射手の統領

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射手の統領100 キラームース討伐

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射手の統領
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№100 キラームース討伐

 翌日の午前中は、昼の出航に向けて準備した。
 北斗号を預けていたキノベ陸運函府営業所で、まとまった量の温熱石を購入し、さらに、積雪がひどいときに、車輪に装着するそり板を購入した。
 そり板の上に馬車の車輪を乗せて、車輪とそり板、車輪と車軸のそれぞれを固定すると、馬車はそり仕様になる。そり板は車輪ごとに取りつけるので、メイン車両用に4本とサブ車両用に4本、計8本のそり板を購入して、サブ車両に積み込んだ。これで準備万端だ。

 昼に函府港に行き、港の売店で函府の郷土料理である、いかめしを買い込んで、北の島航路の廻船に乗り込んだ。
 北の島航路は、函府を出て、北の島を一周する航路で、南東回りと北西回りがある。内陸のビヒロに行くには、オッツォの港町で下船するので、俺たちが乗るのは南東回りだ。

 北の島は、和の国では、和の島に次ぐ2番目の大きさの島で、二の島とも言う。弓なりのため弓の島とも言う和の島の北に位置し、和の島の北端と北の島の函府が、和二海峡を挟んで対峙している。
 このため函府からは、和の島の北端東のモキタ半島のダイカンと、モキタ半島が囲い込むように形成したツム湾の奥のアオモを、それぞれ結ぶ渡し航路がある。

 二の島は、ざっくり言うと東西南北を頂点とした方形で、西の頂点が突出して南に向かって湾曲し、把手のようなトトウ半島を形成しており、二の島全体としては、ちょうど手斧のような形だ。

 函府は、この二の島の南西部の把手であるトトウ半島の底、つまり南端に位置しており、ここを基点として、俺たちが乗った南東回りでは、把手の南側の付け根に位置するトマコ、南の頂点であるリモ岬のほんの少し手前のリモ、リモ岬を迂回して南東岸の途中のオッツォと、それぞれひと晩かけて廻船は進んで行く。
 廻船はさらに北の島北東岸のオムの港町まで進むが、俺たちはオッツォで下船したら、そのままカチトの河に沿って北西の内陸へ進み、1日でビヒロの町だ。

 例によって、家族用6人船室に追加布団2組で8人部屋とし、一家団欒の雑魚寝を楽しむ。
 船室内は暖房が効いており、嫁たち全員は船室に入ってすぐに、商都で買いこんだ色違いのネグリジェに着替えた。着心地がよくて、楽なのだそうだ。スケスケ生地なので眼福である。むふふ。

 北の島航路の廻船は、地方航路なのに主要航路の廻船に匹敵する大きさである。やはり、各港へ物資を補給し、各港から特産品を集めるためであろう。ただ、主要航路と違うのは、地方航路は停泊する港の間隔が短く、その分、船足はやや遅めだ。このため揺れが少ない。
 まぁ、主要航路では、海流があるところでは潮帆も張ったからな。潮帆を張ると船足は格段に増すが、揺れもきつくなる。最初に廻船を利用した、商都から東都への南航路の船旅では、黒海流を捕まえるために張った潮帆のせいでずっと廻船が揺れて、俺以外の全員が船酔いでダウンしてしまった。あのときはサジ姉の酔止の術が大活躍したのだが、今となってはいい思い出の笑い話だ。

 夕餉は函府でごっそり買い込んだいかめしだ。イカの胴体から内臓を抜いてもち米を詰めて、だし汁で炊いたものだそうだが、輪切りにして一切れずつ頂く。とても旨い。しかも酒のアテにもいい。

 ガタニで仕入れたいい和酒を、熱燗にして皆で呑んだ。体の芯から温まる。大人嫁は全員いける口なので、宴会は当然盛り上がった。酒に弱いキョウちゃんズも和酒の熱燗を試していたが、いたく気に入ったようだ。

