精霊の加護

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精霊の加護009 ルードビッヒ教授との再会

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精霊の加護
Zu-Y

№9 ルードビッヒ教授との再会

「大司教様、何事ですかな。」
「教授、突然お呼び立てして申し訳ありません。こちらに見覚えはおありですか?」
「見覚えはありますな。しかし、仕事柄多くの若者と関わりますので名前までは…あ、君はもしやゲオルクか?」
「はい、教授。その節はお世話になりました。」
「いやいや、こちらこそ、君を研究対象として魔法学院に残してやりたかったが、あの頃の私は新米教授で力が及ばなかった。それにしても大きくなったな。見違えたぞ。」
「ありがとうごいざいます。」

「で、その子たちは?…なんと!いや、そんなはずは…。まさかな。」
「ほう、教授。まさかと仰いますと何か心当たりがおありですか?」
 教授はツリとクレをジーっと見ている。
「本来、私には見えるはずがないのだが、文献に出て来る契約精霊の第一形態のようだ。しかし、ふたりともゲオルクに付いているようだが、ふたりと言うのが解せん。」
「教授、流石ですね。お見事です。」
 大司教様が教授を褒めてるが、大司教様だってしっかり見抜いてたよね。笑

「教授、ふたりとも俺と契約した精霊です。」
「まさかそんな!ゲオルク、どう言うことだ?」
「教授、まあお掛け下さい。3人で夕餉でも頂きながらゆっくり話しましょう。」
「夕餉?ああ、そうか、頂こう。
 しかしゲオルク、夕餉が来るまでに説明できるところまで説明してくれたまえ。」
「俺の魔力量のせいです。契約者は、契約した精霊に自分の魔力を供給し続けます。人よりちょっと多いくらいの魔力量では、精霊との契約を維持できませんが、相当多い者だけが精霊との契約を維持できるんです。俺は、魔力量だけは桁違いですから複数の精霊と契約できる訳です。」
「そんなことはどの文献にも書いておらん。それが本当なら、精霊魔術師の常識を覆えす大発見だぞ。」
「教授、落ち着いて下され。文献にないのは、マルチな精霊魔術師が存在しなかったか、研究対象ではなかったと言うことではないですか?」
「確かにそうだ。大司教様の言う通りだが、俄かには信じられん。」

「ゲオルク、あの鉢植えの植物で先程のを教授に見せて差し上げなさい。それから軽い地震もな。大きいのはダメだぞ。教会が倒壊したら大事件になってしまう。」
 大司教様が茶目っ気たっぷりに笑っている。
「はい。大司教様。
 ツリ、あの鉢植えの植物を伸ばすぞ。でも伸ばし過ぎるなよ。」
『うん。』植物が倍くらいまで急に伸びた。
「おおお、素晴らしい。」教授は鉢植えの植物まで飛んで行って、植物を触っている。笑
「クレ。さっきぐらいの軽いのな。」
『うん。』
「地震だ!こんな大事なときに何と言うことだ。
 …早々に、収まったか。」

「教授、これでゲオルクがマルチな精霊魔術師であることが分かりましたか?」
「なんと!ゲオルク、植物だけでなく地震も君の仕業か?」
「いや、俺じゃなくて精霊です。」
「君の契約精霊がやったのなら君がやったのと同じことだ。
 植物と地震は、君たちがやったのだな!」教授がツリとクレに詰め寄る。
『『…。』』ふたりとも俺の後ろに隠れてしまった。
「教授、すみません。人見知りが激しいので、それ以上はご容赦下さい。」
「あ、そうか。すまん。」
「教授、私も口を利いてもらえんのです。ところで、今日、お呼び立てした理由はもうお分かりですね。」
「大司教様、よくぞ私を招いて下さった。素晴らしい!
 ゲオルク、明日から魔法学院に来てくれ。君は復学だ。大体、10年前だって、私が主張した通りに君を研究対象として残しておればよかったのだ。ああ、この10年、無駄にしてしまった。何と言う損失だ!」

「しかし、また反対に遭ったりしませんか?」
「何を言う。10年前の私とは違うぞ。もう新米教授ではないのだ。私が強硬に主張すれば、反対する者などおらん。
 それに君が今の精霊魔法を行使すれば一発ではないか。それでも言うことを聞かなければ反対する教授の研究棟を地震で潰してやればいいのだ。」
「教授、落ち着いて下され。」暴走する教授を大司教様が楽しそうに宥めている。
「とにかく一刻も早くこの失われた10年を取り戻さねばならん。」

