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射手の統領116 アジトを奇襲
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射手の統領
Zu-Y
№116 アジトを奇襲
ギルドを出てすぐ、デミズの宿屋を取ってチェックインした。デラックスツインと大部屋である。夕餉は部屋食を頼んで、大部屋で作戦会議を行った。
作戦の概略は、まず全員分の流邏石をデミズの宿屋に登録する。その後、俺が単独で海賊島に渡り、デミズ側の浜に流邏矢の甲矢を登録する。そして山の反対側の中腹に回り込んで、流邏矢の乙矢を登録する。
この準備を明日1日で行って、後は明後日の未明に奇襲を仕掛ける。
奇襲の前に、俺が流邏矢で皆をデミズ側の浜に運んで、嫁たちはそこで待ち伏せ。俺はすぐ反対側の中腹に飛んで、海賊のアジトに炎撃矢をひたすら連射、つまり、反対側から徹底的に火攻めの奇襲を仕掛るのだ。
じきに、火勢は手に負えなくなって、消火を諦めた海賊たちは、火の少ないデミズ側の浜に下りて来るだろう。そこを嫁たちの部隊が一気に殲滅する。もちろん、そこには俺も駆け付けて加勢するけどね。
夕餉の後、今日の輪番のホサキとデラックスツインに行き、ここんとこマイブームのじっくり攻めについてホサキに提案してみることにした。
「なぁ、ホサキ。今日はじっくり攻めたい。俺のなすがままにさせてくれよ。」
「ふむ。まぁたまにはそう言うのもよいか。」
あっさり承諾されたので、サヤ姉、サジ姉と同様に、たっぷりじっくり攻め上げた。すべてを任せてくれた従順なホサキは、最初に結ばれたときのようで初々しかったが、所々に見せる妖艶な顔が、さらに俺を刺激する。もちろん最後にはマイドラゴンがホサキのお世話になったけどね。あー、例のアレ、早く完成しないかな。
翌朝、俺はデミズの宿屋に流邏石8個を登録した。俺は新しい流邏石に登録したが、嫁たちのはタッテーノの出湯の宿屋の流邏石7個にデミズの宿屋を上書きした。タッテーノの宿屋には、いつかまた行きたいとは思うが、そうちょくちょくは行けないしな。嫁たちの流邏石は主要都市だけで十分だ。
俺は単身、デミズの西にある山の麓の浜から、渡し船で瀬戸を渡って、海賊の島に乗り込み、島のデミズに面する浜に流邏矢の甲矢を登録した。眼の前の山の頂には、海賊のアジトの砦がある。
それからその山を反時計回りに迂回して、山の反対側の中腹に流邏矢の乙矢を登録した。これで準備万端だ。
俺は流邏石でデミズの宿屋に戻った。夕刻前だったので、丸1日は掛かっていない。
嫁たちは出掛けていてまだ帰って来ていなかったので、俺は先に大浴場でゆっくりし、海賊のアジトへの奇襲作戦を練る。
おそらく奴らはこちらからの奇襲を想定していまい。ならば、兵法の常道である夜討か朝駆に限る。夜明け前の未明の頃に炎撃矢での奇襲を仕掛ければ、見張はいるであろうが多くの海賊は寝入っているから消火作業も遅れるに違いない。日の出直前の薄明の頃には、アジトは紅蓮の炎に包まれるくらい、火が回っているだろうか。
消火を諦めないようなら、雷撃矢も撃ち込んでやろう。諦めて、浜に向けて逃げてくれれば、それこそ一網打尽にしてくれる。奴らがお宝をため込んでいれば、火事で焼失してしまうだろうが、まぁそれは仕方ない。海賊退治が最優先だからな。よし、これで行こう。
大体の戦略が固まって、大浴場から出て、団扇片手に涼んでいると、嫁たちが帰って来た。
「アタル、随分早かったんですのね。」
「皆でどこに行ってたのさ?」
「クエストですよぉ。明日に向けてぇ、体を慣らして来たんですぅ。」
「どんなクエスト?」
「獣狩りや。」「仰山獲って来たでぇ。」
「どのくらい?」
