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射手の統領115 西の島西岸を南下
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射手の統領
Zu-Y
№115 西の島西岸を南下
昨日の紅蓮龍攻略を報告するために、いったんクマモンの冒険者ギルドに行くことにした。クマモンは、西の島の西岸一帯では最も大きな港町で、その規模は宰府やハタカに匹敵する。
朝餉の後すぐに、タッテーノの宿屋を発って、クロの河に沿って南下し、クロの河がシロの河に合流する地点で、進路を西に転じた。そのままシロの河に沿って西進し、山道から扇状地、そして平地へと降りて来た。夕方近くにはクマモンの港町に着いた。
行きは素通りしたが、クマモンは三の島でも大きな港町のひとつで、三の島西岸中央に位置している。三の島は北西に半島が着き出しており、クマモンは半島が形成する湾の奥にあるので、三の島の周回航路である西の島航路の寄港地ではない。
クマモンの冒険者ギルドがある中心部は、クマモン港からはやや内陸にある。俺たちは、北斗号をキノベ陸運クマモン営業所に預け、近場の宿屋を押さえてから、クマモンギルドに、紅蓮龍攻略完了の報告をしに行った。
受付嬢に概要を伝えると、中にすっ飛んで行った。ギルマスを呼びに言ったっぽい。やがてギルマスらしき男が出て来た。
「あんたらがセプトとね?紅蓮龍ば鎮めたっちゅうんは、まこつね?」
「ああ。そのせいで涼しくなってるだろ?」
周りの冒険者たちの注目が一気に集まるが…、
「まこっちゃろか?あげな頼りなか男ばひとりと、あとは皆、女ったい。」
「じゃね。子供もいるとばい。」
「どうせ、吹かしよるとよ。」
あまり好意的な評判ではなさそうだ。
「まあ、ここじゃあ、ゆっくり話せんけん、ギルマスルームに来んね。」ギルマスが気を遣ってくれ、俺たちはギルマスルームに通された。
「わしは、ここんギルマスのコエオチたい。」
「セプトのアタルだ。それと順に、サヤ、サジ、ホサキ、サキョウ、ウキョウ、アキナ、タヅナだ。」
互いに会釈を交わした。
「早速ばってん、攻略の証ば見せんね。」
俺はエン鏑を取り出した。赤く輝くエン鏑内で、炎が紅蓮龍の形態を取る。
「これは確かに…。ばってん今までのパーティは全然敵わなかったとに…。」
『おい男、アタルと雑魚どもを一緒にするでない。』
「なんと!」
「エンからの…いや、紅蓮龍からの念話だ。」
それから俺たちは紅蓮龍攻略の一部始終を語り、合点がいったギルマスのコエオチは、俺たちセプトのクエスト達成を認めた。
翌日、報酬を受け取りに、再度ギルドを訪れることになり、その日は解散。クマモンギルドで流邏石ひとつを登録し、あとは夕餉だ。
クマモンと言えば、名物料理は馬刺し、辛子レンコン、一文字ぐるぐるあたりか。
馬刺しはそのまんま馬の刺身だが、いろいろな部位がある。オーソドックスなのは赤身だが、たてがみは脂身でコリコリしていて何とも言えない食感だ。馬の脂身はさっぱりしているので、どぎつくないのがいい。赤身にたてがみを挟んで食うのが旨い。また、馬は体温が高いから寄生虫の心配がなく、レバ刺しを生で行ける。
辛子レンコンは、昔、病弱な領主の滋養強壮のために家来が考えた料理だという。茹でたレンコンの穴に、粉辛子と味噌と蜂蜜を混ぜてこねた物を詰め、油で揚げたものだ。辛子でつーんと来るが、思ったほど辛くはない。
一文字ぐるぐるは、ざっくりいうとねぎ1本をぐるぐる巻きにしたものだ。それを辛子酢味噌で頂く。
まあ、どれもいい酒のつまみだな。
酒と言えば、クマモンの辺りは米焼酎が主流で、アルカリの温泉水をうまく使って上品に仕上げている。中には原料に牛乳を取り入れたものもあり、この焼酎は確かにほんのりと牛乳の香りがして、非常に旨かった。これは買いだな。
郷土料理と焼酎の夕餉を堪能した俺たちは、そのまま宿に帰った。そして今夜はサジ姉と同室。
「なぁ、サジ姉。ここんとこイカせ勝負みたいになってるけど、今夜はじっくり攻めさせてくんない?」
「りょ…。」
「それって、了解ってことでいいんだよね?」
こくり。
俺はサジ姉をたっぷりじっくり攻め上げた。すべてを任せてくれた従順なサジ姉もなんか新鮮だった。もちろん最後にはマイドラゴンが、サジ姉のお世話になったけどね。あー、例のアレ、早く完成しないかな。
翌朝、ギルドを訪れると、紅蓮龍攻略の褒賞として大金貨3枚が出た。さらに、サヤ姉、サジ姉、ホサキがSランクに昇格。それにしても、いつも思うが、七神龍の攻略は、ギルドの査定が非常に高い。こんなにとんとん拍子にランクが上がっていいものだろうか?
今日はギルド前で、午後に山髙屋移動店舗の営業をさせてもらえることになったので、クマモンへはもう1泊することにした。
キノベ陸運クマモン営業所で北斗号を受け取り、山髙屋クマモン支店で、お目当ての牛乳焼酎をたっぷりと原価で仕入れてから、ギルド前に戻って午後からの店開きの準備をする。
陳列する商品は、商都で仕入れて来た簪や櫛などの装飾品と紅や白粉の化粧品である。
値切りの算盤、商人の服、鑑定の眼鏡、もみ手の手袋と言った商人装備を身に付けた、商人モードのアキナ店長を筆頭に、掛け合い上手の店員キョウちゃんズ、オジサマ担当の癒し系店員タヅナ、女の子担当の姐御系店員サヤ姉、陰キャ担当の口数少な系店員サジ姉、下僕キャラ担当の女性上司系店員ホサキ、これで様々な客層に対応できる。
え?俺?俺は接客苦手の品出し担当です。冷汗
商都の商品は、廻船で繋がれているハタカやすぐ近くの宰府までは、豊富に届いているが、クマモンにはなかなか入って来ないので、商都の商品と言うだけで非常によく売れ、店終いの夕刻には在庫の6割を捌くことができた。
店終いの後、北斗号をキノベ陸運クマモン営業所に預け、夕餉に繰り出した。今宵も郷土料理と焼酎の夕餉を堪能した俺たちは、大満足で宿に帰った。そして今夜はサヤ姉と同室。
「アタル、サジから聞いたわよ。」
「ん?何を?」
「昨夜のこと。」
「ああ、ここんとこイカせ勝負みたいになってたからね。ゆっくり丁寧に攻めさせてもらったんだよ。結構新鮮だったぜ。」
「私も今夜はそれがいいわ。」
「まじで?実はサヤ姉にも、今夜はそれでいいか聞こうと思ってたんだよね。」
昨日のサジ姉に続いて今日はサヤ姉を、たっぷりじっくり攻め上げた。すべてを任せてくれた従順なサヤ姉もとても新鮮だった。もちろん最後にはマイドラゴンが、サヤ姉のお世話になったけどね。あー、例のアレ、早く完成しないかな。
翌日、俺たちはクマモンを発って、馬手側に海を見つつ海岸線に沿って南南西に進んだ。4頭の馬たちはグイグイと北斗号を曳き、非常に頼もしい限りだ。
北斗号の運用にあたっては、タヅナをチーフに、サヤ姉、サジ姉、ホサキが御者チーム、周囲警戒の式神を飛ばせるキョウちゃんズとアキナが見張チームとして、作業分担している。俺は当然、どちらへも顔を出す。御者台と見張台を行ったり来たりしているのだ。
この日の行程は非常に穏やかで順調に進んでいた。途中大猪がいたので、遠矢で仕留めた。属性攻撃は付けずに、純粋に弓矢の腕で仕留めたのだ。腕は落ちていない。解体した肉はメイン車両の後半の食糧庫に積み込んだ。食糧庫は寒冷石で冷凍や冷蔵にできるので、生の食材もある程度は持つ。この大猪は今宵の御馳走になるのだ。
ヤッシロの港町で遅めの昼餉を摂り、ヤッシロの港町を抜けてヤッシロのある平野の南西端にあるグナッピの原野に着く頃には夕刻になっていた。今宵は野宿だ。このグナッピの原野には温泉が湧いており、いわゆる何もない野天風呂である。
日が暮れないうちに皆で野天風呂を楽しんだ。脱衣所も何もない。湯は澄んでいて微かに硫黄の香りがするだろうか。旅の疲れが吹っ飛ぶ。それに夕日に映える14輪の小さな花が実にいい。小振りな花器にすべて1輪挿しである。湯に浸かり、見え隠れしている。なんとも風情があるではないか。
すっかり温まったところで、野天風呂のすぐ近くで野営することにした。野営の夕餉は鍋である。道中に仕留めた、大猪を解体して鍋にぶち込み、野菜もたっぷり入れた。宰府で仕入れた柚子胡椒をたっぷり効かせて、塩味で辛口の鍋に仕上げた。
北斗号のメイン車両とサブ車両でL字型を作り、焚火を囲んでいる。そして焚火には大鍋を掛け、皆で囲んだ。
うちの嫁たちは皆ガッツリ食う。で、太らないんだから大したものだ。おかげで体力はばっちりの健康体である。食べた分はしっかりと消費しているのだ。まあ、皆、お転婆だしな。笑
夜の見張りは交代制だが、キョウちゃんズは見張りに入れずに寝かす。と言うのもキョウちゃんズは、昼間は式神を常に3体ずつ飛ばし続けていて、休まないのだ。気力量が桁違いに多いから、疲労しないのだとか。
ちなみにアキナは1時間ずつ休まないと続かないが、それが普通なのだ。一時期アキナはそのことを気にしていたが、それをキョウちゃんズに諭されたことがあって、それ以来、吹っ切ることができた。
あれはシンを攻略しに、西都からトリトへ向かう道中のことだった。式神飛ばしを余裕で続けるキョウちゃんズに、アキナは追いつこうと無理をしていた。
「アキ姉、まさかとは思うけど、休んどったらうちらに悪いとか、思てへんやろね?」
「アキ姉、うちらと競うたらあかん。アキ姉は十分ようやっとる。上出来や。」
「うちら、売上でアキ姉に挑もうなどとは思わん。」
「馬の扱いでタヅ姉に勝とうとも思わんし、アタル兄を弓矢で負かそうとも思わん。」
「せやで。まさかアキ姉は弓矢でアタル兄に挑むんか?」
「分かりました。私のペースでゆっくり休みながらやります。凄く気持ちが楽になりました。ありがとうございます。」
こんな感じのやり取りだった。
交代での夜間の見張りの間も何事もなく、無事翌朝を迎えた。
朝餉の後、皆で野天風呂での朝風呂と決め込んで、それからグナッピの原野を発った。
馬手側に海を見ながら海岸線に沿って南西に進み。岬ごとの横断では軽い山越えを繰り返した。いったん南へ、そして再び南西へ。
ミナマーの町で昼餉を摂って、さらに南西へ進む。海岸線をだいぶ下に見る山道を快調に進んで、この日も何もないまま順調に目的地のデミズの港町に着いた。
さて、デミズの町だが、なぜだか活気がない。取り敢えず、山髙屋デミズ支店に北斗号を預けに行ったら、街に活気がない事情が分かった。
デミズに西にはこぶのような小さい山があり、その先の北西に瀬戸を挟んだ島がある。この島を質の悪い海賊集団が根城にしており、時折、デミズに略奪に来るのだそうだ。
ちょうど昨日その襲撃被害に遭ったとかで、町の衛兵と冒険者ギルドで何とか追い払ったものの、被害を完全に防ぐことはできず、山髙屋デミズ支店も被害が出たとか。
衛兵や冒険者もけが人が多数出て、次の襲撃を追い払えるかは微妙らしい。よし、俺らの出番じゃね?
早速冒険者ギルドに行ってみた。取り敢えず受付嬢に聞いてみる。
「旅の者なんだけどさ、町が海賊で難儀してるって聞いて来たんだけど、討伐クエストとかある?」
「え?討伐クエストを受けてくれるとですか?」
「うん。」
「ほんとはギルマスから直接お話したか内容ですけど、昨日の襲撃で大怪我して入院したとです。」
「そりゃ大変だね。で、何すりゃいいの?」
「こん町の西に小さなお山があるとですけど、そん北西ば向かいに瀬戸を挟んで島があるとです。そん島にある海賊のアジトを壊滅して欲しかです。」
「海賊は退治しなくていいの?」
「そりゃ退治して欲しかですけど…。アジトばなくしたら、散りよりますけん、そいで十分です。」
「アジトを潰す方法は何でもあり?燃やしちゃってもいい?」
「よかです。」
「報酬は?」
「申し訳なかとですけど、今、度重なる襲撃でデミズの町が疲弊しとって、金貨1枚しか出せんとです。」
「じゃあ、それでいいよ。」
「え?よかとですか?」
「うん。引き受けた。で、アジトの場所は?」
地図が出て来て、
「ここです。西の山に登ったら見えるとです。」
なるほど、島の中で、こっち側にある山のてっぺんか。
クエストを受ける手続きに俺たちの冒険者カードを提示したら、受付嬢は目を見開いて固まった。そしてゆっくり俺たちの方を見て、
「セプトってあのセプト?」と聞いて来たから、にっこり微笑んで頷いた。
そこで改めて受付嬢は、
「あ、濃紺のマント…。」と呟いたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/9/11
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№115 西の島西岸を南下
昨日の紅蓮龍攻略を報告するために、いったんクマモンの冒険者ギルドに行くことにした。クマモンは、西の島の西岸一帯では最も大きな港町で、その規模は宰府やハタカに匹敵する。
朝餉の後すぐに、タッテーノの宿屋を発って、クロの河に沿って南下し、クロの河がシロの河に合流する地点で、進路を西に転じた。そのままシロの河に沿って西進し、山道から扇状地、そして平地へと降りて来た。夕方近くにはクマモンの港町に着いた。
行きは素通りしたが、クマモンは三の島でも大きな港町のひとつで、三の島西岸中央に位置している。三の島は北西に半島が着き出しており、クマモンは半島が形成する湾の奥にあるので、三の島の周回航路である西の島航路の寄港地ではない。
クマモンの冒険者ギルドがある中心部は、クマモン港からはやや内陸にある。俺たちは、北斗号をキノベ陸運クマモン営業所に預け、近場の宿屋を押さえてから、クマモンギルドに、紅蓮龍攻略完了の報告をしに行った。
受付嬢に概要を伝えると、中にすっ飛んで行った。ギルマスを呼びに言ったっぽい。やがてギルマスらしき男が出て来た。
「あんたらがセプトとね?紅蓮龍ば鎮めたっちゅうんは、まこつね?」
「ああ。そのせいで涼しくなってるだろ?」
周りの冒険者たちの注目が一気に集まるが…、
「まこっちゃろか?あげな頼りなか男ばひとりと、あとは皆、女ったい。」
「じゃね。子供もいるとばい。」
「どうせ、吹かしよるとよ。」
あまり好意的な評判ではなさそうだ。
「まあ、ここじゃあ、ゆっくり話せんけん、ギルマスルームに来んね。」ギルマスが気を遣ってくれ、俺たちはギルマスルームに通された。
「わしは、ここんギルマスのコエオチたい。」
「セプトのアタルだ。それと順に、サヤ、サジ、ホサキ、サキョウ、ウキョウ、アキナ、タヅナだ。」
互いに会釈を交わした。
「早速ばってん、攻略の証ば見せんね。」
俺はエン鏑を取り出した。赤く輝くエン鏑内で、炎が紅蓮龍の形態を取る。
「これは確かに…。ばってん今までのパーティは全然敵わなかったとに…。」
『おい男、アタルと雑魚どもを一緒にするでない。』
「なんと!」
「エンからの…いや、紅蓮龍からの念話だ。」
それから俺たちは紅蓮龍攻略の一部始終を語り、合点がいったギルマスのコエオチは、俺たちセプトのクエスト達成を認めた。
翌日、報酬を受け取りに、再度ギルドを訪れることになり、その日は解散。クマモンギルドで流邏石ひとつを登録し、あとは夕餉だ。
クマモンと言えば、名物料理は馬刺し、辛子レンコン、一文字ぐるぐるあたりか。
馬刺しはそのまんま馬の刺身だが、いろいろな部位がある。オーソドックスなのは赤身だが、たてがみは脂身でコリコリしていて何とも言えない食感だ。馬の脂身はさっぱりしているので、どぎつくないのがいい。赤身にたてがみを挟んで食うのが旨い。また、馬は体温が高いから寄生虫の心配がなく、レバ刺しを生で行ける。
辛子レンコンは、昔、病弱な領主の滋養強壮のために家来が考えた料理だという。茹でたレンコンの穴に、粉辛子と味噌と蜂蜜を混ぜてこねた物を詰め、油で揚げたものだ。辛子でつーんと来るが、思ったほど辛くはない。
一文字ぐるぐるは、ざっくりいうとねぎ1本をぐるぐる巻きにしたものだ。それを辛子酢味噌で頂く。
まあ、どれもいい酒のつまみだな。
酒と言えば、クマモンの辺りは米焼酎が主流で、アルカリの温泉水をうまく使って上品に仕上げている。中には原料に牛乳を取り入れたものもあり、この焼酎は確かにほんのりと牛乳の香りがして、非常に旨かった。これは買いだな。
郷土料理と焼酎の夕餉を堪能した俺たちは、そのまま宿に帰った。そして今夜はサジ姉と同室。
「なぁ、サジ姉。ここんとこイカせ勝負みたいになってるけど、今夜はじっくり攻めさせてくんない?」
「りょ…。」
「それって、了解ってことでいいんだよね?」
こくり。
俺はサジ姉をたっぷりじっくり攻め上げた。すべてを任せてくれた従順なサジ姉もなんか新鮮だった。もちろん最後にはマイドラゴンが、サジ姉のお世話になったけどね。あー、例のアレ、早く完成しないかな。
翌朝、ギルドを訪れると、紅蓮龍攻略の褒賞として大金貨3枚が出た。さらに、サヤ姉、サジ姉、ホサキがSランクに昇格。それにしても、いつも思うが、七神龍の攻略は、ギルドの査定が非常に高い。こんなにとんとん拍子にランクが上がっていいものだろうか?
今日はギルド前で、午後に山髙屋移動店舗の営業をさせてもらえることになったので、クマモンへはもう1泊することにした。
キノベ陸運クマモン営業所で北斗号を受け取り、山髙屋クマモン支店で、お目当ての牛乳焼酎をたっぷりと原価で仕入れてから、ギルド前に戻って午後からの店開きの準備をする。
陳列する商品は、商都で仕入れて来た簪や櫛などの装飾品と紅や白粉の化粧品である。
値切りの算盤、商人の服、鑑定の眼鏡、もみ手の手袋と言った商人装備を身に付けた、商人モードのアキナ店長を筆頭に、掛け合い上手の店員キョウちゃんズ、オジサマ担当の癒し系店員タヅナ、女の子担当の姐御系店員サヤ姉、陰キャ担当の口数少な系店員サジ姉、下僕キャラ担当の女性上司系店員ホサキ、これで様々な客層に対応できる。
え?俺?俺は接客苦手の品出し担当です。冷汗
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店終いの後、北斗号をキノベ陸運クマモン営業所に預け、夕餉に繰り出した。今宵も郷土料理と焼酎の夕餉を堪能した俺たちは、大満足で宿に帰った。そして今夜はサヤ姉と同室。
「アタル、サジから聞いたわよ。」
「ん?何を?」
「昨夜のこと。」
「ああ、ここんとこイカせ勝負みたいになってたからね。ゆっくり丁寧に攻めさせてもらったんだよ。結構新鮮だったぜ。」
「私も今夜はそれがいいわ。」
「まじで?実はサヤ姉にも、今夜はそれでいいか聞こうと思ってたんだよね。」
昨日のサジ姉に続いて今日はサヤ姉を、たっぷりじっくり攻め上げた。すべてを任せてくれた従順なサヤ姉もとても新鮮だった。もちろん最後にはマイドラゴンが、サヤ姉のお世話になったけどね。あー、例のアレ、早く完成しないかな。
翌日、俺たちはクマモンを発って、馬手側に海を見つつ海岸線に沿って南南西に進んだ。4頭の馬たちはグイグイと北斗号を曳き、非常に頼もしい限りだ。
北斗号の運用にあたっては、タヅナをチーフに、サヤ姉、サジ姉、ホサキが御者チーム、周囲警戒の式神を飛ばせるキョウちゃんズとアキナが見張チームとして、作業分担している。俺は当然、どちらへも顔を出す。御者台と見張台を行ったり来たりしているのだ。
この日の行程は非常に穏やかで順調に進んでいた。途中大猪がいたので、遠矢で仕留めた。属性攻撃は付けずに、純粋に弓矢の腕で仕留めたのだ。腕は落ちていない。解体した肉はメイン車両の後半の食糧庫に積み込んだ。食糧庫は寒冷石で冷凍や冷蔵にできるので、生の食材もある程度は持つ。この大猪は今宵の御馳走になるのだ。
ヤッシロの港町で遅めの昼餉を摂り、ヤッシロの港町を抜けてヤッシロのある平野の南西端にあるグナッピの原野に着く頃には夕刻になっていた。今宵は野宿だ。このグナッピの原野には温泉が湧いており、いわゆる何もない野天風呂である。
日が暮れないうちに皆で野天風呂を楽しんだ。脱衣所も何もない。湯は澄んでいて微かに硫黄の香りがするだろうか。旅の疲れが吹っ飛ぶ。それに夕日に映える14輪の小さな花が実にいい。小振りな花器にすべて1輪挿しである。湯に浸かり、見え隠れしている。なんとも風情があるではないか。
すっかり温まったところで、野天風呂のすぐ近くで野営することにした。野営の夕餉は鍋である。道中に仕留めた、大猪を解体して鍋にぶち込み、野菜もたっぷり入れた。宰府で仕入れた柚子胡椒をたっぷり効かせて、塩味で辛口の鍋に仕上げた。
北斗号のメイン車両とサブ車両でL字型を作り、焚火を囲んでいる。そして焚火には大鍋を掛け、皆で囲んだ。
うちの嫁たちは皆ガッツリ食う。で、太らないんだから大したものだ。おかげで体力はばっちりの健康体である。食べた分はしっかりと消費しているのだ。まあ、皆、お転婆だしな。笑
夜の見張りは交代制だが、キョウちゃんズは見張りに入れずに寝かす。と言うのもキョウちゃんズは、昼間は式神を常に3体ずつ飛ばし続けていて、休まないのだ。気力量が桁違いに多いから、疲労しないのだとか。
ちなみにアキナは1時間ずつ休まないと続かないが、それが普通なのだ。一時期アキナはそのことを気にしていたが、それをキョウちゃんズに諭されたことがあって、それ以来、吹っ切ることができた。
あれはシンを攻略しに、西都からトリトへ向かう道中のことだった。式神飛ばしを余裕で続けるキョウちゃんズに、アキナは追いつこうと無理をしていた。
「アキ姉、まさかとは思うけど、休んどったらうちらに悪いとか、思てへんやろね?」
「アキ姉、うちらと競うたらあかん。アキ姉は十分ようやっとる。上出来や。」
「うちら、売上でアキ姉に挑もうなどとは思わん。」
「馬の扱いでタヅ姉に勝とうとも思わんし、アタル兄を弓矢で負かそうとも思わん。」
「せやで。まさかアキ姉は弓矢でアタル兄に挑むんか?」
「分かりました。私のペースでゆっくり休みながらやります。凄く気持ちが楽になりました。ありがとうございます。」
こんな感じのやり取りだった。
交代での夜間の見張りの間も何事もなく、無事翌朝を迎えた。
朝餉の後、皆で野天風呂での朝風呂と決め込んで、それからグナッピの原野を発った。
馬手側に海を見ながら海岸線に沿って南西に進み。岬ごとの横断では軽い山越えを繰り返した。いったん南へ、そして再び南西へ。
ミナマーの町で昼餉を摂って、さらに南西へ進む。海岸線をだいぶ下に見る山道を快調に進んで、この日も何もないまま順調に目的地のデミズの港町に着いた。
さて、デミズの町だが、なぜだか活気がない。取り敢えず、山髙屋デミズ支店に北斗号を預けに行ったら、街に活気がない事情が分かった。
デミズに西にはこぶのような小さい山があり、その先の北西に瀬戸を挟んだ島がある。この島を質の悪い海賊集団が根城にしており、時折、デミズに略奪に来るのだそうだ。
ちょうど昨日その襲撃被害に遭ったとかで、町の衛兵と冒険者ギルドで何とか追い払ったものの、被害を完全に防ぐことはできず、山髙屋デミズ支店も被害が出たとか。
衛兵や冒険者もけが人が多数出て、次の襲撃を追い払えるかは微妙らしい。よし、俺らの出番じゃね?
早速冒険者ギルドに行ってみた。取り敢えず受付嬢に聞いてみる。
「旅の者なんだけどさ、町が海賊で難儀してるって聞いて来たんだけど、討伐クエストとかある?」
「え?討伐クエストを受けてくれるとですか?」
「うん。」
「ほんとはギルマスから直接お話したか内容ですけど、昨日の襲撃で大怪我して入院したとです。」
「そりゃ大変だね。で、何すりゃいいの?」
「こん町の西に小さなお山があるとですけど、そん北西ば向かいに瀬戸を挟んで島があるとです。そん島にある海賊のアジトを壊滅して欲しかです。」
「海賊は退治しなくていいの?」
「そりゃ退治して欲しかですけど…。アジトばなくしたら、散りよりますけん、そいで十分です。」
「アジトを潰す方法は何でもあり?燃やしちゃってもいい?」
「よかです。」
「報酬は?」
「申し訳なかとですけど、今、度重なる襲撃でデミズの町が疲弊しとって、金貨1枚しか出せんとです。」
「じゃあ、それでいいよ。」
「え?よかとですか?」
「うん。引き受けた。で、アジトの場所は?」
地図が出て来て、
「ここです。西の山に登ったら見えるとです。」
なるほど、島の中で、こっち側にある山のてっぺんか。
クエストを受ける手続きに俺たちの冒険者カードを提示したら、受付嬢は目を見開いて固まった。そしてゆっくり俺たちの方を見て、
「セプトってあのセプト?」と聞いて来たから、にっこり微笑んで頷いた。
そこで改めて受付嬢は、
「あ、濃紺のマント…。」と呟いたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/9/11
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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