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精霊の加護043 リシッチャ島ラクシーサ
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精霊の加護
Zu-Y
№43 リシッチャ島ラクシーサ
王都で東部公爵様の一行から離脱して、王府発南府行の定期馬車に乗って数日、俺たちは南府に着いた。今回は、南府は素通りなので、すぐさま船着き場から定期船に乗って、リシッチャ島の主要港町ラクシーサを目指す。
リシッチャ島は、南部湾の外縁に沿って点在する南部群島最大の島で、南部湾南端中央に位置している。南部群島は風の精霊の縄張りであり、リシッチャ島はビーチェさんの故郷でもある。
南府からリシッチャ島ラクシーサに行く定期船には、南府湾の北岸中央に位置する南府から、南府湾の東岸中央に位置する主要港町のネヴェッツィを経て、ラクシーサに至る東航路と、南府から、南府湾の西岸中央に位置する主要港町のヴァジェノを経て、ラクシーサに至る西航路がある。
南府、ネヴェッツィ、ヴァジェノ、ラクシーサの4つの主要港は、南部湾のちょうど東西南北に位置し、4主要港をまとめてクロチュデルスゥデ=南十字と言い、東航路と西航路は、クロチュデルスゥデの主要4港のみを直接結ぶ特急定期船である。
この他に、ラクシーサ経由でネヴェッツィとヴァジェノを結び、本土の先端港や群島各港に立ち寄って物資を補給する南航路各停定期船や、南府・ネヴェッツィ間と、南府・ヴァジェノ間に点在する村の港を結ぶ、北航路各停定期船もある。
このように、南部の交通は海路に大きく依存していたが、これは南部湾が穏やかなことが前提で、前回の騒動のようにひと月も南部湾が荒れ続けると、南部の流通は遮断されて、重大な事態を招いてしまった。
南部の陸路は、南府やネヴェッツィやヴァジェノと、海から離れた内陸の村とを結ぶ、不定期な行商馬車のみであったが、前回の騒動を発端に、港町も巻き込んだ陸路の整備が始まったそうだ。なお、内陸の村では、温暖な気候を生かして、穀物や果樹などの農業が行われているが、農業は南部の主要産業ではない。
南部の主要産業は、漁業と海の工芸品だ。
リシッチャ島を中心とする南部群島は珊瑚環礁のため、珊瑚の工芸品が特産品であり、ネヴェッツィを中心とする南部東岸エリアは、真珠の養殖と真珠の装飾品が、ヴァジェノを中心とする南部西岸エリアは、螺鈿貝の養殖と螺鈿の工芸品が、それぞれ主要産業である。
南府とその周辺は、各種高級魚、カキなどの貝類、海苔などの海藻類といった、様々な養殖が盛んであり、さらに漁業は南部の港町ならどこでも盛んで、どのエリアでも、漁業と魚介類加工品の生産は、主要特産品に次ぐ産業となっている。
俺たちは、定期船への乗り継ぎのために南府港へ向かい、ちょうどこの日の夕刻前に出航する東航路の特急定期船に乗船した。特急定期船だと明日の昼にはネヴェッツィに寄港し、明日の夕刻前にネヴェッツィを出航して、明後日の昼にはラクシーサに着くそうだ。
船室はお姉様方がシングルで、俺と精霊はデラックスダブル。スノウは馬房デッキだ。
凪いだ湾内の船旅は頗る順調で、翌日の昼には予定通りネヴェッツィに着いた。夕刻前の出航時間まで4時間あるので上陸し、ネヴェッツィの港を見て回った。
ネヴェッツィの特産品は真珠の装飾品だ。俺はお姉様方に真珠のネックレスをプレゼントしたのだった。喜んでいるから俺も嬉しい。
なお、それぞれのネックレスには特性に合わせた能力上昇補正が付与されている。リーゼさんは攻魔、ジュヌさんは回復、カルメンさんは支援、ベスさんは防御、ビーチェさんは疾風、そして俺は集中。
夕刻前に出航した特急定期船は、その夜も順調に航行し、昼にはリシッチャ島ラクシーサの港町に着いた。この港町はリシッチャ島の中心の町である。と言うことは、リシッチャ島が南部群島最大の島だから、南部群島の中心にもなる訳だ。
この辺りの精霊は、皆、紫色をしている。風の精霊だ。水の精霊である青い精霊は見当たらない。ちゃんと本土と島で棲み分けてんだな。
「さて、今夜の宿でも決めるか?」
「ゲオっち、僕んちにおいでよ。」
「そう言えばビーチェさんはリシッチャ島出身だったよね。実家はラクシーサなの?」
「そうだよー。」
「でもさ、こんな人数で押し掛けて平気?」
「平気、平気ー。さ、行こ。」
ラクシーサの北にある港から、町の中心を越え、さらに南に向かって歩いて行くと大きな建物が見えて来た。「リシッチャ流刀術道場」と言う看板が出てる。
そう言えば、ビーチェさんは、実家に刀術が伝わっているって言ってたけど、流派持ちの道場な訳?
