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精霊の加護005 村長からの依頼
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精霊の加護
Zu-Y
№5 村長からの依頼
弓の手入れは午前中で終わった。午後になって雨が小降りになって来たので、俺は教会へと向かった。
教会には村長さん宅の小僧さんがいて、俺の来訪を見届けると村長さん宅へ走って行った。間もなく村長さんがやって来るのか。気が重い。
「ゲオルク、よう来たの。大司教様への紹介状を書いておいたぞ。」
「わざわざありがとうございました。ところで神父さんは、大司教様の御師匠様でしたよね?何か伝言とかあったら伝えますよ?」
「おお、それはすまんの。『体に気を付けてな。』と伝えてくれるか?」
「はい。」
「ところで神父さん、村長さんが俺に用があるようなんですが何か聞いてます?」
「村長がか?なんじゃろの?
うーん、実は教会の屋根が傷んどっての、雨漏りするから村長に修理のための寄進を頼んどったんじゃがなしの礫での。昨日のゲオルクの寄進で賄うことにしたんじゃが、村長にその話をしてしもうた。
ゲオルクに礼を言うだけならよいが、村にも寄付をせいと言うのじゃったら、申し訳ないのう。そのときはわしが断ってやるでの。
それからその子たちの話はしておらんで、そっちの心配はせんでええ。」
「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします。もっとももう寄付する分は残ってないですけどね。」
そうこうしてるうちに村長がやって来た。
「ゲオルク、すまんな。待たせたか?」
「待ってませんよ。ちょうど今、神父さんとのお話が終わったとこです。待つつもりなど最初からありません。」
「手厳しいな。神父さん、部屋を貸してくださらんか。」
「お安い御用じゃ。」
神父さんに案内されて、村長さんと俺は教会の談話室に入った。
「よっこらせ。」神父さんは俺の隣、村長の斜め向いに腰掛けた。
「ゲオルクに頼まれたでの、同席するぞ。村長さん、用件はなんじゃな?」
「ゲオルクとふたりで話したいんですが?」
「俺が神父さんに同席をお願いしたんです。難しい話なら相談しなけりゃいけませんしね。」
「しかし。」
「神父さんに聞かれてまずい話なら、お断りします。それでは。」
「待て待て。神父さんが同席しても構わんから。」
「では、村長さん。用件は何です。」
「まずは教会への寄進の礼だよ。本当にありがとうな。」
「いえいえ、神父さんには大恩がありますから。村人から詐欺師扱いされたときに庇って頂いてどれほど救われたことか。」
「その節は力になれないですまなんだ。」村長さんが詫びた。
「村長さん、そのことは今更いいですよ。神父さんと家族以外はこの村に、興味ありませんし。悪い思い出が多いのでこの村には愛着もないですしね。」
「それを言われると辛いな。」
「で、用件はお礼を言うことですか?それならもうお話は終わりですかね?」
「いや、言いにくいんだが、村の財政が厳しくてな。」
「お断りします。実は寄付したくてももう余裕がないんですよ。残りはこれからの冒険の路銀です。もっとも余裕があってもこの村への寄付は断りますがね。」
「そこを何とか。」
「何ともなりませんよ。この村に愛着があれば無理もしますが、イジメられてハブられた思い出しかありませんので。」
「それは申し訳なかったと言ってるではないか。」
「だからいいですって。謝られても許す気はありませんから。関わらないでください。これで話は終わりですか?」
「いや、もうひとつある。ゲオルクは魔法が使えるようになったのか?」
「相変わらず使えませんよ。俺が魔法を使えないことは、村中が知ってるでしょう?何せそれが原因で、村でイジメ抜かれましたからね。」
「昨日、ゲオルクが家の裏の畑を魔法で耕して、さらに魔法で瞬時に作物を育てたのを見た者がおるのだ。」
「それは精霊ですよ。たまたま土の精霊と木の精霊がいたのでお願したらやってくれました。」
「村の畑でもやってくれんか?」
「無理ですね。精霊は気まぐれですから。昨日はたまたま機嫌がよくてやってくれたんですよ。」実際は、頼んだら何でもやってくれるけどね。
「頼んでみるだけでもお願いできんか?」
「そもそも村の連中は精霊を信じてないでしょう?信じない者に精霊が加護をくれる訳ないじゃないですか。」
「何とかならんか?」
「なりませんよ。村の連中が俺をイジメたもうひとつの原因は、俺が精霊と話してるところを気味悪がったせいじゃありませんか。精霊はそのことを覚えてますからね。この村の実りが悪いなら精霊がまだ怒ってるんじゃないですか?」
「精霊にとりなしてくれんか?」