 以前、宴会で家来どもを煽りに煽って注ぎまくり、酔い潰すことを至福の喜びとしていた小悪魔のキョウちゃんズに、二日酔の辛さを教えてやろうと呑ませたら、ぐい吞み3杯でこてっと沈んだ。俺の目論見通り、翌日キョウちゃんズは二日酔を初体験したのだが…。このことで俺は、大人嫁たちにこっぴどく叱られてしまった。
 あれ以来、キョウちゃんズは懲りて酒量を自重している。しかしキョウちゃんズは、相変わらず家来どもを酔い潰すことをやめない。
 キョウちゃんズ曰く、自分たちは懲りたから酒量を控えている。一方、家来衆は酔い潰れたら二日酔になるのを分かっていて、それでも呑む。だから自分たちは注ぐのだと。二日酔がいやなら家来衆が自重すればいいのだと。自分たちは煽るが、煽られて呑むと言う判断をするのは家来衆だと。
 まったくその通りだが、煽るのはやめて欲しい。と言ったら、面白いからやめないと一蹴された。家来衆に呑まないようにと言えばいいと。そんなの、言って聞く訳ないじゃん!
 結局、家来どもは、キョウちゃんズ恐るべし。と、キョウちゃんズに一目置きつつ、そのキョウちゃんズを裏で操っているのが俺で、俺こそが元凶だと言うことになっているのだ。冗談ではない。マジで勘弁して欲しい。泣

 さて、脱線してしまったが、酒量を自重していたキョウちゃんズが、和酒の熱燗をぐい吞みでクイクイとやっている。大丈夫なのか?
「おい、サキョウ、ウキョウ、あまり無理して呑むなよ。明日きついことになるぞ。」
「この和酒は、とっても美味しいさかい、大丈夫やわ。」
「せやねー。アタル兄に潰されたときは、あまり美味しいとは思えへんかったけど、これは美味しいわぁ。」え?潰したって…、そりゃねぇだろ。
「なぁ、アタル兄、潰れたら介抱してな。」そりゃするけどさ。
「ふぅ、ちょっと酔うてしもた。」おっと、その仕草、妙に色っぽいじゃねーか。うーん、やっぱりキョウちゃんズは日々成長してるのな。
 大人嫁たちが、キョウちゃんズをほのぼのと見ている。ふたりはもはやセプトのマスコットだな。
 ちなみにキョウちゃんズは、いかめしもガッツリ食っていた。笑

 翌日はトマコ、翌々日はリモに、日中の数時間寄港したので、それぞれの港で昼餉を取った。二の島の港町なので、ついつい昼餉は海鮮になる。それにしても二の島の新鮮は旨い。やはり地の物は鮮度が違うな。

 トマコからリモへは、二の島の南西岸を弓手に見ながら南東に進むのだが、この一帯は馬の産地として知られている。二の島産の馬には、大型馬と小型馬があり、大型馬はバンバ馬、小型馬はドサンコ馬と言う。余談だが、二の島以外に住んでる人は、二の島産の大型馬をドサンコ馬と思い込んでいる人が結構多い。

 リモの港町は、廻船の進行方向から見ると、北の島の南の頂点であるリモ岬の少し手前の北西にあるが、このリモ岬はアザラシの生息地としても知られている。港からは見られないが、廻船がリモ岬を回り込むときには、岬付近の岩場に、結構な数のアザラシがいた。

 そして函府を出航して3日後の午前中に、廻船はオッツォの港町に入港し、俺たちは下船した。
 ちなみに俺たちが降りた廻船は、この後、アシケ、ムネロ、ロートに寄港してから終着港のオムに行く。
 オムは二の島北東岸北寄りの港町で、二の島の南西部のトトウ半島の南端に位置する函府から見ると、二の島のほぼ反対側だ。このため、俺たちが乗った函府発南東回りと、もうひとつの函府発北西回りの終着港になっている。

 オッツォ港の車溜まりで、キノベ陸運函府営業所で購入したそり板を、北斗号の車輪に装着し、北斗号をそり仕様にした。
 そしてメイン車両の御者台からの入口横にある気力石装填台に、函府で購入した温熱石をセットして起動スイッチを押すと、温熱石が赤く輝いてメイン車両内に暖房が入った。しかも横のツマミで暖房の強さを調節できるし。なんか地味に凄ぇ。

 準備万端整えて、昼前にオッツォを出発し、そのままカチトの河を馬手に見ながら、カチトの河の南西岸を北西に遡上して行く。
 辺りは雪化粧で白一色。しかし二の島では、東側の降雪量は比較的少ないので、この積雪でも、全然ましな方だと言うことだ。
 馬房で英気を養っていた、ノアール、ヴァイス、ダーク、セールイの4頭は、水を得た魚のように、積雪の河岸をグイグイと頼もしく進んで行く。

 天気はどんよりとした曇りのため、積雪による冷えで気温は低いが、馬たちは寒さに強いので全然平気だ。一応、今馬たちには防具を兼ねた軽馬装を着付けている。
 俺たちものお揃いの濃紺の外套を着込んでいる。この外套は、防寒機能が優秀で、外の寒さがまったく気にならない。