「ビーチェさん、まさか実家は刀術道場なの?」
「あれー?話してなかったっけー?」
「実家が刀術を伝えてるとは聞いてたけど、道場を開いてるとは知らなかったな。」
「えー、それって、意味同じじゃーん。」いや、違うだろ!笑
「ただいまー。」
「お、お嬢!おかえりなさいやし。」門弟かな?
「おひさー、ちっとは腕上がったー?」
「はい。五段になりやした。」
「おお、おめでとー。ところでお客連れて来たよって、パパに伝えて。」
「承知しやした。」ピューッと中に飛んで行った。
「あ、玄関こっちこっちー。」ビーチェさんに連れられて大きな玄関を入ると、
「あら、ビーチェ、お帰り。」と、稽古着姿の年配女性が出迎えて来た。凛としていていかにも女剣士と言う感じだ。
「ママー、ただいまー。お客を連れて来たよー。皆、泊まるからよろしくねー。」
「大勢ですみません。」俺が挨拶すると、他のお姉様方も挨拶の言葉を口にした。
「あら、いいんですよ。大勢の方が賑やかで楽しいわ。どうぞお上がりなさいな。」と、笑顔で迎えられた。
スノウを厩舎に繋いで、~ってか、厩舎がある時点で普通の家ではないのだが~俺たち全員は客間に通され、しばらくすると稽古着姿のすらっとした初老の男が出て来た。
リシッチャ亭のご亭主のマルコさんによく似ている。この人が恐らく、マルコさんが兄貴って話してた、ビーチェさんの御父上だろう。弟のマルコさんはがっちりしてたが、この人は鍛え抜いて絞るだけ絞った細身の体型だ。
「パパー、ただいまー。」
「おう、お帰り、ビーチェ。」
「こんにちは。いきなり大人数で押し掛けてすみません。」
「ああ、それは構わねぇよ。おめぇさんがゲオルクさんかい?」
「え?俺のことをご存知で?」
「ああ、マルコから手紙が来てるんでな。何でも荒れてた海を静めたのはおめぇさんだってな。」
「正確にはこの子たち、精霊たちが海の魔物を追い払って静めたんですよ。」
「その精霊たちに、仕事をさせたのがおめぇさんなんだろ?」
「まぁ、そうですが…。」
「皆、難儀してたんだよ。ありがとうな。」
「いえ、どう致しまして。」
「名乗りが遅れたが、俺はピエトロ。ビーチェの父親だ。」
「改めましてゲオルクです。ビーチェさんにはお世話になってます。」俺に続いてお姉様方も挨拶したのだが…。
「ほう、うちのビーチェがあんたを世話したってか?」
え?今、御父上はぴくッとしたよな?眉間に縦じわが寄って、こめかみに血管が浮き上がったぞ!呼び方も「あんた」に変わったし…。
「パパ?」ビーチェさんも怪訝そうだ。
「で、今日は何の用だ?ビーチェをくれとでも言いに来やがったのか?」御父上は、明らかに不機嫌になっている。
「ちょっと、パパ!いきなり何言ってんの?」
「え?違うのか?マルコからの手紙にはそう書いてあったぞ。」
「叔父さん、なんて書いて来たの?」
「かいつまんで言うとだな、『ビーチェが筆おろしをしてやった若い男が、南部湾の荒れを静めた。そいつが近々、ビーチェを貰い受けに行くだろうから、兄貴は覚悟しておけ。』ってな内容だ。違うのか?」
筆おろしって…なるほど、それで「お世話になってます。」って言葉に、異様に反応した訳か。しかし、マルコさんめ、童貞って誤解させた件を逆手に取って、悪戯を仕掛けて来たな。まったくもう。
「違うよ!」え?ビーチェさん、違うってことはないよな。
「いえ、大体はそんなとこですが、貰い受けに来るのは俺がAランクになってからです。」
「ええー!ゲオっち、それってマジで言ってるの?」ビーチェさんが、自分の両頬に両手をあてがい、赤くなってもじもじしている。かわいい。笑
「俺はそのつもりだよ。」このひと言で、益々赤くなった。
「おい、てめえら、のろけてんじゃねぇ!じゃぁ今回は、いったい何しに来やがったんだ?」御父上のピエトロさんからのツッコミだ。
「今回は風の精霊を探しに来ました。古の風の精霊魔術師の出身地や、精霊と話せる人がいる場所ってご存知ないですか?」
「うーん知らねぇなぁ。なぁ、エンマ、知ってるか?」
「僕はエンマ。ビーチェの母親よ。僕の故郷ポリーナには、風の精霊魔術師が出たって言い伝えがあったわねぇ。」
