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射手の統領162 賀府で情報収集
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射手の統領
Zu-Y
№162 賀府で情報収集
翌日、朝餉を摂った後、流邏石でテンバから東都に飛んだ。
山髙屋東都総本店で、簪や櫛などの装飾品、紅や白粉の化粧品、佃煮を原価で仕入れ、北斗号に積み込んだ。
そしてそのまま総本店の裏手から繋がっている東都港の廻船船着場に北斗号を移動させ、乗船待ちをしている間に、東都港の船着場の売店で、弁当を買い込んだ。当然いつものフカガめしである。
フカガめしは、折りの中に、茶飯を敷き詰めて、その大半に、アサリ、油揚げ、生姜、ゴボウのフカガ煮をどんと乗っけて、残りの部分には浅草海苔を敷いてその上に煮穴子をふた切れ、後は卵焼きと煮物と漬物と言う、東都の名物を集めた弁当だ。
俺はこれが大のお気に入りで、東都港を発つときはいつもこれである。
それから各種酒類とツマミ。
乗船が始まり、東都と函府を結ぶ東航路の廻船に北斗号を乗せた。北斗号は馬車デッキに移し、馬たちを馬房デッキに移動させる。うちの4頭、ノアール、ヴァイス、ダーク、セールイは、度々廻船の旅をしているから慣れたもので、興奮せずに落ち着いており、早速馬房で干し草を食みだした。
鼻面をポンポンと叩いてやると、皆、ブルルンと応えてくれる。頼もしい奴らだ。飼葉桶に角砂糖を入れてやると喜ぶ。あまり知られていないが、角砂糖は炭水化物なので、実は馬たちの大好物なのである。
馬房デッキから客室デッキへ行き、俺のシングルルームから寝具一式を和室に運び込んだ。
和室は原則6人部屋で、追加布団を2組まで持ち込めるから、8人部屋にすることができる。シノブを新たに嫁に迎えたので、嫁たちが8人となり、俺があぶれてシングルを取った。
そこで俺が和室に潜り込んで、9人で雑魚寝の楽しい船旅なのである。
俺は子供の頃に両親とも亡くしているので、一家団欒に飢えているから、こう言う家族皆で雑魚寝と言うのに、秘かに憧れていた。そのため、和室での船旅が好きなのだ。
もちろん皆と一緒で雑魚寝だとむふふな展開にはならないし、部屋に充満する嫁たちのフェロモンでくらくらするが、それでも皆と一緒がいいのだ。
部屋に入ると、嫁たちは早速、部屋着、すなわち透け透けネグリジェに着替える。サヤ姉は赤、サジ姉は白、ホサキは黄、サキョウは紫、ウキョウは橙、アキナは青、タヅナは緑、シノブは黒だ。俺も下帯に甚平を羽織るだけのラフな格好で寛いでいる。ちなみに甚平は藍染めだ。俺たちの通り名、濃紺の規格外からこの色なのだがな。
出会ったばかりの小っちゃかったキョウちゃんズは、乗船後1~2時間は、船内探検だと言って俺を連れ回したが、初潮を迎えて以降、ぐんぐん伸び出してからと言うもの、船内探検を卒業した。
今では、船室で寛ぎつつ、大人嫁たちとガールズトークに花を咲かせる方にシフトしている。背だけじゃなくて、心の方も成長しているようだ。
昼過ぎにジャンジャンジャンと出航を知らせるドラの音が鳴って、廻船は岸壁を離れた。
これより賀府まで2泊の船旅である。明日はシチョに寄港し、明後日が賀府で、俺たちはそこで下船する。俺たちを降ろした廻船は、その後は、カーマ、ヘパチ、函府と寄港して行く。
東航路北行は、和の島の東北和東岸沖を、北から南に向かって流れる親海流に逆らって進むので船内5泊だが、東航路南行は潮帆で親海流を捉えるので、函府から、ミャーコ、オナーマ、カッツラと、船内4泊で東都だ。
