精霊の加護

Zu-Y

文字の大きさ
上 下
8 / 183

精霊の加護005 村長からの依頼

しおりを挟む
精霊の加護
Zu-Y

№5 村長からの依頼

 弓の手入れは午前中で終わった。午後になって雨が小降りになって来たので、俺は教会へと向かった。
 教会には村長さん宅の小僧さんがいて、俺の来訪を見届けると村長さん宅へ走って行った。間もなく村長さんがやって来るのか。気が重い。

「ゲオルク、よう来たの。大司教様への紹介状を書いておいたぞ。」
「わざわざありがとうございました。ところで神父さんは、大司教様の御師匠様でしたよね?何か伝言とかあったら伝えますよ?」
「おお、それはすまんの。『体に気を付けてな。』と伝えてくれるか?」
「はい。」

「ところで神父さん、村長さんが俺に用があるようなんですが何か聞いてます?」
「村長がか?なんじゃろの?
 うーん、実は教会の屋根が傷んどっての、雨漏りするから村長に修理のための寄進を頼んどったんじゃがなしの礫での。昨日のゲオルクの寄進で賄うことにしたんじゃが、村長にその話をしてしもうた。
 ゲオルクに礼を言うだけならよいが、村にも寄付をせいと言うのじゃったら、申し訳ないのう。そのときはわしが断ってやるでの。
 それからその子たちの話はしておらんで、そっちの心配はせんでええ。」
「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします。もっとももう寄付する分は残ってないですけどね。」

 そうこうしてるうちに村長がやって来た。
「ゲオルク、すまんな。待たせたか?」
「待ってませんよ。ちょうど今、神父さんとのお話が終わったとこです。待つつもりなど最初からありません。」
「手厳しいな。神父さん、部屋を貸してくださらんか。」
「お安い御用じゃ。」

 神父さんに案内されて、村長さんと俺は教会の談話室に入った。
「よっこらせ。」神父さんは俺の隣、村長の斜め向いに腰掛けた。
「ゲオルクに頼まれたでの、同席するぞ。村長さん、用件はなんじゃな?」
「ゲオルクとふたりで話したいんですが?」
「俺が神父さんに同席をお願いしたんです。難しい話なら相談しなけりゃいけませんしね。」
「しかし。」
「神父さんに聞かれてまずい話なら、お断りします。それでは。」
「待て待て。神父さんが同席しても構わんから。」
「では、村長さん。用件は何です。」

「まずは教会への寄進の礼だよ。本当にありがとうな。」
「いえいえ、神父さんには大恩がありますから。村人から詐欺師扱いされたときに庇って頂いてどれほど救われたことか。」
「その節は力になれないですまなんだ。」村長さんが詫びた。
「村長さん、そのことは今更いいですよ。神父さんと家族以外はこの村に、興味ありませんし。悪い思い出が多いのでこの村には愛着もないですしね。」
「それを言われると辛いな。」
「で、用件はお礼を言うことですか?それならもうお話は終わりですかね?」

「いや、言いにくいんだが、村の財政が厳しくてな。」
「お断りします。実は寄付したくてももう余裕がないんですよ。残りはこれからの冒険の路銀です。もっとも余裕があってもこの村への寄付は断りますがね。」
「そこを何とか。」
「何ともなりませんよ。この村に愛着があれば無理もしますが、イジメられてハブられた思い出しかありませんので。」
「それは申し訳なかったと言ってるではないか。」
「だからいいですって。謝られても許す気はありませんから。関わらないでください。これで話は終わりですか?」

「いや、もうひとつある。ゲオルクは魔法が使えるようになったのか?」
「相変わらず使えませんよ。俺が魔法を使えないことは、村中が知ってるでしょう?何せそれが原因で、村でイジメ抜かれましたからね。」
「昨日、ゲオルクが家の裏の畑を魔法で耕して、さらに魔法で瞬時に作物を育てたのを見た者がおるのだ。」
「それは精霊ですよ。たまたま土の精霊と木の精霊がいたのでお願したらやってくれました。」

「村の畑でもやってくれんか?」
「無理ですね。精霊は気まぐれですから。昨日はたまたま機嫌がよくてやってくれたんですよ。」実際は、頼んだら何でもやってくれるけどね。
「頼んでみるだけでもお願いできんか?」
「そもそも村の連中は精霊を信じてないでしょう?信じない者に精霊が加護をくれる訳ないじゃないですか。」