あ!僕って言った。島の女の人は一人称に僕を使うってビーチェさんが言ってたな。あ、いや、今はそこじゃない!風の精霊の話が先だ。
「ポリーナってどこですか?」
「この島の山は双子山でしょ?東山と西山の間を南北に抜ける谷を風の谷と言うのよ。昼は外洋からの海風が、夜は本土からの陸風が吹き抜けるからなんだけど、ポリーナはその風の谷の入口の村よ。ラクシーサからは馬車で半日ね。」
「その風の谷には、風の精霊がいる可能性が高いですね。ポリーナには精霊と話せる人はいますか?」
「さあ、僕の知ってる範囲ではいないわ。」
「ただいまー。お?おー、姉貴じゃん。お帰りー。あれ、お客さん?って、あー、ひょっとしてあんたか?叔父貴が書いて寄越した物好きな男は!」
「ロレン!あんたまで、何言ってんの!」ビーチェさんがすかさず反応した。
「えー、だって姉貴に筆おろしされて、姉貴を貰いに来たんだろ?」
「違うわよ!」いや、そんなに違わないぞ。
「え?違うの?」
「今回は別件で来たけどね、そのうち貰いに来るよ。」
「ほらやっぱそうじゃん。でも若いねー。あんた、俺とタメぐらい?俺、ロレンツォ。昨日で22歳。」
「俺はゲオルク。20歳だ。」
「かー、マジかよ。年下義兄貴じゃん。なんか微妙に気まずいわ。
それにしても姉貴、5つも下ってなぁ、隅におけないねぇ。」
「ロレン、いい加減にしないとぶちのめすよっ!それに僕はまだ24歳だからね。」
「何言ってんの!もうすぐ25歳じゃんよ。ところで、姉貴。久々にやるか?」ふたりの眼が怪しく絡み合った。
決して険悪ではないけれども、なんか一触即発な雰囲気だ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/3/27
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№43 リシッチャ島ラクシーサ
王都で東部公爵様の一行から離脱して、王府発南府行の定期馬車に乗って数日、俺たちは南府に着いた。今回は、南府は素通りなので、すぐさま船着き場から定期船に乗って、リシッチャ島の主要港町ラクシーサを目指す。
リシッチャ島は、南部湾の外縁に沿って点在する南部群島最大の島で、南部湾南端中央に位置している。南部群島は風の精霊の縄張りであり、リシッチャ島はビーチェさんの故郷でもある。
南府からリシッチャ島ラクシーサに行く定期船には、南府湾の北岸中央に位置する南府から、南府湾の東岸中央に位置する主要港町のネヴェッツィを経て、ラクシーサに至る東航路と、南府から、南府湾の西岸中央に位置する主要港町のヴァジェノを経て、ラクシーサに至る西航路がある。
南府、ネヴェッツィ、ヴァジェノ、ラクシーサの4つの主要港は、南部湾のちょうど東西南北に位置し、4主要港をまとめてクロチュデルスゥデ=南十字と言い、東航路と西航路は、クロチュデルスゥデの主要4港のみを直接結ぶ特急定期船である。
この他に、ラクシーサ経由でネヴェッツィとヴァジェノを結び、本土の先端港や群島各港に立ち寄って物資を補給する南航路各停定期船や、南府・ネヴェッツィ間と、南府・ヴァジェノ間に点在する村の港を結ぶ、北航路各停定期船もある。
このように、南部の交通は海路に大きく依存していたが、これは南部湾が穏やかなことが前提で、前回の騒動のようにひと月も南部湾が荒れ続けると、南部の流通は遮断されて、重大な事態を招いてしまった。
南部の陸路は、南府やネヴェッツィやヴァジェノと、海から離れた内陸の村とを結ぶ、不定期な行商馬車のみであったが、前回の騒動を発端に、港町も巻き込んだ陸路の整備が始まったそうだ。なお、内陸の村では、温暖な気候を生かして、穀物や果樹などの農業が行われているが、農業は南部の主要産業ではない。
南部の主要産業は、漁業と海の工芸品だ。
リシッチャ島を中心とする南部群島は珊瑚環礁のため、珊瑚の工芸品が特産品であり、ネヴェッツィを中心とする南部東岸エリアは、真珠の養殖と真珠の装飾品が、ヴァジェノを中心とする南部西岸エリアは、螺鈿貝の養殖と螺鈿の工芸品が、それぞれ主要産業である。
