113 / 183
射手の統領110 内海航路で西へ
しおりを挟む
射手の統領
Zu-Y
№110 内海航路で西へ
改めて商都西本店に飛び、山髙屋社長の従妹で、山髙屋専務の西本店店長に面会を求めると、すぐに店長室の応接間に通された。アキナもいた。
アキナがさっと俺の横に座ると、専務はふふふと微笑んだ。
「アタルくん、お久しぶりね。二の島では大活躍だったそうじゃないの。」
「アキナをはじめ、嫁たちが頑張ってくれたお陰でな。」
「あらあら、奥様方を立てるあたり、随分お上手なのね。」
「世辞ではない。事実を言ったまでだ。」
「ところで今日は何の用かしら?」
「用件はふたつある。ひとつ目は…。」
俺はサンキとの話から出た、ユノベとオミョシ分家の婚姻同盟の披露目計画を話した。
「…で、その取り仕切りを商都西本店に頼みたい。これから、朝廷からの指名依頼で紅蓮龍の攻略に三の島に行くから、開催はふた月後だな。」
「それは光栄なお話ね。いいわ。私が陣頭指揮を執るわ。ところで今、シレっと凄いことを言ったわね。」
「ん?」
「二の島に引き続き、三の島にも行くのね。」
「ああ、そのことな。どうと言うことはない。」
「何を言ってるの。大変なことよ。アキナ、あなた、とんでもない旦那に嫁いだわね。」
「従叔母様、お陰で退屈しませんわ。」アキナが横で微笑んでいる。
「で、もうひとつの用事だが、例の避妊具の進捗状況は?」
「最新の試作品がこれよ。」
「随分薄くしたじゃないか。これなら…。」
「まだよ。ここまで薄くすると、激しいときに裂けるのよ。強度の問題ね。」
「なるほどな。裂けて漏れたら避妊具にはならないし、裂けるのを警戒して控えめになんかできないしな。」
「その通りよ。大体、最中はどちらも昂ってて、そんなことに気にしてられないわ。事が終わってみたら破けてましたじゃあ、お話にならないのよ。」
「前途多難か。」
「いえ、もうすぐよ。見てらっしゃい。三の島帰りまでには完成品を用意するわ。」
「大きく出たな。」
「私を誰だと思っているの?」
「ほう。流石は西本店店長だな。頼もしい台詞だ。」
それから商都西本店での仕事があるアキナと別れて、俺はひとり商都ギルドに顔を出した。二の島クエストはここで受けたから、ギルマスのトルシンに達成報告だ。
「チハルさん。久しぶり。トルシンさんはいる?」
「あ、アタルさん。すみません、ギルマスは生憎、外出中でして。」相変わらずでけぇな。俺はパスだがな。顔馴染みになった受付のチハルは、結構美人の巨乳で、冒険者に大人気だそうだ。
「そっか。残念。でもノーアポだから仕方ないな。」
「もうすぐ帰って来ると思うんですけど。」
「あ、いいよ。実はここで受けた二の島での藍凍龍攻略が終わったから、その報告に来ただけなんだよ。用件はそれだけなんで、伝えといてくれる?」
「あ、はい。」
トルシンとはそれほど懇意って訳でもないし、まあいいだろう。挨拶に来たのが伝わればそれで十分だ。三の島の帰りに合わせて報告でもいいしな。
夕餉時には、皆ガハマに戻って来て、夕餉を摂りながら互いの報告会だ。まずキョウちゃんズから、シエンも披露目に乗り気であることが報告された。
それぞれの副拠の状況で、動きの出そうなところは、タテベ副拠のナワテを任されていた世継のシルドが、家督相続のために間もなくタテベ本拠のコスカに戻るそうで、ナワテの代官の後任には、シルドの側近で、タテベの一の姫のシヅキの夫であるバクラが就任するとのことだ。
バクラとシヅキでナワテを取り仕切って行くのだな。やはりシルドの思惑通りになったか。
夕餉の後、皆で碧湯に入り、ゆっくり疲れを取った。当然今宵も、全員に全身マッサージである。むふふのふ。
輪番では、サジ姉の次はホサキだが、誕生日を函府で迎え、輪番を入れ替えていたので、今宵はキョウちゃんズである。
今日、アーカでシエンに請われるまま、立ってクルクル回ったキョウちゃんズは、シエンが感想を述べた通り、随分成長していた。いつの間にか背も、大人嫁たちに、ほとんど追い付いて来てるしな。
夜更けまで、交互にふたりを堪能しつつ、三の島から帰って来て行う、ユノベとオミョシ分家の婚姻同盟の披露目に向けて、ふたりを正式に嫁にしようと心に決めた。披露目の前の晩に抉じ開けて、披露目には陰陽士として参加させてやるのだ。
まあ、成人前だが、もう子供には見えないし、いいだろう。ただし、ふたりにこれを告げると変なフラグになり兼ねないから、俺の心の中にしまっておくことにする。
翌日は、ガハマの家来どもと宴を張って、震撃矢と氷撃矢を披露することになっていたので、表座敷に主だった家来どもを集めた。
家来どもにシン鏑とレイ鏑を披露すると、橙色に輝くシン鏑と藍色に輝くレイ鏑を見て、家来どもから、
「おおー。」というどよめきが、そこかしこで湧いた。
それから、震撃矢と氷撃矢の披露を行った。家来たちは、やんや、やんやの大喝采である。
その後は、膳と酒を出していつもの無礼講である。二の島でのことや、これから三ノ島に出向くことを語ると、
「若ー、いつの間にか、偉い出世しとるやん。」
「せや。帝家の次ノ宮殿下が後ろ盾って、ほんまにエライこっちゃ。これでユノベは安泰でんな。」
「まあそうだな。
今日は皆とも久しぶりの宴だ。アーカの隠居のときも随分世話を掛けたから、遠慮せず、たんと呑んでくれ。」
「「「「「おおーう!」」」」」と歓声が上がる。まるで鬨の声だ。苦笑
ふと殺気を感じて両横を見ると、すでにキョウちゃんズが臨戦態勢を整えており、子供が玩具を目の前にしたかの如く、ニマニマとしていた。ああ、俺の家来どもはこいつらの玩具なのか!
「よっしゃー、あんさん、一番乗りやで。」
「ほらほら、ぐーっと干しなはれ。テンバの衆に負けたらあかんえ。」
「うちら、アーカの出やさかいな、西のユノベのガハマの衆を応援しとるんや。」「せやで。西のもんが東のもんに負けたらあかんえ。」
キョウちゃんズの煽りに、俺の家来どもは、見る見ると乗せられて行く。いつの間にか大人嫁たちも、家来どもに注ぎまくってやがるし。
俺の所に辿り着いた家来どもは、しこたま呑まされているので、目の焦点は合ってねぇし、呂律も危なっかしい。
この嫁関門を通過して来た家来どもはすでにへべれけである。
「若ー、ひっく、東奔西走って、ひっく、やっちゃな。」
「それほどでもないがな。」実際、ここんとこ旅ばっかりだからピンと来ないんだよな。
「若ー、ひっく、三の島でも、ひっく、大暴れでんなー。」
「いやいや、俺が暴れるつもりはないぞ。暴れてる紅蓮龍を鎮めに行くのだからな。」
「若ー。ひっく、それじゃぁ、ひっく、つまらんやん。」
「せやで、ひっく、後生やから、ひっく、暴れたってーな。」
「おいおい、あんまり煽るなよ。暴れて来ちゃうぞ。」と軽口を叩いたのが悪かった。
「「「「「おおー!」」」」」
「若ー、ひっく、よく言ったで。ひっく、それでこそ、ひっく、わしらの若や。」
さらに場は大いに乱れた。苦笑
気が付くと大方の家来どもは沈没している。そろそろ潮時か?