 コンコン。ノックの音がした。
「大司教様、お食事の用意ができました。」
「ああ、では準備を頼みます。」
 給仕さんたちが夕餉のセットを始めた。その丁寧さに、教授は明らかにイライラしている。笑
「君たち、何をぐずぐずしとるのだ。料理は適当に置いて早く出て行ってくれたまえ。重要な会議を中断しているのだぞ。」
「申し訳ありません。」
「まぁまぁ、教授。
 君たちもすみませんね。教授に悪気はないのです。」
「はい、大司教様。」
 そして給仕さんたちは急いで夕餉のセッティングをして出て行った。

 席に着くところで、精霊ふたりが話し掛けて来た。
『ゲオルク、ツリも、ごはんー。』『クレも、ごはんー。』
「ああ、ごめんごめん。」ふたりに順番にキスすると、ふたりの体が緑色と橙色に光った。
「なんと!」
「魔力は体液に含まれているので、俺はキスで唾液から魔力を与えています。魔力が満タンになると精霊は光ります。」
「ゲオルク、また大発見だ。魔力が満タンになると精霊は光ると言う事実は知られていたが、魔力の供給方法はどの文献にも、具体的に記載されていないのだ。そうか、キスか。」教授はメモを取り出した。笑
「教授、この後は夕餉を摂りながらにしませんか?」大司教様が微笑みながら教授に言った。

 俺たちは席に着いた。大司教様が感謝のお祈りを始める。流石にいくら教授でも、大司教様のお祈りに対して早くしろとは言わなかった。
「教授、ゲオルクを魔法学院に戻すにあたり、ひとつ条件があるのです。」
「承知しました。条件はすべて飲みます。」
「まだ何も言ってませんが。」大司教様は呆れて笑っている。
「ゲオルクが来てくれるなら、何でも聞きますぞ。それで条件とは何ですかな?」
「魔法学院にある、精霊魔法に関する情報をすべてゲオルクに教えて欲しいのです。」
「そんなのお安い御用です。いずれにせよ、今までの情報がすべて合っているのかも吟味しなくてはなりませんからな。ひとつひとつゲオルクに聞かねばなりません。
 で、ゲオルクは何が知りたいのだ?私が知ってることなら今からでも教えてやるぞ。」
「他にも契約できる精霊を探したいので、その手掛かりを知りたいのです。俺の村の神父さんが言うには、過去に精霊魔術師が出た場所は、自然の魔力が高いはずだから、その近辺で特大精霊を見付けやすいだろうと仰るのです。」
「待て。その特大精霊と言うのは何だ?」俺の質問に答えてくれるんじゃなかったのかよ。笑

「精霊は普段は光の珠で、そこら中に浮遊してます。力が強い精霊程、その光の珠が大きいのです。普通の精霊はこのくらいで…、」
 俺は一旦話を区切り、人差指と親指で丸を作った。
「…、話せませんが、こちらの話や思念は理解できますし、精霊の感情も伝わってきます。」
「なるほどな。」教授またはメモを取り出した。食事はいいんかい?笑
「大きい精霊はこれくらいで…、」
 俺は両手でひとつの丸を作った。
「…、二言三言、話せます。幼子の話し方をイメージして下さい。もちろんこちらの話も思念も理解します。
 そして特大の精霊はひと抱えもある大きさです。特大精霊は、ゆっくりですが普通に会話ができます。」
「ふむ、興味深いな。その特大精霊が契約できるのだな?しかしひと抱えの大きな光の珠が、どうして第一形態になるのだ?」
「先程も気になったのですが、第一形態って何ですか?」
「今、ゲオルクの精霊は幼子であろう。それを第一形態と言うのだ。」
「では第二第三もあるのですか?」
「ある。後で話すから、まず私の質問に答えてくれ。」教授は完全にスイッチが入ってしまった。笑

「はぁ。この緑色の精霊はツリと言うんですが、魔法学院を除籍になって東府からラスプ村に帰ってすぐ、森で出会いました。木の精霊です。
 最初は特大の光の珠でしたが、そのうち人型になったり珠に戻ったりするようになり、私が冒険者になる頃には人型で安定しました。」
「ゲオルクが魔法学院に来たのは確か10歳だったな。冒険者になれるのは15歳だから、人型が安定するのに5年掛ったのだな。」
「はい。」
 いつの間にか大司教様も俺の話に聞き入っている。
「で、そのとき、契約したのか?」
「いえ、人型は安定してましたが、完全な実体化がまだでしたので、契約できませんでした。」
「契約には実体化が必要なのだな。」
「契約の儀式は濃厚なキス、いわゆるべろちゅーなんですが、実体化してないとすり抜けるのです。」
「なるほど。それは道理だ。」

