射手の統領

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射手の統領177 東家座主の臣従と隠居

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射手の統領
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№177 東家座主の臣従と隠居

 翌日、朝餉を摂った俺とキョウちゃんズは、オミョシ東家の臣従を見届けるためにアーカに飛んだ。
 昨日、一緒にアーカに行ったシノブは、マザのシノベ本拠へ鍛錬に飛び、他の嫁たちは昨日と同じで、それぞれの副拠と商都西本店へ飛んだ。

 アーカの大広間に行くと、すでにエノベのお頭が来ていたので目礼を交わした。エイどのもいる。
「アタル、おはようさん。早速やが、ややこしいことになりよったで。」
「どうしたんだ。」
「伯父上の奴、ひとりではよう来んと、ホムラとツララを連れて来よったんや。」
「ホムラと言うのは、東の座主の一の姫でシエンの従姉の元許嫁だったな。」
「せや。」

「ツララと言うのは、俺は知らんが?」
「東家の嫡男や。まだ12歳やけどな。ホムラの弟で、俺の従弟なんや。」
「つまり、東家座主とその直系が揃って来たって訳か?奥方も一緒か?」
「義伯母上はツララを生んで間もなく亡うなっとる。俺もよう知らんお人や。ホムラもよう覚えてへん言うとったわ。」
「そうか。」ふたりとも母親の顔を知らんのか。俺と同じだな。ちょっと親近感が沸いた。

「今、義父上にもお知恵を借りとったんやが、アタルは、ホムラとツララをどないしたらええと思う?」
「そりゃ、ふたりとも別室に待機させとけばいいだろ。
 エノベどのはどう思われる?」
「わしもアタルどのと同じ意見や。」エノベどのが答えると、
「な、エイ。それが無難やで。」シエンがエイどのに言ったのだが、
「せやけど、ホムラはんのことを考えたら、別室言う訳にもいかんやろ。ツララはんかてご嫡男やで。」
「伯父上を臣従させた後に会えばええやんか。」
「せやけど後々のことを考えたら、冷たくせん方がええと思うわ。」確かにそれも一理あるな。
「せやけどな…。」

「じゃあさ、こうしたらどう?後で会うんじゃなくて、最初だけ別室で待機してもらって、臣従の話が済んだらすぐ大広間に呼ぶんだよ。」
「その案なら、うちは同意しますえ。」エイどのが賛成し、
「まあその辺が落としどころやろの。」エノベどのも同意した。
「んー。」シエンはまだ渋ってる。

「なんだ、シエンは反対か。」
「公の席やからな。そこでホムラとの話を蒸し返されたら、本人の前で断るんはちょっと…。」
「え?断るんじゃなくて1年引き延ばすんだろ。座主の態度を見極めてから、改めて考えるってことにして。」
「ホムラだけならそれでええけどな、ツララを連れて来てるのが気になるんや。」

「兄上、うちもそう思うで。」「うちもや。伯父上は企んどるで。」わが軍師キョウちゃんズが口を挟んだ。何か思い当たる節があるようだ。
「どう言うことだよ?」俺はキョウちゃんズに聞いた。

「兄上がな、臣従した伯父上の態度を見極めてから改めて考えるって言うやろ。するとな…、」サキョウの話をウキョウが継いだ。
「伯父上は隠居するから許してくれって言うんや。そのためにツララを連れて来たんやと思うわ。」
「ツララは俺によう懐いとったしな、ツララが継いだらホムラとの話は、すぐに持ち上がってまうがな。」

「せやから、ホムラはんを側室で迎えたらええですやろ?」
「将来的にはそうしてもええけど、せめて1年くらいはエイとふたりっ切りでいたいんや。俺ら新婚やんか。」
「シエン様がそない言うてくれはるんは、うちも嬉しいですけど、東家との友好を考えたら、ホムラはんをすぐに迎えて、ホムラはんの顔を立てた方がよろしおすえ。なにせ、シエン様に嫁げなんだら尼になるとまで言うてくれたお人やろ。」
「せやけど…。」

「シエン、ツララどのは12歳だったな。それだと東家の舵取りはできまい?隠居が裏で実権を握るだろ。そこを突けばいいじゃないか。」
「なるほど、実質、伯父上が実権を握るんやから、伯父上の動向をしばらく見極める、言えばええんやな。」
「そう言うことだ。」
「せや、いっそのこと裏で動けんように、隠居したら、伯父上を東家におる父上と一緒に、パパ島にでも流す、言うてやろか。それなら慌てて隠居を撤回するかもしれへんな。」
「せやけど、もし伯父上がパパ島行く、言うたらどないすんの?」とウキョウ。
「せやで、12歳のツララだけやったら、東家が揺らいでまうで。」とサキョウ。
「あの伯父上がそないなこと言う訳ないやろ。」

