90 / 183
射手の統領087 タテベ副拠
しおりを挟む
射手の統領
Zu-Y
№87 タテベ副拠
爽快に目覚めた後、朝イチでナワテのタテベ副拠のシルドに、ホサキと一緒に本日訪ねるとの早馬を出し、トノベ副拠のシリタとヤクシ副拠のエノウにも近日中に訪ねるとの早馬を出した。
皆での朝餉の席では、今日の段取りの確認である。
今日から俺は副拠巡りで、まずはホサキとタテベ副拠のナワテに行く。流邏石で商都に飛べば、ナワテは商都から徒歩でも3時間と近い。
サヤ姉とサジ姉はガハマに残って隠居の監視をしつつ鍛錬。
キョウちゃんズとアキナとタヅナは、北斗号で西都に骨董品の不良在庫を売りに行く。場合によったら商都まで足を延ばすかもしれない。
もし完売したら北斗号の積荷は空になる。東に帰るとしたら西都で産物を仕入れるから、北斗号をキノベ陸運西都営業所に預けて来ることにした。
そう言う訳で俺とホサキは、朝餉の後、一休みしてから商都へ飛んだ。
「ホサキ、キノベの営業所で馬を借りるか?3時間も歩かなくていいぞ。」
「いや、せっかくだからゆっくり徒歩がいい。アタルとふたり切りというのはあまりないからな。」
おー、顔を赤くしてモジモジしながら言うのが何ともかわいいではないか。こんなこと言われたら徒歩一択しかないな。
俺たちはのんびり、商都からナワテへ歩いて行くことにした。
「ホサキ、せっかくだから手を繋ぐか、腕を組んで行こうぜ。」
「いや、それは流石にまわりの眼と言うものがあろう。」うーん、予想通りの返事だ。いかにもホサキっぽい。俺はイジることにした。笑
「なんだ、嫌なのか?」敢て寂しそうに言う。
「嫌な訳ないであろう。」焦るホサキ。
「ならば照れることではない。まわりに見せ付けてやろうぞ。」さっとホサキの手を握った。恋人繋ぎと言う奴だ。ホサキは真っ赤になって俯いた。
夜の肉食ホサキはどこへ行ったやら。俺のテンションは上がる。これこそまさにギャップ萌えと言う奴だ。笑
そんなこんなしてるうちに3時間などあっという間だ。ナワテの町に着いて、そのままタテベ副拠に向かった。
副拠の正門では警備の者が誰何して来た。
「タテベにご用でっしゃろか?」
「ユノベのアタルだ。シルドどのに取り次いでもらいたい。」
「では、こちらのお方は二の姫さんで?」
「なんだ、ホサキは副拠では顔が売れてないのか?」
「実はナワテに来たのは初めてなのだ。」
「ふむ。コスカの本拠の深窓のお姫様という訳だな。」
「そ、そ、そんな訳なかろう。私がお姫様などと!」
「あのー、二の姫様と違ゃいますんで?」門番が俺たちのやり取りに半分呆れて突っ込んで来た。
「いや、私がホサキだ。兄上に取り次いでくれないか?」
「さいでっか。ほな少々お待ちくだされ。」と言って館に伝令に行った。
しばらく後、俺とホサキは表座敷に通されていた。そこへシルドがぞろぞろ取り巻きを連れて入って来た。
「アタル、紹介しよう。正室のトライと側室のデントだ。ふたりとも重臣の娘でな、従姉妹同士だ。それから妹でホサキの姉のシヅキ。」
それぞれと挨拶を交わす。
「それとシヅキの夫で、俺の側近のバクラだ。」
「そなたは…。」
「その節はお世話をお掛けしました。」東都から名府へ向かう廻船の中で、キョウちゃんズに呑まされ、潰されて、シルドに戒めとして頭を刈られた3人のうちのひとりだ。
ツルツルの丸坊主だったのが、イガグリ頭にまで髪が伸びている。
「いや、こちらの方こそ身内が煽ってすまなかったな。」
「確かにあのおふたりには乗せられました。はっはっは。」
「バクラ!」きつい口調でシヅキどのがたしなめ、場の雰囲気が固くなった。
「シヅキ、控えよ。」シルドが半分呆れてたしなめたが、シヅキはぷいと横を向いてしまった。
こりゃ何とも我儘なお姫様と見える。面倒臭ぇな。
バクラは頭を掻いて苦笑いをしており、全然動じていない。こいつ、なかなかの大物だな。
まあ、廻船の中でも、酔い潰れた戒めに翌朝丸坊主にされた日の晩でさえ、反省するどころか、「もう失うものはない。」と言って、再びキョウちゃんズに挑み、潰されていたがな。
根が能天気なのだろう。こういう奴はなんと言うか、愛嬌があって好ましいではないか。笑
シルドはこの後に公務があるので、シルドの側近のバクラとシヅキどののふたりが副拠内を案内してくれることになった。
ホサキは久しぶりと言うこともあり、姉のシヅキと話していたので、必然的に俺はバクラと話すことになる。
バクラは俺と話しつつも、何かとシヅキのことを気遣っており、どうもベタ惚れのようであるが、シヅキはいわゆるツンデレと言う奴で、バクラをうるさそうにあしらっていた。
こうなると俺のイタズラ心にスイッチが入ってしまうではないか。ツンのシヅキをデレさせてやる。
ふたりの馴れ初めなどを聞いてみた。すると得意気にバクラが語り出した。
「幼少の頃、殿の側近候補としてコスカの館に上がった折に、私が姫に一目惚れしましてね。」
「バクラ!」シヅキである。しかし相変わらず夫扱いしてねぇな。
「まぁまぁ、いいではありませんか。私たちの馴れ初めも後でお話しますから。
で、どうやって口説き落としたんだ?」
「いくら一目惚れでも主家の姫ですからね、高嶺の花と尻込みしていた訳ですが、殿に見抜かれましてね。殿が取り持ってくださったんですよ。」
「ほうほう。」
「私が年下ということもあり、姫はまったく相手にしてくれませんでした。最初のうちはまるで子供扱いでしたがね。そりゃぁもう殿が猛プッシュしてくださったんですよ。」
「それで上手く行った訳だ?」
「はい。」
「と言うことはシヅキどのも満更でもなかった訳ですな?」
「そんなことはありませぬ。」ぷいと横を向く。
「では意に添わぬと?」ぶっ込んでみた。
「左様なことは申しておりませぬ。」
「おっと、さりげなくデレましたか?ご馳走様です。いわゆるツンデレと言う奴ですな?」ホサキが袖を引いている。やめろってか?笑
「違いまする!」シヅキに睨まれた。笑
「ときにバクラ、タテベに伝わる夫婦円満の秘訣を知っておるか?」
「「な!」」シヅキとホサキがハモった。ということはそう言うことか。笑
「ああ、大奥方様直伝のあれですか?」バクラもシレッと答える。深く考えてないな。
「バクラ!」シヅキの狼狽えぶりが面白い。笑
「ふむ。そうか、存じておるか。姑どのはよき知恵を授けてくれたものよ。しかし、安心したぞ。わが盟友、シルドの無二の側近が夫婦不仲のせいで、忠勤に差支えがあっては困るからな。シルドが側近と妹の間で頭を悩ますなどあってはならぬことだ。」
「私がベタ惚れですから大丈夫ですよ。」バクラが笑う。
「今はそうであってもいつまでもそうとは限らん。俺の家来にも妻のツンデレに些細な思い違いが重なってな、ダメになってしまった夫婦があったのだ。」
「…。」無言で俯くシヅキ。おっと地味に効いたか?実はこの話ははったりの作り話なのだがな。笑
「姫、私は大丈夫ですよ。」バクラが気遣う。
「そこだな。シヅキどのは人前でも平気で夫のバクラを呼び捨てにし、バクラはシヅキどのを姫と呼ぶ。そなたらは夫婦というより主従に見えるわ。危うい、危うい。」
