31 / 183
精霊の加護028 バースの打ち上げ花火
しおりを挟む
精霊の加護
Zu-Y
№28 バースの打ち上げ花火
リバプからバースへは、馬車で1日の行程なので、夕方にはバース伯爵様のお屋敷に着いた。
バース伯爵様のお屋敷では、なんと伯爵様に出迎えられた。と言うのも、実は俺たちが到着するちょっと前に、御正室様と御側室様も湯治から戻られていたのだ。伯爵様が御正室様と御側室様を出迎えた直後に俺たちが到着したので、そのまま出迎えてくれたらしい。笑
しばらくして、俺たちは謁見の間に呼ばれた。正面に伯爵様、両隣に御正室様と御側室様が座っている。
「父上様、ただいま戻りました。御正室様、母上様、お久しゅうございます。」
「うむ、大儀。
で、ゲオルクどの。そちらのお方かな?」
ベスさんの挨拶を、ひと言で受け流して、早速俺に話を振る伯爵様に、ベスさんはもとより、御正室様も御側室様も眉をしかめた。
「はい。フィアです。」取り敢えずこの場は返事をするしかないよな。
「おお、フィアどのと申されるか。ん…?」
御正室様が、横から伯爵様の袖を引いている。笑
「なんだな?今、ゲオルクどのと話しておるのだ。」御正室様が何かこそっと話すと、
「おお、そうであったな。
ゲオルクどの、許されよ。改めて紹介しよう。これなるがわが正室クラリス、そしてわが側室リンダじゃ。リンダはベスの生母でもある。
こちらがゲオルクどのじゃ。聞いて驚くなよ。ゲオルクどのは伝説の精霊魔術師よ。」
「「え?」」御正室様と御側室様が驚きの声を上げた。何も聞いてなかったようだ。と言うか、帰って来たばかりで聞いてる暇もなかったんだろうな。
「ゲオルクでございます。」俺が挨拶すると、御正室様と御側室様が微笑んで頷いた。見事に驚きから立ち直っていた。流石だ。
「ベス、お仲間の皆さんを紹介せよ。」伯爵様がベスさんに振った。
「はい。順に、リーゼロッテどの、ジュヌヴィエーヴどの、カルメンシータどのです。そして、ツリ、クレ、フィアです。」
リーゼさん、ジュヌさん、カルメンさんが挨拶すると、御正室様と御側室様は、俺のときと同じように笑顔で頷いた。しかしながら、当然ではあるが精霊3人は挨拶をしないどころか、関心すら示さない。ひたすら俺にまとわりついている。
「早速だが、ゲオルクどの、フィアどのの精霊魔法を見せてもらえるかな?」
「伯爵様、ここでご披露するのですか?何分属性は火ですので…。」
「そんなに強力なのか?小さい火の玉を出して消すぐらいかと思っておったのだが。」
「それでくらいでよろしいのでしたら。」俺がフィアにイメージを送ると、俺の頭の上に顔の大きさくらいの火の玉が出て、すぐ消えた。
「おお~、素晴らしい!」「「…。」」伯爵様は大喜びで、御正室様と御側室様は若干引いていた。
「ゲオルクどの、先程『それくらいでよろしいのでしたら。』と申していたな。いったいどれくらいの術を披露しようと考えていたのかな。」
「はぁ。庭からから空に向かって打ち上げようかと考えておりました。」
「面白い。庭へ参ろうぞ。」
まわりが止める間もなく、伯爵様は席を立って俺たちの所に歩いて来た。
「旦那様、お待ち下さい。」横で控えていたセバスさんが泡を食っている。護衛が伯爵様の後を追って来てまわりを囲んだ。ここは謁見の間だから、食堂とは違い、護衛もいるのだ。御正室様と御側室様はその場でおろおろしている。
「大丈夫だ。ゲオルクどのは身内ゆえな。」と言ってから、伯爵様がしまったと言うように、頭を掻いている。
俺がベスさんの婚約者と言うことは、まだ内々の話で公になっていない。ひょっとすると今のは確信犯かも。伯爵様は、言いたくてうずうずしてるようにも見受けられるしな。
結局庭では、伯爵様、御正室様、御側室様を取り巻くように護衛が囲んで、俺は離れたところに控えさせられた。
苦虫を噛み潰したような顔のセバスさんが、いかにも不機嫌そうに、
「ゲオルク様、始めて下され。」と言った。
流石に伯爵様の身の安全を考えれば、このセバスさんの反応は、無理からぬものではあるよな。
とは言え、どうもこのセバスさんと言う人は、俺のことがあまり気に入らないらしい。ふむ、それならば派手に度肝を抜いてやろう。
フィアにイメージを送るとフィアは満面に悪戯っ子の笑みを浮かべた。あ、心を読まれた。笑
次の瞬間、フィアがかなり大きな火球を派手に上空へと打ち上げ、空高くで破裂させた。ドーン!俺が送ったイメージよりもかなりでかい。フィアめ、やりやがったな。苦笑