 俺はキョウちゃんズとアキナとともにメイン車両の屋上に上がった。
 メイン車両の屋上は平時見張台として機能し、キョウちゃんズとアキナが偵察の式紙を飛ばしている。式神操作は初歩的な呪の術のため、陰士のキョウちゃんズは当然できるのだが、その能力が規格外で、ともに同時に3体の式神を操ると言う神業のような式神操作を平然とやってのける。これはキョウちゃんズの桁違いな気力量のおかげだ。
 また、巫女だった母上から巫女の技を伝授されていたアキナは、呪の力を使うことができたので、キョウちゃんズの手ほどきであっと言う間に式神操作を会得した。もちろん操作できる式神は1体だ。キョウちゃんズに比べると見劣りするが、これが普通の式神操作のレベルである。

 御者台にはホサキ、御者台のまわりにはサヤ姉、サジ姉、タヅナ。馬の扱いに一番慣れているタヅナが後見して、サヤ姉、サジ姉、ホサキが交代で御者を務めている。

 北斗号のまわりに7体の式神を飛ばして、まわりを警戒しながら進んで行くとウキョウが、右前方に何かを見付けた。
「アタル兄、出たで。2時の方向1kmにめっちゃ大きな…、なんやこれ、鹿かいな?えらい大きさやな。普通の鹿の3倍以上の大きさやで。それが5頭もおるよ。」
「まさかキラームースか?ウキョウ、角の先はどうなってる?」
「枝分かれして、先っちょが全部尖ってるな。あれで突かれたらシャレにならんわ。」
「まずいな、やはりキラームースだ。」
 俺は伝声管で御者台に注意を促した。
「右前方1㎞にキラームース5頭。速度落として警戒。御者はタヅナ、ホサキは全体防御の準備、サヤ姉は戦闘準備、サジ姉は状態異常と回復を準備。油断するなよ。」
「承知しましたぁ。」「はいっ。」「了解!」「りょ…。」

「アタル兄、キラームースがこっちに向かって来よるで。」
「刺突突進されたらただじゃすまないな。ウキョウ、バフを頼む。ライ、3倍。連射する。」
「はいなー。」『承知。』
 ウキョウのバフの術は一定の範囲にいるものすべてに効果を及ぼすので、俺とともに、皆にも各種バフの術が掛かった。
 俺は、ウキョウの各種バフの術を受けてから、雷撃矢を5頭のキラームースに向かって連射した。一気に距離を詰めて来たキラームースの先頭の1頭に、連射した3倍雷撃矢のうち1本が直撃すると、そのキラームースは雷撃で発光して倒れた。感電して黒焦げかな。もう起きて来ないだろう。
 すると残りの4頭はそれ以上接近するのをやめて、左右に展開した。え?まさか鶴翼の陣?
「タヅナ、北斗号を弓手に反転させて停めろ。馬たちを北斗号の影に隠せ。」
「はいぃ。」
「サキョウ、近付いて来た奴からデバフを掛けろ。」
「任しとき!」

 残った4頭は12時から3時の方向にかけて均等な間隔で展開し、雷撃矢を警戒してこちらの様子をうかがっている。何度か雷撃矢を見舞ったが、サイドステップで躱された。刺突突進して来たときと違って、キラームースの動きが単調ではないのだ。
結局キラームースは、北斗号からほぼ300mの距離を保ったまま対峙したので、睨み合いの膠着状態に陥った。

 ホサキが前面に出て自在の盾を展開し、左右にサジ姉とタヅナが迎撃態勢を敷く。近距離部隊による、防御とカウンターの構えだ。
 サジ姉は、平時の見張台から戦闘時の攻撃台となったにメイン車両屋上に上がり、俺、アキナ、キョウちゃんズ、サジ姉で、遠距離部隊の攻撃、支援、回復体制を敷いた。

 キラームースはこちらの反撃を警戒して仕掛けて来ないので、膠着状態のまま時間が経過して行く。このままでは埒が明かない。騎乗攻撃を仕掛けてみるか?

「馬手側から迂回して、騎乗攻撃で撹乱して来る。俺はノアールで注意を引くから、奴らが俺に気を取られたら、隙を見て、サキョウはデバフ、サジ姉は状態異常、アキナは遠矢な。」雪原に漆黒のノアールは目立つ。
「任しとき。」「りょ…。」「分かりました。」
「敵が俺を無視して、刺突突進を仕掛けて来たら、ホサキが受け止めて、その隙にサヤ姉とタヅナでカウンターな。」
「はいっ。」「了解。」「はいぃ。」
「ウキョウは適宜、バフを補充。」
「はいなー。」

「敵が混乱状態に陥って仕掛けて来なかったら、サヤ姉とタヅナは弓手側からヴァイスとセールイで騎馬攻撃を仕掛けろ。ふたり掛りで各個撃破だ。先頭はタヅナ。」
「はいぃ。」「了解。」
純白のヴァイスと葦毛のセールイは雪原だと保護色になるから、上手く行けば反対側からの奇襲になる。
「タヅナとサヤ姉の攻撃が上手く決まって、北斗号への攻撃の心配がなくなったらホサキ正面からダークで騎馬突撃しろ。」
「はいっ。」
「じゃぁ、行って来る。」

 俺はノアールで4時の方向に進み、向かって右端の3時の敵を弓手側に見ながら接近した。敵を弓手側前方に捉えれば、騎射には最適の位置取りだ。

「シン、3倍。連射するぞ。」
『承知。』
 一番近いキラームースに3倍震撃矢を連射。キラームースは震撃矢を躱すが、直撃などハナから期待していない。
 次々と着弾した3倍震撃矢は、大きな揺れを引き起こし、キラームースはうずくまった。このタイミングで、サキョウのデバフがキラームースを襲った。
 続いてサジ姉の麻痺の術。うずくまったキラームースは立ち上がろうとしたところで避けきれず、麻痺の術が見事に命中。再び倒れて動かなくなった。麻痺が効いたのだ。すかさず、眉間にトドメの矢を射込んで一丁上がり。次!

 残りの3頭が、俺に向かって刺突突進を仕掛けて来たが、雷撃矢、震撃矢が着弾する度に突進は中断した。
 キラームースは、北斗号からのアキナの遠矢にも過剰に反応して、刺突突進どころではなくなった。まぁ、キラームースから見れば、俺の属性攻撃の矢を見た直後なだけに、アキナの遠矢にも属性が付加されてると思い込むだろう。

 残り3頭が完全に混乱したところで、タヅナとサヤ姉が反対側から騎馬突撃した。絶妙のタイミングだ!一番殿に位置していたキラームースを、サヤ姉の二刀流剣舞とタヅナの旋回切りが襲い、キラームースの2本の角が派手に宙を舞った。ふたりに切り飛ばされたのだ。上手い!敵の脅威の武器をまず奪って、あっさりと無力化し、直後にサヤ姉が一刀のもとに首を落とした。

 前面に俺、後面にサヤ姉とタヅナの攻撃を受けた残り2頭は、前後の敵に完全に混乱したが、北斗号から一直線に突進して来たホサキが、そこを突き抜けて行った。
 その直後、キラームースの1頭がドウと倒れた。突き抜け際に、ホサキが正鵠突きを眉間に見舞ったのだ。

 残る1頭は逃走を図った。最初であったならば、おそらくそれが、もっとも適切な判断だったであろう。しかし今となっては、もう手遅れだ。
 後ろから仕掛けて来たサヤ姉とタヅナ、そして突き抜けて行ったホサキを避けた結果、キラームースは、俺と北斗号の間に向かって逃げることになる。俺から見ればちょうど弓手側を前から後ろに横切ろうとしたのだ。
「ウズ、3倍。連射する。」
『承知。』
 俺は逃走を図るキラームースの前に3倍水撃矢を次々に射込んだ。雪原に3倍水撃矢だから積もった雪と相まみえてシャーベット状になる。俺の目論見通り、焦って逃走を図っていたキラームースは、スッテーンと見事に転倒し、そこをサジ姉の麻痺の術が襲った。
 動けなくなったキラームースを、最後に俺が仕留めて討伐終了。

 キラームース5頭の見事な大角10本を回収し、2体は解体して鹿皮と鹿肉に分けた。残りの3体はライ、ウズ、シンが魔力の補給に使った。
 ライ鏑、ウズ鏑、シン鏑を順に取り出し、獲物のキラームースにかざすと、ライ鏑の黄色に、ウズ鏑は青色に、シン鏑が橙色に輝き出し、呼応するようにキラームースの体が明るく輝き出して、そのまま無数の光の粒子となって、ライ鏑、ウズ鏑、シン鏑に吸収された。この結果、3つの鏑の発光はさらに強くなる。
『『『気力は満タンだ。』』』
「いつもすまないな。」
『なんの。』『アタルは、余たちを無駄なく使いおる。』『左様。使いこなしておるぞ。』
 なんか褒められた。嬉しい。笑

 俺たちはビヒロへの行程を再開した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/8/7

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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