「そうは言いましても姫を呼び捨てにするなど畏れ多くてできませんよ。」
「シヅキどの、そなたは恐ろしいそうだ。旦那に恐れられるほどの恐妻には見えぬがな。人は見掛けによらぬとはよく言ったものよ。」
「ちょっ!アタルどの!」ふむふむ、能天気なバクラが焦りやがった。面白れぇじゃないの。笑
「俺たちは互いに呼び捨てだぜ。対等だからな。なぁホサキ。」
「うむ。確かにそうだ。私も最初はアタルどのと呼んでいたのだがな。何度もアタルと呼べと言われて、いつの間にか普通にアタルと呼んでいるな。」
「なぁ、シヅキどの。シヅキどのはバクラの主筋で、バクラの一目惚れで、しかも姉さん女房となりゃあ、バクラは頭が上がらんな。
力関係はシヅキどのが一方的に上だ。それを隠そうともせず、人前でその力関係を無頓着に晒しておる。今はバクラが気にしておらぬからよいがな、気にし出したら耐え忍ばせることになろうな。まぁバクラに甘えておるのだろう。
しかしな、耐え忍び出したらそのうちバクラは嫌気がさすかもしれんぞ?そのときになって後悔しても、後の祭りよな。」
「!」目を見開くシヅキ。
「アタルどの、いい加減にしてくだされ。私が姫に嫌気がさすことなど、断じてありませぬ。」
「ふむ、左様か。ならばそちらの話はもうよいな。では今度は俺たちの馴れ初めだがな…。」
それからたっぷりと聞かせてやった。俺が露骨にのろけるので、横で聞いているホサキが真っ赤になっていた。笑
シルドは泊って行けと言うが、副拠にはオミョシ分家の隠居を軟禁しているので、夕餉を馳走になって流邏石で帰ることにした。
ナワテでの夕餉は、シルドと奥方ふたり、俺とホサキ、シヅキどのとバクラで囲んだ。
シルドは自慢のバイツェンを振舞ってくれた。フルーティなビールで実に旨いのだが、和の国ではラガーの方が圧倒的人気で、我らヴァイツェン派はマイナー勢力である。
「アタル、実はな、近々俺はコスカに戻ることになった。」
「ほう。…もしや正式にタテベを継ぐのか?」
「おお、これだけで分かるか。流石よな。」
「シルドがナワテを任されていたのは、タテベを継ぐための修行であろう?コスカに戻るとなれば、相続となろうな。」
「アタルのせいなのだぞ。いや、アタルのおかげと言うべきだな。」
「俺の?…ということは次ノ宮殿下か?」
「うーむ、やはりアタルは鋭いな。次ノ宮殿下の『アタルの義兄弟ならそなたも帝家の忠臣』と言うあのひと言でな、父上が決意されたのだ。」
「舅どのはどうされるのだ?」
「しばらくは俺の後見だな。」
「ナワテは誰が見るのだ?」
「バクラに任せようと思ってるのだがな…。」
「殿、私は殿のお傍にお仕えしますからね。」バクラが入って来た。
「と言うことなのだ。」シルドが溜息をつく。
「なるほどな。」
「シヅキ、バクラを説得せよ。」シルドが何気なく言ったのだが…。
「旦那様の御心のままに。」
「は?今、何と申した?」シルドが驚いて聞き返す。
「旦那様の御心のままにと申しました。」
「姫、旦那様はおやめくだされ。」
「ではシヅキとお呼びくださいな。」
「アタルどののせいですぞ!」バクラが俺に食って掛かる。
「旦那様、違いまする。アタルどののご忠告に私が得心致したのです。」
「アタル、シヅキに何を言ったのだ?」シルドが興味津々で聞いて来た。
俺が顛末を語ると、シルドは感心して頷いていた。
「アタル、それは忝い。俺も気になって注意はしていたのだ。」
「ときに、奥方おふたりも姑どのから夫婦円満に秘訣を伝授されておりますか?」俺はシルドのふたりの妻、トライとデントに聞いた。
「「はい。」」