「うむ。大猪3頭、大鹿2頭、大猿3匹、大鳶2羽だな。」
「随分頑張ったな。」
「大獣…ばかり…。容易い…。」
「そうね、猛獣も妖獣もいなかったわ。大獣だけなら大したことないわね。」
まあな、嫁たちの戦力を考えれば、こんなの朝飯前か。でも、一般的な基準からは、全然普通じゃないけどな。笑
「それもそうか。ゆっくり風呂で汗を流して来てよ。皆が風呂から出たら、明日の戦略を詰めよう。」
嫁たちは連れ立って大浴場へと消えて行った。
夕餉を摂りながら夜討の作戦を皆に諮ると、皆、賛成だと言うので、今宵は晩酌もやめて早く寝ることにした。輪番も中止で、俺はデラックスダブルにひとり寝だ。
ウトウトした寝入り端、カンカンカンカン…と半鐘の音が鳴り響く。連打されているので、いわゆる擦り半鐘と言う奴だ。火事?と思ったが、デミズの擦り半鐘は海賊の襲来を示すものだと、宿屋の主人が教えてくれた。
見張台が西の山の山頂にあり、海賊の襲来を察知したらしい。先に夜討を掛けられちまったか。
俺たちは戦闘準備をして、山髙屋デミズ支店へと駆け付けた。預けていた北斗号が被害に遭ったらたまったもんじゃないのと、商店と言うことで、真っ先に狙われやすいからだ。前回の襲撃でも少なからず被害を受けたと言ってたしな。
擦り半鐘で衛兵や冒険者たちが駆け付け、各個で迎撃に向かっているが、これじゃだめだ。もっと組織的に動かないと。
一応持ち場はあるようだが、臨機応変が暴走してほとんど機能していない。ギルマスが大怪我で入院していると言うのも影響しているようだ。
そんなとき、軍師キョウちゃんズからの進言があった。
「なぁ、アタル兄、海賊の奴ら、こっちに出張って来とるのやったら、アジトがもぬけの殻なんやない?」
「多分そうやで。だったらこっちから逆にアジトを襲ったったらええやん。」
「なるほど。」
「反対側の中腹からアジトに向けて、炎撃矢をバンバン射掛けたり。」
「アジトを派手に燃やしたったらきれいやで。海賊の奴ら慌てふためくやろなー。」
ふたりは極悪な笑みを浮かべている。絶対に敵にしたくない。
「ここは任せた。」
俺は流邏矢で、山の反対側の中腹に飛んだ。
「エン、3倍だ。連射するぞ。」
『承知。』
3倍炎撃矢を続けざまに10本近く射掛けると、山頂のアジトは瞬く間に炎上した。もぬけの殻で、消火に当たるメンバーがいないのだから当然と言えば当然だ。
アジトに乗り込もうかとも思ったが、いったん戻って、仲間と合流して、デミズ側の浜で待ち伏せた方がいいかもしれない。
流邏石でデミズの宿屋に飛び、そこから山髙屋デミズ支店に駆け付けた。
「アタル兄、ご苦労さん。上々の首尾やないの。」
「派手に燃えとるなぁ。ホンマにきれいやわぁ。」
ここからだと、西の山のせいで海賊島を直接見ることはできないが、式神を上空に放って戦況を俯瞰しているキョウちゃんズには、丸分かりなのである。もっとも西の夜空を見ると明るくなっている見えるから、アジトが派手に燃えてるであろうことはすぐに分かる。
「なぁ、これから皆で海賊島のデミズ側の浜に飛んで、帰って来る海賊どもを待ち伏せしないか?」
「いや、いったんアジトに帰らせた方がええな。」
「せやな。夜通しアジトを片付けさせて、クタクタになって寝入ったところを朝駆の奇襲やな。」
確かにその方がいいか。流石、わが軍師たち。戦略の切れがいい。
海賊どもはアジトを消火すべく、相当慌てふためきながらアジトへ引き上げて行った。
俺たちは朝駆に備え、取り敢えず宿屋に帰って寝ることにした。
仮眠を取って夜中に起き出し、宿屋を出発。
未明のうちに西の山の見張台に上り、海賊島の様子を伺うと、山頂のアジトの火災は鎮火している。で、海賊島では、こちらに面した浜でも山頂のアジトでも、盛んに篝火を焚いており、十分に警戒してるようだ。
これだけ警戒されると、奇襲は無理か?