南府とその周辺は、各種高級魚、カキなどの貝類、海苔などの海藻類といった、様々な養殖が盛んであり、さらに漁業は南部の港町ならどこでも盛んで、どのエリアでも、漁業と魚介類加工品の生産は、主要特産品に次ぐ産業となっている。
俺たちは、定期船への乗り継ぎのために南府港へ向かい、ちょうどこの日の夕刻前に出航する東航路の特急定期船に乗船した。特急定期船だと明日の昼にはネヴェッツィに寄港し、明日の夕刻前にネヴェッツィを出航して、明後日の昼にはラクシーサに着くそうだ。
船室はお姉様方がシングルで、俺と精霊はデラックスダブル。スノウは馬房デッキだ。
凪いだ湾内の船旅は頗る順調で、翌日の昼には予定通りネヴェッツィに着いた。夕刻前の出航時間まで4時間あるので上陸し、ネヴェッツィの港を見て回った。
ネヴェッツィの特産品は真珠の装飾品だ。俺はお姉様方に真珠のネックレスをプレゼントしたのだった。喜んでいるから俺も嬉しい。
なお、それぞれのネックレスには特性に合わせた能力上昇補正が付与されている。リーゼさんは攻魔、ジュヌさんは回復、カルメンさんは支援、ベスさんは防御、ビーチェさんは疾風、そして俺は集中。
夕刻前に出航した特急定期船は、その夜も順調に航行し、昼にはリシッチャ島ラクシーサの港町に着いた。この港町はリシッチャ島の中心の町である。と言うことは、リシッチャ島が南部群島最大の島だから、南部群島の中心にもなる訳だ。
この辺りの精霊は、皆、紫色をしている。風の精霊だ。水の精霊である青い精霊は見当たらない。ちゃんと本土と島で棲み分けてんだな。
「さて、今夜の宿でも決めるか?」
「ゲオっち、僕んちにおいでよ。」
「そう言えばビーチェさんはリシッチャ島出身だったよね。実家はラクシーサなの?」
「そうだよー。」
「でもさ、こんな人数で押し掛けて平気?」
「平気、平気ー。さ、行こ。」
ラクシーサの北にある港から、町の中心を越え、さらに南に向かって歩いて行くと大きな建物が見えて来た。「リシッチャ流刀術道場」と言う看板が出てる。
そう言えば、ビーチェさんは、実家に刀術が伝わっているって言ってたけど、流派持ちの道場な訳?
「ビーチェさん、まさか実家は刀術道場なの?」
「あれー?話してなかったっけー?」
「実家が刀術を伝えてるとは聞いてたけど、道場を開いてるとは知らなかったな。」
「えー、それって、意味同じじゃーん。」いや、違うだろ!笑
「ただいまー。」
「お、お嬢!おかえりなさいやし。」門弟かな?
「おひさー、ちっとは腕上がったー?」
「はい。五段になりやした。」
「おお、おめでとー。ところでお客連れて来たよって、パパに伝えて。」
「承知しやした。」ピューッと中に飛んで行った。
「あ、玄関こっちこっちー。」ビーチェさんに連れられて大きな玄関を入ると、
「あら、ビーチェ、お帰り。」と、稽古着姿の年配女性が出迎えて来た。凛としていていかにも女剣士と言う感じだ。
「ママー、ただいまー。お客を連れて来たよー。皆、泊まるからよろしくねー。」
「大勢ですみません。」俺が挨拶すると、他のお姉様方も挨拶の言葉を口にした。
「あら、いいんですよ。大勢の方が賑やかで楽しいわ。どうぞお上がりなさいな。」と、笑顔で迎えられた。
スノウを厩舎に繋いで、~ってか、厩舎がある時点で普通の家ではないのだが~俺たち全員は客間に通され、しばらくすると稽古着姿のすらっとした初老の男が出て来た。
リシッチャ亭のご亭主のマルコさんによく似ている。この人が恐らく、マルコさんが兄貴って話してた、ビーチェさんの御父上だろう。弟のマルコさんはがっちりしてたが、この人は鍛え抜いて絞るだけ絞った細身の体型だ。
「パパー、ただいまー。」
「おう、お帰り、ビーチェ。」
「こんにちは。いきなり大人数で押し掛けてすみません。」
「ああ、それは構わねぇよ。おめぇさんがゲオルクさんかい?」
「え?俺のことをご存知で?」
「ああ、マルコから手紙が来てるんでな。何でも荒れてた海を静めたのはおめぇさんだってな。」
「正確にはこの子たち、精霊たちが海の魔物を追い払って静めたんですよ。」
「その精霊たちに、仕事をさせたのがおめぇさんなんだろ?」
「まぁ、そうですが…。」