「兄上、これは戦やで。裏の裏まで見極めなあかん。」
「せやで。敵の取り得る様々な可能性への対策をきちんと考えとくんや。都合の悪い可能性を排除したらあかんえ。」まったくその通り。流石わが軍師キョウちゃんズ。
「もし伯父上と父上がパパ島に行くのを承知したら、俺の側近の誰かを東家に遣わそかの?」
「兄上、それは下策や。」「せや。東家の家老連中が反発しよるで。」確かにな。

「だったらさ、東家出身の姑どのにツークに行ってもらえばいいんじゃね?」姑どの、つまりシエンとキョウちゃんズの御母上は、東家座主の妹でもある。東家の家老衆も、姑どのには頭が上がらないはずだ。
「アタルぅ。自分、天才やで。」シエンが俺を激賞した。
「アタル兄、それやで。」「流石アタル兄や。それが上策やで。」軍師キョウチャンスが賛同してくれた。ふたりのポイントを稼いだっぽい。笑

「姑どのには最低でも3年、ツララどのが成人するまでは後見を務めて頂かないとな。」
「せやな。母上を厄介払いできるで。」いやいや、シエン、そうじゃねぇだろ。
「兄上、厄介払いって何やの!」「せやで!母上に失礼やろ。」キョウちゃんズがシエンに食い付いた。そうなるよな。
「言葉の綾やがな。」キョウちゃんズの剣幕にタジタジになるシエン。
 しかし…、なるほどな。要するにシエンは、姑どのを東家に追いやって、誰に遠慮することなく、エイどのとイチャイチャしたい訳だ。笑

「しかし婿どの、そうなるとホムラどのをアーカに迎えねばならんやろ。」エノベのお頭が、もっともなことを指摘した。
「義父上、そうでんな。うーん、何とかならんやろか。」
「ホムラどのにも、姑どのと一緒にツララどのを支えろと言えばいいだろうが。そしたら側室に迎えるのはツララどのが成人する3年先だ。」
「あ、せやな。アタルぅ、自分、やっぱ天才やでぇ。」
「いやいや、これは誰だって思い付くぞ。」

 話が一段落ついた後、エイどのがキョウちゃんズを呼んで、3人で別室に行った。何の話だろ?と、このときは何気なく思っていたのだが…。

 それから2時間後、東家座主との面会である。
 シエンが大広間の主の座。シエンの隣にエイどの。左に、シノベどの、俺、キョウちゃんズ。右にシエンの爺たち重臣たち。

 案内役が東家座主を連れて来て、大広間の客座の下の間、つまり主の座から遠い場所へ東家座主を座らせた。
 下の間には初見の客、疎遠な客、警戒している客を座らせる。親しい客や身内は客座の上の間、つまり主の座の近い位置に座らせる。つまりシエンは、東家座主を身内としても、親しい客としても遇していない。

 客座の下の間に座らされた東家座主。そしてその横に、姑どの=シエンとキョウちゃんズの御母上が座った。
「シエン、随分他人行儀じゃないか。」東家座主が軽い調子で親し気に話し掛けたが、シエンはそれに返事をしない。
「母上、遠路ツークまでご苦労さんやった。母上はちこう。」シエンは持っていた扇子でトントンと、自分の隣=エイどのと反対隣を指した。
 姑どのが座を移し、東家座主はひとりだけ下の間に残された。座主の顔が歪む。

 姑どのがシエンの隣に座ると、家老筆頭=シエンの爺が口を開いた。
「さて、東家座主どの。ご来駕のご要件は?」
「シエンとの間に誤解があったようなのでそれを解きに参った。」

 するとシエンがおもむろに口を開く。
「座主どの。そなたとは、敵味方となってから伯父甥の縁を切っとるのや。身内のつもりでいられては甚だ迷惑。俺を西家権座主として見られんのやったら、今すぐお引き取り頂くで。お分かりか?」
 このシエンのひと言で座主は顔色を変えた。
「権座主どの。失礼仕った。」
「分かればええのや。で、用件は何や。」

「東家と西家の仲を元通りにしたい。」
「そちらから手切れをして来て、今更何を言うとんのや。信用できん座主どのが率いる東家との対等の付き合いなど御免被るで。」
「俺は手切れをしたつもりはないが。」
「ふん。せやったら話にならんの。早々にツークにねや。」
「待ってくれ。」
「おどれは誰に口利いとるんや!」シエンが座主を一喝した。
「すまなんだ。」シエンの勢いに押されて座主が頭を下げた。

「アーカからの追放にあたって過分な金子を付けて引き取ってもろた先代を、これ見よがしにアーカに派遣して来たのは、俺がユノベと同盟を結んだことへの意趣返しやろ。これが手切れやなくて、何やっちゅーねんな。
 そもそもユノベの次期統領どのが神龍の力を得て属性攻撃を手中に収めたんは、次期統領どのの努力の賜物や。それを陽士の領分が犯されたなどと、ケツの穴の小さいことを抜かしよってからに。
 それにな、西家がどこと同盟組むかは、西家の舵取りをしている俺か決めることや。東家に四の五の言われる筋合いはないで。」
「しかし…、」

「しかしやないで。
 俺はな、あんたが売ってきた喧嘩をうたったんや。あんたが反対したユノベとの同盟な、エノベ、トノベ、ヤクシ、タテベ、キノベ、シノベの大同盟や。そこに山髙屋も提携してるし、帝家も後ろ盾やで。
 俺とあんたは敵味方や。頭下げて臣従するか、意地張って大同盟を敵に回し、滅ぼされるか、どっちか選べや。」シエンはズバリ核心を突いて、東家座主に臣従か敵対かの決断を迫った。
 東家座主にしてみれば、喉元に匕首を突き付けられたようなものだ。東家座主は眼を瞑ってしばし黙考した。
「臣従します。ご勘弁を。」座主は額を畳に付けた。

「ふん。最初から素直にそう言えばええものを。伯父甥の関係に甘えて、空威張りするから大恥掻くことになるんや。」
「すみませんでした。」
「まあええやろ。臣従する言うんならこれ以上追い込みは、掛けんといてやるわ。」
「臣従に際して、わが娘ホムラを差し出したく。」
「その話はわやにしたはずやで。臣従したとは言え、一度敵対した座主どのや。今はまだ座主どのを、全面的に信じられへん。これからの座主どのを見て、反省の度合いを見極めさせてもらうわ。すべてはそれからやな。」

「しかし、権座主どのもそろそろ身の回りの世話をする女子おなごが必要でございましょう。」そう言いつつ座主は、シエンの隣のエイどのをチラ見した。
「おや、座主どのはご存知ないのかえ?俺は先頃、嫁をもろたで。」
「え?」
「数日前に公にしたんやが…、そうか、座主どのは廻船で海の上やったかもしれへんな。」よく言うよ。エノベ衆に見張らせて、座主の行動を逐一把握してて、廻船に乗船したタイミングを見計らって公表したくせに。笑

「側室ですか?」
「何言うてんのや。正室やがな。エノベの一の姫でエイや。」
「エイでござります。東家の座主どの、お見知り置きを。」
「東家座主です。こちらこそよろしく。しかしそれではホムラは…。」
「それは座主どののせいでっしゃろ。エイとの付き合いは、東家と手切れになった後からやから、俺のせいではないで。」
「…。」

「それからこちらがエノベどの。俺の舅どのでエノベ衆のお頭どのや。」
「え?」慌てる東家座主。
「エノベでおます。末永うよろしゅうお頼申します。」
「オミョシ東家の座主です。こちらこそよろしくお願いします。」

「それとな、こちらがユノベの次期統領で、大同盟の盟主のアタルどのや。御代替わりの総大将やで。」
「え?」また慌ててやがる。胆力ねぇなぁ。とんだ小者じゃないか。
「ユノベです。座主どのが、権座主どのへ臣従されたこと、賢明なご判断かと。」
「東家の座主です。よろしくお願いします。」
「ときに座主どのはわれらが大同盟への加盟をご希望か?」
「え?あ、はい。ぜひ東家も大同盟の末席に加えて頂きたく。」
「エノベどの、だそうです。エノベ家のご意向はいかに?」俺がエノベどのに振った。
「かましまへん。」
「オミョシ西家とエノベ家からは、東家加盟の承諾が取れた。ユノベ家としても承諾する。残りのトノベ家、ヤクシ家、タテベ家、キノベ家、シノベ家、山髙屋には俺から確認しておこう。」
「よし、決まりやな。ほな、ホムラとツララも呼んでんか。」

 ホムラとツララが別室から案内されて来た。
 ふたりは座主の両横に座り、
「権座主様、お久しゅうございます。」「お久しゅうございます。」と丁寧な挨拶をした。座主とは大違いである。
「うむ。ふたりとも、久しいな。伯父上、ホムラ、ツララ、もそっと近う。」
 シエンは座主を伯父上と呼び、主の座のすぐ前、客座の上の間に3人を移させた。もう臣従したから、身内扱い復活なのだな。この辺の捌き方は何とも上手い。

