射手の統領

Zu-Y

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射手の統領120 商都への帰還経路

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射手の統領
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№120 商都への帰還経路

 翌日、キリシの温泉宿を発って、山峡に沿ってくねくねしながら東へ進んだ。しばらくして渓谷の川沿いに南に転進し、しばらく進むと、アキナから索敵報告が来た。

「前方1㎞に大猪です。」
 アキナが飛ばしていた式神が大猪を発見したのだ。アキナは商人だが、元巫女の御母上から、除霊の術など、巫女の術の一部を教えられていた。
 陰士のキョウちゃんズは、呪で式神を3体同時に扱えると言う天才なのだが、そのキョウちゃんズから、除霊ができるのなら式神飛ばしも簡単にできるはずだと言われて、キョウちゃんズの手解きを受けた。その結果、アキナも式神1体を飛ばせるようになった。
 行軍中に、式神を周辺の警戒に使うと言うアイディアは、商人として商隊を率いていた頃のアキナが発案したものであるが、当時のアキナは、まさか自分が式神を使えるようになるとは思っていなかったそうだ。笑

 北斗号をそのまま直進させているので、大猪との距離は、あれよあれよと縮まった。300mの距離でこちらに気付いた大猪は、当然の如く北斗号へ突進して来た。バカな奴だ。

「私がやるわ。」
 御者台の後部座席に座っていたサヤ姉が、そう言って立ち上がると、メイン馬車の屋上である見張台から、
「はーい。」
とウキョウの返事があり、サヤ姉に各種バフの術が掛けられた。

 疾風の靴の瞬間的な加速で御者台から飛び降りたサヤ姉は、雷神の太刀と風神の脇差を抜き、突進して来る大猪にまっしぐらに突っ込んで行った。衝突する!と思った刹那、残像を残して左にサイドステップし、大猪とすれ違い様に雷神の太刀で横一閃。その勢いのまま、一回転して振り向き様に風神の脇差で2撃目を入れ、大猪の横を駆け抜けた。見事な二刀流剣舞、天才剣士サヤ姉の得意技だ。なんか今日は、いつにも増して技が物凄く切れ切れである。絶好調だ!

 すれ違ってすぐ、大猪は突進の勢いのまま、前のめりに3回転して、ピクリとも動かなくなった。
 傍に北斗号を停めて大猪を回収に行くと、首と右前脚が、皮1枚残して、すっぱりと切断されていた。まじ、神業なんすけど…。

 ひと仕事終えたサヤ姉は、息ひとつ切らさず戻って来た。
 俺は、大猪を解体して北斗号戻り、御者台後部席でサヤ姉の隣に座って、話を振った。
「サヤ姉、今日は絶好調なんじゃね?動きが切れ切れじゃん。」
「まあね。」
「どうしたのさ?」と聞くと小声で耳打ちされた。
「アタルのおかげかな。昨日のアレで、あちこちのコリがほぐれたわ。」まじかー!
「俺はいつでもウエルカムだから。」
「何言ってんのよ。」あ、照れてる。かわいい♪

 その後、渓谷の川の流れが南西へ転じたとき、俺たちは川と別れて南東へ進んだ。
 山峡を南東へ進むと、今度は猛鷹と遭遇した。普通の鷹より圧倒的に大きくて凶暴な猛鷹が、馬車の春が上空で旋回しながらこちらの様子を伺っている。明らかにこちらの隙を狙っている。

 ウキョウが皆に各種バフの術を掛け、俺たちは迎撃態勢を敷いて待つ。
 旋回していた猛鷹が、急降下攻撃に移った刹那、サキョウが攻撃力低下の術を皮切りに各種デバフの術を猛鷹に放ち、サジ姉が薬師の黒杖から麻痺の術を放った。
 急降下姿勢のまま、デバフの術で各種能力が低下した猛鷹は、麻痺によって急上昇に切り変えられず、そのまま地面に激突して、あっけなく逝った。

 医薬士であるサジ姉は、典医の薬嚢の中に入れている薬を、薬嚢と連動させた薬師の杖から術として放つことができる。状態異常を引き起こす薬を典医の黒薬嚢に入れて、薬師の黒杖と連動させているサジ姉は、猛鷹に対して、麻痺薬を麻痺の術として放ったと言う訳だ。
 ちなみに、サジ姉は、回復系の薬は典医の白薬嚢に入れていて、連動させた薬師の白杖から各種回復の術を放つ。つまり、状態異常を黒の連動、回復を白の連動にして、2系統を使い分けているのだ。こんな医薬士はまずいない。並の医薬師は回復の1系統のみだ。
 両手杖である薬師の杖を、左右に1本ずつ持って、白黒2系統を使い分けるだけでなく、状況によっては2系統同時に発動させることもやってのける。サジ姉は、まさに天才医薬士なのである。

 猛鷹を回収して来た俺が、御者台後部席でサジ姉の隣に座って、話を振った。
「サジ姉、お見事。」
「サヤに…刺激…された…。」
「サヤ姉は、昨日のアレであちこちのコリがほぐれて調子いいんだって。今夜はサジ姉をもみほぐすからね。」
「バカ…、エッチ…。」あ、照れてる。かわいい♪

 山峡を抜けて盆地に出たので、北斗号を停めて昼餉の休憩にした。午前中の活躍で上機嫌なサヤ姉とサジ姉が、昼餉を作ってくれている。ホサキも手伝っている。初期メンバーのこの3人は特に仲がいい。サヤ姉とサジ姉が、ホサキを妹分としてかわいがっているのだ。ホサキは同い年と言うことでアキナとタヅナとも親しい。
 うちの嫁ズの中では、サヤ姉とサジ姉はリーダー格であるが、ホサキは、古参のサヤ姉、サジ姉とも仲がいいし、新参のアキナ、タヅナとも仲がいい。意外と大人嫁の接着剤だったりする訳だ。
 もちろん世渡り上手のキョウちゃんズは、皆のマスコットとしてかわいがられているけどな。

 俺はタヅナと一緒に、曳馬たちを轅から外して草を食ませた。西の島の南は和の国でも暖かいし、春も半ば過ぎなので、川沿いのちょっと開けたところでは、草が大いに芽吹いている。プチ放牧にはもって来いだ。

 皆で昼餉を囲っていると例によって、ウケを取ることに命を掛けている西の人の代表のようなキョウちゃんズが、いろいろお道化て皆を大いに笑わせた。実に幸せな雰囲気である。

 楽しい昼餉が終わって、盆地を南東に進むと、午後は何事もなく夕方になる前に盆地の中心のトーシロの町に着いた。
 北斗号を山髙屋トーシロ支店に預け、その近くの宿屋にチェックイン。宿屋の主人の話だと、トーシロは地鶏の炭火焼きが名物料理だと言う。夕餉に地鶏の炭火焼きが食いたいなら、地鶏料理の専門店が近くにあるから、ぜひそこへ行ってみろとのことだった。うち(宿屋)で夕餉を食えとは言わないのな。

 早めの到着だったので、宿屋の大浴場でひとっ風呂浴びてから出掛けることにした。ええ、ええ。どーせボッチですよ。広い大浴場を独り占めではあるが、隣の女湯から聞こえるキャッキャとした声が羨ましい。

 入浴を終え、宿屋主人お勧めの地鶏料理専門店に行ってみた。あれ?宿屋の主人?と思ったら、弟だそうだ。とてもよく似ている。笑
 地鶏の炭火焼きと芋焼酎を頼み、ちろりで芋焼酎を温めつつ、ちびちびとやっていると地鶏の炭火焼きが出て来た。地鶏の一切れ一切れが黒い。おいおい、焦げでんじゃね?店の主人に聞くと、それでいいのだと言う。半信半疑で躊躇していると、
「お客さん、不味かったらお代はいらんちや。騙されたと思って食うてみんね。」
 そこまで言うなら…パクッ。
「…旨ぇ。」
「じゃろ?」ドヤ顔の店主。うん、俺の負けだよ。
 俺の毒見の後、嫁たちも一斉に手を出したんだが、旨い旨いのオンパレード。
「じゃろー。こん焦がし具合が料理人の腕の見せどころよー。」ドヤる主人。
「疑ってすまなかったな。どんどん焼いて持って来てくれ。」
「まいどー!」
 大皿で何回頼んだかな?終いにゃ店主が、
「まだ食うとね?」と、半ば呆れて聞いて来た。笑
 地鶏と芋焼酎で楽しい夕餉を過ごし、宿屋に戻った。

 今夜はサジ姉と同室だ。昼間の約束通り、俺は指と舌で丁寧にサジ姉を攻めて、全身のコリをほぐしてやったのだった。サジ姉が何度も昇天したのは言うまでもないか。笑

 翌日、朝餉を摂って早々にチェックアウト。山髙屋トーシロ支店で北斗号を引き取り、東北東に進んでザミャキを目指す。

 んでもって、ザミャキからは、西の島航路の東周りやね。
 西の島航路東周りは、カゴンマからだと、三の島南岸東のオーミス半島の、東岸付け根のブシブ、三の島東岸南部北寄りのザミャキ、和南西航路の三の島の起点である東岸中央のガヒュー、四の島への渡し航路がある三の島東端のエキサ、三の島有数の温泉街のひとつで三の島北東岸のブッペ、三の島で和の島に最も近い三の島北東端のジーモ、そしてハタカだ。

 この遠征の目的であるエンの攻略も終わり、朝廷からのクエストは達成したし、ついでにサクラの活火山で金剛鏑も手に入れたから、今回の遠征の成果は、もう十分っしょ。
 商都への帰還方法は、ハタカに戻って、内海航路で、ウブ、マチャマ、オキャマ、商都と帰る9日間コースか、あるいは、ガヒューから和南西航路で、チーコ、商都と帰る3日間コースかの二択である。
 日数的には圧倒的に和南西航路がいいが、ブッペは西の島有数の温泉地で、しかも白濁硫黄泉系列なのでぜひ行きたい。しかし、ブッペで1泊するなら、9日コースは10日間コースとなる。
 さらに船酔いしやすい嫁たちのことを考えると、和南西航路より内海航路である。
 やっぱり嫁たちにしんどい思いをさせたくないってのもあるけど、ブッペ温泉に寄れるのが魅力だな。俺的には、内海航路推しに決定!

 そんなことを考えていると、あっと言う間に時は過ぎ、夕刻にザミャキの港町に着いた。
 キノベ陸運ザミャキ営業所に北斗号を預け、近場の宿屋を取る。
 この宿屋は料理自慢だと言うので、今宵の夕餉は待ちには出ず、宿屋の食堂で摂ることにしたのだが、これが大正解。
 宿屋の食堂の仲居さんに、ザミャキ名物の郷土料理を聞いたら、カツオの茶漬けと冷や汁がこの店のイチ押しだそうだ。どんな料理か聞いてみた。

 カツオの茶漬けはカツオ飯とも言うそうで、そのまんま名前の通り。カツオの刺身、またはカツオのたたき~皮が付いたカツオの半身を、皮の側だけ炙って刺身にした物~をそのまんまか、三の島醤油~三の島の南部でポピュラーな甘口醤油~に付けてヅケにし、その切身を熱々ご飯に乗せて、生姜を効かせて茶漬けにする。ゴマや刻み海苔をぱらりと振るとなお良いと言う。

 冷や汁は、アジやサバなどの青魚を塩焼きにし、麦味噌と一緒にすり鉢ですり潰す。これを軽く炙って、昆布と炒り子で取った出汁を加えて、冷やしながらひと晩寝かす。スライス胡瓜、刻みネギ、ゴマを入れて、熱々ご飯にぶっ掛ける。なお、冷ご飯にぶっ掛けるのではない。素人はここを間違える。と、中居さんが力説していた。曰く、冷や飯に掛けた物は味が落ちるので、絶対に冷や汁ではないと言うことだ。仲居さん的には、ここは絶対に譲れない要注意なポイントと見た。笑

 全員が両方を頼むと、店員さんは目を白黒させて、再確認して来た。
「皆さん全員、両方でいいと?残さんで食べれるとね?」
「もちろんだ。俺たちの辞書には『食事を残す。』と言う文字はない。」
 どっかで聞いたような台詞をしゃあしゃあと吐いてやった。笑
 普通はどちらか一方らしいが、まぁいい。うちのメンバーは皆よく食べる。それでいて体型はスレンダーなのだ。

 カツオの茶漬けも冷や汁も、どちらも汁物だったが、熱々のカツオの茶漬け、ぬるまった冷や汁、それぞれ個性があって超旨い。

 しかーしっ!濃口醤油に慣れた俺としては、甘々の三の島醤油はちょっとパスなので、和の島に戻ったら、このカツオの茶漬けを濃口醤油でも試してみたい。もっと味が引き締まると思うのだ。

 さて、夕餉を食いながら、この後の行程を皆に確認した。つまり、ザミャキから西の島航路東周りでハタカに戻り、内海航路で商都まで帰るか、ザミャキの次の寄港地のガヒューから、和南西航路で商都まで帰るかの二択だ。
 俺の推しは、ブッペ温泉に寄れる内海航路の方。船酔いする嫁たちを気遣う素振りを前面に押し出して、嫁たちの好感度ポイントを稼ぎつつ、上手く誘導してやる!くっくっくっ。

「和南西航路は圧倒的に早いが外洋を行くので揺れる。内海航路はセットの内海を行くので揺れないが日数が掛かる。そこら辺をトータル的に考えて意見して欲しい。」
「そうねぇ、私は和南西航路かな。揺れてもどうせ1日だし、サジの酔止の術があるし、早い方がいいわ。ね?サジ。」
 こくり。
「ええ~、マジ?でもさ、船酔いしない方が良くね?俺は船酔いしないからいいんだけどさ、だからこそ余計に、皆が船酔いでしんどそうなのを見ているのは辛いんだよなぁ。」
「うむ。アタル、気遣いは嬉しい。しかしな、サヤが言う通り、早く帰れるのは、和南西航路の魅力だな。」
「そうですね。」「そうよねぇ。やっぱりぃ、早い方がぁ、いいかなぁ。」
「うちはどっちでもええよ。」「うちもー。」

「遠征の目的のエンの攻略は成ったし、別に急いで帰らなくてもいいんじゃね?」
「そうですけど、だからと言って無駄に時間を掛けるのもどうなんでしょう?」
「いや、無駄なことはないよ。俺はブッペ温泉に寄りたい。」
「アタル、あんたねぇ。さっきは、ブッペ温泉のことなんかひと言も触れてなかったじゃない。ね?サジ。」
 こくり。
「あー、そのー、言うタイミングを失ってた。と言うか…、そんな感じかな。」
「そんなにぃ、ブッペ温泉にぃ、寄りたいのぉ?」
「ぜひ寄りたい。」
「ならば最初からそう言えばいいではないか。」
「アタル兄、見え見えやでー。」「せや。うちらの船酔いを気遣う振りして、うちらからポイント稼ごうとしたんやろ?」
 俺、お口パクパク酸欠金魚。

「あーああ、こりゃ図星やな。」「あーああ、好感度、下がってしもたで。」双子のキョウちゃんズが、呆れたポーズでシンクロしている。
「すみませんでしたぁー。」
 で、結局そんなに行きたいんなら、ブッペ温泉に寄って内海航路から帰るのでも構わないと言うことになった。しかし俺の好感度は…。泣

 夕餉を終えて大部屋でいつもの呑み会。西の島は焼酎が旨い。明日は、昼に出航する廻船なので寝坊できる。と言う訳で、部屋呑みは遅くまで盛り上がった。

 部屋呑みが終わり、今宵同室のホサキとふたり部屋へ。もちろんデラックスダブルだ。ここのところのマイブームの指と舌で丁寧に攻める戦法で、ホサキの全身のコリをほぐしてやったのだった。一昨日のサヤ姉、昨日のサジ姉に続き、ホサキも何度も昇天していた。笑

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/9/25

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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