「やはり姑どのはタテベの要か。」
夕餉を馳走になって、ホサキ用にナワテで1個の流邏石を登録し、俺たちは流邏石でガハマに帰館した。シルドがコスカに帰るのなら、俺の分は登録しなくてもよいしな。
ガハマでは、皆が夕餉を終えていた。
サヤ姉とサジ姉からは隠居の動向について「変わりなし。」との報告を受けた。相変わらず側室と盛っているようだ。何ともお気楽な極楽蜻蛉である。
一方で、アキナたちからは骨董品完売と、北斗号をキノベ陸運西都営業所に預けて来たとの報告を受けた。
「完売か?流石だなぁ。」
「古都は古物商が多いですからね。懇意にしているお店もいくつかあります。」
「いやぁ、ホンマに凄い駆け引きやったんよ。」
「どいつもこいつも値切って来よったけどな、アキ姉はまったく負けへんかってん。」
「ちなみにおいくら万円で売ったのかなー?」軽く聞いてみたのだが…、
「ノーベソでの評価額ですね。吹っ掛けてはいませんから負ける必要もありませんよ。」
「ノーベソでは評価額の半値で買い叩いたよね?」
「こちらとしては欲しくもないものを融資の代として買って差し上げたのですから半値は妥当です。ですから融資分がそっくり倍になりましたね。」
頼もしい!この一言に尽きる。
その後、ホサキと入浴して、姑どの直伝のお背中流しを堪能した。
部屋に戻ると、今夜の輪番のサジ姉が待っていた。
俺は待てないよ。そのままサジ姉を押し倒して貪った。サジ姉も超が付く肉食だから貪って来た。本番なしでのひと通りの貪り合戦の後、心地よい疲れが俺とサジ姉を快適な眠りに誘ったのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/7/10
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№87 タテベ副拠
爽快に目覚めた後、朝イチでナワテのタテベ副拠のシルドに、ホサキと一緒に本日訪ねるとの早馬を出し、トノベ副拠のシリタとヤクシ副拠のエノウにも近日中に訪ねるとの早馬を出した。
皆での朝餉の席では、今日の段取りの確認である。
今日から俺は副拠巡りで、まずはホサキとタテベ副拠のナワテに行く。流邏石で商都に飛べば、ナワテは商都から徒歩でも3時間と近い。
サヤ姉とサジ姉はガハマに残って隠居の監視をしつつ鍛錬。
キョウちゃんズとアキナとタヅナは、北斗号で西都に骨董品の不良在庫を売りに行く。場合によったら商都まで足を延ばすかもしれない。
もし完売したら北斗号の積荷は空になる。東に帰るとしたら西都で産物を仕入れるから、北斗号をキノベ陸運西都営業所に預けて来ることにした。
そう言う訳で俺とホサキは、朝餉の後、一休みしてから商都へ飛んだ。
「ホサキ、キノベの営業所で馬を借りるか?3時間も歩かなくていいぞ。」
「いや、せっかくだからゆっくり徒歩がいい。アタルとふたり切りというのはあまりないからな。」
おー、顔を赤くしてモジモジしながら言うのが何ともかわいいではないか。こんなこと言われたら徒歩一択しかないな。
俺たちはのんびり、商都からナワテへ歩いて行くことにした。
「ホサキ、せっかくだから手を繋ぐか、腕を組んで行こうぜ。」
「いや、それは流石にまわりの眼と言うものがあろう。」うーん、予想通りの返事だ。いかにもホサキっぽい。俺はイジることにした。笑
「なんだ、嫌なのか?」敢て寂しそうに言う。
「嫌な訳ないであろう。」焦るホサキ。
「ならば照れることではない。まわりに見せ付けてやろうぞ。」さっとホサキの手を握った。恋人繋ぎと言う奴だ。ホサキは真っ赤になって俯いた。