伯爵様は大喜びだったが、御正室様と御側室様は抱き合って腰を抜かしているし、護衛たちは大慌てだ。流石にセバスさんは護衛たちを一喝して、すぐに統制を取り戻していた。
その後、大音響に度肝を抜かれた伯爵様のお屋敷の他のスタッフが、何事だと飛び出して来て、ちょっとしたパニックになったが、こちらもセバスさんが上手く取りまとめた。セバスさんは非常に優秀だ。
しばらくすると中心街から衛兵隊が血相を変えて駆け付けて来た。後から聞いたことだが、伯爵屋敷が何者かに爆破されたとか、内乱が起きたとか、いきなり奇襲を仕掛けられたとか、様々な噂が流れたようだ。
衛兵隊にもセバスさんが対応しているが、流石のセバスさんも、衛兵相手では手こずっているようだ。仕方ない、俺が責任を取るか。
「ですから伯爵様は無事ですし、ここでは爆発はしておりません。」対応するセバスさんに、衛兵隊の隊長らしき人が食い下がっている。
「しかしだな、セバスどの、私はこの目で爆発を見たのだ。」
「あー、隊長さんですか?すみませんね、俺はゲオルクと言います。伯爵様に招かれて来ていまして、さっきの爆発は俺の仕業です。」
さっと、衛兵が俺を取り囲む。
「ゲオルクと言ったな。事情を聞かせてもらえるか?」
「はい。実はバースの観光の目玉を増やせないかと伯爵様からご相談を受けまして、打ち上げ花火を提案したんですよ。」
「打ち上げ花火?なんだそれは。」
「火の精霊魔法です。火球を真上に打ち上げて上空で爆発させるのです。先程は少々魔力を放出し過ぎまして、お騒がせしました。」
「うーむ。」よし、隊長が考え込んだ。半信半疑と言った所だな。もうひと押しだ。
俺はフィアにイメージを送った。
「フィア、さっきの1/10でいいぞ。それ以上強くするなよ。」
『はーい。』
小さな火球が上空に打ちあがった。キュルキュルルー、ポンッ。
「なるほどな。しかしさっきのはこんなものではなかったぞ。」
「そうですね。いまのはさっきの1/10の魔力です。伯爵様にぜひ採用して頂こうと思いまして…、その力を入れ過ぎたと言うか、入れ込み過ぎて術の加減をしくじりました。」俺は頭を掻いて見せた。隊長は疑いから納得へシフトしつつある。
「しかしそのような計画は聞いておらんが。」
「そりゃそうですよ。何たって観光の目玉ですからね。噂になって他へ情報が漏れたらまずいじゃないですか。皆さんもこのことを口外したら、伯爵様からお咎めを受けますよ。口外無用ですからね。いいですか?」
「相分かった。」隊長は納得したようだ。
「大体セバスさんがはっきり仰らなかったのだって、皆さんを巻き込みたくなかったからですよ。極秘情報は知らなきゃ口外できませんからね。
いずれにせよ皆さんは極秘情報を知ってしまった訳です。うっかり漏らさないように気を付けて下さいね。特に酒場で一杯呑んだときとかは要注意ですからね。」
「うむ、確かにその通りだな。ご忠告かたじけない。
それからセバスどの、お心遣いを無にしてしまったようで誠に申し訳ない。」
「いや、隊長。よいのです。」
衛兵隊は中心街へ帰って行った。バース中心街は混乱していたが、しばらくすると衛兵隊が混乱を収めたそうだ。
「ゲオルク様、とっさの機転、このセバス、感服致しましたぞ。」
「いえ、俺が蒔いた種ですから。」
せっかくセバスさんが好意的な眼差しで見てくれたと言うのに、フィアが、
『ゲオルクー、お腹すいたー。』と言って、ぶっちゅーとやって来た。
セバスさんの好意的な眼差しが、みるみると白い眼に変わって行く。じきにフィアが赤く輝いた。まったくフィアったら、もう少しタイミングを考えて欲しいな。苦笑
夕餉はいつもの如く、伯爵様から食堂へ招かれた。今宵は、伯爵様の他、御正室様、御側室様も同席されているが、ふたりは先程の精霊魔法で腰を抜かしているので、俺と目を合わせたがらない。さり気なくスルーしているのが手に取るように分かる。一方、伯爵様は頗る上機嫌だ。
「ゲオルクどの、火の精霊魔法は実に見事であった。」
「ありがとうございます。」
「それからとっさの機転で衛兵隊の隊長を丸め込んだそうだな。あの融通の利かぬ頑固者を数分で丸め込むとは大したものよ。気難し屋のセバスも感心しておったわ。」
「恐れ入ります。」
「それにしてもベスよ。そなたが一番の大手柄ぞ。よくぞこんな良い男を見付けて来たものだ。やはり早々に婚約発表をしてはどうかな。」