「何とかならんか?」
「なりませんよ。村の連中が俺をイジメたもうひとつの原因は、俺が精霊と話してるところを気味悪がったせいじゃありませんか。精霊はそのことを覚えてますからね。この村の実りが悪いなら精霊がまだ怒ってるんじゃないですか?」
「精霊にとりなしてくれんか?」
「嫌ですよ。村の味方なんかしたら、俺まで精霊に嫌われるじゃないですか。」
「しかし村も苦しいのだ。」
「俺の知ったことではありませんよ。何なら祠でも立てて精霊を祭ったらどうです?毎年収穫物の何割かをお供えすれば、そのうち精霊から許してもらえるんじゃないですか?」

「頼むこの通りだ。」村長は土下座した。
「村長さん、頭を上げてください。無理なものは無理です。きっぱりお断りします。それに俺は村を出た人間ですので、村に未練はありません。この村にたまに帰る理由は、神父さんと家族がいるからです。」
「これだけ頼んでもダメか。」
「ダメですね。できない頼みは聞けません。仮にできてもこの村のためにはやりませんがね。」

「お前が村を出ても家族はこの村で過ごすんだぞ。いいのか?」
「村長さん、それは脅しに聞こえますよ。ちなみに今、村に富をもたらしてるのは父さんの狩りの獲物ですよね?今の話をしたら、家族もこの村を出ますよ。父さんの腕があれば、どこの村でも優秀な狩人としてやって行けますからね。いいんですか?」
「くっ。申し訳ない。」

「それから今の脅迫まがいの台詞、俺の友達の精霊が聞いていたら、まずいですよ。今夜あたり、村長さん宅だけ地震で潰れたりして。」
「え?」
「精霊に許しを乞うてくださいね。では、これでお話は終わりです。お引き取りを。」
 俺をいいように利用できないと分かった村長さんは、とぼとぼと教会から出て行った。

「ゲオルク、見事じゃ。わしが付いてなくてもよかったの。」
「神父さん、今夜、村長さんとこの納屋が地震で潰れます。あそこに寝泊まりしてる使用人や家畜はいますかね。」
「おらんはずじゃが、ゲオルク、それは勘弁してやってくれんか?」
「神父さん、お赦しを。家族を守るためです。俺にちょっかい出して来たら何倍もの報復を受けるって、きっちり脅しておかないと。」
「ま、それもそうじゃのう。それにしてもあのおとなしかったゲオルクが冒険者になって逞しくなったのう。」

 教会からの帰りに村長宅へ寄った。せめてもの情けだ。重要な話があると言って、村長さんを玄関先まで呼び出した。
 村長さんは俺の来訪に期待に満ちた顔で玄関まで迎えに出て来た。
「ゲオルク、遠慮するな。中に入れ。」
「村長さんの家など入りたくありませんよ。ここで結構。せめてもの情けで寄りました。
 村長さんが俺を脅したのを精霊が聞いてましてね、今宵、村長さんの家を潰すと言うのです。」
「なんだと!」
「とりなしてはみたんですが、それなら母屋は許してやるが納屋だけは潰すと言うんですよ。納屋に貴重品があったらすぐに運び出してください。あと、使用人や家畜も、今宵は納屋で寝かすことがないようにしてください。」

「ゲオルク、すまなかった。頼む。助けてくれ。」
「助けたじゃないですか。母屋が残るだけでも感謝してくださいよ。
 これに懲りて、二度とうちの家族に手を出すようなことを口走らないでくださいね。うちには守りの精霊が付いてますんで。うちの為と言うよりは、村長さんの為ですよ。」これは張ったりだが。笑

 その夜、父さんも母さんもアルも寝静まってから俺達は動いた。

「ツリ、クレ、行くぞ。」
『外に、人がいる。』
『3人、バラバラで、見張ってる。』
「ツリ、3人のまわりに眠草を生やせるか?」俺はイメージを送った。
『生やせる。』

 ちょっと経ってからツリが言った。
『3人とも、眠った。』
「よし。出動。」
 もちろん村長さん宅にまでは行かない。家から村長さん宅までの1/3も行けば大きな村長さん宅は見えて来る。

「おーお、篝火焚いて警戒してるよ。攻め込まれる訳でもないのにな。」
 篝火のお陰で遠目から納屋が視認できた。こりゃ却って好都合だ。
『ここから、やる?』
「クレ、納屋だけだぞ。」俺はイメージを送った。
 納屋が大きく揺れ、次の瞬間に倒壊した。ミッションコンプリート♪

 俺達は家に帰ってゆっくり寝た。ベッドの中ではツリとクレに、使った分の魔力を補給して満タンにした。ふたりともきれいに輝いていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/541586735
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...