「皆、難儀してたんだよ。ありがとうな。」
「いえ、どう致しまして。」
「名乗りが遅れたが、俺はピエトロ。ビーチェの父親だ。」
「改めましてゲオルクです。ビーチェさんにはお世話になってます。」俺に続いてお姉様方も挨拶したのだが…。
「ほう、うちのビーチェがあんたを世話したってか?」
え?今、御父上はぴくッとしたよな?眉間に縦じわが寄って、こめかみに血管が浮き上がったぞ!呼び方も「あんた」に変わったし…。
「パパ?」ビーチェさんも怪訝そうだ。
「で、今日は何の用だ?ビーチェをくれとでも言いに来やがったのか?」御父上は、明らかに不機嫌になっている。
「ちょっと、パパ!いきなり何言ってんの?」
「え?違うのか?マルコからの手紙にはそう書いてあったぞ。」
「叔父さん、なんて書いて来たの?」
「かいつまんで言うとだな、『ビーチェが筆おろしをしてやった若い男が、南部湾の荒れを静めた。そいつが近々、ビーチェを貰い受けに行くだろうから、兄貴は覚悟しておけ。』ってな内容だ。違うのか?」
筆おろしって…なるほど、それで「お世話になってます。」って言葉に、異様に反応した訳か。しかし、マルコさんめ、童貞って誤解させた件を逆手に取って、悪戯を仕掛けて来たな。まったくもう。
「違うよ!」え?ビーチェさん、違うってことはないよな。
「いえ、大体はそんなとこですが、貰い受けに来るのは俺がAランクになってからです。」
「ええー!ゲオっち、それってマジで言ってるの?」ビーチェさんが、自分の両頬に両手をあてがい、赤くなってもじもじしている。かわいい。笑
「俺はそのつもりだよ。」このひと言で、益々赤くなった。
「おい、てめえら、のろけてんじゃねぇ!じゃぁ今回は、いったい何しに来やがったんだ?」御父上のピエトロさんからのツッコミだ。
「今回は風の精霊を探しに来ました。古の風の精霊魔術師の出身地や、精霊と話せる人がいる場所ってご存知ないですか?」
「うーん知らねぇなぁ。なぁ、エンマ、知ってるか?」
「僕はエンマ。ビーチェの母親よ。僕の故郷ポリーナには、風の精霊魔術師が出たって言い伝えがあったわねぇ。」
あ!僕って言った。島の女の人は一人称に僕を使うってビーチェさんが言ってたな。あ、いや、今はそこじゃない!風の精霊の話が先だ。
「ポリーナってどこですか?」
「この島の山は双子山でしょ?東山と西山の間を南北に抜ける谷を風の谷と言うのよ。昼は外洋からの海風が、夜は本土からの陸風が吹き抜けるからなんだけど、ポリーナはその風の谷の入口の村よ。ラクシーサからは馬車で半日ね。」
「その風の谷には、風の精霊がいる可能性が高いですね。ポリーナには精霊と話せる人はいますか?」
「さあ、僕の知ってる範囲ではいないわ。」
「ただいまー。お?おー、姉貴じゃん。お帰りー。あれ、お客さん?って、あー、ひょっとしてあんたか?叔父貴が書いて寄越した物好きな男は!」
「ロレン!あんたまで、何言ってんの!」ビーチェさんがすかさず反応した。
「えー、だって姉貴に筆おろしされて、姉貴を貰いに来たんだろ?」
「違うわよ!」いや、そんなに違わないぞ。
「え?違うの?」
「今回は別件で来たけどね、そのうち貰いに来るよ。」
「ほらやっぱそうじゃん。でも若いねー。あんた、俺とタメぐらい?俺、ロレンツォ。昨日で22歳。」
「俺はゲオルク。20歳だ。」
「かー、マジかよ。年下義兄貴じゃん。なんか微妙に気まずいわ。
それにしても姉貴、5つも下ってなぁ、隅におけないねぇ。」
「ロレン、いい加減にしないとぶちのめすよっ!それに僕はまだ24歳だからね。」
「何言ってんの!もうすぐ25歳じゃんよ。ところで、姉貴。久々にやるか?」ふたりの眼が怪しく絡み合った。
決して険悪ではないけれども、なんか一触即発な雰囲気だ。
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設定を更新しました。R4/3/27
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
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