「旦那様、今、何と仰せられました?」御側室様=ベスさんの母上様が反応した。
「ん、そうか。ふたりにはまだ話してなかったな。ベスがゲオルクどのを将来の婿として連れて来たのだ。」
「ベス!どう言うことです?」御側室様の口調が詰問調になった。
「母上様。父上様の仰る通りです。ゲオルクどのとは先頃出会って意気投合し、婚約しました。それゆえ父上様と御正室様と母上様に紹介すべくお連れしたのです。」
「何を言うのです。あなたにはしかるべき嫁ぎ先を父上様がお考えなのですよ。」
「わしはすでにゲオルクどのを婿として認めておるから問題ないぞ。」
「旦那様!」
「よいではないか。ゲオルクどのは何と言っても伝説の精霊魔術師なのだぞ。記録に残っておる精霊魔術師の出現からは数百年ぶりだ。そのことで王国は魔法学院を中心に大騒ぎになっておる。その精霊魔術師がわが家の婿どのだ。痛快ではないか!」
「旦那様、ベスの結婚相手をその様な理由でお決めになるのですか?」
「そうだ。女だてらに騎士団に入団したお転婆娘が、惚れた男を連れて来たのだぞ。ベスは、並の男では乗りこなせんじゃじゃ馬よ。政略結婚になど使って見よ、早々に離縁されてその家とは疎遠になるわ。」
「しかし、侯爵様のご次男様よりお話があったではありませんか?」
「ふん、あの腰抜けになど、ベスは勿体ないわ。」
「…。」御側室様が黙ってしまった。あの腰抜け、と言う伯爵様の評価に、同意なのだろうか。
「ゲオルクどのはな、ベスが気に入ってわしも気に入ったのだ。セバスも一目置いた。そなたは何が気に入らんのだ?」
「旦那様、そこまでお気に入りならなぜ早々に婚約を発表せぬのですか?」御正室様が話に入って来た。御側室様への助け舟だな。このふたりは本当に仲が良いようだ。
「そのことよ。ゲオルクどのがAランクになるまで待てとベスが申すのだ。」
「Aランクですか?ほとんどの者はなれぬそうですが?」
「わしはあっさりなると思うがの。ゲオルクどのの面構えがそう申しておる。」
「ゲオルクどのとやら。ひとつ聞きますぞ。ベス以外のお仲間も、みな妙齢な美人揃い。まさかとは思いますが皆に手を付けている訳ではありますまいな?」
流石、御正室様。鋭いところを突いて来やがる。こうなったら取り繕っても仕方ねぇな。
「はい、Aランクになったら全員口説き落とすつもりです。」
「わはははは。薄々そうかと思っておったが、この場で躊躇いもなく白状しおった。」伯爵様が豪快に笑った。
「なかなか肝が据わってますわね。」御正室様がニヤッと笑った。
「ベスも旦那様もそれでいいなら仕方ありませんわね。」御側室様が溜息をつきつつ同意した。
その後の会話は一気に穏やかになった。なんか試験でもされていたような気がするな。
夕餉の後は例によって伯爵様がアードベクの30年物を持って来させたのだが、中身の減り具合で毎晩俺と呑んでたことが、御正室様と御側室様にバレてしまった。
ふたりから小言を言われて、一生懸命言い訳をしている伯爵様が何ともかわいい。結局1杯だけと言うことで許してもらった。
その1杯を呑み干すと伯爵様は、御正室様と御側室様を伴って引き上げて行った。一瞬、3Pか?などと不謹慎なことを考えてしまう俺。
そしてその場はスピリタス呑みになった。
「さっきは御正室様の追及に、誤魔化すことなく全員口説くと言い切ったね。あたしゃ、ゲオルクのそう言う正直なとこ、好きだよ。」
「そうね。私も嬉しかったかな。」
「あの場でジタバタしても始まらないしね。って言うか聞かれた時点でバレてると思ったよ。」
「そうですわね。ゲオルクさんの正直さにご褒美を差し上げましょう。何か御所望はありますか?」
「そりゃもうご褒美と言ったら…。」ジーッとメロンボールを見つめる俺。
4連ぱふぱふの後、しばらく楽しく呑んで、今夜の呑み会は早めのお開きとなった。明日は北府に向かって出発するからな。
部屋では精霊たちが一緒だ。両隣にツリとクレ。腹の上にフィア。ま、軽いからいいけどね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/2/20
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№28 バースの打ち上げ花火
リバプからバースへは、馬車で1日の行程なので、夕方にはバース伯爵様のお屋敷に着いた。