この東航路南行には、二の島でのレイの攻略の帰りに乗船した。
親海流を利用するのに潮帆を使うが、そのせいで廻船は大いに揺れる。船酔いをする嫁たちを慮って~と言うよりは慮ることで点数を稼ぐのが目的なのだが~、嫁たちをオナーマから流邏石でテンバに帰した。
ここまでは計算通りだったのだが、翌日の寄港地のカッツラで、寄港中に寄った飯屋のなめろうがあまりにも旨くて、和酒をやり過ぎてしまい、寝入ってしまったのだ。当然、起きたときには、廻船は出航した後。やらかしてしまったのである。
こうなるとジタバタしてもしょうがないので、カッツラ温泉で旅の疲れを癒し、翌日に流邏石で東都へ飛んで、東都港で到着する廻船を待っていた。
到着した廻船から北斗号を受け取れば、呑み過ぎて乗り遅れた失態が、嫁たちにはバレないはずだった。
しかし!そうは問屋が卸さないのが世の常である。
東都港で嫁たちと鉢合わせしてしまったのだ。と言うのも、テンバに飛んだはずの嫁たちが、テンバから東都港へ、俺を出迎えに来ていたのだ。万事休す。
俺はすべてを洗いざらい白状し、せっかく稼いだゴマすりポイントをすべて吐き出してしまったのだった。
しかしこの俺の大失敗をもとに、アキナが東都から商都行きの南航路西行に北斗号だけを乗せて、俺たちは後から流邏石で商都に飛ぶと言う裏技を思い付いたのだから、正に瓢箪から駒である。
今回は親海流に逆らって進むので、潮帆を張らないからさほど揺れない。つまり嫁たちも船酔いはしないはず。もちろん、サジ姉が皆に酔止の術を掛けてるけどな。
出航早々に始まった嫁たちとの酒盛りで、嫁たちの透け透けネグリジェから辛うじて透けて見える頂花を愛でつつ、俺は船旅を堪能したのだった。
翌日昼前にシチョの港町に寄港。
廻船の船員たちが、シチョならば、港近くの店内に生簀がある海鮮料理屋がイチ押しだと言うので、嫁たちとやって来た。
メニューは刺身から、揚げ物、焼き物、蒸し物、丼に定食にコース料理と豊富で、俺たちは各々好きなものを頼んで、海鮮料理を堪能した。
ちなみにシチョには、ヌキの河が合流したネトの河が流れ込んでいる。これは、東都一帯を水害から守るために、東都湾に注いでいたネトの河を、ハネナマの原野を掘削してヌキの河に繋げ、河口をシチョに変えた古の大工事の大成果である。
マザから東都に帰還する途中で、シブカからエマシーバを経由してジョンホーに至るまで、ずっと河沿いを進んできたネトの河が、ジョンホーからハネナマの原野に流れて行くため、俺たちは河と別れたが、およそ10日後にはこうして河口のシチョで、再び相まみえている。なんとも、感慨深いことよな。
シチョを出航し、明日は賀府である。船室では再び、嫁たちと酒盛りだ。廻船の微かな揺れが非常に心地よい。あー、この団欒、いいなー。と思いながら、至福の船旅を満喫する俺なのだった。
さらに翌日、廻船は賀府港に入港し、ここで北斗号に乗って俺たちは廻船から下船。本音を言うと、あと何日か船旅を満喫したかった。苦笑
早速、賀府ギルドを目指す。
北斗号から降り、皆でお揃いの濃紺のマントを羽織って、ギルドに入った。
昼前のこのタイミングでギルドにいる冒険者は、大方は今日のクエストをやめて呑み始めた連中だから、ろくな奴らではない。
あからさまに、「誰だおめぇ?」「余所もんか?」的な、友好的とは言い難い視線に晒された。さらには、俺ひとりで、飛び切りの美女8人を連れていたのも癇に障ったようだ。
「なんだべー、あいづはよー。」
「こごらじゃ見掛げねぇ奴だっちゃ。」