「この橙色の精霊はクレと言いますが、約1ヶ月前に西府の近郊の草原で出会った土の精霊です。出会ったときには、すでに第一形態で実体化してましたので、すぐに契約できました。
 クレとの契約直後に西府を出て、約半月掛けてラスプ村に戻り、10日くらい前にツリと契約しました。」
「結局、ツリは実体化には何年掛かったのだ?」
「実体化できてから俺との契約まで1年半待ったと言ってましたから人型が安定してから3年ですね。」
「なるほどな。実に興味深い!今日は大収穫だ。」

 一段落ついて俺たちは夕餉を摂り始めた。夕餉には教会で作ってるビールも出たが、俺の好きなヴァイツェンで、非常に旨かった。東府教会は、東部公爵領では最古のビールの醸造所だそうだ。

「教授、第二第三形態の事を教えて下さい。」
「ああ、そうであったな。契約した精霊の取り得る形態は第五形態まである。要は冒険者のランクアップと同じで、経験を積むと成長するのだ。人のように徐々に背が伸びて行く成長の仕方ではなく、その形態での経験値が最大になれば次の形態に進化するのだ。」
「見た目は変わるんですか?」
「ああ、変わるぞ。第一形態は幼女であろう?見た目は4~5歳と言ったところか。第二形態はいわば10歳くらいの初潮前の少女だな。第三形態は13~14歳で、多少胸が膨らんで来たくらいの少女と女の間、第四形態は16~17歳の若い女、早熟の果実と言ったところか。第五形態は20歳くらいの大人の女で、こちらは完熟だ。」
「それは何とも楽しみな。」いやあ、テンション上がる♪
「ただな、経験値を上げさせないとそのまんまだぞ。」
「経験値はどうやったら上がるんですか?」
「それは精霊魔法を使うことに決まってるではないか。」
「ですよねー。」何を馬鹿な質問をしてるんだ。俺は!汗

 ツリとクレがリーゼさんのようになるのか。これはどんどん魔法を使わせて、経験値を貯めさせなければ。
 待てよ、成長したら服装も今の貫頭衣ではダメだな。しかしふたりとも、服を着る習慣がない精霊だけあって、服は窮屈で嫌いだと言っていた。結局、慣らしていくしかないな。

「ゲオルク、それとな、形態が進むともちろん精霊魔法の威力も強くなるが、契約維持に必要な魔力が増えるぞ。」
「どんな感じで、強くなったり増えたりするんですか?いきなり倍になるとかですかね?」
「それは分からん。文献には、魔法の威力が強くなるとか、必要な魔力が増えるとしか書いておらんからな。
 まぁ常識的に考えて、見た目が一気に変わるのだから、魔法の威力も契約維持に必要な魔力も、じわじわとではなく一気に変わるのではないかな。それも研究テーマだな。」
「はぁ。」

「今でもかなりの威力があるのにまだ強くなるのですか?」大司教様が考え込んでしまった。
「大司教様、俺は決して邪な使い方はしませんから安心して下さい。」
「ゲオルク、そなたは御師様の薫陶を受けており心根も素直ゆえ、心配しておらんよ。そなたではなくまわりがな。」
「そうですな、大司教様と私でしっかり気を配らねばなりませんな。」
「そしてどのタイミングで公爵様に報告をするかです。公爵様に報告すれば必ず王家に伝わります。」
 公爵様とは東府にお住いで東部全域を治められている東部公爵様だ。

「そうですな。しかし報告しない訳にはいかんでしょうな。」
「教授、魔法学院での研究は秘密裏に行えませんか?」
「そうですな。研究自体は秘密裏に行っても、研究成果は皆で共有しないといけません。秘密裏にできるのは、研究成果をまとめて発表するまでです。知識は皆で共有するものであって、一部で独占していいものではありませんからな。」
「研究が一段落ついて、教授が論文をまとめるまでの間に、公爵様へ報告しましょう。ゲオルクには、公爵様へ報告する前に東府を発ってもらえば、公爵様がお召しになることはできますまい。
 それともゲオルクは公爵様に仕えるか?」
「いえ、他の特大精霊とも契約したいので、冒険者のままで特大精霊を探す旅をします。」
「そうであったな。」

「教授、そう言う訳で、研究はなるべく短期間でお願いします。」
「ふむ。ある程度の成果を得られたら一旦発表するとしよう。その代わり、定期的に帰って来てくれよ。そのとき、新たな精霊と契約してたらなおよいのだがな。いや、かといって新しい精霊と契約するまで長い間帰ってこないのは困るぞ。3ヶ月くらいしたら取り敢えず帰って来てくれ。」
「はぁ。」

 縛られるのはちょっと勘弁だが、そう言ったら開放してもらえなくなるので、曖昧に頷いておいた。まぁ、帰って来られるようなら帰って来ればいいだろ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/541586735
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