バース伯爵様のお屋敷では、なんと伯爵様に出迎えられた。と言うのも、実は俺たちが到着するちょっと前に、御正室様と御側室様も湯治から戻られていたのだ。伯爵様が御正室様と御側室様を出迎えた直後に俺たちが到着したので、そのまま出迎えてくれたらしい。笑
しばらくして、俺たちは謁見の間に呼ばれた。正面に伯爵様、両隣に御正室様と御側室様が座っている。
「父上様、ただいま戻りました。御正室様、母上様、お久しゅうございます。」
「うむ、大儀。
で、ゲオルクどの。そちらのお方かな?」
ベスさんの挨拶を、ひと言で受け流して、早速俺に話を振る伯爵様に、ベスさんはもとより、御正室様も御側室様も眉をしかめた。
「はい。フィアです。」取り敢えずこの場は返事をするしかないよな。
「おお、フィアどのと申されるか。ん…?」
御正室様が、横から伯爵様の袖を引いている。笑
「なんだな?今、ゲオルクどのと話しておるのだ。」御正室様が何かこそっと話すと、
「おお、そうであったな。
ゲオルクどの、許されよ。改めて紹介しよう。これなるがわが正室クラリス、そしてわが側室リンダじゃ。リンダはベスの生母でもある。
こちらがゲオルクどのじゃ。聞いて驚くなよ。ゲオルクどのは伝説の精霊魔術師よ。」
「「え?」」御正室様と御側室様が驚きの声を上げた。何も聞いてなかったようだ。と言うか、帰って来たばかりで聞いてる暇もなかったんだろうな。
「ゲオルクでございます。」俺が挨拶すると、御正室様と御側室様が微笑んで頷いた。見事に驚きから立ち直っていた。流石だ。
「ベス、お仲間の皆さんを紹介せよ。」伯爵様がベスさんに振った。
「はい。順に、リーゼロッテどの、ジュヌヴィエーヴどの、カルメンシータどのです。そして、ツリ、クレ、フィアです。」
リーゼさん、ジュヌさん、カルメンさんが挨拶すると、御正室様と御側室様は、俺のときと同じように笑顔で頷いた。しかしながら、当然ではあるが精霊3人は挨拶をしないどころか、関心すら示さない。ひたすら俺にまとわりついている。
「早速だが、ゲオルクどの、フィアどのの精霊魔法を見せてもらえるかな?」
「伯爵様、ここでご披露するのですか?何分属性は火ですので…。」
「そんなに強力なのか?小さい火の玉を出して消すぐらいかと思っておったのだが。」
「それでくらいでよろしいのでしたら。」俺がフィアにイメージを送ると、俺の頭の上に顔の大きさくらいの火の玉が出て、すぐ消えた。
「おお~、素晴らしい!」「「…。」」伯爵様は大喜びで、御正室様と御側室様は若干引いていた。
「ゲオルクどの、先程『それくらいでよろしいのでしたら。』と申していたな。いったいどれくらいの術を披露しようと考えていたのかな。」
「はぁ。庭からから空に向かって打ち上げようかと考えておりました。」
「面白い。庭へ参ろうぞ。」
まわりが止める間もなく、伯爵様は席を立って俺たちの所に歩いて来た。
「旦那様、お待ち下さい。」横で控えていたセバスさんが泡を食っている。護衛が伯爵様の後を追って来てまわりを囲んだ。ここは謁見の間だから、食堂とは違い、護衛もいるのだ。御正室様と御側室様はその場でおろおろしている。
「大丈夫だ。ゲオルクどのは身内ゆえな。」と言ってから、伯爵様がしまったと言うように、頭を掻いている。
俺がベスさんの婚約者と言うことは、まだ内々の話で公になっていない。ひょっとすると今のは確信犯かも。伯爵様は、言いたくてうずうずしてるようにも見受けられるしな。
結局庭では、伯爵様、御正室様、御側室様を取り巻くように護衛が囲んで、俺は離れたところに控えさせられた。
苦虫を噛み潰したような顔のセバスさんが、いかにも不機嫌そうに、
「ゲオルク様、始めて下され。」と言った。
流石に伯爵様の身の安全を考えれば、このセバスさんの反応は、無理からぬものではあるよな。
とは言え、どうもこのセバスさんと言う人は、俺のことがあまり気に入らないらしい。ふむ、それならば派手に度肝を抜いてやろう。
フィアにイメージを送るとフィアは満面に悪戯っ子の笑みを浮かべた。あ、心を読まれた。笑
次の瞬間、フィアがかなり大きな火球を派手に上空へと打ち上げ、空高くで破裂させた。ドーン!俺が送ったイメージよりもかなりでかい。フィアめ、やりやがったな。苦笑
伯爵様は大喜びだったが、御正室様と御側室様は抱き合って腰を抜かしているし、護衛たちは大慌てだ。流石にセバスさんは護衛たちを一喝して、すぐに統制を取り戻していた。