「あげな別嬪、いっぺぇ連れでよー、何様のづもりがよー。」
と言った文句を、ヒソヒソではなく聞こえるように言って来やがった。ぶっちゃけイラっと来る。
「やめとき。」「構たらあかん。」とキョウちゃんズに止められ、
「アタル、いい加減、成長しなさいよね。」とサヤ姉にたしなめられ、
「構ったら…、めっ…、ですよ…。」サジ姉、それって、クリスにやってたやつじゃんよ。でも、かなりかわいいかも♪
サジ姉の「めっ。」に毒気を抜かれた俺は、絡んできた奴らを無視して受付に行った。
「俺はセプトのアタルだ。朝廷からの指名依頼で東都から来た。ギルマスに取り次いでくれ。」そう言って冒険者カードを出すと、受付嬢は、
「え?プラチナカードって初めて…。もしかして本物?」
「ははは。冒険者カードを提示したのに本物かって疑われたのは初めてだよ。」
「ご、ごめんなさい。すぐに、ギルマス呼んで来ます。」ちょっとドジっ子気味な受付嬢は中にすっ飛んで行って、さっき絡んで来た冒険者たちは、会計を頼みだした。もっとゆっくり呑んでりゃいいのに、俺たちがセプトって聞いて逃げる気かい?笑
呑んだくれ相手のホール係のお姉さんに、大銀貨1枚を渡して、
「お姉さん、これでこいつらにエールを1杯ずつな。
おい、お前ら。後で話がある。ギルマスとの話が終わるまで、エールでも呑んで待っとけや。」
絡んで来た3人は、酒で赤かった顔がなぜか青くなり出した。しかも貧乏ゆすりを始めたし。
「だから弱い者いじめはあかんって言うたやん。」
「かわいそうに、震え出してもうてるがな。」
「いや、貧乏ゆすりだろ、あれは。」
「「ちゃうがな!」」ハモった。笑
すると、ギルマスが出て来てギルマスルームに案内された。
「まぁ掛けてくんろ。おらがギルマスのロクサキだっちゃ。」
「俺がセプトのアタルだ。順に、サヤ、サジ、ホサキ、サキョウ、ウキョウ、アキナ、タヅナ、シノブだ。」
「遠いとご、すまねぇだ。」
「さして遠くもねぇよ。廻船でたったの2泊だ。意外と近いぜ。で、翠樹龍が暴れてるんだって?」
「んだ。」そう言ってロクサキは東北和の地図を持って来た。
「一応、確認さすっども、こごが賀府だっちゃ。で、ニアはこご。ここら辺一帯の街道がよう、森林に飲まれちまっただな。伐採しでもよう、それより速いペースで伸びて来っで、お手上げだっちゃ。」
「随分広範囲だな。」これはかなり厄介かもしれん。
「んだな。」
「どうアプローチしたらいいかな。」
「ひどづはアタキからだな。あどはリモーカから山越えだな。」リモーカは東北和中央北寄りの大きな町だ。大海原側の港町ミャーコ、リモーカ、和国海側の港町アタキは、ほぼ真横に一直線に並んでいる。
「ふーん、ここら辺の町や村はどうなってんの?」
「森林に飲まれてで分がんね。えれぇ心配だっちゃあ。」
「思ったより深刻だな。しかし何で急に翠樹龍は暴れ出したんだ?」
「それも、よう分がんねのよぉ。」
結局、東都で得た情報では漠然とニア周辺と思っていたが、それがかなり広範囲と言うことで、深刻さが増している。
「ところでさ、ニアの大森林辺りには、湧き水か温泉はないか?」
「へ?温泉?」
「ああ。七神龍との決戦の前は、湧き水で禊をして身を清めるんだ。温泉でもいいんだがな。」
「ああ、そういうこっだか。ほんなら、こごか、こごか、こごか、こご辺りだべな。」ずいぶんたくさんあるのな。
しかし、ロクサキが地図上で示した場所は、どれもニアの大森林の近くと言うより、ニアの大森林の中だった。
「いやいや、どこも森に埋もれてんじゃねぇの?」
