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射手の統領108 次ノ宮殿下は人使いが荒い
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射手の統領
Zu-Y
№108 次ノ宮殿下は人使いが荒い
久しぶりの東都ギルドだ。
5武家同盟と山髙屋の提携のお披露目以来か。
あの後、南航路で名府まで行ってから陸路で西へ行き、トリトでシンを攻略した。
帰り掛けにアーカでオミョシ分家の隠居を懲らしめ、シエンと謀って隠居をオミョシ本家に軟禁する形で追放し、シエンの分家相続を揺ぎ無いものにした。
それから、次ノ宮殿下からの緊急指名クエストを受けて、和の国海側から北航路で二の島に渡ってレイを攻略。
ソヤの北限岬の金剛鏑も手に入れて、今日、東都に帰還。
この間、ざっと3ヶ月。
「なぁ、なっちゃん、たまには付き合えよ。」
「はいはい。一昨日来てくださいね。」
「つれねぇなぁ。」
受付では、チナツが冒険者に絡まれてる。と言うかしつこく誘われてるようだな。相変わらずモテてるなぁ。半分はあの巨乳のせいで間違いないな。笑
俺はパスだけど…。
助けてやるか。
「おい、精算があるから、たいした用がないならどいてくれないか?」
「てめぇ、誰に口…。」振り返った冒険者が俺を見て固まった。あ、こいつ知ってる。ゴロツキDランクパーティ、チカラワザのうちのひとりだ。
「アタルさん、セプトの皆さん!」受付のチナツが食いついて来た。
「おう、チナツさん。久しぶり。」
「アタルさん、二の島ではご活躍だったそうですね。あっさりSランクに上がったそうでおめでとうございます。」
「げっ。」チナツに絡んでたチカラワザの冒険者が呻いた?
「ん?なんだ?どうかしたか?」
「アタル…さん、もうSランクに上がったんすか?たった半年で?」
「あんたは相変わらずDランクのままか?チナツさんに絡んでる暇があったらクエストこなせよ。」
「あ、面目ねぇこって。そんじゃ俺はこれで失礼しやす。」コソコソと逃げて行った。笑
「チナツさん、指名クエストの経費の精算を頼むわ。それとタケクラさんに繋いでくれる?それとこれ、二の島の土産な。」土産はシカオの畜村のチーズだ。
「アタルさん、いつもすみません。ギルマスに都合を聞いて来ますんで少々お待ちを。」
ギルマスルームに通され、久しぶりにギルマスのタケクラと会った。
「おうアタル、そしてセプトの皆、よく来たな。二の島ではご苦労だった。」
「タケクラさん、これ二の島の土産だ。」ここでもシカオの畜村のチーズを渡した。
「おう、ありがとよ。」
俺はタケクラに、まずシン鏑とレイ鏑を見せた。
そして、トリトでのシン攻略の顛末。
アーカのオミョシ分家本拠に乗り込んでオミョシ分家の前の権座主=隠居をぶん殴ってから、新権座主シエン率いるオミョシ分家との婚姻同盟締結。
シエンと組んでの隠居追放までの一連の謀略。
ユノベに雇われているシノベ衆と、オミョシ分家に雇われているエノベ衆との間で、ユノベとオミョシ分家の同盟を受けての親睦会の企画。
次ノ宮殿下からの朝廷指名依頼のクエストの受注とシカオでのレイ攻略の顛末と、ソヤの北限岬での金剛鏑入手までを語った。
「ま、そんな訳でな、東都を3ヶ月も空けることになってすまなかったが、何日か休養した後に、東都に腰を据えて埋め合わせをするつもりだ。」
「え?いやそれは…。そうか。まだ聞いていないんだな。」
「何がだ?」
「セプトに指名依頼が来ている。」
「え?どこから?」
「朝廷からだ。このところ、三の島で紅蓮龍が暴れて出していてな、宰府から火急の救援要請が来ているんだ。『セプトが二の島から帰り次第、三の島に向かわせよ。』とのことだ。休む間もなくすまんが頼む。」
嫁たちはもちろん弁えていて口こそ挟まないが、顔は引きつっている。まあそうだよなぁ。
「次ノ宮殿下か?人使いが荒いなぁ。」俺の、ため息交じりの独り言に、嫁たちがぶんぶんと頷いている。笑
「いや、今回は次ノ宮殿下と言うよりも公家衆だな。お前、藍凍龍をたった2日で攻略しただろ。しかも初日は下調べだけだったそうじゃないか?」
「まぁそうだが。」
「トリトの橙土龍も、トリトに着いた次の日に攻略したよな。」
「まぁそうだな。」
「これらの噂で三の島の有力パーティが、『紅蓮龍など怖るるに足らず。』と息巻いてな。複数パーティ合同で紅蓮龍に挑んだまでは良かったのだが、あっさり返り討ちに遭って這う這うの体で逃げ帰って来たそうだ。」
「そりゃまた安易なことを。死人は出なかったか?」
「ああ、けが人だけだ。しかしな、これで公家衆が、『神龍はセプトに任せよ。』と言う次ノ宮殿下のお言葉通り、セプトしか解決できんだろうと言うことになってな、朝廷からの指名依頼になったと言う訳だ。」
「なるほどな。それならば仕方あるまいな。で、紅蓮龍は三の島のどこにいるんだ?」
「アゾの活火山だ。耐熱装備と寒冷石が必須だな。ここからだと南航路で商都、内海航路で商都からハタカ、そこから馬車で宰府に行って、宰府ギルドで詳しい情報を得てくれ。」
「承知した。」
俺たちはギルマスルームを後にした。
その後、サヤ姉、サジ姉、ホサキ、アキナ、タヅナに、ビヒロで仕入れた羆皮の敷物と、シカオで仕入れた乳製品を、それぞれ持たせて、実家へと向かわせることにした。二の島での首尾を報告させるためだ。報告が終わったらテンバで合流だ。
キョウちゃんズは先にテンバヘ帰らせた。流石にここからアーカへは遠いからな、三ノ島へ行く途中で寄ればいい。
アキナとタヅナが、アキナの実家の山髙屋東都総本店まで北斗号に乗って行く。明日、南航路で商都へ向かうから、そのまま東都総本店に預けるのだ。
一方、俺は帝居に向かうことにした。次ノ宮殿下にレイ攻略のご報告をしに行くためだ。
「サエモン、お勤めご苦労さん。」
「おう、アタルか。やっと来たな。いつ戻ったんだ?」
「今日だ。廻船の東航路で戻って来た。次ノ宮殿下にはお会いできるか?」
「ここ数日、そろそろ来るのではないかとお待ちかねだぞ。藍凍龍を攻略してから間があったな。どうしたんだ?」
「金剛鏑を手に入れるのにソヤの北限岬まで足を延ばしてな。」
「そうだったのか。殿下に取り次いで来るから、待っててくれ。」
そして応接室のひとつに通された。いつも通り、次ノ宮殿下が侍従を引き連れてやって来たので、俺は立ち上がって挨拶をした。
「アタル、よく来た。待ちかねたぞ。」
「殿下、申し訳ありません。藍凍龍を攻略した後、金剛鏑を求めてソヤの北限岬まで行って参りました。
これは二の島の手土産にて、お納めください。」俺は手土産の羆皮の敷物とキラームースの大角1対を差し出した。
「おお、これは見事な。」
「北の民の手による羆皮の敷物と、ビヒロに行く途中に討伐したキラームースの大角です。」
「二の島ではキラームース5頭を討伐したそうだな。相変わらず民のために励んでおるではないか。大儀。」
「ありがとうございます。そしてこれが此度の指名依頼で得たレイ鏑です。」懐から藍色に輝くレイ鏑を取り出して次ノ宮殿下にお見せした。
「おお、美しい。アタル…、」
次に、次ノ宮殿下が言う台詞は分かっている。残りの、ライ鏑、ウズ鏑、シン鏑も取り出して並べた。4つの神龍鏑は、各々の色、すなわち、黄色、青色、橙色、藍色に輝いている。
「ふふふ。余が何を言いたいか分かっておるではないか。」
「はい。」
次ノ宮殿下はしばらく4つの鏑を眺めておられた。
「アタル、ここに急ぎもう1色、加えてもらいたい。」
「はい。承知しております。」
「…すでに聞き及んでおるのだな。」
「はい。先程、ギルドでタケクラさんから聞きました。」
「二の島から帰ってすぐで申し訳ないが頼む。条件は同じだ。」
「はい。承知しました。」
「三の島の民が難儀しておる。なるべく早く発ってもらいたい。」
「はい。明日には南航路の廻船で東都を発ちます。」
「うむ。大儀。ではアタルにはこれを遣わそう。
例の物をこれへ。」
殿下に言われてお付きの侍従が出したのは、インナーシャツ3枚だった。7つのポケットがある。
「神龍鏑の数が増えて来たのでな、まとめて懐に入れているのでは具合が悪かろう?遠慮はいらん、不具合があったらすぐ直させるゆえ、着てみるがいい。」
「では失礼して。」
俺は射手の軽鎧を脱ぎ、インナーシャツを着込んで、7つあるポケットの4つに、それぞれ神龍鏑を入れた。ポケットの口にはマジックテープの被せが付いている。
「これは便利だな。…あ、すみません。」
「よい。気に言った様で何よりじゃ。布の素材は伸縮するゆえ戦闘時の動きに負担を掛けん。通気性もよく、速乾性だ。」
「ありがとうございます。」
それから俺は、今回の北の島でレイを眷属にした顛末と、二の島一周について語った。
「殿下、そろそろ。」侍従がタイミングを見計らって声を掛けて来た。
「そうだな。明日発つアタルをあまり長くは引き止める訳には参らぬな。
アタル、報告大儀。またいつでも来てくれ。」
「はい。」
こうして次ノ宮殿下への拝謁は終わった。
その後、テンバに飛ぼうと思ったが、流邏石の残りが2個しかないことを思い出したので、道具屋に寄って、流邏石20個を購入した。
そして流邏石でテンバに飛んだ。
テンバでは、表座敷の主の座に羆皮の敷物を敷いて俺、左右と正面に叔父貴たちが座って、二の島でのことを報告した。キラームースの大角1対は、表座敷の客の座から見えやすいところに飾るのだそうだ。
それから叔父貴たちにレイ鏑を披露して、レイに叔父貴たちを引き合わせ、氷撃矢を試して見せた。叔父貴どのたちはいつも通り、ハモりながら大層驚いていた。
その後、次ノ宮殿下に拝謁して来たことと、指名依頼で三の島へ出向くことを伝えた。
「何と、アタルはいきなり罷り越して次ノ宮殿下に会うて頂けるのか?」二の叔父貴が魂消てる。
「そうだけど、そんなに珍しいことなのか?」
「「「破格の待遇じゃ。」」」ハモった。笑
「しかも殿下から直々にご命令を賜ったとな。畏れ多くも御勅命ではないか。」三の叔父貴が乗り出して来る。
「いや、御勅命ではないぞ。朝廷からの指名依頼だ。」
「それにしても、帰還早々とは…。」
「まあ仕方あるまい。明日、発とうと思う。」
「左様か。家来どもにもレイを披露したいがな。」と末の叔父貴。
「シンの披露もまだだしな。」
「そうであったな。シンとレイを披露するのに、明日1日くらいはいられぬのか?」
「うーん、そうだなぁ。確かに家来どもとも、ここしばらくゆるりと会うてないしなぁ。でもなぁ、三の島では民が難儀してるから1日も早く駈け付けてやりたいよなぁ。」
「左様であったな。民の難儀を1日でも早く除くが我ら武家の務め。」
「うむ。アタルよ、家来どもへの披露は、三の島から帰ってからとしようぞ。」
「家来どもにはわしらから説明しておこう。」
「叔父貴どのたち、いつもすまん。」
「「「なんの。」」」またハモった。笑
「あ、そうだ。殿下からこれも賜ったんだった。なかなか便利でいい具合だ。」俺は鏑シャツを叔父貴たちに見せた。
「なんと、帝家の御紋が付いてるではないか。」
「あ、ほんとだ。」
「かような御品を下賜されるとは…。」
「アタルは余程、殿下の覚えが目出度いのだな。」
表座敷での叔父貴たちへの報告を終えると、久しぶりの湯殿に向かった。もちろん一番のお気に入りの白湯である。
湯殿前にはキョウちゃんズが待っていた。
「やっぱりなぁ。一段落着かはったら、湯殿に来はると思とったんよ。」
「ほなアタル兄、入ろか。」まったく敵わんなぁ。苦笑
久々の白湯を堪能し、ふたりに全身マッサージを施してやった。
夕餉までには嫁たち全員が帰って来た。
皆で夕餉を摂りながら、順に嫁たちからの報告を聞いた。
武家の舅どのたちは皆、羆皮の敷物が大層気に入ったようで、表座敷の主の座に敷いたとか。全員同じことをしたと言うのが笑える。
山髙屋の舅どのだけは羆皮の敷物以上に、シカオの乳製品に食い付いたとか。やはり商人、売れ筋商品として眼を付けたようだ。
「皆、ゆっくりできずに悪いが、明日、東都から南航路で商都に向かう。そのつもりで準備して欲しい。」
「そのことなんですけどね。実家に行ったついでに、明日の廻船に北斗号を乗せる手続きを取って来ました。」
「流石、アキナ。手回しがいいな。」このアキナの先を見据えた先手の打ち方、とても参考になる。
「ありがとうございます。明日、出航する廻船が商都に着くのは、ズオカ、名府、タイチ、商都で4日後ですから、4日後に流邏石で商都に飛べばいいと思います。」
「え?」その手があったか!中3日はゆっくり骨休みができる。ってか、家来どもに震撃矢と氷撃矢を披露できるじゃないか!
「なるほどぉ。その手がぁ、あったわねぇ。」
「アキナ、流石に山髙屋のお嬢だけのことはあるわ。ね、サジ。」
こくり。「なかなか…思い…付かない…。」
「ふむ。思いもよらぬ方法だな。アキナ、見事だ。」
「アキ姉、頭ええなぁ。」「ホンマやなぁ。」
「いえいえ、そんなんじゃないんですよ。ヒントはアタルから頂きました。」
「え?俺?ヒントも何も、そんな方法、全然思いついてなかったんだけど…。」
「アタルがカッツラで乗り過ごしたのに、北斗号は廻船で東都に無事着きましたよね。あれがヒントになりました。」
「…。」コメントしようがないではないか!泣
「アタルのぉ、呑み過ぎもぉ、役立つことがあるのねぇ。」
嫁たち、爆笑。俺、苦笑い。
夕餉の後、叔父貴たちの所に行き、事情を話して、翌日の披露目の打ち合わせをした。
さて、今宵の輪番は、函府で誕生日のホサキと入れ替わってくれたサヤ姉。肉食派サヤ姉との秘め事は真剣勝負である。前回は俺が優勢であったので、リベンジに燃えるサヤ姉を迎え撃つ。今宵の勝負は互角であった。
深更までの勝負を終え、互いの健闘を称えて、抱き合ったまま眠りに着いたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/8/28
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№108 次ノ宮殿下は人使いが荒い
久しぶりの東都ギルドだ。
5武家同盟と山髙屋の提携のお披露目以来か。
あの後、南航路で名府まで行ってから陸路で西へ行き、トリトでシンを攻略した。
帰り掛けにアーカでオミョシ分家の隠居を懲らしめ、シエンと謀って隠居をオミョシ本家に軟禁する形で追放し、シエンの分家相続を揺ぎ無いものにした。
それから、次ノ宮殿下からの緊急指名クエストを受けて、和の国海側から北航路で二の島に渡ってレイを攻略。
ソヤの北限岬の金剛鏑も手に入れて、今日、東都に帰還。
この間、ざっと3ヶ月。
「なぁ、なっちゃん、たまには付き合えよ。」
「はいはい。一昨日来てくださいね。」
「つれねぇなぁ。」
受付では、チナツが冒険者に絡まれてる。と言うかしつこく誘われてるようだな。相変わらずモテてるなぁ。半分はあの巨乳のせいで間違いないな。笑
俺はパスだけど…。
助けてやるか。
「おい、精算があるから、たいした用がないならどいてくれないか?」
「てめぇ、誰に口…。」振り返った冒険者が俺を見て固まった。あ、こいつ知ってる。ゴロツキDランクパーティ、チカラワザのうちのひとりだ。
「アタルさん、セプトの皆さん!」受付のチナツが食いついて来た。
「おう、チナツさん。久しぶり。」
「アタルさん、二の島ではご活躍だったそうですね。あっさりSランクに上がったそうでおめでとうございます。」
「げっ。」チナツに絡んでたチカラワザの冒険者が呻いた?
「ん?なんだ?どうかしたか?」
「アタル…さん、もうSランクに上がったんすか?たった半年で?」
「あんたは相変わらずDランクのままか?チナツさんに絡んでる暇があったらクエストこなせよ。」
「あ、面目ねぇこって。そんじゃ俺はこれで失礼しやす。」コソコソと逃げて行った。笑
「チナツさん、指名クエストの経費の精算を頼むわ。それとタケクラさんに繋いでくれる?それとこれ、二の島の土産な。」土産はシカオの畜村のチーズだ。
「アタルさん、いつもすみません。ギルマスに都合を聞いて来ますんで少々お待ちを。」
ギルマスルームに通され、久しぶりにギルマスのタケクラと会った。
「おうアタル、そしてセプトの皆、よく来たな。二の島ではご苦労だった。」
「タケクラさん、これ二の島の土産だ。」ここでもシカオの畜村のチーズを渡した。
「おう、ありがとよ。」
俺はタケクラに、まずシン鏑とレイ鏑を見せた。
そして、トリトでのシン攻略の顛末。
アーカのオミョシ分家本拠に乗り込んでオミョシ分家の前の権座主=隠居をぶん殴ってから、新権座主シエン率いるオミョシ分家との婚姻同盟締結。
シエンと組んでの隠居追放までの一連の謀略。
ユノベに雇われているシノベ衆と、オミョシ分家に雇われているエノベ衆との間で、ユノベとオミョシ分家の同盟を受けての親睦会の企画。
次ノ宮殿下からの朝廷指名依頼のクエストの受注とシカオでのレイ攻略の顛末と、ソヤの北限岬での金剛鏑入手までを語った。
「ま、そんな訳でな、東都を3ヶ月も空けることになってすまなかったが、何日か休養した後に、東都に腰を据えて埋め合わせをするつもりだ。」
「え?いやそれは…。そうか。まだ聞いていないんだな。」
「何がだ?」
「セプトに指名依頼が来ている。」
「え?どこから?」
「朝廷からだ。このところ、三の島で紅蓮龍が暴れて出していてな、宰府から火急の救援要請が来ているんだ。『セプトが二の島から帰り次第、三の島に向かわせよ。』とのことだ。休む間もなくすまんが頼む。」
嫁たちはもちろん弁えていて口こそ挟まないが、顔は引きつっている。まあそうだよなぁ。
「次ノ宮殿下か?人使いが荒いなぁ。」俺の、ため息交じりの独り言に、嫁たちがぶんぶんと頷いている。笑
「いや、今回は次ノ宮殿下と言うよりも公家衆だな。お前、藍凍龍をたった2日で攻略しただろ。しかも初日は下調べだけだったそうじゃないか?」
「まぁそうだが。」
「トリトの橙土龍も、トリトに着いた次の日に攻略したよな。」
「まぁそうだな。」
「これらの噂で三の島の有力パーティが、『紅蓮龍など怖るるに足らず。』と息巻いてな。複数パーティ合同で紅蓮龍に挑んだまでは良かったのだが、あっさり返り討ちに遭って這う這うの体で逃げ帰って来たそうだ。」
「そりゃまた安易なことを。死人は出なかったか?」
「ああ、けが人だけだ。しかしな、これで公家衆が、『神龍はセプトに任せよ。』と言う次ノ宮殿下のお言葉通り、セプトしか解決できんだろうと言うことになってな、朝廷からの指名依頼になったと言う訳だ。」
「なるほどな。それならば仕方あるまいな。で、紅蓮龍は三の島のどこにいるんだ?」
「アゾの活火山だ。耐熱装備と寒冷石が必須だな。ここからだと南航路で商都、内海航路で商都からハタカ、そこから馬車で宰府に行って、宰府ギルドで詳しい情報を得てくれ。」
「承知した。」
俺たちはギルマスルームを後にした。
その後、サヤ姉、サジ姉、ホサキ、アキナ、タヅナに、ビヒロで仕入れた羆皮の敷物と、シカオで仕入れた乳製品を、それぞれ持たせて、実家へと向かわせることにした。二の島での首尾を報告させるためだ。報告が終わったらテンバで合流だ。
キョウちゃんズは先にテンバヘ帰らせた。流石にここからアーカへは遠いからな、三ノ島へ行く途中で寄ればいい。
アキナとタヅナが、アキナの実家の山髙屋東都総本店まで北斗号に乗って行く。明日、南航路で商都へ向かうから、そのまま東都総本店に預けるのだ。
一方、俺は帝居に向かうことにした。次ノ宮殿下にレイ攻略のご報告をしに行くためだ。
「サエモン、お勤めご苦労さん。」
「おう、アタルか。やっと来たな。いつ戻ったんだ?」
「今日だ。廻船の東航路で戻って来た。次ノ宮殿下にはお会いできるか?」
「ここ数日、そろそろ来るのではないかとお待ちかねだぞ。藍凍龍を攻略してから間があったな。どうしたんだ?」
「金剛鏑を手に入れるのにソヤの北限岬まで足を延ばしてな。」
「そうだったのか。殿下に取り次いで来るから、待っててくれ。」
そして応接室のひとつに通された。いつも通り、次ノ宮殿下が侍従を引き連れてやって来たので、俺は立ち上がって挨拶をした。
「アタル、よく来た。待ちかねたぞ。」
「殿下、申し訳ありません。藍凍龍を攻略した後、金剛鏑を求めてソヤの北限岬まで行って参りました。
これは二の島の手土産にて、お納めください。」俺は手土産の羆皮の敷物とキラームースの大角1対を差し出した。
「おお、これは見事な。」
「北の民の手による羆皮の敷物と、ビヒロに行く途中に討伐したキラームースの大角です。」
「二の島ではキラームース5頭を討伐したそうだな。相変わらず民のために励んでおるではないか。大儀。」
「ありがとうございます。そしてこれが此度の指名依頼で得たレイ鏑です。」懐から藍色に輝くレイ鏑を取り出して次ノ宮殿下にお見せした。
「おお、美しい。アタル…、」
次に、次ノ宮殿下が言う台詞は分かっている。残りの、ライ鏑、ウズ鏑、シン鏑も取り出して並べた。4つの神龍鏑は、各々の色、すなわち、黄色、青色、橙色、藍色に輝いている。
「ふふふ。余が何を言いたいか分かっておるではないか。」
「はい。」
次ノ宮殿下はしばらく4つの鏑を眺めておられた。
「アタル、ここに急ぎもう1色、加えてもらいたい。」
「はい。承知しております。」
「…すでに聞き及んでおるのだな。」
「はい。先程、ギルドでタケクラさんから聞きました。」
「二の島から帰ってすぐで申し訳ないが頼む。条件は同じだ。」
「はい。承知しました。」
「三の島の民が難儀しておる。なるべく早く発ってもらいたい。」
「はい。明日には南航路の廻船で東都を発ちます。」
「うむ。大儀。ではアタルにはこれを遣わそう。
例の物をこれへ。」
殿下に言われてお付きの侍従が出したのは、インナーシャツ3枚だった。7つのポケットがある。
「神龍鏑の数が増えて来たのでな、まとめて懐に入れているのでは具合が悪かろう?遠慮はいらん、不具合があったらすぐ直させるゆえ、着てみるがいい。」
「では失礼して。」
俺は射手の軽鎧を脱ぎ、インナーシャツを着込んで、7つあるポケットの4つに、それぞれ神龍鏑を入れた。ポケットの口にはマジックテープの被せが付いている。
「これは便利だな。…あ、すみません。」
「よい。気に言った様で何よりじゃ。布の素材は伸縮するゆえ戦闘時の動きに負担を掛けん。通気性もよく、速乾性だ。」
「ありがとうございます。」
それから俺は、今回の北の島でレイを眷属にした顛末と、二の島一周について語った。
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「そうだな。明日発つアタルをあまり長くは引き止める訳には参らぬな。
アタル、報告大儀。またいつでも来てくれ。」
「はい。」
こうして次ノ宮殿下への拝謁は終わった。
その後、テンバに飛ぼうと思ったが、流邏石の残りが2個しかないことを思い出したので、道具屋に寄って、流邏石20個を購入した。
そして流邏石でテンバに飛んだ。
テンバでは、表座敷の主の座に羆皮の敷物を敷いて俺、左右と正面に叔父貴たちが座って、二の島でのことを報告した。キラームースの大角1対は、表座敷の客の座から見えやすいところに飾るのだそうだ。
それから叔父貴たちにレイ鏑を披露して、レイに叔父貴たちを引き合わせ、氷撃矢を試して見せた。叔父貴どのたちはいつも通り、ハモりながら大層驚いていた。
その後、次ノ宮殿下に拝謁して来たことと、指名依頼で三の島へ出向くことを伝えた。
「何と、アタルはいきなり罷り越して次ノ宮殿下に会うて頂けるのか?」二の叔父貴が魂消てる。
「そうだけど、そんなに珍しいことなのか?」
「「「破格の待遇じゃ。」」」ハモった。笑
「しかも殿下から直々にご命令を賜ったとな。畏れ多くも御勅命ではないか。」三の叔父貴が乗り出して来る。
「いや、御勅命ではないぞ。朝廷からの指名依頼だ。」
「それにしても、帰還早々とは…。」
「まあ仕方あるまい。明日、発とうと思う。」
「左様か。家来どもにもレイを披露したいがな。」と末の叔父貴。
「シンの披露もまだだしな。」
「そうであったな。シンとレイを披露するのに、明日1日くらいはいられぬのか?」
「うーん、そうだなぁ。確かに家来どもとも、ここしばらくゆるりと会うてないしなぁ。でもなぁ、三の島では民が難儀してるから1日も早く駈け付けてやりたいよなぁ。」
「左様であったな。民の難儀を1日でも早く除くが我ら武家の務め。」
「うむ。アタルよ、家来どもへの披露は、三の島から帰ってからとしようぞ。」
「家来どもにはわしらから説明しておこう。」
「叔父貴どのたち、いつもすまん。」
「「「なんの。」」」またハモった。笑
「あ、そうだ。殿下からこれも賜ったんだった。なかなか便利でいい具合だ。」俺は鏑シャツを叔父貴たちに見せた。
「なんと、帝家の御紋が付いてるではないか。」
「あ、ほんとだ。」
「かような御品を下賜されるとは…。」
「アタルは余程、殿下の覚えが目出度いのだな。」
表座敷での叔父貴たちへの報告を終えると、久しぶりの湯殿に向かった。もちろん一番のお気に入りの白湯である。
湯殿前にはキョウちゃんズが待っていた。
「やっぱりなぁ。一段落着かはったら、湯殿に来はると思とったんよ。」
「ほなアタル兄、入ろか。」まったく敵わんなぁ。苦笑
久々の白湯を堪能し、ふたりに全身マッサージを施してやった。
夕餉までには嫁たち全員が帰って来た。
皆で夕餉を摂りながら、順に嫁たちからの報告を聞いた。
武家の舅どのたちは皆、羆皮の敷物が大層気に入ったようで、表座敷の主の座に敷いたとか。全員同じことをしたと言うのが笑える。
山髙屋の舅どのだけは羆皮の敷物以上に、シカオの乳製品に食い付いたとか。やはり商人、売れ筋商品として眼を付けたようだ。
「皆、ゆっくりできずに悪いが、明日、東都から南航路で商都に向かう。そのつもりで準備して欲しい。」
「そのことなんですけどね。実家に行ったついでに、明日の廻船に北斗号を乗せる手続きを取って来ました。」
「流石、アキナ。手回しがいいな。」このアキナの先を見据えた先手の打ち方、とても参考になる。
「ありがとうございます。明日、出航する廻船が商都に着くのは、ズオカ、名府、タイチ、商都で4日後ですから、4日後に流邏石で商都に飛べばいいと思います。」
「え?」その手があったか!中3日はゆっくり骨休みができる。ってか、家来どもに震撃矢と氷撃矢を披露できるじゃないか!
「なるほどぉ。その手がぁ、あったわねぇ。」
「アキナ、流石に山髙屋のお嬢だけのことはあるわ。ね、サジ。」
こくり。「なかなか…思い…付かない…。」
「ふむ。思いもよらぬ方法だな。アキナ、見事だ。」
「アキ姉、頭ええなぁ。」「ホンマやなぁ。」
「いえいえ、そんなんじゃないんですよ。ヒントはアタルから頂きました。」
「え?俺?ヒントも何も、そんな方法、全然思いついてなかったんだけど…。」
「アタルがカッツラで乗り過ごしたのに、北斗号は廻船で東都に無事着きましたよね。あれがヒントになりました。」
「…。」コメントしようがないではないか!泣
「アタルのぉ、呑み過ぎもぉ、役立つことがあるのねぇ。」
嫁たち、爆笑。俺、苦笑い。
夕餉の後、叔父貴たちの所に行き、事情を話して、翌日の披露目の打ち合わせをした。
さて、今宵の輪番は、函府で誕生日のホサキと入れ替わってくれたサヤ姉。肉食派サヤ姉との秘め事は真剣勝負である。前回は俺が優勢であったので、リベンジに燃えるサヤ姉を迎え撃つ。今宵の勝負は互角であった。
深更までの勝負を終え、互いの健闘を称えて、抱き合ったまま眠りに着いたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/8/28
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
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カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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