「嫌ですよ。村の味方なんかしたら、俺まで精霊に嫌われるじゃないですか。」
「しかし村も苦しいのだ。」
「俺の知ったことではありませんよ。何なら祠でも立てて精霊を祭ったらどうです?毎年収穫物の何割かをお供えすれば、そのうち精霊から許してもらえるんじゃないですか?」
「頼むこの通りだ。」村長は土下座した。
「村長さん、頭を上げてください。無理なものは無理です。きっぱりお断りします。それに俺は村を出た人間ですので、村に未練はありません。この村にたまに帰る理由は、神父さんと家族がいるからです。」
「これだけ頼んでもダメか。」
「ダメですね。できない頼みは聞けません。仮にできてもこの村のためにはやりませんがね。」
「お前が村を出ても家族はこの村で過ごすんだぞ。いいのか?」
「村長さん、それは脅しに聞こえますよ。ちなみに今、村に富をもたらしてるのは父さんの狩りの獲物ですよね?今の話をしたら、家族もこの村を出ますよ。父さんの腕があれば、どこの村でも優秀な狩人としてやって行けますからね。いいんですか?」
「くっ。申し訳ない。」
「それから今の脅迫まがいの台詞、俺の友達の精霊が聞いていたら、まずいですよ。今夜あたり、村長さん宅だけ地震で潰れたりして。」
「え?」
「精霊に許しを乞うてくださいね。では、これでお話は終わりです。お引き取りを。」
俺をいいように利用できないと分かった村長さんは、とぼとぼと教会から出て行った。
「ゲオルク、見事じゃ。わしが付いてなくてもよかったの。」
「神父さん、今夜、村長さんとこの納屋が地震で潰れます。あそこに寝泊まりしてる使用人や家畜はいますかね。」
「おらんはずじゃが、ゲオルク、それは勘弁してやってくれんか?」
「神父さん、お赦しを。家族を守るためです。俺にちょっかい出して来たら何倍もの報復を受けるって、きっちり脅しておかないと。」
「ま、それもそうじゃのう。それにしてもあのおとなしかったゲオルクが冒険者になって逞しくなったのう。」
教会からの帰りに村長宅へ寄った。せめてもの情けだ。重要な話があると言って、村長さんを玄関先まで呼び出した。
村長さんは俺の来訪に期待に満ちた顔で玄関まで迎えに出て来た。
「ゲオルク、遠慮するな。中に入れ。」
「村長さんの家など入りたくありませんよ。ここで結構。せめてもの情けで寄りました。
村長さんが俺を脅したのを精霊が聞いてましてね、今宵、村長さんの家を潰すと言うのです。」
「なんだと!」
「とりなしてはみたんですが、それなら母屋は許してやるが納屋だけは潰すと言うんですよ。納屋に貴重品があったらすぐに運び出してください。あと、使用人や家畜も、今宵は納屋で寝かすことがないようにしてください。」
「ゲオルク、すまなかった。頼む。助けてくれ。」
「助けたじゃないですか。母屋が残るだけでも感謝してくださいよ。
これに懲りて、二度とうちの家族に手を出すようなことを口走らないでくださいね。うちには守りの精霊が付いてますんで。うちの為と言うよりは、村長さんの為ですよ。」これは張ったりだが。笑
その夜、父さんも母さんもアルも寝静まってから俺達は動いた。
「ツリ、クレ、行くぞ。」
『外に、人がいる。』
『3人、バラバラで、見張ってる。』
「ツリ、3人のまわりに眠草を生やせるか?」俺はイメージを送った。
『生やせる。』
ちょっと経ってからツリが言った。
『3人とも、眠った。』
「よし。出動。」
もちろん村長さん宅にまでは行かない。家から村長さん宅までの1/3も行けば大きな村長さん宅は見えて来る。
「おーお、篝火焚いて警戒してるよ。攻め込まれる訳でもないのにな。」
篝火のお陰で遠目から納屋が視認できた。こりゃ却って好都合だ。
『ここから、やる?』
「クレ、納屋だけだぞ。」俺はイメージを送った。
納屋が大きく揺れ、次の瞬間に倒壊した。ミッションコンプリート♪
俺達は家に帰ってゆっくり寝た。ベッドの中ではツリとクレに、使った分の魔力を補給して満タンにした。ふたりともきれいに輝いていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/541586735
Zu-Y
№5 村長からの依頼
弓の手入れは午前中で終わった。午後になって雨が小降りになって来たので、俺は教会へと向かった。
教会には村長さん宅の小僧さんがいて、俺の来訪を見届けると村長さん宅へ走って行った。間もなく村長さんがやって来るのか。気が重い。
「ゲオルク、よう来たの。大司教様への紹介状を書いておいたぞ。」
「わざわざありがとうございました。ところで神父さんは、大司教様の御師匠様でしたよね?何か伝言とかあったら伝えますよ?」
「おお、それはすまんの。『体に気を付けてな。』と伝えてくれるか?」
「はい。」
「ところで神父さん、村長さんが俺に用があるようなんですが何か聞いてます?」
「村長がか?なんじゃろの?
うーん、実は教会の屋根が傷んどっての、雨漏りするから村長に修理のための寄進を頼んどったんじゃがなしの礫での。昨日のゲオルクの寄進で賄うことにしたんじゃが、村長にその話をしてしもうた。
ゲオルクに礼を言うだけならよいが、村にも寄付をせいと言うのじゃったら、申し訳ないのう。そのときはわしが断ってやるでの。
それからその子たちの話はしておらんで、そっちの心配はせんでええ。」
「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします。もっとももう寄付する分は残ってないですけどね。」
そうこうしてるうちに村長がやって来た。
「ゲオルク、すまんな。待たせたか?」
「待ってませんよ。ちょうど今、神父さんとのお話が終わったとこです。待つつもりなど最初からありません。」
「手厳しいな。神父さん、部屋を貸してくださらんか。」
「お安い御用じゃ。」
神父さんに案内されて、村長さんと俺は教会の談話室に入った。
「よっこらせ。」神父さんは俺の隣、村長の斜め向いに腰掛けた。
「ゲオルクに頼まれたでの、同席するぞ。村長さん、用件はなんじゃな?」
「ゲオルクとふたりで話したいんですが?」
「俺が神父さんに同席をお願いしたんです。難しい話なら相談しなけりゃいけませんしね。」
「しかし。」
「神父さんに聞かれてまずい話なら、お断りします。それでは。」
「待て待て。神父さんが同席しても構わんから。」
「では、村長さん。用件は何です。」
「まずは教会への寄進の礼だよ。本当にありがとうな。」
「いえいえ、神父さんには大恩がありますから。村人から詐欺師扱いされたときに庇って頂いてどれほど救われたことか。」
「その節は力になれないですまなんだ。」村長さんが詫びた。
「村長さん、そのことは今更いいですよ。神父さんと家族以外はこの村に、興味ありませんし。悪い思い出が多いのでこの村には愛着もないですしね。」
「それを言われると辛いな。」
「で、用件はお礼を言うことですか?それならもうお話は終わりですかね?」
「いや、言いにくいんだが、村の財政が厳しくてな。」
「お断りします。実は寄付したくてももう余裕がないんですよ。残りはこれからの冒険の路銀です。もっとも余裕があってもこの村への寄付は断りますがね。」
「そこを何とか。」
「何ともなりませんよ。この村に愛着があれば無理もしますが、イジメられてハブられた思い出しかありませんので。」
「それは申し訳なかったと言ってるではないか。」
「だからいいですって。謝られても許す気はありませんから。関わらないでください。これで話は終わりですか?」
「いや、もうひとつある。ゲオルクは魔法が使えるようになったのか?」
「相変わらず使えませんよ。俺が魔法を使えないことは、村中が知ってるでしょう?何せそれが原因で、村でイジメ抜かれましたからね。」
「昨日、ゲオルクが家の裏の畑を魔法で耕して、さらに魔法で瞬時に作物を育てたのを見た者がおるのだ。」
「それは精霊ですよ。たまたま土の精霊と木の精霊がいたのでお願したらやってくれました。」
「村の畑でもやってくれんか?」
「無理ですね。精霊は気まぐれですから。昨日はたまたま機嫌がよくてやってくれたんですよ。」実際は、頼んだら何でもやってくれるけどね。
「頼んでみるだけでもお願いできんか?」
「そもそも村の連中は精霊を信じてないでしょう?信じない者に精霊が加護をくれる訳ないじゃないですか。」
「何とかならんか?」
「なりませんよ。村の連中が俺をイジメたもうひとつの原因は、俺が精霊と話してるところを気味悪がったせいじゃありませんか。精霊はそのことを覚えてますからね。この村の実りが悪いなら精霊がまだ怒ってるんじゃないですか?」
「精霊にとりなしてくれんか?」
「嫌ですよ。村の味方なんかしたら、俺まで精霊に嫌われるじゃないですか。」
「しかし村も苦しいのだ。」
「俺の知ったことではありませんよ。何なら祠でも立てて精霊を祭ったらどうです?毎年収穫物の何割かをお供えすれば、そのうち精霊から許してもらえるんじゃないですか?」
「頼むこの通りだ。」村長は土下座した。
「村長さん、頭を上げてください。無理なものは無理です。きっぱりお断りします。それに俺は村を出た人間ですので、村に未練はありません。この村にたまに帰る理由は、神父さんと家族がいるからです。」
「これだけ頼んでもダメか。」
「ダメですね。できない頼みは聞けません。仮にできてもこの村のためにはやりませんがね。」
「お前が村を出ても家族はこの村で過ごすんだぞ。いいのか?」
「村長さん、それは脅しに聞こえますよ。ちなみに今、村に富をもたらしてるのは父さんの狩りの獲物ですよね?今の話をしたら、家族もこの村を出ますよ。父さんの腕があれば、どこの村でも優秀な狩人としてやって行けますからね。いいんですか?」
「くっ。申し訳ない。」
「それから今の脅迫まがいの台詞、俺の友達の精霊が聞いていたら、まずいですよ。今夜あたり、村長さん宅だけ地震で潰れたりして。」
「え?」
「精霊に許しを乞うてくださいね。では、これでお話は終わりです。お引き取りを。」
俺をいいように利用できないと分かった村長さんは、とぼとぼと教会から出て行った。
「ゲオルク、見事じゃ。わしが付いてなくてもよかったの。」
「神父さん、今夜、村長さんとこの納屋が地震で潰れます。あそこに寝泊まりしてる使用人や家畜はいますかね。」
「おらんはずじゃが、ゲオルク、それは勘弁してやってくれんか?」
「神父さん、お赦しを。家族を守るためです。俺にちょっかい出して来たら何倍もの報復を受けるって、きっちり脅しておかないと。」
「ま、それもそうじゃのう。それにしてもあのおとなしかったゲオルクが冒険者になって逞しくなったのう。」
教会からの帰りに村長宅へ寄った。せめてもの情けだ。重要な話があると言って、村長さんを玄関先まで呼び出した。
村長さんは俺の来訪に期待に満ちた顔で玄関まで迎えに出て来た。
「ゲオルク、遠慮するな。中に入れ。」
「村長さんの家など入りたくありませんよ。ここで結構。せめてもの情けで寄りました。
村長さんが俺を脅したのを精霊が聞いてましてね、今宵、村長さんの家を潰すと言うのです。」
「なんだと!」
「とりなしてはみたんですが、それなら母屋は許してやるが納屋だけは潰すと言うんですよ。納屋に貴重品があったらすぐに運び出してください。あと、使用人や家畜も、今宵は納屋で寝かすことがないようにしてください。」
「ゲオルク、すまなかった。頼む。助けてくれ。」
「助けたじゃないですか。母屋が残るだけでも感謝してくださいよ。
これに懲りて、二度とうちの家族に手を出すようなことを口走らないでくださいね。うちには守りの精霊が付いてますんで。うちの為と言うよりは、村長さんの為ですよ。」これは張ったりだが。笑
その夜、父さんも母さんもアルも寝静まってから俺達は動いた。
「ツリ、クレ、行くぞ。」
『外に、人がいる。』
『3人、バラバラで、見張ってる。』
「ツリ、3人のまわりに眠草を生やせるか?」俺はイメージを送った。
『生やせる。』
ちょっと経ってからツリが言った。
『3人とも、眠った。』
「よし。出動。」
もちろん村長さん宅にまでは行かない。家から村長さん宅までの1/3も行けば大きな村長さん宅は見えて来る。
「おーお、篝火焚いて警戒してるよ。攻め込まれる訳でもないのにな。」
篝火のお陰で遠目から納屋が視認できた。こりゃ却って好都合だ。
『ここから、やる?』
「クレ、納屋だけだぞ。」俺はイメージを送った。
納屋が大きく揺れ、次の瞬間に倒壊した。ミッションコンプリート♪
俺達は家に帰ってゆっくり寝た。ベッドの中ではツリとクレに、使った分の魔力を補給して満タンにした。ふたりともきれいに輝いていた。
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