その後、大音響に度肝を抜かれた伯爵様のお屋敷の他のスタッフが、何事だと飛び出して来て、ちょっとしたパニックになったが、こちらもセバスさんが上手く取りまとめた。セバスさんは非常に優秀だ。
しばらくすると中心街から衛兵隊が血相を変えて駆け付けて来た。後から聞いたことだが、伯爵屋敷が何者かに爆破されたとか、内乱が起きたとか、いきなり奇襲を仕掛けられたとか、様々な噂が流れたようだ。
衛兵隊にもセバスさんが対応しているが、流石のセバスさんも、衛兵相手では手こずっているようだ。仕方ない、俺が責任を取るか。
「ですから伯爵様は無事ですし、ここでは爆発はしておりません。」対応するセバスさんに、衛兵隊の隊長らしき人が食い下がっている。
「しかしだな、セバスどの、私はこの目で爆発を見たのだ。」
「あー、隊長さんですか?すみませんね、俺はゲオルクと言います。伯爵様に招かれて来ていまして、さっきの爆発は俺の仕業です。」
さっと、衛兵が俺を取り囲む。
「ゲオルクと言ったな。事情を聞かせてもらえるか?」
「はい。実はバースの観光の目玉を増やせないかと伯爵様からご相談を受けまして、打ち上げ花火を提案したんですよ。」
「打ち上げ花火?なんだそれは。」
「火の精霊魔法です。火球を真上に打ち上げて上空で爆発させるのです。先程は少々魔力を放出し過ぎまして、お騒がせしました。」
「うーむ。」よし、隊長が考え込んだ。半信半疑と言った所だな。もうひと押しだ。
俺はフィアにイメージを送った。
「フィア、さっきの1/10でいいぞ。それ以上強くするなよ。」
『はーい。』
小さな火球が上空に打ちあがった。キュルキュルルー、ポンッ。
「なるほどな。しかしさっきのはこんなものではなかったぞ。」
「そうですね。いまのはさっきの1/10の魔力です。伯爵様にぜひ採用して頂こうと思いまして…、その力を入れ過ぎたと言うか、入れ込み過ぎて術の加減をしくじりました。」俺は頭を掻いて見せた。隊長は疑いから納得へシフトしつつある。
「しかしそのような計画は聞いておらんが。」
「そりゃそうですよ。何たって観光の目玉ですからね。噂になって他へ情報が漏れたらまずいじゃないですか。皆さんもこのことを口外したら、伯爵様からお咎めを受けますよ。口外無用ですからね。いいですか?」
「相分かった。」隊長は納得したようだ。
「大体セバスさんがはっきり仰らなかったのだって、皆さんを巻き込みたくなかったからですよ。極秘情報は知らなきゃ口外できませんからね。
いずれにせよ皆さんは極秘情報を知ってしまった訳です。うっかり漏らさないように気を付けて下さいね。特に酒場で一杯呑んだときとかは要注意ですからね。」
「うむ、確かにその通りだな。ご忠告かたじけない。
それからセバスどの、お心遣いを無にしてしまったようで誠に申し訳ない。」
「いや、隊長。よいのです。」
衛兵隊は中心街へ帰って行った。バース中心街は混乱していたが、しばらくすると衛兵隊が混乱を収めたそうだ。
「ゲオルク様、とっさの機転、このセバス、感服致しましたぞ。」
「いえ、俺が蒔いた種ですから。」
せっかくセバスさんが好意的な眼差しで見てくれたと言うのに、フィアが、
『ゲオルクー、お腹すいたー。』と言って、ぶっちゅーとやって来た。
セバスさんの好意的な眼差しが、みるみると白い眼に変わって行く。じきにフィアが赤く輝いた。まったくフィアったら、もう少しタイミングを考えて欲しいな。苦笑
夕餉はいつもの如く、伯爵様から食堂へ招かれた。今宵は、伯爵様の他、御正室様、御側室様も同席されているが、ふたりは先程の精霊魔法で腰を抜かしているので、俺と目を合わせたがらない。さり気なくスルーしているのが手に取るように分かる。一方、伯爵様は頗る上機嫌だ。
「ゲオルクどの、火の精霊魔法は実に見事であった。」
「ありがとうございます。」
「それからとっさの機転で衛兵隊の隊長を丸め込んだそうだな。あの融通の利かぬ頑固者を数分で丸め込むとは大したものよ。気難し屋のセバスも感心しておったわ。」
「恐れ入ります。」
「それにしてもベスよ。そなたが一番の大手柄ぞ。よくぞこんな良い男を見付けて来たものだ。やはり早々に婚約発表をしてはどうかな。」
「旦那様、今、何と仰せられました?」御側室様=ベスさんの母上様が反応した。
「ん、そうか。ふたりにはまだ話してなかったな。ベスがゲオルクどのを将来の婿として連れて来たのだ。」
「ベス!どう言うことです?」御側室様の口調が詰問調になった。
「母上様。父上様の仰る通りです。ゲオルクどのとは先頃出会って意気投合し、婚約しました。それゆえ父上様と御正室様と母上様に紹介すべくお連れしたのです。」
「何を言うのです。あなたにはしかるべき嫁ぎ先を父上様がお考えなのですよ。」
「わしはすでにゲオルクどのを婿として認めておるから問題ないぞ。」
「旦那様!」
「よいではないか。ゲオルクどのは何と言っても伝説の精霊魔術師なのだぞ。記録に残っておる精霊魔術師の出現からは数百年ぶりだ。そのことで王国は魔法学院を中心に大騒ぎになっておる。その精霊魔術師がわが家の婿どのだ。痛快ではないか!」
「旦那様、ベスの結婚相手をその様な理由でお決めになるのですか?」
「そうだ。女だてらに騎士団に入団したお転婆娘が、惚れた男を連れて来たのだぞ。ベスは、並の男では乗りこなせんじゃじゃ馬よ。政略結婚になど使って見よ、早々に離縁されてその家とは疎遠になるわ。」
「しかし、侯爵様のご次男様よりお話があったではありませんか?」
「ふん、あの腰抜けになど、ベスは勿体ないわ。」
「…。」御側室様が黙ってしまった。あの腰抜け、と言う伯爵様の評価に、同意なのだろうか。
「ゲオルクどのはな、ベスが気に入ってわしも気に入ったのだ。セバスも一目置いた。そなたは何が気に入らんのだ?」
「旦那様、そこまでお気に入りならなぜ早々に婚約を発表せぬのですか?」御正室様が話に入って来た。御側室様への助け舟だな。このふたりは本当に仲が良いようだ。
「そのことよ。ゲオルクどのがAランクになるまで待てとベスが申すのだ。」
「Aランクですか?ほとんどの者はなれぬそうですが?」
「わしはあっさりなると思うがの。ゲオルクどのの面構えがそう申しておる。」
「ゲオルクどのとやら。ひとつ聞きますぞ。ベス以外のお仲間も、みな妙齢な美人揃い。まさかとは思いますが皆に手を付けている訳ではありますまいな?」
流石、御正室様。鋭いところを突いて来やがる。こうなったら取り繕っても仕方ねぇな。
「はい、Aランクになったら全員口説き落とすつもりです。」
「わはははは。薄々そうかと思っておったが、この場で躊躇いもなく白状しおった。」伯爵様が豪快に笑った。
「なかなか肝が据わってますわね。」御正室様がニヤッと笑った。
「ベスも旦那様もそれでいいなら仕方ありませんわね。」御側室様が溜息をつきつつ同意した。
その後の会話は一気に穏やかになった。なんか試験でもされていたような気がするな。
夕餉の後は例によって伯爵様がアードベクの30年物を持って来させたのだが、中身の減り具合で毎晩俺と呑んでたことが、御正室様と御側室様にバレてしまった。
ふたりから小言を言われて、一生懸命言い訳をしている伯爵様が何ともかわいい。結局1杯だけと言うことで許してもらった。
その1杯を呑み干すと伯爵様は、御正室様と御側室様を伴って引き上げて行った。一瞬、3Pか?などと不謹慎なことを考えてしまう俺。
そしてその場はスピリタス呑みになった。
「さっきは御正室様の追及に、誤魔化すことなく全員口説くと言い切ったね。あたしゃ、ゲオルクのそう言う正直なとこ、好きだよ。」
「そうね。私も嬉しかったかな。」
「あの場でジタバタしても始まらないしね。って言うか聞かれた時点でバレてると思ったよ。」
「そうですわね。ゲオルクさんの正直さにご褒美を差し上げましょう。何か御所望はありますか?」
「そりゃもうご褒美と言ったら…。」ジーッとメロンボールを見つめる俺。
4連ぱふぱふの後、しばらく楽しく呑んで、今夜の呑み会は早めのお開きとなった。明日は北府に向かって出発するからな。
部屋では精霊たちが一緒だ。両隣にツリとクレ。腹の上にフィア。ま、軽いからいいけどね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/2/20
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。
kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。
前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。
やばい!やばい!やばい!
確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。
だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。
前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね!
うんうん!
要らない!要らない!
さっさと婚約解消して2人を応援するよ!
だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。
※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。
糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る
犬飼春野
ファンタジー
「すまない、ヘレナ、クリス。ディビッドに逃げられた……」
父の土下座から取り返しのつかない借金発覚。
そして数日後には、高級娼婦と真実の愛を貫こうとするリチャード・ゴドリー伯爵との契約結婚が決まった。
ヘレナは17歳。
底辺まで没落した子爵令嬢。
諸事情で見た目は十歳そこそこの体格、そして平凡な容姿。魔力量ちょっぴり。
しかし、生活能力と打たれ強さだけは誰にも負けない。
「ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりしているわけじゃないの」
今回も強い少女の奮闘記、そして、そこそこモテ期(←(笑))を目指します。
*****************************************
** 元題『ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりとしているとは限りません』
で長い間お届けし愛着もありますが、
2024/02/27より『糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る』へ変更いたします。 **
*****************************************
※ ゆるゆるなファンタジーです。
ゆるファンゆえに、鋭いつっこみはどうかご容赦を。
※ 設定がハードなので(主に【閑話】)、R15設定としました。
なろう他各サイトにも掲載中。
『登場人物紹介』を他サイトに開設しました。↓
http://rosadasrosas.web.fc2.com/bonyari/character.html
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?
ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。
が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。
元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。
「やはり、魔王の仕業だったのか!」
「いや、身に覚えがないんだが?」
私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。
魔法のトランクと異世界暮らし
猫野美羽
ファンタジー
曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。
おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。
それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。
異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。
異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる──
◆◆◆
ほのぼのスローライフなお話です。
のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。
※カクヨムでも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる