射手の統領

Zu-Y

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射手の統領096 トヨサからのクエスト

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射手の統領
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№96 トヨサからのクエスト

 翌朝、数日ぶりにスッキリした朝を迎えた。

 嫁たちと朝餉を摂りつつ、キラークラーケンで損傷した廻船が、ドックでの修理を終えるまでの数日をどう過ごすか相談したら、
「「「「「「「クエスト。」」」」」」」と言う、満場一致の返事が返って来た。
 冬のガタニはくそ寒く、雪が降り積もっていると言うのに、宿屋でぬくぬく過ごすのではなくて、クエストに出ようとは何とも勤勉な嫁たちである。まあそういうところが、俺は大好きなのだがな。

 お揃いの濃紺の外套に身を包み、宿屋を出て冒険者ギルドに行くと、何とキラークラーケンを追い払って、廻船を救った功績で、大金貨1枚が出た。随分多額の報酬に驚いたが、これは廻船を所有する山髙屋から出たそうだ。確かに廻船を沈められていたら、大金貨1枚じゃ全然済まないものな。

 それからクエストの掲示板を見て、ガタニの隣の農村のトヨサから出ているクエストを受けることにした。トヨサはガタニの東を流れるアノガの河の対岸にある規模の大きな農村で、馬車で2時間程度だ。

 クエストの内容は、夜間に活動する魔物の討伐だ。魔物とは言っても獣系ではなく、樹木ということだ。樹木が動いて田畑を荒らしているらしい。切り倒そうにも、切り倒そうとすると太い枝の反撃が凄くて近寄れないとのことだ。
 樹木が魔物化した人面樹か、さらに妖化したキラートレントか、あるいは樹木を操る精霊系かもしれない。眠花粉を蒔くキラートレントだと非常に厄介だが、眠花粉を蒔いているという情報はないからキラートレントの線は薄いだろう。

 俺用にガタニギルドを流邏石に登録して、その足で、ガタニ営業所に行き、北斗号を受け取った。
 ガタニは十分寒いので、函府で購入しようと思っていた温熱石を、ガタニの営業所で数個購入して、タヅナに頼んで北斗号のメイン車両へ装着してもらった。しばらくすると、メイン車両内部が徐々に温まって来たではないか。凄ぇ。

 馬たちは頗る元気だ。そもそも馬は寒さに強い。4頭が鼻から吐く白い息が後方に流れ、北斗号をグイグイと引っ張って行く。ミーブのキノベ本拠で生まれ育ったこの4頭は、3歳馬の牡馬で互いに仲がよく、牡馬の割には性格がおとなしくて人懐こい。
 4頭の中では漆黒の青毛のノアールがリーダー格である。このノアールは4頭の中で最初に俺に馴染んだ奴だ。次に馴染んだのが純白の白馬のヴァイスである。
 艶のある暗色の黒鹿毛ダークと、濃い鈍色の葦毛セールイは、馴染むまで時間が掛かったが、今はもう大丈夫だ。

 雪は降ってないが、どんよりとした曇天で、根雪のために外は寒い。そのため、俺が御者を引き受けて、嫁たちをメイン車両の室内に入れようとしたのだが、嫁たちは言うことを聞かない。結局、交替で休みと言うことで落ち着いた。
 もっともセプトのユニフォームである濃紺の外套が、防寒着として抜群の効果を発揮しているので、寒くはないのだ。

 キョウちゃんズは、
「「子供は風の子やー。」」と言って屋上の見張りスペースに陣取って警戒の式紙を飛ばしている。
 結局、ホサキが御者台の後ろに座り、残りの4名が後半に交代すると言うことで、メイン車両の室内で休んでいる。交代と言っても馬車で2時間なのだから俺はこのままでもいい。

 4頭は元気に馬車を曳き、順調に行程が進んで、アノガの河に掛かる橋を渡ったところで、交代となった。
 後半はサヤ姉が御者でサジ姉がサポート、アキナが屋上で警戒の式紙を飛ばし、ほとんど御者台のタヅナが「たまには屋上。」と言って、アキナと一緒に上がって行った。

 程なくしてトヨサの大農村に到着。まだ昼前である。
 まず、村長宅を訪ねて、詳しい話を聞くことにした。村長宅は、それは大きな邸宅だった。まさに豪農と言うやつだ。
 門のすぐ内に30代くらいの使用人の男がいたので、
「クエストを受けてガタニから来た。村長に取り次いでもらいたい。」と言うと、その男は値踏みするように俺たちを見てから、
「こっちら。」と言って、俺たちは客間に通された。

 使用人と思った男が主の座にどっかと座った。え?この男が村長なのか?
「おめさんたち、こげなとこまでよく来なすったけろも、えれぇ若ぇな。」いやいや、若いのはそっちだろ。村長っちゅーから爺さんかと思ってたら、どう見ても30代じゃねーかよ。
「頼りねぇってんなら帰るぜ。」
「いやいや、そんたらことは言ってねぇ。」
「確認するが、あんたが村長でいいんだよな。」
「この春に親父が亡うなって、継いだばかりらろも、俺が村長ら。頼りねか?」にこやかに言って来た。おっと切り返されたぜ。笑

「そうか。俺はアタルだ。セプトのリーダーをしている。いくつか聞きたいことがあるんだがいいか?」
「おうよ、なんれも聞いてくらっせ。」
「眠花粉は吐いてないか?」
「吐いてねな。田んぼん中に居座っからよう、ほかそう(どかそう)と思うてちょすっと(触ると)あだけるすけ(暴れるから)、手が付けられね。」
「なるほどな。」

「来るのは夜だけか?」
「そんだな。夜さ来て、田んぼさ悪さして、朝に去ぬるすけ、こすっけぇ(ずる賢い)んら。」
「毎日か?」
「毎日らすけ、たまんねのよ。村の衆も難儀しとるすけ、ギルドさ、依頼したんら。」
「何体ぐらい来るんだ?」
「20体ぐれぇらろも、おめさんたち大丈夫かや?」
「ああ、大丈夫だ。じゃぁ俺たちは夜まで休ませてもらう。庭の一画に馬車を停めさせてもらって休むがいいか?」
「そんぐれぇ、お安い御用ら。」

 俺たちは村長宅の庭に北斗号を停めて、温熱石による暖房の利いたメイン車両内で、嫁たちを夕方まで休ませる。
 この間に俺は、流邏石で東都に飛んで、帝居の次ノ宮殿下を訪ねて来ることにした。なんせ、藍凍龍攻略に推挙してくれたのは次ノ宮殿下だからな。ひと言、礼を言いたいし、シン鏑を見せに行く約束もある。
 俺は流邏矢の甲矢にトヨサの村長宅前を登録し、西都で仕入れた西都織の反物を次ノ宮殿下への手土産に、流邏石で東都ギルドへ飛んだ。

 東都ギルドから帝居に向かい、大手門で取次を頼んだ。衛士はお馴染みのサエモンだ。ラッキー♪
「サエモン、久しいな。お勤めご苦労さん。」
「アタルではないか。セプトは藍凍龍攻略に二の島へ向かったのではないのか?いつ戻ったのだ?」
「ああ、ガルツから北航路で函府に向かう途中だが、廻船がキラークラーケンにやられてな、ガタニに停泊して修理中なんだ。数日掛かると言うので、次ノ宮殿下との約束を果たしに流邏石で飛んで来た。取り次いでくれ。」
「おう、分かった。少し待ってろ。」
 サエモンは他の衛士に話を付け、取次に向かった。

 しばらくして、俺はサエモンに案内され、帝居にたくさんある応接室のひとつに通されていた。少し待っていると次ノ宮殿下が侍従を引き連れてやって来た。俺は立ち上がって挨拶した。
「アタル、よく来た。しかしいきなりだな。」
「殿下、この度は藍凍龍攻略の緊急指名クエストを頂きまして、さらには格別のお計らいまで賜りまして、誠にありがとうございます。
 これは西都の手土産にて、お納めください。」俺は手土産の西都織の反物を手渡した。
 格別のお計らいとは、このクエストに関する優遇措置だ。交通費や宿泊費に、朝廷から援助が出る。

「おおこれはすまんな。まあ、座れ。
 指名依頼のことは気にするな。そなたらが適任だから推挙したまでのこと。ところで、キラークラーケンの件は見事だった。」
「おや、もうご存知で。」
「つい先ほど、朝議で聞いたばかりだがな。アタルたちはガタニで足止めか?」
 朝議とは朝廷の会議のことだ。最有力のお公家さんたちの会議と聞いていたが、次ノ宮殿下も出ているのだな。
「そうです。修理に数日掛かるそうで、その間、ガタニでクエストを受けてます。今夜は、ガタニの隣のトヨサと言う農村で、夜中に出没する樹木の魔物を殲滅するつもりです。」
「うむ。民のために励んでおるな。感心なことだ。
 ところで今日は橙土龍を封じた金剛鏑を見せに来てくれたそうだな。」
「はい。これです。シンと名付けたのでシン鏑と呼んでいます。」
 懐から橙色に輝くシン鏑を取り出して次ノ宮殿下にお見せした。
「美しいな。アタル、残りのふたつも見せてくれ。」
「承知しました。」
 俺は、ライ鏑とウズ鏑も取り出して3つの神龍鏑を並べた。黄色、青色、橙色の3色に輝いている。
「うーむ。3つでも圧巻だな。7つ揃ったらさぞ凄かろうな。」
「そうですね。」
 それから俺は、次ノ宮殿下に請われるまま、シンを眷属にした顛末を語った。次ノ宮殿下は第2帝子という身分が許さないが、冒険者に憧れているので、冒険話が大好きなのだ。請われるまま、ライやウズを眷属にしたときの顛末も語ってしまった。

「殿下、そろそろ。」侍従がタイミングを見計らって声を掛けて来た。
「構わん。待たせておけ。」
「しかし…。」
「ああ、分かった、分かった。
 アタル、そういう訳だ。すまぬが、また今度、ゆっくり来てくれ。」
「こちらこそ前触れもなくまかり越しまして失礼いたしました。」
「よいよい。余との約束を守るためにガタニから流邏石で飛んで来たのであろう?その律義さ、褒めて取らす。」
「ありがたき幸せ。」
 こうして次ノ宮殿下への拝謁は終わった。

 俺は衛士のサエモンに挨拶して帝居を辞し、まだ時間に余裕があるので、流邏石でテンバのユノベ本拠館に飛んだ。
 叔父貴たちに近況を報告するためだ。

 するとなんと!双子の伯母御たちが湯治に来ていると言うではないか。湯治はかれこれ1週間になるという。伯母御たちに頭が上がらない叔父貴たちは、すっかり疲れ切っていた。笑
 ふたりは今も湯に浸かっていると言う。ならばおふたりにも西都の手土産を渡そう。
 わがままを言っていた伯母御たちを、商都への護衛の旅の途中で、徹底的に懲らしめてから会えていない。俺にはわだかまりはないのだが、わがまま三昧を通して来た伯母御たちは、俺に徹底的に懲らしめられたことで、俺を恐れてしまっているらしい。ここらでしっかりと仲直りをしておきたいのだ。

 俺は流邏石でガタニに飛び、そこから流邏矢の甲矢でトヨサに飛んた。サヤ姉とサジ姉に、西都で仕入れた西都織の反物から、叔母御たちが好きそうな柄を選んでもらい、商都で仕入れた化粧品の極上物を持って再びテンバに飛んだ。
 サヤ姉とサジ姉も誘ったが、自分たちが行くと、伯母御たちと俺が腹を割って話せなくなるだろうから遠慮するとのことだった。
 俺は手土産を持って表座敷の主の座に座った。

「これ、弟たちよ。わらわたちを呼び付けるとは何事じゃ?」
「なんぞ、大事でも起きたかや?」
 ふたりの伯母御たちはそんなことを言いながら表座敷に入って来て、主の座に座る俺を見付けると、
「「ひぃっ。」」っとハモって、入ったばかりの表座敷の一番の下の座にふたり揃って平伏した。
「これはアタルどの、お帰りとはつゆ知らず、ご無礼をいたしました。」
「平にご容赦くださりませ。」
 この反応に、呆気に取られる叔父貴たち3人。

「伯母御どのたち、久しいな。そんなに遠くてはゆるりと話もできん。もそっと近う寄ってくれ。」
「「ははっ。」」と言って、表座敷の中ほどまで来たら、また平伏した。
「伯母御どのたち、もそっと近う。それ、そこまで進まれよ。」俺はすぐ目の前の座を指し示した。
「「ははっ。」」と言って示されたところで平伏するふたり。
「伯母御どのたち、何を畏まっておられる。面を上げてくれ。」
 おそるおそる顔を上げるふたり。
「おお、これはまた、一段とお美しゅうなられた。里帰りの湯がお肌に合ったようだな?」
「「お戯れを。」」流石双子、よくハモる。笑

「今日は帰館ではなく、道中から叔父貴どのたちへの経過報告に立ち寄ったまで。そしたら伯母御どのたちがお里帰りしておられると聞いたゆえ、西都と商都で仕入れた手土産を持って参った次第。お納めくだされ。」
 俺は手土産の西都織反物と極上物の化粧品を手ずから持って、伯母御たちの前に置き、主の座に戻った。
「「これは!」」伯母御どのたちの眼が輝く。
「反物はサヤ姉とサジ姉の見立てだ。」
「ご無礼を致したわらわたちに過分な贈り物、ありがたく頂戴いたします。」
「その節は、ほんに申し訳ありませんでした。」そう言ってまたふたりで平伏した。

「伯母御どのたち、面を上げられよ。いつぞやの道中のことならば、とうに水に流しておるゆえ、もうお気に召さるるな。」
「アタルどのはもうお怒りではないので?」
「先程から左様に申しておる。伯母御どのたちは、なにゆえ俺がいまだに怒っていると思われたのかな?」
「されば、次ノ宮殿下がご臨席のお披露目の席にサヤもサジも呼ばれなかった由。」
「それがアタルどのの御指図と承り、お怒りいくらばかりかと。」
「ああ、そのことか?あれは同盟と提携の披露目ゆえ、サヤ姉、サジ姉のみならず、嫁全員を伴わなんだ。
 伯母御どのたちに似て飛び切り美人のサヤ姉とサジ姉をはじめ、わが嫁たちをあの場に出したらどうなるか。同盟と提携の話は吹っ飛んで、衆目の眼は美形揃いのわが嫁たちに釘付けとなり、俺には嫉妬の悪感情が集まることは必定。
 せっかくの披露目が台無しとなっては、主催の山髙屋はもちろんのこと、同盟相手の各家当主や、主賓の次ノ宮殿下からも疎ましく思われ兼ねん。
 そういう訳で外したのだ。伯母御どのたちに意趣があってふたりを外した訳ではない。お分かりか?」
 伯母御たちは互いに見つめ合い、頷き合った。ふたりとも合点が行ったようだ。

「アタルどの、わらわたちが浅慮でした。」
「恥じ入るばかりです。」
「分かればよい。では叔父貴どのたちに報告があるゆえ、下がってよいぞ。叔父貴どのたちへの報告が終われば俺はすぐに発つ。伯母御どのたち、達者でな。今日はおふたりに会えてよかった。」
 ふたりは平伏し、手土産を捧げ持って退出して行った。大袈裟な。苦笑

 呆気に取られていた叔父貴たちだが、二の叔父貴が口を開いた。
「アタル、姉貴たちをあのようにあしらうとは、恐れ入ったぞ。」
「いや、まったく大した貫禄じゃ。」三の叔父貴が同調した。
「姉貴たちがあんなに畏まるとこなど、いまだかつて見たことがないわ。」末の叔父貴も同調した。

 それから俺は叔父貴たちに、橙土龍攻略の顛末、オミョシ分家代替わりへの介入と婚姻同盟の締結、シエンと組んでのオミョシの隠居=前の権座主追放までの一連の謀略、ユノベに仕えるシノベとオミョシ分家に仕えるエノベの同盟へ向けた親睦会の企画、同盟各家副拠への表敬訪問、次ノ宮殿下からの朝廷指名依頼のクエストの受注、これらのことを次々に告げた。

「なんと。この短期間にそれだけの大事をこなしたのか?」
「これはとんでもない麒麟児じゃな。」
「10年分、いや、それ以上の働きぞ。」
「まあ、たまたま上手く行ったって感じかな。」

「ところでこのような話なら姉貴たちにも聞かせて、トノベどのやヤクシどのに伝えればよかったのではないか?」
「いや、それはダメだな。同じタイミングで嫁たち全員を各家に派遣し、直接当主に報告させる。特定の家にだけ先に知らせるのは、他家からの不信を招くことになり兼ねんし、当主より先に内儀に知らせるのは信義にもとる。」
「確かにそうだな。」
「それならば、我らに先に知らせてよかったのか?」
「当たり前だ。叔父貴どのたちはわが後見にて弽替えのない腹心。他の当主と一緒のタイミングで知らせたのでは、叔父貴どのたちに申し訳ないわ。」
「嬉しいことを言ってくれる。」

 それから叔父貴たちにシン鏑を披露して、シンに叔父貴たちを引き合わせ、震撃矢を試して見せた。叔父貴どのたちはいつも通り、ハモりながら大層驚いていた。

「では叔父貴どのたち、次にまみえるのは藍凍龍攻略後となろう。達者でな。」
「「「アタルもな。」」」最後にも仕上げのハモりを頂きました。笑

 俺はガタニギルドに飛んで、嫁たち用に7個の流邏石をガタニギルドで登録し、流邏矢でトヨサへ飛んだ。

 刻限はすでに夕刻になっていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/7/31

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。

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