「んだな。行っでみねと、分がんねな。」
「そりゃそうだな。森に埋まってりゃ、切り開きゃいいか。」
「切り開いてもすぐ伸びて来っがらよ、難儀すっだろな。」
「それとさ、別件なんだけど、ギルド前で出張店舗を開いていいかな?東府の荷を積んでるんだ。」
「ああ、構わねよ。」
ギルマスルームからロビーに戻ると、さっきの連中は逃げ出していた。なんだよ、せっかく奢ってやったエールを呑み逃げかい。ま、十分脅かしたからいいけどな。笑
ギルマスのロクサキからあっさり許可が出たので、ギルド前で出張店舗を開いている。
いつも通り、売り子としての才に乏しい俺は、品出し専門である。
抜群の売り上げは、当然のことながら商人モードのアキナ。次いで掛合い上手のキョウちゃんズ。漫才の様な絶妙な掛合いで客を笑わせ、どんどん売り捌いて行く。
姐御系サヤ姉は妹系の若い女の子たち、口数少ないサジ姉はやはり口数少ないヲタクたち、キリっと上司系ホサキは若い草食系男子たち、癒し系タヅナはおっさんたちと、相性のいい客たちによく売れる。
ところで、無口なサジ姉と、サジ姉を前に真っ赤になって声にならないヲタクたちとの間で、なぜだかいつの間にか、取引の会話が成立しているのが、不思議でならない。笑
さて、売り子デビューのシノブだが、それまでセプトにはいなかった妹キャラで攻め、お兄さん系やお姉さん系と相性が良かった。特に若いお兄さんたちをカモ…じゃなかった、お得意様にしていた。笑
なお、年齢的にはキョウちゃんズが妹なのだが、キョウちゃんズは掛合漫才キャラで、妹キャラではないのだ。
東都で仕入れた簪や櫛などの装飾品、白粉や紅など化粧品、佃煮が飛ぶように売れ、積荷の3割ほどを捌いたところで店仕舞いにした。
ここで俺は、9個の流邏石に賀府ギルドを登録して、皆に配った。
そのまま北斗号をキノベ陸運賀府支店に預け、近くの宿屋を取って、賀府名物牛タンの店に直行。
やっぱネギタン塩だよねー、牛タンは。
薄くスライスした牛タンを炙って、これに、ごま油と塩胡椒と鶏がら粉末を和えた刻みネギを乗せてさぁ…。と思っていたのだが、賀府ではスライスではなく、厚切りが主流のようだ。
で、これが、歯応えがあって旨いのよ。いや、これもありだな。
ガッツリ厚切り牛タン定食を食いつつ、ニアまでの行程を皆で検討した。
「ニアへのアプローチだけど、リモーカからにするか、アタキからにするか、だな。リモーカからにするなら、賀府からリモーカに陸路で北上するか、東航路北行でひとつ行ったカーマから陸路かだ。」俺は手書きのざっくりした地図で進路を示した。
「森林の暴走は、かなり広範囲でござったな。」
「ここら辺まで飲まれてるって話だったわね。」サジ姉が、森林が暴走しているおおよその範囲を赤ペンで囲む。
「うむ。そうなるとリモーカからの山越え道も、飲まれてるかもしれんな。」
「それなら…アタキからが…無難…。」
「だなー、すると廻船か。東航路で函府に行って、北航路に乗り換えてアタキか。」
「東航路で、カーマ、ヘパチ、函府。北航路でアタキやな。」
「「せやねー。」」「そうですわね。」
「タヅナ、どう思う?」俺はキノベ陸運で一隊を率いていたタヅナに尋ねた。陸路のことはタヅナだ。
「廻船の方がぁ、いいと思うわぁ。」
結局、廻船を使って函府経由でアタキに行き、アタキからニアの大森林にアプローチすることになった。
近くの宿屋を取り、今宵はサヤ姉とサジ姉。妖艶な笑みを浮かべて来たふたりの連係プレイに、俺はなす術もなく蹂躙され、サヤサジ流を駆使されたマイドラゴンは歓喜の咆哮を上げたのだった。
ふたりとも、最高!
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半年間、ふらふらしてしまいましたが、週1ペースで連載を再開します。毎週月曜22時に投稿します。
以下の2作品も合わせてよろしくお願いします。
「精霊の加護」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
「母娘丼W」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/265755073
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№162 賀府で情報収集
翌日、朝餉を摂った後、流邏石でテンバから東都に飛んだ。
山髙屋東都総本店で、簪や櫛などの装飾品、紅や白粉の化粧品、佃煮を原価で仕入れ、北斗号に積み込んだ。
そしてそのまま総本店の裏手から繋がっている東都港の廻船船着場に北斗号を移動させ、乗船待ちをしている間に、東都港の船着場の売店で、弁当を買い込んだ。当然いつものフカガめしである。
フカガめしは、折りの中に、茶飯を敷き詰めて、その大半に、アサリ、油揚げ、生姜、ゴボウのフカガ煮をどんと乗っけて、残りの部分には浅草海苔を敷いてその上に煮穴子をふた切れ、後は卵焼きと煮物と漬物と言う、東都の名物を集めた弁当だ。
俺はこれが大のお気に入りで、東都港を発つときはいつもこれである。
それから各種酒類とツマミ。
乗船が始まり、東都と函府を結ぶ東航路の廻船に北斗号を乗せた。北斗号は馬車デッキに移し、馬たちを馬房デッキに移動させる。うちの4頭、ノアール、ヴァイス、ダーク、セールイは、度々廻船の旅をしているから慣れたもので、興奮せずに落ち着いており、早速馬房で干し草を食みだした。
鼻面をポンポンと叩いてやると、皆、ブルルンと応えてくれる。頼もしい奴らだ。飼葉桶に角砂糖を入れてやると喜ぶ。あまり知られていないが、角砂糖は炭水化物なので、実は馬たちの大好物なのである。
馬房デッキから客室デッキへ行き、俺のシングルルームから寝具一式を和室に運び込んだ。
和室は原則6人部屋で、追加布団を2組まで持ち込めるから、8人部屋にすることができる。シノブを新たに嫁に迎えたので、嫁たちが8人となり、俺があぶれてシングルを取った。
そこで俺が和室に潜り込んで、9人で雑魚寝の楽しい船旅なのである。
俺は子供の頃に両親とも亡くしているので、一家団欒に飢えているから、こう言う家族皆で雑魚寝と言うのに、秘かに憧れていた。そのため、和室での船旅が好きなのだ。
もちろん皆と一緒で雑魚寝だとむふふな展開にはならないし、部屋に充満する嫁たちのフェロモンでくらくらするが、それでも皆と一緒がいいのだ。
部屋に入ると、嫁たちは早速、部屋着、すなわち透け透けネグリジェに着替える。サヤ姉は赤、サジ姉は白、ホサキは黄、サキョウは紫、ウキョウは橙、アキナは青、タヅナは緑、シノブは黒だ。俺も下帯に甚平を羽織るだけのラフな格好で寛いでいる。ちなみに甚平は藍染めだ。俺たちの通り名、濃紺の規格外からこの色なのだがな。
出会ったばかりの小っちゃかったキョウちゃんズは、乗船後1~2時間は、船内探検だと言って俺を連れ回したが、初潮を迎えて以降、ぐんぐん伸び出してからと言うもの、船内探検を卒業した。
今では、船室で寛ぎつつ、大人嫁たちとガールズトークに花を咲かせる方にシフトしている。背だけじゃなくて、心の方も成長しているようだ。
昼過ぎにジャンジャンジャンと出航を知らせるドラの音が鳴って、廻船は岸壁を離れた。
これより賀府まで2泊の船旅である。明日はシチョに寄港し、明後日が賀府で、俺たちはそこで下船する。俺たちを降ろした廻船は、その後は、カーマ、ヘパチ、函府と寄港して行く。
東航路北行は、和の島の東北和東岸沖を、北から南に向かって流れる親海流に逆らって進むので船内5泊だが、東航路南行は潮帆で親海流を捉えるので、函府から、ミャーコ、オナーマ、カッツラと、船内4泊で東都だ。
この東航路南行には、二の島でのレイの攻略の帰りに乗船した。
親海流を利用するのに潮帆を使うが、そのせいで廻船は大いに揺れる。船酔いをする嫁たちを慮って~と言うよりは慮ることで点数を稼ぐのが目的なのだが~、嫁たちをオナーマから流邏石でテンバに帰した。
ここまでは計算通りだったのだが、翌日の寄港地のカッツラで、寄港中に寄った飯屋のなめろうがあまりにも旨くて、和酒をやり過ぎてしまい、寝入ってしまったのだ。当然、起きたときには、廻船は出航した後。やらかしてしまったのである。
こうなるとジタバタしてもしょうがないので、カッツラ温泉で旅の疲れを癒し、翌日に流邏石で東都へ飛んで、東都港で到着する廻船を待っていた。
到着した廻船から北斗号を受け取れば、呑み過ぎて乗り遅れた失態が、嫁たちにはバレないはずだった。
しかし!そうは問屋が卸さないのが世の常である。
東都港で嫁たちと鉢合わせしてしまったのだ。と言うのも、テンバに飛んだはずの嫁たちが、テンバから東都港へ、俺を出迎えに来ていたのだ。万事休す。
俺はすべてを洗いざらい白状し、せっかく稼いだゴマすりポイントをすべて吐き出してしまったのだった。
しかしこの俺の大失敗をもとに、アキナが東都から商都行きの南航路西行に北斗号だけを乗せて、俺たちは後から流邏石で商都に飛ぶと言う裏技を思い付いたのだから、正に瓢箪から駒である。
今回は親海流に逆らって進むので、潮帆を張らないからさほど揺れない。つまり嫁たちも船酔いはしないはず。もちろん、サジ姉が皆に酔止の術を掛けてるけどな。
出航早々に始まった嫁たちとの酒盛りで、嫁たちの透け透けネグリジェから辛うじて透けて見える頂花を愛でつつ、俺は船旅を堪能したのだった。
翌日昼前にシチョの港町に寄港。
廻船の船員たちが、シチョならば、港近くの店内に生簀がある海鮮料理屋がイチ押しだと言うので、嫁たちとやって来た。
メニューは刺身から、揚げ物、焼き物、蒸し物、丼に定食にコース料理と豊富で、俺たちは各々好きなものを頼んで、海鮮料理を堪能した。
ちなみにシチョには、ヌキの河が合流したネトの河が流れ込んでいる。これは、東都一帯を水害から守るために、東都湾に注いでいたネトの河を、ハネナマの原野を掘削してヌキの河に繋げ、河口をシチョに変えた古の大工事の大成果である。
マザから東都に帰還する途中で、シブカからエマシーバを経由してジョンホーに至るまで、ずっと河沿いを進んできたネトの河が、ジョンホーからハネナマの原野に流れて行くため、俺たちは河と別れたが、およそ10日後にはこうして河口のシチョで、再び相まみえている。なんとも、感慨深いことよな。
シチョを出航し、明日は賀府である。船室では再び、嫁たちと酒盛りだ。廻船の微かな揺れが非常に心地よい。あー、この団欒、いいなー。と思いながら、至福の船旅を満喫する俺なのだった。
さらに翌日、廻船は賀府港に入港し、ここで北斗号に乗って俺たちは廻船から下船。本音を言うと、あと何日か船旅を満喫したかった。苦笑
早速、賀府ギルドを目指す。
北斗号から降り、皆でお揃いの濃紺のマントを羽織って、ギルドに入った。
昼前のこのタイミングでギルドにいる冒険者は、大方は今日のクエストをやめて呑み始めた連中だから、ろくな奴らではない。
あからさまに、「誰だおめぇ?」「余所もんか?」的な、友好的とは言い難い視線に晒された。さらには、俺ひとりで、飛び切りの美女8人を連れていたのも癇に障ったようだ。
「なんだべー、あいづはよー。」
「こごらじゃ見掛げねぇ奴だっちゃ。」
「あげな別嬪、いっぺぇ連れでよー、何様のづもりがよー。」
と言った文句を、ヒソヒソではなく聞こえるように言って来やがった。ぶっちゃけイラっと来る。
「やめとき。」「構たらあかん。」とキョウちゃんズに止められ、
「アタル、いい加減、成長しなさいよね。」とサヤ姉にたしなめられ、
「構ったら…、めっ…、ですよ…。」サジ姉、それって、クリスにやってたやつじゃんよ。でも、かなりかわいいかも♪
サジ姉の「めっ。」に毒気を抜かれた俺は、絡んできた奴らを無視して受付に行った。
「俺はセプトのアタルだ。朝廷からの指名依頼で東都から来た。ギルマスに取り次いでくれ。」そう言って冒険者カードを出すと、受付嬢は、
「え?プラチナカードって初めて…。もしかして本物?」
「ははは。冒険者カードを提示したのに本物かって疑われたのは初めてだよ。」
「ご、ごめんなさい。すぐに、ギルマス呼んで来ます。」ちょっとドジっ子気味な受付嬢は中にすっ飛んで行って、さっき絡んで来た冒険者たちは、会計を頼みだした。もっとゆっくり呑んでりゃいいのに、俺たちがセプトって聞いて逃げる気かい?笑
呑んだくれ相手のホール係のお姉さんに、大銀貨1枚を渡して、
「お姉さん、これでこいつらにエールを1杯ずつな。
おい、お前ら。後で話がある。ギルマスとの話が終わるまで、エールでも呑んで待っとけや。」
絡んで来た3人は、酒で赤かった顔がなぜか青くなり出した。しかも貧乏ゆすりを始めたし。
「だから弱い者いじめはあかんって言うたやん。」
「かわいそうに、震え出してもうてるがな。」
「いや、貧乏ゆすりだろ、あれは。」
「「ちゃうがな!」」ハモった。笑
すると、ギルマスが出て来てギルマスルームに案内された。
「まぁ掛けてくんろ。おらがギルマスのロクサキだっちゃ。」
「俺がセプトのアタルだ。順に、サヤ、サジ、ホサキ、サキョウ、ウキョウ、アキナ、タヅナ、シノブだ。」
「遠いとご、すまねぇだ。」
「さして遠くもねぇよ。廻船でたったの2泊だ。意外と近いぜ。で、翠樹龍が暴れてるんだって?」
「んだ。」そう言ってロクサキは東北和の地図を持って来た。
「一応、確認さすっども、こごが賀府だっちゃ。で、ニアはこご。ここら辺一帯の街道がよう、森林に飲まれちまっただな。伐採しでもよう、それより速いペースで伸びて来っで、お手上げだっちゃ。」
「随分広範囲だな。」これはかなり厄介かもしれん。
「んだな。」
「どうアプローチしたらいいかな。」
「ひどづはアタキからだな。あどはリモーカから山越えだな。」リモーカは東北和中央北寄りの大きな町だ。大海原側の港町ミャーコ、リモーカ、和国海側の港町アタキは、ほぼ真横に一直線に並んでいる。
「ふーん、ここら辺の町や村はどうなってんの?」
「森林に飲まれてで分がんね。えれぇ心配だっちゃあ。」
「思ったより深刻だな。しかし何で急に翠樹龍は暴れ出したんだ?」
「それも、よう分がんねのよぉ。」
結局、東都で得た情報では漠然とニア周辺と思っていたが、それがかなり広範囲と言うことで、深刻さが増している。
「ところでさ、ニアの大森林辺りには、湧き水か温泉はないか?」
「へ?温泉?」
「ああ。七神龍との決戦の前は、湧き水で禊をして身を清めるんだ。温泉でもいいんだがな。」
「ああ、そういうこっだか。ほんなら、こごか、こごか、こごか、こご辺りだべな。」ずいぶんたくさんあるのな。
しかし、ロクサキが地図上で示した場所は、どれもニアの大森林の近くと言うより、ニアの大森林の中だった。
「いやいや、どこも森に埋もれてんじゃねぇの?」
「んだな。行っでみねと、分がんねな。」
「そりゃそうだな。森に埋まってりゃ、切り開きゃいいか。」
「切り開いてもすぐ伸びて来っがらよ、難儀すっだろな。」
「それとさ、別件なんだけど、ギルド前で出張店舗を開いていいかな?東府の荷を積んでるんだ。」
「ああ、構わねよ。」
ギルマスルームからロビーに戻ると、さっきの連中は逃げ出していた。なんだよ、せっかく奢ってやったエールを呑み逃げかい。ま、十分脅かしたからいいけどな。笑
ギルマスのロクサキからあっさり許可が出たので、ギルド前で出張店舗を開いている。
いつも通り、売り子としての才に乏しい俺は、品出し専門である。
抜群の売り上げは、当然のことながら商人モードのアキナ。次いで掛合い上手のキョウちゃんズ。漫才の様な絶妙な掛合いで客を笑わせ、どんどん売り捌いて行く。
姐御系サヤ姉は妹系の若い女の子たち、口数少ないサジ姉はやはり口数少ないヲタクたち、キリっと上司系ホサキは若い草食系男子たち、癒し系タヅナはおっさんたちと、相性のいい客たちによく売れる。
ところで、無口なサジ姉と、サジ姉を前に真っ赤になって声にならないヲタクたちとの間で、なぜだかいつの間にか、取引の会話が成立しているのが、不思議でならない。笑
さて、売り子デビューのシノブだが、それまでセプトにはいなかった妹キャラで攻め、お兄さん系やお姉さん系と相性が良かった。特に若いお兄さんたちをカモ…じゃなかった、お得意様にしていた。笑
なお、年齢的にはキョウちゃんズが妹なのだが、キョウちゃんズは掛合漫才キャラで、妹キャラではないのだ。
東都で仕入れた簪や櫛などの装飾品、白粉や紅など化粧品、佃煮が飛ぶように売れ、積荷の3割ほどを捌いたところで店仕舞いにした。
ここで俺は、9個の流邏石に賀府ギルドを登録して、皆に配った。
そのまま北斗号をキノベ陸運賀府支店に預け、近くの宿屋を取って、賀府名物牛タンの店に直行。
やっぱネギタン塩だよねー、牛タンは。
薄くスライスした牛タンを炙って、これに、ごま油と塩胡椒と鶏がら粉末を和えた刻みネギを乗せてさぁ…。と思っていたのだが、賀府ではスライスではなく、厚切りが主流のようだ。
で、これが、歯応えがあって旨いのよ。いや、これもありだな。
ガッツリ厚切り牛タン定食を食いつつ、ニアまでの行程を皆で検討した。
「ニアへのアプローチだけど、リモーカからにするか、アタキからにするか、だな。リモーカからにするなら、賀府からリモーカに陸路で北上するか、東航路北行でひとつ行ったカーマから陸路かだ。」俺は手書きのざっくりした地図で進路を示した。
「森林の暴走は、かなり広範囲でござったな。」
「ここら辺まで飲まれてるって話だったわね。」サジ姉が、森林が暴走しているおおよその範囲を赤ペンで囲む。
「うむ。そうなるとリモーカからの山越え道も、飲まれてるかもしれんな。」
「それなら…アタキからが…無難…。」
「だなー、すると廻船か。東航路で函府に行って、北航路に乗り換えてアタキか。」
「東航路で、カーマ、ヘパチ、函府。北航路でアタキやな。」
「「せやねー。」」「そうですわね。」
「タヅナ、どう思う?」俺はキノベ陸運で一隊を率いていたタヅナに尋ねた。陸路のことはタヅナだ。
「廻船の方がぁ、いいと思うわぁ。」
結局、廻船を使って函府経由でアタキに行き、アタキからニアの大森林にアプローチすることになった。
近くの宿屋を取り、今宵はサヤ姉とサジ姉。妖艶な笑みを浮かべて来たふたりの連係プレイに、俺はなす術もなく蹂躙され、サヤサジ流を駆使されたマイドラゴンは歓喜の咆哮を上げたのだった。
ふたりとも、最高!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
半年間、ふらふらしてしまいましたが、週1ペースで連載を再開します。毎週月曜22時に投稿します。
以下の2作品も合わせてよろしくお願いします。
「精霊の加護」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
「母娘丼W」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/265755073
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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