夜の肉食ホサキはどこへ行ったやら。俺のテンションは上がる。これこそまさにギャップ萌えと言う奴だ。笑
そんなこんなしてるうちに3時間などあっという間だ。ナワテの町に着いて、そのままタテベ副拠に向かった。
副拠の正門では警備の者が誰何して来た。
「タテベにご用でっしゃろか?」
「ユノベのアタルだ。シルドどのに取り次いでもらいたい。」
「では、こちらのお方は二の姫さんで?」
「なんだ、ホサキは副拠では顔が売れてないのか?」
「実はナワテに来たのは初めてなのだ。」
「ふむ。コスカの本拠の深窓のお姫様という訳だな。」
「そ、そ、そんな訳なかろう。私がお姫様などと!」
「あのー、二の姫様と違ゃいますんで?」門番が俺たちのやり取りに半分呆れて突っ込んで来た。
「いや、私がホサキだ。兄上に取り次いでくれないか?」
「さいでっか。ほな少々お待ちくだされ。」と言って館に伝令に行った。
しばらく後、俺とホサキは表座敷に通されていた。そこへシルドがぞろぞろ取り巻きを連れて入って来た。
「アタル、紹介しよう。正室のトライと側室のデントだ。ふたりとも重臣の娘でな、従姉妹同士だ。それから妹でホサキの姉のシヅキ。」
それぞれと挨拶を交わす。
「それとシヅキの夫で、俺の側近のバクラだ。」
「そなたは…。」
「その節はお世話をお掛けしました。」東都から名府へ向かう廻船の中で、キョウちゃんズに呑まされ、潰されて、シルドに戒めとして頭を刈られた3人のうちのひとりだ。
ツルツルの丸坊主だったのが、イガグリ頭にまで髪が伸びている。
「いや、こちらの方こそ身内が煽ってすまなかったな。」
「確かにあのおふたりには乗せられました。はっはっは。」
「バクラ!」きつい口調でシヅキどのがたしなめ、場の雰囲気が固くなった。
「シヅキ、控えよ。」シルドが半分呆れてたしなめたが、シヅキはぷいと横を向いてしまった。
こりゃ何とも我儘なお姫様と見える。面倒臭ぇな。
バクラは頭を掻いて苦笑いをしており、全然動じていない。こいつ、なかなかの大物だな。
まあ、廻船の中でも、酔い潰れた戒めに翌朝丸坊主にされた日の晩でさえ、反省するどころか、「もう失うものはない。」と言って、再びキョウちゃんズに挑み、潰されていたがな。
根が能天気なのだろう。こういう奴はなんと言うか、愛嬌があって好ましいではないか。笑
シルドはこの後に公務があるので、シルドの側近のバクラとシヅキどののふたりが副拠内を案内してくれることになった。
ホサキは久しぶりと言うこともあり、姉のシヅキと話していたので、必然的に俺はバクラと話すことになる。
バクラは俺と話しつつも、何かとシヅキのことを気遣っており、どうもベタ惚れのようであるが、シヅキはいわゆるツンデレと言う奴で、バクラをうるさそうにあしらっていた。
こうなると俺のイタズラ心にスイッチが入ってしまうではないか。ツンのシヅキをデレさせてやる。
ふたりの馴れ初めなどを聞いてみた。すると得意気にバクラが語り出した。
「幼少の頃、殿の側近候補としてコスカの館に上がった折に、私が姫に一目惚れしましてね。」
「バクラ!」シヅキである。しかし相変わらず夫扱いしてねぇな。
「まぁまぁ、いいではありませんか。私たちの馴れ初めも後でお話しますから。
で、どうやって口説き落としたんだ?」
「いくら一目惚れでも主家の姫ですからね、高嶺の花と尻込みしていた訳ですが、殿に見抜かれましてね。殿が取り持ってくださったんですよ。」
「ほうほう。」
「私が年下ということもあり、姫はまったく相手にしてくれませんでした。最初のうちはまるで子供扱いでしたがね。そりゃぁもう殿が猛プッシュしてくださったんですよ。」
「それで上手く行った訳だ?」
「はい。」
「と言うことはシヅキどのも満更でもなかった訳ですな?」
「そんなことはありませぬ。」ぷいと横を向く。
「では意に添わぬと?」ぶっ込んでみた。
「左様なことは申しておりませぬ。」
「おっと、さりげなくデレましたか?ご馳走様です。いわゆるツンデレと言う奴ですな?」ホサキが袖を引いている。やめろってか?笑
「違いまする!」シヅキに睨まれた。笑
「ときにバクラ、タテベに伝わる夫婦円満の秘訣を知っておるか?」
「「な!」」シヅキとホサキがハモった。ということはそう言うことか。笑
「ああ、大奥方様直伝のあれですか?」バクラもシレッと答える。深く考えてないな。
「バクラ!」シヅキの狼狽えぶりが面白い。笑
「ふむ。そうか、存じておるか。姑どのはよき知恵を授けてくれたものよ。しかし、安心したぞ。わが盟友、シルドの無二の側近が夫婦不仲のせいで、忠勤に差支えがあっては困るからな。シルドが側近と妹の間で頭を悩ますなどあってはならぬことだ。」
「私がベタ惚れですから大丈夫ですよ。」バクラが笑う。
「今はそうであってもいつまでもそうとは限らん。俺の家来にも妻のツンデレに些細な思い違いが重なってな、ダメになってしまった夫婦があったのだ。」
「…。」無言で俯くシヅキ。おっと地味に効いたか?実はこの話ははったりの作り話なのだがな。笑
「姫、私は大丈夫ですよ。」バクラが気遣う。
「そこだな。シヅキどのは人前でも平気で夫のバクラを呼び捨てにし、バクラはシヅキどのを姫と呼ぶ。そなたらは夫婦というより主従に見えるわ。危うい、危うい。」
「そうは言いましても姫を呼び捨てにするなど畏れ多くてできませんよ。」
「シヅキどの、そなたは恐ろしいそうだ。旦那に恐れられるほどの恐妻には見えぬがな。人は見掛けによらぬとはよく言ったものよ。」
「ちょっ!アタルどの!」ふむふむ、能天気なバクラが焦りやがった。面白れぇじゃないの。笑
「俺たちは互いに呼び捨てだぜ。対等だからな。なぁホサキ。」
「うむ。確かにそうだ。私も最初はアタルどのと呼んでいたのだがな。何度もアタルと呼べと言われて、いつの間にか普通にアタルと呼んでいるな。」
「なぁ、シヅキどの。シヅキどのはバクラの主筋で、バクラの一目惚れで、しかも姉さん女房となりゃあ、バクラは頭が上がらんな。
力関係はシヅキどのが一方的に上だ。それを隠そうともせず、人前でその力関係を無頓着に晒しておる。今はバクラが気にしておらぬからよいがな、気にし出したら耐え忍ばせることになろうな。まぁバクラに甘えておるのだろう。
しかしな、耐え忍び出したらそのうちバクラは嫌気がさすかもしれんぞ?そのときになって後悔しても、後の祭りよな。」
「!」目を見開くシヅキ。
「アタルどの、いい加減にしてくだされ。私が姫に嫌気がさすことなど、断じてありませぬ。」
「ふむ、左様か。ならばそちらの話はもうよいな。では今度は俺たちの馴れ初めだがな…。」
それからたっぷりと聞かせてやった。俺が露骨にのろけるので、横で聞いているホサキが真っ赤になっていた。笑
シルドは泊って行けと言うが、副拠にはオミョシ分家の隠居を軟禁しているので、夕餉を馳走になって流邏石で帰ることにした。
ナワテでの夕餉は、シルドと奥方ふたり、俺とホサキ、シヅキどのとバクラで囲んだ。
シルドは自慢のバイツェンを振舞ってくれた。フルーティなビールで実に旨いのだが、和の国ではラガーの方が圧倒的人気で、我らヴァイツェン派はマイナー勢力である。
「アタル、実はな、近々俺はコスカに戻ることになった。」
「ほう。…もしや正式にタテベを継ぐのか?」
「おお、これだけで分かるか。流石よな。」
「シルドがナワテを任されていたのは、タテベを継ぐための修行であろう?コスカに戻るとなれば、相続となろうな。」
「アタルのせいなのだぞ。いや、アタルのおかげと言うべきだな。」
「俺の?…ということは次ノ宮殿下か?」
「うーむ、やはりアタルは鋭いな。次ノ宮殿下の『アタルの義兄弟ならそなたも帝家の忠臣』と言うあのひと言でな、父上が決意されたのだ。」
「舅どのはどうされるのだ?」
「しばらくは俺の後見だな。」
「ナワテは誰が見るのだ?」
「バクラに任せようと思ってるのだがな…。」
「殿、私は殿のお傍にお仕えしますからね。」バクラが入って来た。
「と言うことなのだ。」シルドが溜息をつく。
「なるほどな。」
「シヅキ、バクラを説得せよ。」シルドが何気なく言ったのだが…。
「旦那様の御心のままに。」
「は?今、何と申した?」シルドが驚いて聞き返す。
「旦那様の御心のままにと申しました。」
「姫、旦那様はおやめくだされ。」
「ではシヅキとお呼びくださいな。」
「アタルどののせいですぞ!」バクラが俺に食って掛かる。
「旦那様、違いまする。アタルどののご忠告に私が得心致したのです。」
「アタル、シヅキに何を言ったのだ?」シルドが興味津々で聞いて来た。
俺が顛末を語ると、シルドは感心して頷いていた。
「アタル、それは忝い。俺も気になって注意はしていたのだ。」
「ときに、奥方おふたりも姑どのから夫婦円満に秘訣を伝授されておりますか?」俺はシルドのふたりの妻、トライとデントに聞いた。
「「はい。」」
「やはり姑どのはタテベの要か。」
夕餉を馳走になって、ホサキ用にナワテで1個の流邏石を登録し、俺たちは流邏石でガハマに帰館した。シルドがコスカに帰るのなら、俺の分は登録しなくてもよいしな。
ガハマでは、皆が夕餉を終えていた。
サヤ姉とサジ姉からは隠居の動向について「変わりなし。」との報告を受けた。相変わらず側室と盛っているようだ。何ともお気楽な極楽蜻蛉である。
一方で、アキナたちからは骨董品完売と、北斗号をキノベ陸運西都営業所に預けて来たとの報告を受けた。
「完売か?流石だなぁ。」
「古都は古物商が多いですからね。懇意にしているお店もいくつかあります。」
「いやぁ、ホンマに凄い駆け引きやったんよ。」
「どいつもこいつも値切って来よったけどな、アキ姉はまったく負けへんかってん。」
「ちなみにおいくら万円で売ったのかなー?」軽く聞いてみたのだが…、
「ノーベソでの評価額ですね。吹っ掛けてはいませんから負ける必要もありませんよ。」
「ノーベソでは評価額の半値で買い叩いたよね?」
「こちらとしては欲しくもないものを融資の代として買って差し上げたのですから半値は妥当です。ですから融資分がそっくり倍になりましたね。」
頼もしい!この一言に尽きる。
その後、ホサキと入浴して、姑どの直伝のお背中流しを堪能した。
部屋に戻ると、今夜の輪番のサジ姉が待っていた。
俺は待てないよ。そのままサジ姉を押し倒して貪った。サジ姉も超が付く肉食だから貪って来た。本番なしでのひと通りの貪り合戦の後、心地よい疲れが俺とサジ姉を快適な眠りに誘ったのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/7/10
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる