。
「そうだな。君たちがもっと実力を付けたら、詳しく話してやろう。だから今はまだ内緒だ。いいな?」
5人揃ってぶんぶんと頷いている。笑
夕餉の後、カルメンさんに声を掛けた。
「カルメンさん、忘れてないよね。」
俺が、ゲオルク学校と言うパーティ名を認める代わりに、カルメンさんが生ぱふをしてくれると言う約束のことだ。
「ゲオルク学校の子たちもいるだろう?バレンシーに着くまで我慢しな。」
「やっぱそうなるか。」
それから俺たちは夜の見張りの分担を決めて、交互に睡眠を取った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/5/22
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№66 ゲオルク学校との連携
西部の大平原を馬車2台が行く。
1台は俺たちスピリタス。もう1台はゲオルク学校。そして俺たちの馬車に付いて来る2頭の仔馬。
西府で受けたクエストのうち、大平原でのビッグボア3頭の討伐があったのだが、早々に精霊たちがビッグボア1頭を感知して、居場所を教えてくれた。取り敢えず、ゲオルク学校の連中の手際を見ようと、俺は手を出さないことにしたのだが、横で精霊たちがうずうずしてやがる。笑
まず支援術士のカルメンさんが、皆にバフを掛けた。そして、遠目から、魔術師のリーゼさんとレベッカが、隠れているビッグボアを燻り出すように、ビッグボアのまわりにファイアボールを雨あられと降らせた。慌てて茂みから飛び出したビッグボアが、こちらを認識するとそのまま一直線に突進して来る。猪突猛進とはよく言ったものだ。笑
神官のジュヌさんとルイーザが魔法障壁を張り、巨体の突進を重騎士のベスさんと軽歩兵のホルヘが受け止めた。すかさず刀剣士のビーチェさん、狂戦士のアルフォンソ、剣士のマチルダの3人がビッグボアを切り刻む。そこへベスさんの突きとホルヘの切込みも加わり、巨大なビッグボアは断末魔の声を上げてドウと倒れた。
なんか、すっげぇぞっと。超いい連携じゃん。
最後にジュヌさんとルイーザで皆にヒールを掛けている。
「なんかさー、初めて組んだにしては、連携、凄ぇよかったじゃん。」
「やっぱ俺たちも、カルメンさんたちも、師匠と連携して来たからじゃないっすかね?」え?
「確かにそうかもしれませんわね。」
「なるほどねぇ。さしずめあたしたちゃ、ゲオルク学校三期生ってとこかい?」
「えー、なにそれー?」
「ゲオルクは、西府にいた頃、初心者パーティの面倒を見てたのさ。西府ギルドでは、ゲオルクが最初に面倒を見たアルマチを一期生、次に面倒を見たホレルを二期生と呼んでたんだ。で、アルマチとホレルが合併してゲオルク学校になったんだよ。」
「それで、ゲオルクさんから面倒を見て頂いたわたくしたちは、三期生になる訳ですのね?」
「そう言うこった。」カルメンさんが笑っている。
「ではまさかゲオルクどのは、この少女たちにも手を付けていたのか?」
「いやいや、付けてねーし。てかどうしてそう言う話になるのさ。」
「ちょっと待って下さい。師匠!今のベスさんの言い方って…、まさかベスさんと、そう言う…。」後半の声が小さくなって顔を赤くするルイーザ。
「え?師匠ってカルメンさんが本命じゃないんすか?」アルフォンソも突っ込んで来る。
「あ、いや、その…。」しどろもどろになる俺に、お姉様たちがぷっと吹き出す。
「えー、まさか全員ですか?師匠、あなたって人は!」レベッカの眼がきつくなる。
「いや、ほんと皆とは遊びじゃないよ。しっかり全員と結婚するしな。」
「ショックー、私、一途に師匠のこと、想ってたのにー。」半泣きになるレベッカ。
「皆さんと結婚って…、師匠、それって重婚罪じゃないっすか?」
「いや、俺、騎士爵になったから、一応貴族の端くれでさ、で、貴族には重婚罪が適用されないんだよね。」
「「「「「えー!」」」」」
「師匠、騎士爵って、いつなったんです?聞いてないっすよぉ。」
「ゲオルク君、続きは夕餉のときにでもいかが?さっさと解体して出発しないと日が暮れちゃうわよ。」
「そうだな。夕餉のときに話すよ。」
俺はビックボアを素早く解体し、魔石を取り出して、チルに肉のブロックを冷凍してもらった。肉のブロックはすべて、東部公爵様から下賜された異空間収納袋へ。
出発してしばらく行くと、もう1頭のビッグボアに出くわした。
「よし、今度は俺がやる。」
「おお、師匠の弓術見るの、久しぶりだなー。」え?いや、精霊魔法で片付けるよ。
ビッグボアがこちらを見付けて突進して来る。
「ウィン。」『はーい。』強烈な突風が巻き起こり、ビッグボアを怯ませて突進を止めた。
「ツリ。」『はーい。』立ち往生しているビッグボアの4本脚を、地面から生えて来た蔓が巻き付いて、絡め取った。
「メタ。」『はーい。』落雷が一撃でビッグボアを倒した。非常に呆気なかった。
俺はビックボアを素早く解体して、魔石を取り出し、
「チル。」『はーい。』ビッグボアの肉は瞬時に凍った。凍った肉のブロックをすべて異空間収納袋へ。
ゲオルク学校の連中はと言うと、完全に眼を見開いたまま固まっていた。
「おい、どうした?」
「魔法?師匠、いつから使えるんです?」
「おいおい、さっきから使ってるだろ。お前らが討伐したビッグボアも、チルが凍らせたじゃないか。」
「あれは精霊がやったんですよね?」
「今のだって、全部精霊たちだよ。」
「師匠。射手…でしたよね?」
「ああ、俺は射手だが、今は、精霊魔術師も兼ねている。」
「「「「「えー!」」」」」
「師匠、もしかして伝説の精霊魔術師?それって、いつなったんです?聞いてないっすよぉ。」
「そう言えば、東部で精霊魔術師が出たって話、あれ、師匠のことなんすか?」
「はーい、それも夕餉のときだよっ!日が暮れちゃうからねっ。」ビーチェさんが話をバッサリとぶった切った。
その後は、クエストの獲物に遭遇することもないまま、馬車は進んだ。
「今日はこの辺にするか?」
もうすぐ日が暮れるのでこの辺りで野営の準備に入ることにした。
馬車を2台並べて停めて、クレを呼んで、馬車のまわりに20m四方の土壁を地面からせり上がらせる。高さは2m。それから曳馬たちとうちの仔馬たちを一画に集めて、ツリを呼んで牧草を生やさせた。馬たちは喜んで草を食み出した。
その間にお姉様方は野営の定番、鍋の準備を始めたのでその手伝いに行く。
ワラを呼んで水を出し、フィアを呼んで火を熾し、ツリに何種類かの野菜をさっと育てさせて、ぶつ切りにして鍋の中にぶち込む。
討伐クエストの出ていたビッグボア2頭は、解体して凍らせていたので、肉のブロックをぶつ切りにして鍋にぶち込んだり、ソテーにしたりした。
料理の準備が一段落したところで、火の番をお姉様方に任せ、寝床作りに入る。ツリに牧草を生やさせ、これをクレの土窯で囲ってフィアが外から炙ると、しばらくして窯の中には干し草が出来上がる。これを寝床にたっぷり敷いて、大きな布で包むと、簡易干し草ベッドの出来上がりだ。これを人数分11個作った。
そしてクレに浴槽を作らせ、ワラに水を溜めさせ、フィアにその水を湯に沸かさせて簡易風呂の出来上がり。いつもはひとつだが、今日はゲオルク学校の連中がいるので、男湯と女湯のふたつを造った。もちろん女湯が倍の大きさだ。
ここでもゲオルク学校の連中は、完全に固まっていたのだが、特に魔術師のレベッカと来たら、完全に放心状態だった。
「こんな風に魔法を使うなんて。こんな風に…。大体、魔力は…。なによ、この魔力の無駄遣い。なんで魔力切れにならないの?おかしい、絶対おかしい、こんなのあり得ない。」
ぶつぶつと言いながら打ちひしがれているレベッカをリーゼさんが気遣う。
「比べちゃダメよ。私たちの魔法と精霊魔法は別物なのよ。」
『『『『『ゲオルクー、お腹すいたー。』』』』』』
ウィンとメタを除く、5人が魔力補給に来た。
「キ、キス!しかもディープなやつ。私もして欲しい。」「噓、何あれ、羨ましい…。」「私も精霊になりたい。」
なんか、マチルダとレベッカとルイーザがぶつぶつ言ってるが無視!
飯ができるまで、俺たち男性陣は男湯に入った。ちなみに、精霊たちも一緒だ。俺が精霊たちを順に洗っていると、アルフォンソが話し掛けて来て、ホルヘも続く。
「師匠、子煩悩っすね。」
「師匠は昔っから面倒見、いいすよねぇ。俺たちも散々世話になったしなぁ。」ホルヘが右胸の傷をさすっている。
ホレルと初めて出会ったとき、ホレルの3人はキングシンバ3頭に襲われていて、ほんとに間一髪だった。ホルヘは一番深い傷だったが、レベッカとルイーザを先に治療してくれと言った。
ホルヘがさすっているのはその際に、キングシンバにやられた傷だ。
「今も痛むのか?」
「いいえ。師匠の応急手当のお陰っす。」
「キャー、カルメンさん、凄ーい。」「わー、ベスさんもー。」「羨ましい。触っても?」
「こらこら、お前ら、いいと言う前に触るな。」
こっちがまったりしていると言うのに女湯は!
「こらー!俺のメロンボールに触るなー!」
「「「す、すみません!」」」3人とも触ってやがったのか!横でアルフォンソとホルヘが爆笑していた。
風呂を出て火の番を代わり、リーゼさん、ジュヌさん、ビーチェさんを風呂に行かせた。
「うおー、凄いぃ!」「皆さん何なんですかー?」「うー、師匠はこれに…。」
「ダメダメ、今はゲオっち専用なんだからねっ。」ちっ、また盛り上がってやがる。
「だーかーらー!俺のメロンボールに触るなって言ってんだろー!」俺が女湯に咆え掛けると、
「「「ごめんなさーい!」」」また3人か!俺はアルフォンソとホルヘに向き直った。
「お前らなー、しっかり手綱を握っとけよ。」
「いや、無理っす。尻に敷かれっぱなしっす。」
「てか、師匠。八つ当たりは勘弁。」
「う…、すまん。」
鍋もすっかり煮えた。肉と野菜のごった煮、味付けは塩胡椒をベースに、ニンニクや生姜をガツンと効かせている。
頃合いを見計らったように、女性陣が風呂から出て来た。待ちに待ってた夕餉だ。
「う、旨ぇ。それにしても、なんなの?この肉の大きさ。」
「俺たちは体が資本だからな。飯はその体の素になる。しっかり食え。」
「遠征飯でこんな贅沢、初めてっす。師匠、あざーっす。」
夕餉を摂りながら、俺はこれまでの経緯を話し始めた。
西府付近でクレと契約して精霊魔術師になったこと。
その足で東部にある故郷のラスプ村に帰り、ツリと契約したこと。
それから東府教会に逗留しつつ東府魔法学院で精霊魔術師の研究に付き合わされたこと。
東府でリーゼさんとスピリタスを結成したこと。
王都に行ってジュヌさんを、西府に戻ってカルメンさんを、それぞれスピリタスに誘ったこと。
「じゃぁ、カルメンさんをスカウトに来たときは、もう精霊魔術師になってたんですか?」
「そう言えばあのとき、小さい子たちを連れてましたけど、あの子たちが精霊だったんですか?でも、あの子たち、今はいませんね。」
「いるよ。このふたり。」
「え?なぜ大きくなってるんです?」
「精霊はね、成長するときは一気に形態進化をするんだよ。」
「でもなんであのとき、教えてくれなかったんですか?」
「いやいや、俺が西府を離れるって言ったら、お前ら、行くなとか、連れてけとか、それどころじゃなかったじゃん。」
「「「うっ。」」」当時、ギャン泣きした女子3人が縮こまる。
西府を発って北府に行き、ベスさんと出会ってスピリタスに加えたこと。
リーゼさん、ジュヌさん、カルメンさんと合流して北部各地を巡り、フィア、チルと契約し、スノウを仲間にしたこと。
この途中でCランクに上がったこと。
北府で南府からの指名依頼を受け、俺が先行して南府に直行したこと。
そこでビーチェさんと出会ってスピリタスに加えたこと。
南部湾で無力化されてたワラを救出して契約し、南部湾を荒らしていたリヴァイアサンを南部湾から追い払ったこと。
その功績でBランクに昇格したこと。
「ちょっと待って下さい。リヴァイアサンを追い払ったってどう言うことです?」
「え、精霊たちが全員で魔力放出して威嚇しただけだけど。それで一目散に逃げて行ったんだよ。」
皆絶句しているので、俺はそのまま続けた。
精霊の無力化にはどこかの工作員が関与しており、非常に深刻な事態だったので、皆と合流してから東府に行って、懇意にしていた東府大司教様と東府魔法学院主任教授に相談したこと。
工作員の件を東部公爵様へ報告することになり、そのまま配下となって支援と自由行動権を与えられたこと。
再び南部に行って、リシッチャ島でウィンと契約し、ナイトを仲間にしたこと。
その帰りに、ワラを無力化した工作員と遭遇し、全員捕縛したこと。
南府で修行することになったお姉様方と別れ、南府衛兵隊とともに王都に工作員を護送たこと。
王都で東部公配下から皇太子殿下直属になったこと。
北部に行ってメタと契約し、そのついでに雪崩で通行止めになった街道を復旧し、盗賊団を一網打尽にしたら、Aランク相当になったこと。
王都に戻って報告したら、王家付精霊魔術師に任命され、騎士爵に任じられたこと。
南府に行って修行していたお姉様方と合流し、プロポーズしたこと。
「で、今は、お姉様方の実家を巡って、ご家族に婚約の挨拶をして回ってるところだよ。」
「じゃぁ国境の町バレンシーにどなたかのご家族がいるんですか?もしかしてカルメンさん?」
「あたしゃ西府出身だよ。両親は隠居してリャビーセ村にいるけどね。」
「バレンシーに行くのは、王太子殿下からのお遣いだよ。」
「「「「「はぁ~?」」」」」
「師匠、王太子殿下って…、殿下にお会いできるんですか?」
「そりゃあね。俺の直属の上司だし。」
「で、殿下のご命令って?」
「今は言えない。国家機密だから。」そんなんじゃないけど、こいつらの反応があまりにも面白いから、ちょっと調子に乗ってみる。笑
「え?それって、俺たち師匠と一緒にいても大丈夫なんですか?」
「さぁ?」
「そなたら、余り詮索しない方がよいぞ。知らなくてよいことを知ると、不幸を招き入れることもあるからな。」ベスさんが俺の悪戯に気付いて乗って来た。
「そうね、ゲオルク君の昔馴染みで、たまたま久しぶりに会っただけの、ただの道連れのまんま。と言う方がいいわよ。」リーゼさんも乗って来た。
「わたくしたち、どっぷりゲオルクさんに絡んでしまいましたので、もうゲオルクさんからは離れられませんのよ。あなたたちは、深く関わらない方がいいですわ。」ジュヌさんもだ。
「え?え?僕もそうなの?ゲオっち、どうしよう。僕、知らなかったよぉ。」ビーチェさんだけ気付いてないのかと思ったら、ニヤッとコケティッシュ笑みを浮かべた。知ってて煽ってる!
シーンとなる、ゲオルク学校一同。
「そうだな。君たちがもっと実力を付けたら、詳しく話してやろう。だから今はまだ内緒だ。いいな?」
5人揃ってぶんぶんと頷いている。笑
夕餉の後、カルメンさんに声を掛けた。
「カルメンさん、忘れてないよね。」
俺が、ゲオルク学校と言うパーティ名を認める代わりに、カルメンさんが生ぱふをしてくれると言う約束のことだ。
「ゲオルク学校の子たちもいるだろう?バレンシーに着くまで我慢しな。」
「やっぱそうなるか。」
それから俺たちは夜の見張りの分担を決めて、交互に睡眠を取った。
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設定を更新しました。R4/5/22
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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