「サキョウ、見てみ。篝火のまわりで影が全然動いとらんで。」
「せやね。篝火は見せ掛けやわ。空城の計やろね。」
くっ。見る目が全然違う。凹むわ、マジで。泣
結局手はず通りと言うことになり、俺は流邏矢で、嫁たちをデミズ側の浜にピストン輸送した。
やはりキョウちゃんズの見立て通り、浜には誰もいなかった。嫁たちは浜に展開し迎撃態勢を取る。
俺はそのまま流邏矢で山の反対側の中腹に飛んだ。山頂のアジトの向こうの東の空は明るくなりつつある。薄明だ。もうすぐ日が昇る。さて、やるか。
「シン、ライ、エン、この順で3倍な。それをループするぞ。」
『『『承知。』』』
3倍震撃矢、3倍雷撃矢、3倍炎撃矢の順で繰り返し連射する。山頂のアジトは、震撃、雷撃、炎撃の順に繰り返し襲われ大パニックになる。
え?なぜこの順かって?
昔から言うじゃんよ。この世で怖いもの、地震、雷、火事、親父ってさ。まあ、親父はないけど、地震、雷、火事をループで放ってやれば効果倍増っしょ。笑
山頂のアジトは、昨日の奇襲で焼け落ちているから、震撃矢と雷撃矢でアジトを直撃し、浜の方へ逃げる道を除く、すべての方角のアジトのまわりの樹々を、炎撃矢で焼いてやった。
アジトのまわりのすぐ外を焼かれ、アジト内は地震と落雷に襲われた訳である。アジトからは、悲鳴が聞こえて来るではないか。海賊どもめ、パニックを起こしてやがる。ざまぁみやがれ!笑
俺はデミズ側の浜に飛んで、嫁たちと合流した。
俺たちは、浜の端で山の麓の、アジトから降りて来る山道の出口に移動して、その出口をしっかりと取り囲んで待ち伏せた。もちろん、効果的な罠も仕掛ける。
「ウズ、レイ、3倍。」
『『承知。』』
山道出口手前の斜面に水撃矢と氷撃矢を降らせ、斜面を完全に凍らせた。猛ダッシュで山頂から駈け下りて来たらどうなるか!くっくっくっ。
案の定、すってーん、すってーん、すってーん、…。面白い様にすっ転び、斜面を滑落して来る海賊ども。
山道の出口まで滑り落ちて来たところで、サヤ姉の二刀流剣舞の峰打ち、ホサキの槍のぶん回し、タヅナの薙刀のぶん回しが、海賊たちにものの見事にヒットして、一撃で意識を刈り取って行く。
さらにご丁寧にサジ姉が麻痺の術を掛け、キョウちゃんズとアキナが手際よく、両手両足をふん縛って行ったのだった。
四半時もせず、すべての海賊を確保した。総勢54名。
いつのまにか朝日が浜を照らしている。振り返ると、デミズの向こうから朝日が昇って来ていた。
朝駆は俺たちの完勝で終わったのだ。
嫁たちを見張りに残し、俺はデミズの冒険者ギルドに飛んだ。ギルドの受付嬢に仔細を報告すると、受付嬢は衛兵詰所に連絡を取り、衛兵と手の空いた冒険者が小舟を使って海賊島との瀬戸を渡った。
俺は衛兵隊長とともに船に乗り、衛兵隊と冒険者たちを、捕らえた海賊たちを確保している場所に案内した。
「半信半疑やったとばい、じゃが、まこっちゃ。」
「信じられんばい。」
衛兵たちや冒険者たちが口々に感想を述べる。笑
「あんたら、何者ね?」
「俺はアタル、パーティはセプト。」
衛兵隊長の問いに答えると、冒険者たちが反応した。
「え?セプトち、あん伝説の…。」
「そう言えば皆、濃紺のマントを羽織っとるったい。」
「濃紺の規格外って、ほんまのこつやったんやねぇ。」
「デミズへの護送は頼む。俺たちは朝駆で腹が減ったんでな、宿屋に帰って飯を食ったら風呂に入って寝るからよ。ギルドに顔を出すのは昼過ぎだな。報酬の金貨1枚、よろしくって言っといてくれ。」