「では皆の者、われらは先に引き上げるが心行くまで呑み食いせよ。
代官、後は頼む。」
「「「ははーっ。」」」いや、無礼講の席でそんなに畏まらんでいいから。
宴を切り上げ、皆でトロ湯に浸かった。俺は黒湯にしようと思っていたのだが、嫁たちが美肌の湯であるトロ湯がいいと主張するので、俺は迷わず混浴を採ったのだった。
しかし、トロ湯にして大正解であったのだ!トロ湯は無色透明の炭酸水素泉だから、濁り湯と違って透けるのだ。桃色、桜色、ベージュ、紅色、栗色、薄い赤茶色×2、百花繚乱である。俺の眼は釘付けになってしまった。いわゆるガン見だ。
「ちょっと、アタル。視線に遠慮がないわよ。」
「お構いなく。」
「お構い…なく…じゃなくて…。」
「ドンマイ。気にするな。」
「いやいや、そんなにガン見されると、気になるではないか。」
「ふむ、目移りしてるからガン見ではないと思うのだが。」
「それは屁理屈ですわよ。」
「屁理屈でもいい。ほら、そこ。タオルで隠しちゃいかん。」
「もぉ、いい加減にぃ、してよねぇ。」
「花見だよ、花見。実にいい眺めだ。」
「「花見って何やの!」」おお、ハモった。笑
「和の民である俺は、花を愛でるのだ。花鳥風月と言うだろう。花は風流の筆頭じゃないか。」
嫁たちのジト目など、意に介する俺ではないのだ。
今宵の輪番はアキナである。いつものメガネプレイだが、今日はクールな大人メガネなので、アキナは大人の魅力を纏っている。妖艶だ。混浴でいきり立ってしまったマイドラゴンを手際よくあしらっている。当然俺もスイッチが入り、アキナと夜更けまで楽しんだ。
専務!例のアレ、早く開発してくれ。
翌日の午前中に、南航路の廻船が商都港に着くと、俺たちは北斗号を受け取ってそのまま内海航路の廻船に積み替えた。なお、航海に慣れた曳馬たち4頭は元気である。
北斗号の積荷から、キョウちゃんズには、シエンへの手土産の羆皮の敷物とシカオの乳製品を持たせて、アーカに行かせた。他の嫁たちにもシカオの乳製品を持たせて、サヤ姉はシリタへ、サジ姉はエノウへ、ホサキはナワテへ、アキナはここ商都西本店の店長室へ、タヅナはアベヤへ行かせた。
そして俺は西都ギルドへ飛んで、ギルマスのサンキと受付のチフユにシカオの乳製品を渡しに行く。
「おう、チフユさん。さっき東都からの廻船が着いてな、これ、北斗号に積んでた二の島の土産な。これから三ノ島に発つんだ。サンキさんはいる?」
「いますよ。ところで今日は、キョウちゃんズは一緒じゃないんですか?」
「アーカに行かせた。シエンへ手土産を渡しにな。」
「もう。会いたかったのに。よろしく言っといてくださいね。」
「おう。引き受けた。」
「帰って来たら真っ先に連れて来て会わせてくださいよ。」なんかやけに念を押すな。俺は頷いて了承の意思表示をした。
ギルマスルームでサンキにも二の島の土産のシカオの乳製品を渡し、これから三ノ島に発つことを告げた。
「アタル、デビュー以来絶好調やが、好事魔多しと言うやろ?くれぐれも油断はせんように、気ぃ付けなあかんで。」
「確かにな。紅蓮龍は冒険者からの攻撃で警戒していような。サンキさん、忠告ありがとう。」
「まぁ、アタルなら大丈夫やな。」
「それが油断なんじゃね?」
「こら、一本取られてしもた。」
扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。
あ、こいつ、俺を試しやがったな。俺が、それが油断だと指摘しなかったら、逆にそのことで、やっぱり油断しとるやないかい!とツッコんで来たに違いない。
油断禁物か。確かにな。くれぐれも肝に銘じようっと。
それにしてもさっきのチフユと言い、サンキの念押しと言い、変なフラグじゃあるまいし。いや、そう言えば、オミョシ分家との婚姻同盟締結の披露目の前夜にキョウちゃんズを抉じ開けて陰陽士にしてやろうと思ってるのもフラグと言えばフラグか。そもそもこの遠征から帰ったら披露目をやろうと言うのもフラグだな。
フラグなどへし折らねばな。
商都港で皆と合流すると、隣接する山髙屋商都西本店から、西本店店長兼、山髙屋専務が見送りに来ていた。
「アタルくん、あなた、またやったわね。」ん?何のことだ?カッツラでの乗り過ごしかな?あとは…、心当たりがいっぱいある。汗
「何のことだ?心当たりがあり過ぎて分からん。」
「何言ってんの!お土産で貰ったシカオの乳製品よ。あれは極上だわ。」
「ああ、あれな。旨いだろ?でもいち早くシカオブランドを立ち上げるって条件を提示して、専売契約を取り付けたのはアキナだぞ。」
「でもアタルくんが最初に眼を付けたんでしょう?」
「味見したら旨かったからな。確かにごっそり買ったが、俺はその場だけ。継続的な仕入交渉はアキナだよ。」
「社長は何て?」専務はアキナに聞いた。
「これは売れるって喜んでました。早速、ビヒロ支店との間で輸送計画を立ててます。」
「商都には回してくれないのかしら?」
「シカオの生産規模が小さいですからね。ちょっと無理なんじゃないでしょうか?」
「アタルくん、積荷の乳製品、全部買うわ。」
「え?」
それから凄い勢いの専務に北斗号のサブ車両の乳製品を全部持って行かれたのだが…。どうもそれだけじゃ済まないような雰囲気だ。
「アタルくん、これ、何よ。」
「ああ、それね。北の民の工芸品。すごくいい作りだろ。気に入って買って来た。」
「アタルくん、こっちは?」
「それはワカナで仕入れたリッチリ昆布。いい品だろ?」
「いい品?何、言ってんのよ。極上品よ!最上級品質だわ。」
「そうなの?」
「全部買うわ!ひとつ残らず置いて行きなさい。これで二の島フェアをやるわ。」
専務から提示された買取額は、どれも仕入値の2倍以上だった。さらに高値で売り捌くらしい。マジか!
結局、北斗号の積荷はすっからかんになった。苦笑
「三の島で売る商品がなくなっちゃったじゃないか。」
「うちの商品を持って行っていいわよ。」
と、言う訳で、簪や櫛などの装飾品、紅や白粉の化粧品などを購入した。もちろん、山髙屋移動店舗証明書を提示して、仕入値で分けてもらった。
「私には倍の値で売っといて、うちからは仕入値で持って行くなんて、ほんと、いい根性してるわね。」
「まあね。」
「アタルくん、あなた、いい嗅覚してるわ。三の島でも気に入ったものがあったら買って来てちょうだい。」
「ああ。」
「アキナも頼んだわよ。」
「はい、従叔母様。」
専務の急な取引のせいで、昼に出航予定の廻船の出航時刻が若干遅れた。
俺は、カッツラで廻船に乗り遅れた翌日、東都に到着した廻船の船長から、
「お前のせいでカッツラの出航が遅れた!」と大目玉を食らったので、またこの廻船の船長にどやされるかと思ったが、全然平気だった。
実は廻船は、山髙屋の仕入船から発展しており、山髙屋の海運部門なのである。つまり、専務が取引のために出航を遅らせても、船長は文句を言えないのだ。
実際に廻船は、旅客よりも積荷の輸送に主眼を置いているので、北斗号の運搬などにはもって来いだ。
やや遅れはしたものの、昼過ぎに内海航路の廻船は無事に商都を出航した。目指すはハタカの港町。やや内陸にある宰府の港と言ってもよい。実際そうして栄えて来た港町だからな。たまに異国の船も到着して、交易も盛んだと言う。
そもそも三の島は、西の島とも言い、和の国の北西にある大陸の国々との交易が盛んだ。大陸から見ると、三の島は、和の国の玄関口である。そのため、三ノ島は、北岸から西岸の港町が栄えている。一方、三の島の東岸は大海原に面しているので、それほど栄えている訳ではない。
内海航路はセットの内海を進むので基本的には揺れない。嫁たちは船酔いをしないで済むと喜んでいたが、用心深いサジ姉は、皆に酔止の術を掛けていた。笑
内海航路の西行の寄港地は、四の島の屋府、和の島のレック、ウブ、そして三の島のハタカだ。なお東行は、ハタカを出て、ウブ、四の島のマチャマ、和の島のオキャマ、商都である。
船はするすると言った感じでまったく揺れずに、セットの内海を屋府へと向かって行ったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/9/4
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№110 内海航路で西へ
改めて商都西本店に飛び、山髙屋社長の従妹で、山髙屋専務の西本店店長に面会を求めると、すぐに店長室の応接間に通された。アキナもいた。
アキナがさっと俺の横に座ると、専務はふふふと微笑んだ。
「アタルくん、お久しぶりね。二の島では大活躍だったそうじゃないの。」
「アキナをはじめ、嫁たちが頑張ってくれたお陰でな。」
「あらあら、奥様方を立てるあたり、随分お上手なのね。」
「世辞ではない。事実を言ったまでだ。」
「ところで今日は何の用かしら?」
「用件はふたつある。ひとつ目は…。」
俺はサンキとの話から出た、ユノベとオミョシ分家の婚姻同盟の披露目計画を話した。
「…で、その取り仕切りを商都西本店に頼みたい。これから、朝廷からの指名依頼で紅蓮龍の攻略に三の島に行くから、開催はふた月後だな。」
「それは光栄なお話ね。いいわ。私が陣頭指揮を執るわ。ところで今、シレっと凄いことを言ったわね。」
「ん?」
「二の島に引き続き、三の島にも行くのね。」
「ああ、そのことな。どうと言うことはない。」
「何を言ってるの。大変なことよ。アキナ、あなた、とんでもない旦那に嫁いだわね。」
「従叔母様、お陰で退屈しませんわ。」アキナが横で微笑んでいる。
「で、もうひとつの用事だが、例の避妊具の進捗状況は?」
「最新の試作品がこれよ。」
「随分薄くしたじゃないか。これなら…。」
「まだよ。ここまで薄くすると、激しいときに裂けるのよ。強度の問題ね。」
「なるほどな。裂けて漏れたら避妊具にはならないし、裂けるのを警戒して控えめになんかできないしな。」
「その通りよ。大体、最中はどちらも昂ってて、そんなことに気にしてられないわ。事が終わってみたら破けてましたじゃあ、お話にならないのよ。」
「前途多難か。」
「いえ、もうすぐよ。見てらっしゃい。三の島帰りまでには完成品を用意するわ。」
「大きく出たな。」
「私を誰だと思っているの?」
「ほう。流石は西本店店長だな。頼もしい台詞だ。」
それから商都西本店での仕事があるアキナと別れて、俺はひとり商都ギルドに顔を出した。二の島クエストはここで受けたから、ギルマスのトルシンに達成報告だ。
「チハルさん。久しぶり。トルシンさんはいる?」
「あ、アタルさん。すみません、ギルマスは生憎、外出中でして。」相変わらずでけぇな。俺はパスだがな。顔馴染みになった受付のチハルは、結構美人の巨乳で、冒険者に大人気だそうだ。
「そっか。残念。でもノーアポだから仕方ないな。」
「もうすぐ帰って来ると思うんですけど。」
「あ、いいよ。実はここで受けた二の島での藍凍龍攻略が終わったから、その報告に来ただけなんだよ。用件はそれだけなんで、伝えといてくれる?」
「あ、はい。」
トルシンとはそれほど懇意って訳でもないし、まあいいだろう。挨拶に来たのが伝わればそれで十分だ。三の島の帰りに合わせて報告でもいいしな。
夕餉時には、皆ガハマに戻って来て、夕餉を摂りながら互いの報告会だ。まずキョウちゃんズから、シエンも披露目に乗り気であることが報告された。
それぞれの副拠の状況で、動きの出そうなところは、タテベ副拠のナワテを任されていた世継のシルドが、家督相続のために間もなくタテベ本拠のコスカに戻るそうで、ナワテの代官の後任には、シルドの側近で、タテベの一の姫のシヅキの夫であるバクラが就任するとのことだ。
バクラとシヅキでナワテを取り仕切って行くのだな。やはりシルドの思惑通りになったか。
夕餉の後、皆で碧湯に入り、ゆっくり疲れを取った。当然今宵も、全員に全身マッサージである。むふふのふ。
輪番では、サジ姉の次はホサキだが、誕生日を函府で迎え、輪番を入れ替えていたので、今宵はキョウちゃんズである。
今日、アーカでシエンに請われるまま、立ってクルクル回ったキョウちゃんズは、シエンが感想を述べた通り、随分成長していた。いつの間にか背も、大人嫁たちに、ほとんど追い付いて来てるしな。
夜更けまで、交互にふたりを堪能しつつ、三の島から帰って来て行う、ユノベとオミョシ分家の婚姻同盟の披露目に向けて、ふたりを正式に嫁にしようと心に決めた。披露目の前の晩に抉じ開けて、披露目には陰陽士として参加させてやるのだ。
まあ、成人前だが、もう子供には見えないし、いいだろう。ただし、ふたりにこれを告げると変なフラグになり兼ねないから、俺の心の中にしまっておくことにする。
翌日は、ガハマの家来どもと宴を張って、震撃矢と氷撃矢を披露することになっていたので、表座敷に主だった家来どもを集めた。
家来どもにシン鏑とレイ鏑を披露すると、橙色に輝くシン鏑と藍色に輝くレイ鏑を見て、家来どもから、
「おおー。」というどよめきが、そこかしこで湧いた。
それから、震撃矢と氷撃矢の披露を行った。家来たちは、やんや、やんやの大喝采である。
その後は、膳と酒を出していつもの無礼講である。二の島でのことや、これから三ノ島に出向くことを語ると、
「若ー、いつの間にか、偉い出世しとるやん。」
「せや。帝家の次ノ宮殿下が後ろ盾って、ほんまにエライこっちゃ。これでユノベは安泰でんな。」
「まあそうだな。
今日は皆とも久しぶりの宴だ。アーカの隠居のときも随分世話を掛けたから、遠慮せず、たんと呑んでくれ。」
「「「「「おおーう!」」」」」と歓声が上がる。まるで鬨の声だ。苦笑
ふと殺気を感じて両横を見ると、すでにキョウちゃんズが臨戦態勢を整えており、子供が玩具を目の前にしたかの如く、ニマニマとしていた。ああ、俺の家来どもはこいつらの玩具なのか!
「よっしゃー、あんさん、一番乗りやで。」
「ほらほら、ぐーっと干しなはれ。テンバの衆に負けたらあかんえ。」
「うちら、アーカの出やさかいな、西のユノベのガハマの衆を応援しとるんや。」「せやで。西のもんが東のもんに負けたらあかんえ。」
キョウちゃんズの煽りに、俺の家来どもは、見る見ると乗せられて行く。いつの間にか大人嫁たちも、家来どもに注ぎまくってやがるし。
俺の所に辿り着いた家来どもは、しこたま呑まされているので、目の焦点は合ってねぇし、呂律も危なっかしい。
この嫁関門を通過して来た家来どもはすでにへべれけである。
「若ー、ひっく、東奔西走って、ひっく、やっちゃな。」
「それほどでもないがな。」実際、ここんとこ旅ばっかりだからピンと来ないんだよな。
「若ー、ひっく、三の島でも、ひっく、大暴れでんなー。」
「いやいや、俺が暴れるつもりはないぞ。暴れてる紅蓮龍を鎮めに行くのだからな。」
「若ー。ひっく、それじゃぁ、ひっく、つまらんやん。」
「せやで、ひっく、後生やから、ひっく、暴れたってーな。」
「おいおい、あんまり煽るなよ。暴れて来ちゃうぞ。」と軽口を叩いたのが悪かった。
「「「「「おおー!」」」」」
「若ー、ひっく、よく言ったで。ひっく、それでこそ、ひっく、わしらの若や。」
さらに場は大いに乱れた。苦笑
気が付くと大方の家来どもは沈没している。そろそろ潮時か?
「では皆の者、われらは先に引き上げるが心行くまで呑み食いせよ。
代官、後は頼む。」
「「「ははーっ。」」」いや、無礼講の席でそんなに畏まらんでいいから。
宴を切り上げ、皆でトロ湯に浸かった。俺は黒湯にしようと思っていたのだが、嫁たちが美肌の湯であるトロ湯がいいと主張するので、俺は迷わず混浴を採ったのだった。
しかし、トロ湯にして大正解であったのだ!トロ湯は無色透明の炭酸水素泉だから、濁り湯と違って透けるのだ。桃色、桜色、ベージュ、紅色、栗色、薄い赤茶色×2、百花繚乱である。俺の眼は釘付けになってしまった。いわゆるガン見だ。
「ちょっと、アタル。視線に遠慮がないわよ。」
「お構いなく。」
「お構い…なく…じゃなくて…。」
「ドンマイ。気にするな。」
「いやいや、そんなにガン見されると、気になるではないか。」
「ふむ、目移りしてるからガン見ではないと思うのだが。」
「それは屁理屈ですわよ。」
「屁理屈でもいい。ほら、そこ。タオルで隠しちゃいかん。」
「もぉ、いい加減にぃ、してよねぇ。」
「花見だよ、花見。実にいい眺めだ。」
「「花見って何やの!」」おお、ハモった。笑
「和の民である俺は、花を愛でるのだ。花鳥風月と言うだろう。花は風流の筆頭じゃないか。」
嫁たちのジト目など、意に介する俺ではないのだ。
今宵の輪番はアキナである。いつものメガネプレイだが、今日はクールな大人メガネなので、アキナは大人の魅力を纏っている。妖艶だ。混浴でいきり立ってしまったマイドラゴンを手際よくあしらっている。当然俺もスイッチが入り、アキナと夜更けまで楽しんだ。
専務!例のアレ、早く開発してくれ。
翌日の午前中に、南航路の廻船が商都港に着くと、俺たちは北斗号を受け取ってそのまま内海航路の廻船に積み替えた。なお、航海に慣れた曳馬たち4頭は元気である。
北斗号の積荷から、キョウちゃんズには、シエンへの手土産の羆皮の敷物とシカオの乳製品を持たせて、アーカに行かせた。他の嫁たちにもシカオの乳製品を持たせて、サヤ姉はシリタへ、サジ姉はエノウへ、ホサキはナワテへ、アキナはここ商都西本店の店長室へ、タヅナはアベヤへ行かせた。
そして俺は西都ギルドへ飛んで、ギルマスのサンキと受付のチフユにシカオの乳製品を渡しに行く。
「おう、チフユさん。さっき東都からの廻船が着いてな、これ、北斗号に積んでた二の島の土産な。これから三ノ島に発つんだ。サンキさんはいる?」
「いますよ。ところで今日は、キョウちゃんズは一緒じゃないんですか?」
「アーカに行かせた。シエンへ手土産を渡しにな。」
「もう。会いたかったのに。よろしく言っといてくださいね。」
「おう。引き受けた。」
「帰って来たら真っ先に連れて来て会わせてくださいよ。」なんかやけに念を押すな。俺は頷いて了承の意思表示をした。
ギルマスルームでサンキにも二の島の土産のシカオの乳製品を渡し、これから三ノ島に発つことを告げた。
「アタル、デビュー以来絶好調やが、好事魔多しと言うやろ?くれぐれも油断はせんように、気ぃ付けなあかんで。」
「確かにな。紅蓮龍は冒険者からの攻撃で警戒していような。サンキさん、忠告ありがとう。」
「まぁ、アタルなら大丈夫やな。」
「それが油断なんじゃね?」
「こら、一本取られてしもた。」
扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。
あ、こいつ、俺を試しやがったな。俺が、それが油断だと指摘しなかったら、逆にそのことで、やっぱり油断しとるやないかい!とツッコんで来たに違いない。
油断禁物か。確かにな。くれぐれも肝に銘じようっと。
それにしてもさっきのチフユと言い、サンキの念押しと言い、変なフラグじゃあるまいし。いや、そう言えば、オミョシ分家との婚姻同盟締結の披露目の前夜にキョウちゃんズを抉じ開けて陰陽士にしてやろうと思ってるのもフラグと言えばフラグか。そもそもこの遠征から帰ったら披露目をやろうと言うのもフラグだな。
フラグなどへし折らねばな。
商都港で皆と合流すると、隣接する山髙屋商都西本店から、西本店店長兼、山髙屋専務が見送りに来ていた。
「アタルくん、あなた、またやったわね。」ん?何のことだ?カッツラでの乗り過ごしかな?あとは…、心当たりがいっぱいある。汗
「何のことだ?心当たりがあり過ぎて分からん。」
「何言ってんの!お土産で貰ったシカオの乳製品よ。あれは極上だわ。」
「ああ、あれな。旨いだろ?でもいち早くシカオブランドを立ち上げるって条件を提示して、専売契約を取り付けたのはアキナだぞ。」
「でもアタルくんが最初に眼を付けたんでしょう?」
「味見したら旨かったからな。確かにごっそり買ったが、俺はその場だけ。継続的な仕入交渉はアキナだよ。」
「社長は何て?」専務はアキナに聞いた。
「これは売れるって喜んでました。早速、ビヒロ支店との間で輸送計画を立ててます。」
「商都には回してくれないのかしら?」
「シカオの生産規模が小さいですからね。ちょっと無理なんじゃないでしょうか?」
「アタルくん、積荷の乳製品、全部買うわ。」
「え?」
それから凄い勢いの専務に北斗号のサブ車両の乳製品を全部持って行かれたのだが…。どうもそれだけじゃ済まないような雰囲気だ。
「アタルくん、これ、何よ。」
「ああ、それね。北の民の工芸品。すごくいい作りだろ。気に入って買って来た。」
「アタルくん、こっちは?」
「それはワカナで仕入れたリッチリ昆布。いい品だろ?」
「いい品?何、言ってんのよ。極上品よ!最上級品質だわ。」
「そうなの?」
「全部買うわ!ひとつ残らず置いて行きなさい。これで二の島フェアをやるわ。」
専務から提示された買取額は、どれも仕入値の2倍以上だった。さらに高値で売り捌くらしい。マジか!
結局、北斗号の積荷はすっからかんになった。苦笑
「三の島で売る商品がなくなっちゃったじゃないか。」
「うちの商品を持って行っていいわよ。」
と、言う訳で、簪や櫛などの装飾品、紅や白粉の化粧品などを購入した。もちろん、山髙屋移動店舗証明書を提示して、仕入値で分けてもらった。
「私には倍の値で売っといて、うちからは仕入値で持って行くなんて、ほんと、いい根性してるわね。」
「まあね。」
「アタルくん、あなた、いい嗅覚してるわ。三の島でも気に入ったものがあったら買って来てちょうだい。」
「ああ。」
「アキナも頼んだわよ。」
「はい、従叔母様。」
専務の急な取引のせいで、昼に出航予定の廻船の出航時刻が若干遅れた。
俺は、カッツラで廻船に乗り遅れた翌日、東都に到着した廻船の船長から、
「お前のせいでカッツラの出航が遅れた!」と大目玉を食らったので、またこの廻船の船長にどやされるかと思ったが、全然平気だった。
実は廻船は、山髙屋の仕入船から発展しており、山髙屋の海運部門なのである。つまり、専務が取引のために出航を遅らせても、船長は文句を言えないのだ。
実際に廻船は、旅客よりも積荷の輸送に主眼を置いているので、北斗号の運搬などにはもって来いだ。
やや遅れはしたものの、昼過ぎに内海航路の廻船は無事に商都を出航した。目指すはハタカの港町。やや内陸にある宰府の港と言ってもよい。実際そうして栄えて来た港町だからな。たまに異国の船も到着して、交易も盛んだと言う。
そもそも三の島は、西の島とも言い、和の国の北西にある大陸の国々との交易が盛んだ。大陸から見ると、三の島は、和の国の玄関口である。そのため、三ノ島は、北岸から西岸の港町が栄えている。一方、三の島の東岸は大海原に面しているので、それほど栄えている訳ではない。
内海航路はセットの内海を進むので基本的には揺れない。嫁たちは船酔いをしないで済むと喜んでいたが、用心深いサジ姉は、皆に酔止の術を掛けていた。笑
内海航路の西行の寄港地は、四の島の屋府、和の島のレック、ウブ、そして三の島のハタカだ。なお東行は、ハタカを出て、ウブ、四の島のマチャマ、和の島のオキャマ、商都である。
船はするすると言った感じでまったく揺れずに、セットの内海を屋府へと向かって行ったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/9/4
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる