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射手の統領088 ヤクシ副拠
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射手の統領
Zu-Y
№88 ヤクシ副拠
目覚めると横ではサジ姉が、すやすやと眠っている。無防備なかわいい寝顔だ。昨日の貪り合戦の際の妖艶な表情とのギャップが何ともいいではないか。
よし、今日はサジ姉とヤクシ副拠のエノウに行こう!
朝餉の席で、今日の動向を決めた。
俺とサジ姉がヤクシ副拠のエノウに行く。エノウに行くには古都から馬で3時間である。
古都の流邏石を持つ俺がまずひとりで古都に飛び、流邏矢に古都を登録。その後、西都に飛んで、ガハマから直接飛んできたサジ姉と合流。西都から、サジ姉とともに流邏矢で古都に飛ぶ。西三都は流邏矢で行き来できる距離にあるのだ。
古都でキノベ陸運の古都営業所で馬を借り、昼過ぎにはエノウのヤクシ副拠を訪問。夕方には馬で古都に戻り、馬を返却してガハマに帰館する。
キョウちゃんズはオミョシ分家本拠のアーカに行って、隠居の状況をシエンに報告し、ついでに鍛錬して来る。
タヅナはキノベ副拠のアベヤに飛んで鍛錬して来る。
サヤ姉、ホサキ、アキナは留守居で、交互に隠居の監視をしつつ休息してもらう。
朝餉の後、俺は早速、流邏石で古都ギルドに飛び、流邏矢の甲矢に古都ギルドを登録した。
そう言えば、古都ギルドに来たのは、次ノ宮殿下から頂いた勅許で、古都の帝家宝物殿に保管されていた金剛鏑を受け取りに来たとき以来か。あのときは、ここのギルマス兼宝物殿館長のダイワが難癖を付けて来たから軽く暴れてやったんだよな。帰りにでも寄ってみるかな?
「アタルさん?」いきなりちょっとケバ目の巨乳美人お姉さんに声を掛けられた。あ、この人は古都ギルドの受付だったな。確か…、
「受付の…チアキさん、だったよな?」
「はい。お久しぶりです。いつから古都に来てたんですか?」
「たった今。今日はエノウに行くんでキノベの古都営業所で馬を借りるんだよ。」
「そうですか。」
「それより、ダイワの奴は相変わらずかい?」
「いえ、あれで相当懲りたみたいで、あれ以来、意地悪なことをしなくなりました。アタルさんのおかげです。」
「そりゃよかった。そのうち顔を見に行くって言っといてくれよ。」
「はい。分かりました。それとシカセンベの皆さんが、アタルさんが来たら知らせて欲しいって言ってました。」
「ああ、あいつらか。なんで俺に?」
「奢って頂いたお礼と、ギルマスを懲らしめてくれたお礼を言いたいそうです。」
「そんなの、別にいいのに。あいつらも元気にやってるの?」
「相変わらず呑んだくれてますが、そこそこ活躍もしてますよ。」
「ふうん。縁があったらまた会おうって言っといてくれよ。」
「きっと喜びますわ。」
俺はチアキと別れて流邏石で西都ギルドに飛んだ。
そこでサジ姉と合流し、ハーネスでサジ姉としっかり繋がって、流邏矢で古都に飛んだ。
それからふたりでキノベ陸運の古都営業所に行き、馬を2頭借りた。エノウまでは、馬なら休憩を入れても3時間くらいだから昼過ぎには着く。
古都から一旦北に行き、ツッキの河に当たったら、東に向かって川沿いを遡る。山を越えて盆地に出れば、その盆地の北にエノウがある。山道はそれなりに警戒が必要だ。
警戒していたが山道は静かなものであった。そのうち盆地の西に出て、この盆地に北にエノウがある。
エノウのヤクシ副拠に着くと門番が誰何して来た。
「どちら様?…え!姫さんでっか?」
「うん…。」
「お連れの方は?」
「アタル…。」
「すぐ取り次ぎますんで、待ってとくんなはれ。」
しばらくしたら、禿頭の年配の家来が駆け寄って来た。
「姫様、よくいらっしゃいました。」
「おひさ…。」
「おお、アタル様ですか。お久しゅうございます。」
え?誰?
「えっと、…。」
「おや、お忘れですか?アタル様がご幼少の頃、ヤクシ本拠のトマツでお会いしております。」
「あ、そうなの?ごめん、思い出せなくて。」俺は記憶を辿るがやはり分からない。
「アタル…爺…だよ…。」
サジ姉の爺って言ったらトマツの爺か?髪の毛はふさふさのはず…。俺は記憶にあるトマツの爺の面影から髪の毛をすっぱり除いてみた。
「え?あ、あー!トマツの爺。」
「思い出して頂けましたかな?」
「髪が…、あ、いや、何でもない。すまん。」
「はっ、はっ、はっ。そう言えばお会いした頃はふさふさでしたな。」爺は自分の禿頭をピシリとやる。
「爺…、変わら…ない…。」
「姫様も変わりませんな。よくおいでくださいました。どうぞ、館へ参りましょう。」
こくり。
俺達は表座敷にいた。
そして俺は完全に思い出した。俺が幼かった頃、親父がライとの戦いで瀕死の重傷を負う前に、ヤクシにもトノベにも行ったことがある。ヤクシに行ったとき、爺と呼ばれていた重臣だ。あの頃はふさふさだったがな。
「この度はご婚約、おめでとうございます。」爺が口上を述べ、居並んだ重臣が一斉に頭を下げた。
「ありがと…。」いつものことだがサジ姉の口調は素っ気ない。まあでも喜んでいるのは分かる。笑
「ユノベのアタルである。此度、縁あってサジ姫を迎えた。静の伯母御に続いて、ヤクシとユノベは二代に渡っての姻戚となる。静の伯母御同様、よしなに頼む。」
「「「「「ははっ。」」」」」
「お奥方様と言えば、アタル様はあのお奥方様をやり込められたようで?」
「え?何の話だ?」
「アタル…。商都への…護衛の…旅の…初日…。」
「あ、あれか。やり込めたと言う程でもないがな。」
「何を仰います。当家の奥方様とトノベの奥方様のおふたりが揃うと無敵でした。それをばっさりとは、いやはや恐れ入りまする。」
「母上…たち…アタルに…だけ…頭が…上がら…ない…。」
「「「「「おお~!」」」」」え?なんで重臣たちが食い付くの?
「おい、サジ姉、誤解を招くようなこと言うなよ。」
「ホントの…こと…。」あ、サジ姉、ニマニマしてる。話題を変えねば…。
「ところで、爺はいつからエノウにいるのだ?」
「かれこれ7年になりますか。」
「左様か。」
その後、積もる話や思い出話であっという間に時が過ぎた。
帰り際、サジ姉用の流邏石を登録させてもらったので、ガハマの滞在中にサジ姉は日帰りでエノウへ鍛錬に来られるようになった。
馬での帰路の山越えでも、何もトラブルはなく、順調に古都に帰還して、古都営業所に馬を返した。
もう夕刻と言える時間で、陽も傾いているが、日没まではもうしばらくある。
「サジ姉、せっかくだから古都公園を見て行こうぜ。」
こくり。
俺はサジ姉の手を取って恋人繋ぎをして、イチャラブモードに入る。サジ姉も握り返して来た。そう言えば、ふたりでデートっぽいことをしたのは初めてだったりする。
古都公園は広大な敷地に野生?の鹿をおよそ1200頭も放し飼いにしている。出店があって、観光客に銅貨1枚で鹿の餌を売っており、手ずから食べさせることができる。
鹿の餌は鹿せんべいと言うらしいって、おい、シカセンベの奴らって、パーティ名をここから取ったのか?
俺とサジ姉でひとつずつ鹿せんべいを購入すると、近くの鹿が寄って来た。野生の鹿じゃないのかよ?しっかり餌付けされてるし、人にも慣れてるじゃん。笑
しかし、鹿を見ると弽の材料を連想してしまう俺はやはりユノベなのだとしみじみ思う。横でにこやかに餌を与えているサジ姉に言ったら怒られそうなので、鹿=弽の連想は黙っていた。
小一時間ではあったが、サジ姉とのデートを楽しんで、流邏石でガハマに帰り、皆との夕餉には間に合った。
留守番のサヤ姉、ホサキ、アキナからは「隠居はいつも通り。」との報告を受け、タヅナはキノベ副拠でたっぷり馬を乗り回して来ていた。
キョウちゃんズはシエンから特別な指令を受けたために、鍛錬せずに戻って来たそうだ。
「兄上に報告したらな、『ガハマに付いて行った家来どもと父上は、ガハマでは一度も顔合わせてないんか?』言うんでな、『会うてないよー。』て言うたんよ。」
「そしたらな、『ガハマですることがないんやったら、こっちは手が足りんさかい、すぐ去んで来い言うとけ。』って言わはったんよ。」
「それでな、うちらアーカでの午後の鍛錬をせんで、昼過ぎにはガハマに戻って来たんよ。」
「でな、家来どもに兄上の伝言を伝えたら、皆、アーカに戻る言うとったわ。」
シエンの奴、もう引き抜きを仕掛けやがったか。
「要するに隠居の家来どもを調略せよとの命なのだな。」
「「そやね。」」
そこへ取り次ぎの家来がやって来た。
「若、オミョシのご家来衆がご隠居に面会を求めて来はりましたが、どないしまひょ?」
「隠居はどうしてる?」
「夕餉を終えて、ご入浴ですわ。」
ううん、奴はブレない。大したもんだ。笑
「よし、夕餉を終えたら俺が会う。いったん宿坊へ戻れと伝えよ。」
「はい。」
「夕餉が終わったら、一気に調略を掛けるぞ。サキョウ、ウキョウ、一緒に来てくれ。」
夕餉の後、俺はキョウちゃんズを伴って宿坊の客間に行った。隠居に付いて来たオミョシ分家の重臣3名と護衛の家来衆が集まっている。
俺が上座に着き、両隣にキョウちゃんズを座らせた。
「さて、これなるサキョウ姫とウキョウ姫から聞き及んでると思うが、オミョシ分家を継いだわが盟友シエンが、隠居の尻拭いに悪戦苦闘しておる。
しかしな、シエンは親孝行であるゆえ、そのようなことはおくびにも出さず、病気療養で湯治に来ている隠居に、そなたら隠居のお気に入りの家来どもをガハマに同道させておる。猫の手も借りたいと言うのにだ。」
ここでいったん話を切って、一同を見回す。
「しかし、ガハマに参ってからそなたらに隠居のお召しはない。隠居どのは毎日側室どのと温泉三昧だからな。おそらくは近いうちにシエンに弟か妹ができよう。」
家来衆から笑いが漏れ、少々騒がしくなった。
「騒ぐな。これを不謹慎と見るは浅慮ぞ。ガハマに湯治に来て、隠居どのが回復の兆しを見せているのだ。良い兆候ではないか。
しかも、色欲に耽るは、ガハマを心底信頼している証拠よな。隠居どのとはこれなる姫ふたりの処遇を巡って確執もあったが、それはすでに過去のこと。その上、隠居どのがここまで信頼を寄せてくれるのであれば、今はわが舅どのである。湯治が効果を発揮している以上、お気が済むまでいつまでも逗留して頂く。」
家来衆がシンとなった。
「しかしそなたらのことは、オミョシ分家の立て直しのためにシエンが喉から手が出るほど欲っしておる。」
俺はサキョウとウキョウに目配せした。
「昼に言うた通りや。兄上がな、『ガハマで父上のお召しがないなら、去んで来いと言え。』と言わはったんや。」
「そやで。皆の力で兄上を支えたってぇな。」
「そなたら、オミョシ分家に仕える身であろう?隠居に忠誠を尽くすも、権座主シエンに忠誠を尽くすも同じぞ。」
とは言ったがな、同じな訳ねぇだろ。とっととシエンに鞍替えせぇよ。
「アタル様の言う通りや。わしら、オミョシに仕える身や。ご隠居様に仕えるも権座主に仕えるも同じやで。ならば、難儀している権座主を盛り立てんとな。どうや?」
皆が同意した。
皆に呼び掛けたのは、シノベを使って少々痛い目を見せた例の重臣である。己の立場がよーく分かったようだな。非常に賢い選択だ。笑
「皆の志、隠居どのには俺から伝えておこうぞ。権座主を盛り立てるとのこと、隠居どのからお褒めの言葉があろうな。」
その夜、秘かに隠居の重臣3名を召し出した俺は、まずシノベに拉致らせた奴に話し掛けた。
「さて、そなた、よう分別したの。これからはシエンの下で忠誠を尽くせよ。もしわが意とシエンの意に添わなんだら分かっておろうの?」
「恐ろしいお方や。」
「「?」」残りのふたりは事情を察していないらしい。こいつらは使えねぇな。
「シエンが断を下した。隠居はオミョシ本家に幽閉する。」
「「「!」」」
「すでに奥方を通してシエンの守役が本家へ交渉に赴いておる。」
「ではまだ話がまとまった訳ではないでっしゃろ?」
「シエンの要請を断ると、本家はシエンを敵に回す。それは俺を敵に回すことであり、ユノベの同盟すべてを敵に回すことだ。オミョシ本家の座主が、そんなことも分からぬ無能だと言うのか?」
「そんなこと、言うてまへんがな。」
「明日はご隠居様に会わせてもらえるんでっしゃろか?」別の重臣が聞いて来た。
「幽閉される隠居に会う必要はなかろう。そなた、踏ん切りがつかずに躊躇してると、宿屋から忽然と消えるようにいなくなるかもしれんぞ。」
残りの重臣ふたりが、一時失踪したもうひとりを見るとそいつが頷き、ふたりは蒼褪めた。
「俺に仕えるシノベの仲介で、シエンはすでに分家付きのエノベを完全に掌握しておる。この意味、分かるな?」
「「「ははっ。」」」
「ではわが盟友シエンの手足となれ。よろしく頼むぞ。」
その後、サジ姉と入浴したのだが、キョウちゃんズが乱入して来た。
サジ姉とはお背中流しをして、キョウちゃんズには頂&秘部マッサージを施した。そう、頂マッサージは、頂&秘部マッサージに進化したのである。
部屋に戻ると、今夜の輪番のホサキが待っていたので、そのままホサキとの一騎打ちに雪崩れ込む。
この一騎討は先に昇天したら負けなのだが、何回も一騎討をした結果、五分五分の良い勝負であった。もちろん本番なしなのはいつもの通り。繰り返しの一騎打ちでくたくたになった俺とホサキはそのまま朝まで安眠を貪ったのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/7/10
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№88 ヤクシ副拠
目覚めると横ではサジ姉が、すやすやと眠っている。無防備なかわいい寝顔だ。昨日の貪り合戦の際の妖艶な表情とのギャップが何ともいいではないか。
よし、今日はサジ姉とヤクシ副拠のエノウに行こう!
朝餉の席で、今日の動向を決めた。
俺とサジ姉がヤクシ副拠のエノウに行く。エノウに行くには古都から馬で3時間である。
古都の流邏石を持つ俺がまずひとりで古都に飛び、流邏矢に古都を登録。その後、西都に飛んで、ガハマから直接飛んできたサジ姉と合流。西都から、サジ姉とともに流邏矢で古都に飛ぶ。西三都は流邏矢で行き来できる距離にあるのだ。
古都でキノベ陸運の古都営業所で馬を借り、昼過ぎにはエノウのヤクシ副拠を訪問。夕方には馬で古都に戻り、馬を返却してガハマに帰館する。
キョウちゃんズはオミョシ分家本拠のアーカに行って、隠居の状況をシエンに報告し、ついでに鍛錬して来る。
タヅナはキノベ副拠のアベヤに飛んで鍛錬して来る。
サヤ姉、ホサキ、アキナは留守居で、交互に隠居の監視をしつつ休息してもらう。
朝餉の後、俺は早速、流邏石で古都ギルドに飛び、流邏矢の甲矢に古都ギルドを登録した。
そう言えば、古都ギルドに来たのは、次ノ宮殿下から頂いた勅許で、古都の帝家宝物殿に保管されていた金剛鏑を受け取りに来たとき以来か。あのときは、ここのギルマス兼宝物殿館長のダイワが難癖を付けて来たから軽く暴れてやったんだよな。帰りにでも寄ってみるかな?
「アタルさん?」いきなりちょっとケバ目の巨乳美人お姉さんに声を掛けられた。あ、この人は古都ギルドの受付だったな。確か…、
「受付の…チアキさん、だったよな?」
「はい。お久しぶりです。いつから古都に来てたんですか?」
「たった今。今日はエノウに行くんでキノベの古都営業所で馬を借りるんだよ。」
「そうですか。」
「それより、ダイワの奴は相変わらずかい?」
「いえ、あれで相当懲りたみたいで、あれ以来、意地悪なことをしなくなりました。アタルさんのおかげです。」
「そりゃよかった。そのうち顔を見に行くって言っといてくれよ。」
「はい。分かりました。それとシカセンベの皆さんが、アタルさんが来たら知らせて欲しいって言ってました。」
「ああ、あいつらか。なんで俺に?」
「奢って頂いたお礼と、ギルマスを懲らしめてくれたお礼を言いたいそうです。」
「そんなの、別にいいのに。あいつらも元気にやってるの?」
「相変わらず呑んだくれてますが、そこそこ活躍もしてますよ。」
「ふうん。縁があったらまた会おうって言っといてくれよ。」
「きっと喜びますわ。」
俺はチアキと別れて流邏石で西都ギルドに飛んだ。
そこでサジ姉と合流し、ハーネスでサジ姉としっかり繋がって、流邏矢で古都に飛んだ。
それからふたりでキノベ陸運の古都営業所に行き、馬を2頭借りた。エノウまでは、馬なら休憩を入れても3時間くらいだから昼過ぎには着く。
古都から一旦北に行き、ツッキの河に当たったら、東に向かって川沿いを遡る。山を越えて盆地に出れば、その盆地の北にエノウがある。山道はそれなりに警戒が必要だ。
警戒していたが山道は静かなものであった。そのうち盆地の西に出て、この盆地に北にエノウがある。
エノウのヤクシ副拠に着くと門番が誰何して来た。
「どちら様?…え!姫さんでっか?」
「うん…。」
「お連れの方は?」
「アタル…。」
「すぐ取り次ぎますんで、待ってとくんなはれ。」
しばらくしたら、禿頭の年配の家来が駆け寄って来た。
「姫様、よくいらっしゃいました。」
「おひさ…。」
「おお、アタル様ですか。お久しゅうございます。」
え?誰?
「えっと、…。」
「おや、お忘れですか?アタル様がご幼少の頃、ヤクシ本拠のトマツでお会いしております。」
「あ、そうなの?ごめん、思い出せなくて。」俺は記憶を辿るがやはり分からない。
「アタル…爺…だよ…。」
サジ姉の爺って言ったらトマツの爺か?髪の毛はふさふさのはず…。俺は記憶にあるトマツの爺の面影から髪の毛をすっぱり除いてみた。
「え?あ、あー!トマツの爺。」
「思い出して頂けましたかな?」
「髪が…、あ、いや、何でもない。すまん。」
「はっ、はっ、はっ。そう言えばお会いした頃はふさふさでしたな。」爺は自分の禿頭をピシリとやる。
「爺…、変わら…ない…。」
「姫様も変わりませんな。よくおいでくださいました。どうぞ、館へ参りましょう。」
こくり。
俺達は表座敷にいた。
そして俺は完全に思い出した。俺が幼かった頃、親父がライとの戦いで瀕死の重傷を負う前に、ヤクシにもトノベにも行ったことがある。ヤクシに行ったとき、爺と呼ばれていた重臣だ。あの頃はふさふさだったがな。
「この度はご婚約、おめでとうございます。」爺が口上を述べ、居並んだ重臣が一斉に頭を下げた。
「ありがと…。」いつものことだがサジ姉の口調は素っ気ない。まあでも喜んでいるのは分かる。笑
「ユノベのアタルである。此度、縁あってサジ姫を迎えた。静の伯母御に続いて、ヤクシとユノベは二代に渡っての姻戚となる。静の伯母御同様、よしなに頼む。」
「「「「「ははっ。」」」」」
「お奥方様と言えば、アタル様はあのお奥方様をやり込められたようで?」
「え?何の話だ?」
「アタル…。商都への…護衛の…旅の…初日…。」
「あ、あれか。やり込めたと言う程でもないがな。」
「何を仰います。当家の奥方様とトノベの奥方様のおふたりが揃うと無敵でした。それをばっさりとは、いやはや恐れ入りまする。」
「母上…たち…アタルに…だけ…頭が…上がら…ない…。」
「「「「「おお~!」」」」」え?なんで重臣たちが食い付くの?
「おい、サジ姉、誤解を招くようなこと言うなよ。」
「ホントの…こと…。」あ、サジ姉、ニマニマしてる。話題を変えねば…。
「ところで、爺はいつからエノウにいるのだ?」
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「左様か。」
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「それでな、うちらアーカでの午後の鍛錬をせんで、昼過ぎにはガハマに戻って来たんよ。」
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シエンの奴、もう引き抜きを仕掛けやがったか。
「要するに隠居の家来どもを調略せよとの命なのだな。」
「「そやね。」」
そこへ取り次ぎの家来がやって来た。
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「隠居はどうしてる?」
「夕餉を終えて、ご入浴ですわ。」
ううん、奴はブレない。大したもんだ。笑
「よし、夕餉を終えたら俺が会う。いったん宿坊へ戻れと伝えよ。」
「はい。」
「夕餉が終わったら、一気に調略を掛けるぞ。サキョウ、ウキョウ、一緒に来てくれ。」
夕餉の後、俺はキョウちゃんズを伴って宿坊の客間に行った。隠居に付いて来たオミョシ分家の重臣3名と護衛の家来衆が集まっている。
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「さて、これなるサキョウ姫とウキョウ姫から聞き及んでると思うが、オミョシ分家を継いだわが盟友シエンが、隠居の尻拭いに悪戦苦闘しておる。
しかしな、シエンは親孝行であるゆえ、そのようなことはおくびにも出さず、病気療養で湯治に来ている隠居に、そなたら隠居のお気に入りの家来どもをガハマに同道させておる。猫の手も借りたいと言うのにだ。」
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「しかし、ガハマに参ってからそなたらに隠居のお召しはない。隠居どのは毎日側室どのと温泉三昧だからな。おそらくは近いうちにシエンに弟か妹ができよう。」
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「騒ぐな。これを不謹慎と見るは浅慮ぞ。ガハマに湯治に来て、隠居どのが回復の兆しを見せているのだ。良い兆候ではないか。
しかも、色欲に耽るは、ガハマを心底信頼している証拠よな。隠居どのとはこれなる姫ふたりの処遇を巡って確執もあったが、それはすでに過去のこと。その上、隠居どのがここまで信頼を寄せてくれるのであれば、今はわが舅どのである。湯治が効果を発揮している以上、お気が済むまでいつまでも逗留して頂く。」
家来衆がシンとなった。
「しかしそなたらのことは、オミョシ分家の立て直しのためにシエンが喉から手が出るほど欲っしておる。」
俺はサキョウとウキョウに目配せした。
「昼に言うた通りや。兄上がな、『ガハマで父上のお召しがないなら、去んで来いと言え。』と言わはったんや。」
「そやで。皆の力で兄上を支えたってぇな。」
「そなたら、オミョシ分家に仕える身であろう?隠居に忠誠を尽くすも、権座主シエンに忠誠を尽くすも同じぞ。」
とは言ったがな、同じな訳ねぇだろ。とっととシエンに鞍替えせぇよ。
「アタル様の言う通りや。わしら、オミョシに仕える身や。ご隠居様に仕えるも権座主に仕えるも同じやで。ならば、難儀している権座主を盛り立てんとな。どうや?」
皆が同意した。
皆に呼び掛けたのは、シノベを使って少々痛い目を見せた例の重臣である。己の立場がよーく分かったようだな。非常に賢い選択だ。笑
「皆の志、隠居どのには俺から伝えておこうぞ。権座主を盛り立てるとのこと、隠居どのからお褒めの言葉があろうな。」
その夜、秘かに隠居の重臣3名を召し出した俺は、まずシノベに拉致らせた奴に話し掛けた。
「さて、そなた、よう分別したの。これからはシエンの下で忠誠を尽くせよ。もしわが意とシエンの意に添わなんだら分かっておろうの?」
「恐ろしいお方や。」
「「?」」残りのふたりは事情を察していないらしい。こいつらは使えねぇな。
「シエンが断を下した。隠居はオミョシ本家に幽閉する。」
「「「!」」」
「すでに奥方を通してシエンの守役が本家へ交渉に赴いておる。」
「ではまだ話がまとまった訳ではないでっしゃろ?」
「シエンの要請を断ると、本家はシエンを敵に回す。それは俺を敵に回すことであり、ユノベの同盟すべてを敵に回すことだ。オミョシ本家の座主が、そんなことも分からぬ無能だと言うのか?」
「そんなこと、言うてまへんがな。」
「明日はご隠居様に会わせてもらえるんでっしゃろか?」別の重臣が聞いて来た。
「幽閉される隠居に会う必要はなかろう。そなた、踏ん切りがつかずに躊躇してると、宿屋から忽然と消えるようにいなくなるかもしれんぞ。」
残りの重臣ふたりが、一時失踪したもうひとりを見るとそいつが頷き、ふたりは蒼褪めた。
「俺に仕えるシノベの仲介で、シエンはすでに分家付きのエノベを完全に掌握しておる。この意味、分かるな?」
「「「ははっ。」」」
「ではわが盟友シエンの手足となれ。よろしく頼むぞ。」
その後、サジ姉と入浴したのだが、キョウちゃんズが乱入して来た。
サジ姉とはお背中流しをして、キョウちゃんズには頂&秘部マッサージを施した。そう、頂マッサージは、頂&秘部マッサージに進化したのである。
部屋に戻ると、今夜の輪番のホサキが待っていたので、そのままホサキとの一騎打ちに雪崩れ込む。
この一騎討は先に昇天したら負けなのだが、何回も一騎討をした結果、五分五分の良い勝負であった。もちろん本番なしなのはいつもの通り。繰り返しの一騎打ちでくたくたになった俺とホサキはそのまま朝まで安眠を貪ったのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/7/10
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
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