後の処理を衛兵隊と冒険者たちに任せ、流邏石で宿屋に飛んだら、朝餉の準備がもう少しってんで、先に風呂に入ることにした。嫁たちと別々なのは辛いが、ゆっくり湯に浸かる。
朝風呂で朝駆の汚れを落とし、さっぱりしたら、朝餉が待っていた。鮭、納豆、生卵、海苔、ひじき、サラダ、お新香、そしてみそ汁に飯。うーん、典型的な宿屋の朝餉じゃん。笑
それから部屋に帰って朝寝と決め込む。実に贅沢な怠惰ではないか!
昼過ぎに起きて、皆とギルドに行くと、顔馴染みになった受付嬢から呼ばれた。
「セプトの皆さん、逮捕した海賊ん装備はどぎゃんすっと?皆さんの戦利品やけん、売るも分捕るも自由ったい。」
「ああ、それならデミズに寄付するわ。復興の足しにしてくれ。」
「え?」
「それより報酬な。」
「金貨1枚しか出せんとよ。」
「ああ、それでいいよ。そう言う約束だからな。」
「でもその何十倍もの働きばい?せめて戦利品は…。」
「だからそれは寄付するって言っただろ。もともと金貨1枚の約束だからそれで十分だよ。」
受付嬢は深々と頭を下げ、報酬の金貨1枚を差し出して来た。
「じゃあ、これで今夜は贅沢に行こうぜ。デミズでパーッと使っちまおう。」嫁たちも頷いた。
疲弊した街で地の物を食い、金を落とす。一石二鳥だ。
つーことで、戦勝祝いも兼ねて、この日の夕餉はデミズの町に繰り出してトンしゃぶにしたのだった。金貨1枚は当然、きれいさっぱり使い切ったよ。笑
宿屋に戻って部屋に入ると今夜の輪番はキョウちゃんズ…なのだが。
「うー、トンしゃぶ旨過ぎやー。」「もう、お腹がパンパンやー。」
腹が膨れたキョウちゃんズの、腹を夜中までさすることになってしまったのだ。キョウちゃんズの大食いには致し方ない理由がある。気力量が圧倒的に多きキョウちゃんズは、その膨大な気力量の維持に養分が使われてしまい、普通の食事量では、成長に回らないのだ。
このパンパンな腹が引っ込むと、いろいろなところが成長する。それは、背丈であったり、胸であったりするのだが、小振りが好きな俺としては、胸は程々でよい。それでもキョウちゃんズの今のサイズなら、まぁ、もう少しは膨らんでくれてもいいかもしれない。
背は結構伸びて来ており、もう大人嫁たちに追いつく勢いだ。秘部はツルツルなので、少しは生えてくれるといいだろう。剛毛はパスだが茂みがまったくないツルツルだと、子供を弄っているようで萎える。
あれ?いつの間にかキョウちゃんズの息遣いが荒くなって…ああ!しまった。腹をさすってたはずなのに、胸のことを考えてたときは胸を、秘部のことを考えていたときは秘部を触っているではないか。
さり気なく腹をさするのに復帰し、しばらくすると、ふたりはすーすーと寝息を立て始めた。俺も寝るか。ふたりが襲って来ないのは意外だな。と思って、いつの間にか眠ってたら、夜討の奇襲を受け、幼いふたりに何度もマイドラゴンを弄ばれてしまったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/9/18
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№116 アジトを奇襲
ギルドを出てすぐ、デミズの宿屋を取ってチェックインした。デラックスツインと大部屋である。夕餉は部屋食を頼んで、大部屋で作戦会議を行った。
作戦の概略は、まず全員分の流邏石をデミズの宿屋に登録する。その後、俺が単独で海賊島に渡り、デミズ側の浜に流邏矢の甲矢を登録する。そして山の反対側の中腹に回り込んで、流邏矢の乙矢を登録する。
この準備を明日1日で行って、後は明後日の未明に奇襲を仕掛ける。
奇襲の前に、俺が流邏矢で皆をデミズ側の浜に運んで、嫁たちはそこで待ち伏せ。俺はすぐ反対側の中腹に飛んで、海賊のアジトに炎撃矢をひたすら連射、つまり、反対側から徹底的に火攻めの奇襲を仕掛るのだ。
じきに、火勢は手に負えなくなって、消火を諦めた海賊たちは、火の少ないデミズ側の浜に下りて来るだろう。そこを嫁たちの部隊が一気に殲滅する。もちろん、そこには俺も駆け付けて加勢するけどね。
夕餉の後、今日の輪番のホサキとデラックスツインに行き、ここんとこマイブームのじっくり攻めについてホサキに提案してみることにした。
「なぁ、ホサキ。今日はじっくり攻めたい。俺のなすがままにさせてくれよ。」
「ふむ。まぁたまにはそう言うのもよいか。」
あっさり承諾されたので、サヤ姉、サジ姉と同様に、たっぷりじっくり攻め上げた。すべてを任せてくれた従順なホサキは、最初に結ばれたときのようで初々しかったが、所々に見せる妖艶な顔が、さらに俺を刺激する。もちろん最後にはマイドラゴンがホサキのお世話になったけどね。あー、例のアレ、早く完成しないかな。
翌朝、俺はデミズの宿屋に流邏石8個を登録した。俺は新しい流邏石に登録したが、嫁たちのはタッテーノの出湯の宿屋の流邏石7個にデミズの宿屋を上書きした。タッテーノの宿屋には、いつかまた行きたいとは思うが、そうちょくちょくは行けないしな。嫁たちの流邏石は主要都市だけで十分だ。
俺は単身、デミズの西にある山の麓の浜から、渡し船で瀬戸を渡って、海賊の島に乗り込み、島のデミズに面する浜に流邏矢の甲矢を登録した。眼の前の山の頂には、海賊のアジトの砦がある。
それからその山を反時計回りに迂回して、山の反対側の中腹に流邏矢の乙矢を登録した。これで準備万端だ。
俺は流邏石でデミズの宿屋に戻った。夕刻前だったので、丸1日は掛かっていない。
嫁たちは出掛けていてまだ帰って来ていなかったので、俺は先に大浴場でゆっくりし、海賊のアジトへの奇襲作戦を練る。
おそらく奴らはこちらからの奇襲を想定していまい。ならば、兵法の常道である夜討か朝駆に限る。夜明け前の未明の頃に炎撃矢での奇襲を仕掛ければ、見張はいるであろうが多くの海賊は寝入っているから消火作業も遅れるに違いない。日の出直前の薄明の頃には、アジトは紅蓮の炎に包まれるくらい、火が回っているだろうか。
消火を諦めないようなら、雷撃矢も撃ち込んでやろう。諦めて、浜に向けて逃げてくれれば、それこそ一網打尽にしてくれる。奴らがお宝をため込んでいれば、火事で焼失してしまうだろうが、まぁそれは仕方ない。海賊退治が最優先だからな。よし、これで行こう。
大体の戦略が固まって、大浴場から出て、団扇片手に涼んでいると、嫁たちが帰って来た。
「アタル、随分早かったんですのね。」
「皆でどこに行ってたのさ?」
「クエストですよぉ。明日に向けてぇ、体を慣らして来たんですぅ。」
「どんなクエスト?」
「獣狩りや。」「仰山獲って来たでぇ。」
「どのくらい?」
「うむ。大猪3頭、大鹿2頭、大猿3匹、大鳶2羽だな。」
「随分頑張ったな。」
「大獣…ばかり…。容易い…。」
「そうね、猛獣も妖獣もいなかったわ。大獣だけなら大したことないわね。」
まあな、嫁たちの戦力を考えれば、こんなの朝飯前か。でも、一般的な基準からは、全然普通じゃないけどな。笑
「それもそうか。ゆっくり風呂で汗を流して来てよ。皆が風呂から出たら、明日の戦略を詰めよう。」
嫁たちは連れ立って大浴場へと消えて行った。
夕餉を摂りながら夜討の作戦を皆に諮ると、皆、賛成だと言うので、今宵は晩酌もやめて早く寝ることにした。輪番も中止で、俺はデラックスダブルにひとり寝だ。
ウトウトした寝入り端、カンカンカンカン…と半鐘の音が鳴り響く。連打されているので、いわゆる擦り半鐘と言う奴だ。火事?と思ったが、デミズの擦り半鐘は海賊の襲来を示すものだと、宿屋の主人が教えてくれた。
見張台が西の山の山頂にあり、海賊の襲来を察知したらしい。先に夜討を掛けられちまったか。
俺たちは戦闘準備をして、山髙屋デミズ支店へと駆け付けた。預けていた北斗号が被害に遭ったらたまったもんじゃないのと、商店と言うことで、真っ先に狙われやすいからだ。前回の襲撃でも少なからず被害を受けたと言ってたしな。
擦り半鐘で衛兵や冒険者たちが駆け付け、各個で迎撃に向かっているが、これじゃだめだ。もっと組織的に動かないと。
一応持ち場はあるようだが、臨機応変が暴走してほとんど機能していない。ギルマスが大怪我で入院していると言うのも影響しているようだ。
そんなとき、軍師キョウちゃんズからの進言があった。
「なぁ、アタル兄、海賊の奴ら、こっちに出張って来とるのやったら、アジトがもぬけの殻なんやない?」
「多分そうやで。だったらこっちから逆にアジトを襲ったったらええやん。」
「なるほど。」
「反対側の中腹からアジトに向けて、炎撃矢をバンバン射掛けたり。」
「アジトを派手に燃やしたったらきれいやで。海賊の奴ら慌てふためくやろなー。」
ふたりは極悪な笑みを浮かべている。絶対に敵にしたくない。
「ここは任せた。」
俺は流邏矢で、山の反対側の中腹に飛んだ。
「エン、3倍だ。連射するぞ。」
『承知。』
3倍炎撃矢を続けざまに10本近く射掛けると、山頂のアジトは瞬く間に炎上した。もぬけの殻で、消火に当たるメンバーがいないのだから当然と言えば当然だ。
アジトに乗り込もうかとも思ったが、いったん戻って、仲間と合流して、デミズ側の浜で待ち伏せた方がいいかもしれない。
流邏石でデミズの宿屋に飛び、そこから山髙屋デミズ支店に駆け付けた。
「アタル兄、ご苦労さん。上々の首尾やないの。」
「派手に燃えとるなぁ。ホンマにきれいやわぁ。」
ここからだと、西の山のせいで海賊島を直接見ることはできないが、式神を上空に放って戦況を俯瞰しているキョウちゃんズには、丸分かりなのである。もっとも西の夜空を見ると明るくなっている見えるから、アジトが派手に燃えてるであろうことはすぐに分かる。
「なぁ、これから皆で海賊島のデミズ側の浜に飛んで、帰って来る海賊どもを待ち伏せしないか?」
「いや、いったんアジトに帰らせた方がええな。」
「せやな。夜通しアジトを片付けさせて、クタクタになって寝入ったところを朝駆の奇襲やな。」
確かにその方がいいか。流石、わが軍師たち。戦略の切れがいい。
海賊どもはアジトを消火すべく、相当慌てふためきながらアジトへ引き上げて行った。
俺たちは朝駆に備え、取り敢えず宿屋に帰って寝ることにした。
仮眠を取って夜中に起き出し、宿屋を出発。
未明のうちに西の山の見張台に上り、海賊島の様子を伺うと、山頂のアジトの火災は鎮火している。で、海賊島では、こちらに面した浜でも山頂のアジトでも、盛んに篝火を焚いており、十分に警戒してるようだ。
これだけ警戒されると、奇襲は無理か?
「サキョウ、見てみ。篝火のまわりで影が全然動いとらんで。」
「せやね。篝火は見せ掛けやわ。空城の計やろね。」
くっ。見る目が全然違う。凹むわ、マジで。泣
結局手はず通りと言うことになり、俺は流邏矢で、嫁たちをデミズ側の浜にピストン輸送した。
やはりキョウちゃんズの見立て通り、浜には誰もいなかった。嫁たちは浜に展開し迎撃態勢を取る。
俺はそのまま流邏矢で山の反対側の中腹に飛んだ。山頂のアジトの向こうの東の空は明るくなりつつある。薄明だ。もうすぐ日が昇る。さて、やるか。
「シン、ライ、エン、この順で3倍な。それをループするぞ。」
『『『承知。』』』
3倍震撃矢、3倍雷撃矢、3倍炎撃矢の順で繰り返し連射する。山頂のアジトは、震撃、雷撃、炎撃の順に繰り返し襲われ大パニックになる。
え?なぜこの順かって?
昔から言うじゃんよ。この世で怖いもの、地震、雷、火事、親父ってさ。まあ、親父はないけど、地震、雷、火事をループで放ってやれば効果倍増っしょ。笑
山頂のアジトは、昨日の奇襲で焼け落ちているから、震撃矢と雷撃矢でアジトを直撃し、浜の方へ逃げる道を除く、すべての方角のアジトのまわりの樹々を、炎撃矢で焼いてやった。
アジトのまわりのすぐ外を焼かれ、アジト内は地震と落雷に襲われた訳である。アジトからは、悲鳴が聞こえて来るではないか。海賊どもめ、パニックを起こしてやがる。ざまぁみやがれ!笑
俺はデミズ側の浜に飛んで、嫁たちと合流した。
俺たちは、浜の端で山の麓の、アジトから降りて来る山道の出口に移動して、その出口をしっかりと取り囲んで待ち伏せた。もちろん、効果的な罠も仕掛ける。
「ウズ、レイ、3倍。」
『『承知。』』
山道出口手前の斜面に水撃矢と氷撃矢を降らせ、斜面を完全に凍らせた。猛ダッシュで山頂から駈け下りて来たらどうなるか!くっくっくっ。
案の定、すってーん、すってーん、すってーん、…。面白い様にすっ転び、斜面を滑落して来る海賊ども。
山道の出口まで滑り落ちて来たところで、サヤ姉の二刀流剣舞の峰打ち、ホサキの槍のぶん回し、タヅナの薙刀のぶん回しが、海賊たちにものの見事にヒットして、一撃で意識を刈り取って行く。
さらにご丁寧にサジ姉が麻痺の術を掛け、キョウちゃんズとアキナが手際よく、両手両足をふん縛って行ったのだった。
四半時もせず、すべての海賊を確保した。総勢54名。
いつのまにか朝日が浜を照らしている。振り返ると、デミズの向こうから朝日が昇って来ていた。
朝駆は俺たちの完勝で終わったのだ。
嫁たちを見張りに残し、俺はデミズの冒険者ギルドに飛んだ。ギルドの受付嬢に仔細を報告すると、受付嬢は衛兵詰所に連絡を取り、衛兵と手の空いた冒険者が小舟を使って海賊島との瀬戸を渡った。
俺は衛兵隊長とともに船に乗り、衛兵隊と冒険者たちを、捕らえた海賊たちを確保している場所に案内した。
「半信半疑やったとばい、じゃが、まこっちゃ。」
「信じられんばい。」
衛兵たちや冒険者たちが口々に感想を述べる。笑
「あんたら、何者ね?」
「俺はアタル、パーティはセプト。」
衛兵隊長の問いに答えると、冒険者たちが反応した。
「え?セプトち、あん伝説の…。」
「そう言えば皆、濃紺のマントを羽織っとるったい。」
「濃紺の規格外って、ほんまのこつやったんやねぇ。」
「デミズへの護送は頼む。俺たちは朝駆で腹が減ったんでな、宿屋に帰って飯を食ったら風呂に入って寝るからよ。ギルドに顔を出すのは昼過ぎだな。報酬の金貨1枚、よろしくって言っといてくれ。」
後の処理を衛兵隊と冒険者たちに任せ、流邏石で宿屋に飛んだら、朝餉の準備がもう少しってんで、先に風呂に入ることにした。嫁たちと別々なのは辛いが、ゆっくり湯に浸かる。
朝風呂で朝駆の汚れを落とし、さっぱりしたら、朝餉が待っていた。鮭、納豆、生卵、海苔、ひじき、サラダ、お新香、そしてみそ汁に飯。うーん、典型的な宿屋の朝餉じゃん。笑
それから部屋に帰って朝寝と決め込む。実に贅沢な怠惰ではないか!
昼過ぎに起きて、皆とギルドに行くと、顔馴染みになった受付嬢から呼ばれた。
「セプトの皆さん、逮捕した海賊ん装備はどぎゃんすっと?皆さんの戦利品やけん、売るも分捕るも自由ったい。」
「ああ、それならデミズに寄付するわ。復興の足しにしてくれ。」
「え?」
「それより報酬な。」
「金貨1枚しか出せんとよ。」
「ああ、それでいいよ。そう言う約束だからな。」
「でもその何十倍もの働きばい?せめて戦利品は…。」
「だからそれは寄付するって言っただろ。もともと金貨1枚の約束だからそれで十分だよ。」
受付嬢は深々と頭を下げ、報酬の金貨1枚を差し出して来た。
「じゃあ、これで今夜は贅沢に行こうぜ。デミズでパーッと使っちまおう。」嫁たちも頷いた。
疲弊した街で地の物を食い、金を落とす。一石二鳥だ。
つーことで、戦勝祝いも兼ねて、この日の夕餉はデミズの町に繰り出してトンしゃぶにしたのだった。金貨1枚は当然、きれいさっぱり使い切ったよ。笑
宿屋に戻って部屋に入ると今夜の輪番はキョウちゃんズ…なのだが。
「うー、トンしゃぶ旨過ぎやー。」「もう、お腹がパンパンやー。」
腹が膨れたキョウちゃんズの、腹を夜中までさすることになってしまったのだ。キョウちゃんズの大食いには致し方ない理由がある。気力量が圧倒的に多きキョウちゃんズは、その膨大な気力量の維持に養分が使われてしまい、普通の食事量では、成長に回らないのだ。
このパンパンな腹が引っ込むと、いろいろなところが成長する。それは、背丈であったり、胸であったりするのだが、小振りが好きな俺としては、胸は程々でよい。それでもキョウちゃんズの今のサイズなら、まぁ、もう少しは膨らんでくれてもいいかもしれない。
背は結構伸びて来ており、もう大人嫁たちに追いつく勢いだ。秘部はツルツルなので、少しは生えてくれるといいだろう。剛毛はパスだが茂みがまったくないツルツルだと、子供を弄っているようで萎える。
あれ?いつの間にかキョウちゃんズの息遣いが荒くなって…ああ!しまった。腹をさすってたはずなのに、胸のことを考えてたときは胸を、秘部のことを考えていたときは秘部を触っているではないか。
さり気なく腹をさするのに復帰し、しばらくすると、ふたりはすーすーと寝息を立て始めた。俺も寝るか。ふたりが襲って来ないのは意外だな。と思って、いつの間にか眠ってたら、夜討の奇襲を受け、幼いふたりに何度もマイドラゴンを弄ばれてしまったのだった。
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設定を更新しました。R4/9/18
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
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カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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