「ホムラ、ツララ。紹介するで。俺の正室のエイや。つい先頃、俺は結婚してん。」
「え?」ホムラの眼には見る見る涙が溜まって頬を伝わったが、健気にも、
「それはおめでとうござりまする。」と祝辞を述べた。できた娘だ。
「シエン兄は、姉上と結婚するんじゃなかったんですか?」ツララがストレートにぶっ込んで来た。流石子供。笑
「そのつもりやったけどな、伯父上が俺に敵対したんで、ホムラとの婚約は解消になってもうた。」
「でも、仲直りしたのでしょう?」
「ついさっきな。伯父上が頭下げて臣従する言うから許したった。でもな、敵対してる間に俺は結婚してしもうてん。」

「父上はなぜシエン兄に敵対したんですか?」おおー、ズバリ核心を突くねぇ。流石子供。遠慮と言うものを知らん。笑
「まあ、いろいろと誤解があってな。」お茶を濁す座主。
「父上、誤解ではすみませんよ。姉上が可哀想じゃないですか。このままでは、姉上は尼になってしまいますよ。」

 ふう。とひと息深呼吸した座主は、予想通りのことを口走った。
「ツララよ。父はいろいろ判断を誤ったゆえ、責任を取らねばならん。責任を取って隠居するゆえ、そなたが家督を継いでくれ。」
「えー?子供の僕にオミョシ東家の座主が務まる訳ないじゃないですか。」
「心配せんでも父が後見する。
 権座主どの、私は引退して第一線を引くゆえ、ホムラとのこと、考え直してはくれまいか。」
「座主どの。さっきも言うたように、俺は座主どのを全面的には信用しとらんのや。しばらく様子を見て信用するに値すると判断するまで、その話はなしやと言ったはずやで。」
「しかし。」

「はっきり言うで。こうやってツララを使うて蒸し返して来るところなんかは、本質的には、意趣返しに先代を寄越したのと一緒やんか。正攻法はせんとコソコソと裏で動きよる。隠居したかてツララの後見をするんやったら、裏で糸引くのと一緒やないか。こう言う姑息なところが信用でけへんのや。
 責任取る言うんやったらええやろ。責任取り。パパ島に遠流を申し付けるで。」
「なっ!」東家座主、お口パクパク酸欠金魚。

「権座主様、それでは東家が乱れます。」ホムラがもっともな懸念を口にした。
「せやな。そら、ホムラの言う通りやで。
 母上、すまんがツークに出向いて、ホムラと一緒にツララが成人するまで東家を導いてんか?」
「私がですか?」
「せや。母上、実家の一大事でっせ。ひと肌脱いどくんなはれ。」
「分かりました。ところで、先代の処遇はどうするのです?」
「父上も母上も東家におって、伯父上だけをパパ島に流したら、西家が東家を乗っ取りに掛かったと勘ぐられてまうな。しゃーない、父上も伯父上と一緒にパパ島に流そかの。」姑どのは満足気に頷いた。

「しかし…。」
「伯父上、自分から言い出したんやろ。」
「隠居するとは言ったが…。」
「じゃあ隠居は取りやめかいな。やはり口先だけやの。これやから信用でけへんのや。」
「いや、隠居はする。」

「隠居が裏で幅を利かせては新座主のツララが思うようにやれんやろ。ツララに足りないところは、母上とホムラが見るよって心配せんでええで。」
「しかしパパ島とは…。」
「伯父上、敵対した相手に臣従する言うんはな、戦に降伏したってことやで。首取られてもしゃーないところを遠流で済むんや。ありがたいことやろ。じゃないと寝首掻かれてまうかもしれへんで。俺がどこから嫁取ってるか、よう思い出してんか?」うわー、シエンの奴、露骨に脅しに掛かりやがった。苦笑
「…承知した。」座主は蒼褪めている。やはり胆力がない。

「何を承知したんや?誤解しとるとあかんからはっきり言葉にしたってや。」シエンの奴、畳み掛けるねぇ。
「隠居して家督をツララに譲り、パパ島に隠棲する。だからホムラのことは考え直して欲しい。」
「ホムラには母上と一緒に、ツララの後見をお願いするつもりや。ツララが一端の座主になったら、そのとき考えるで。
 ホムラ、それでええな。」
「はい。」
「せやから、早まって尼になるのは許さんへんで。ええな。」
「はい。」

 シエンの奴、なんだかんだ言って、思い通りに纏めやがった。と、そう思ったのだが、ここでまさかの伏兵が…。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 毎週月曜22時に投稿します。

 以下の2作品も合わせてよろしくお願いします。
「精霊の加護」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
「母娘丼W」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/265755073

 カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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