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射手の統領079 トリトに凱旋
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射手の統領
Zu-Y
№79 トリトに凱旋
橙土龍の攻略に成功して眷属にできたので、まずは大砂丘で新たに得た土属性攻撃の震撃矢を試すことにした。
シン鏑に通常矢で触れて土属性を纏わせた震撃矢を放つ。大砂丘での実験だったので、激しく砂が舞い上がり、地響きが起きた。これはかなりの破壊力だ。
3倍震撃矢を試すと、舞い上がった砂も凄かったが、地響きが地震レベルになった。
岩に震撃矢を打ち込んだらどうなるのだろうか?岩を粉砕するのかな?シンに聞いてみよう。
「なぁ、シン。震撃矢は砂を巻き上げるようだが、岩はどうなる?岩を吹っ飛ばすのか?砕くのか?」
『我が属性攻撃に耐えられる岩などないわ。砕くどころか粉々よな。』
「そうか、粉砕するのか。ならば土木や農地改良にも応用できそうだな!」
「アタル、何か思い付いたのね?」
「うん。まず、でかい岩が道を塞いでたり、川の流れを堰き止めてたりしたら、震撃矢で粉砕だ。石ころだらけの荒れた土地も、石を粉々にしつつ一気に耕せる。」
「それ…いい…かも…。」
「アタルは民思いなのだな。よき統領となろう。」
「以前、水撃矢で雨乞いができんか?と提案して来た家来のおかげだ。攻撃だけではなく、民の生活を助けるために使うと言う発想が、俺の眼を開かせてくれた。」
『余の力を便利屋として使う気か?』
「いいではないか。これからは畏れられるのではなく、崇められるぞ。」
『ふん。余は崇められるより、畏れられる方がよいのだ。
ところでアタルよ。試したいことがある。余を先程の小娘に持たせよ。』
「さっき試したではないか?」俺は半信半疑でウキョウにシン鏑を渡す。ウキョウが橙色に光り出す。さっきと同じだ。
『アタル、どこでもよい。小娘に触れておれ。』
俺はウキョウの肩に手を置いた。
「これでいいか?」
『よい。そのまま離すなよ。
小娘、その桁外れの気力を余に流し込め。』
「こう?」ウキョウが応じて、シン鏑に気力を流し込んだ。
『そうだ。もっともっと流し込め。遠慮はいらん。』
ウキョウが真剣な顔になり、ウキョウとシン鏑が呼応して、ウキョウとシン鏑の橙色の発光がどんどん強くなる。
『よし、余を正面に向けて高く掲げよ。』
ウキョウはシン鏑を高く掲げた。
『そのまま、術を放出する要領でな、放て。』
ウキョウが掲げるシン鏑から土の術が放出され、3倍震撃矢ほどの効果が出た。ウキョウは放心している。
『ふむ。思ったより効果が出たな。』
「シン、どういうことだ?」
『アタル、お前がまだ小娘を抉じ開けておらんから、小娘は土の術を放てん。ところが小娘は桁外れの気力持ちだ。その気力を余に流させて、余の気力と合わせて放出したのだ。』
「うちもできるやろか?」サキョウが乗り出す。
『できるぞ。やってみるか?』ウズの思念が飛んで来た。
俺はサキョウにウズ鏑を渡して、肩に手を添える。サキョウとウズ鏑は呼応して青く光る。
『いいぞ。気力を寄越せ。』
サキョウがウズ鏑に気力を流し込むと、青い発光がどんどん強さを増して行く。
『もっとだ。遠慮するな。そうだその調子だ。よし、余を高く掲げよ。』
サキョウはウズ鏑を高く掲げた。
『放て!』
ウズ鏑が水の術が放出され、やはり3倍水撃矢の効果が出た。
「「やったー!」」ふたりで泣きながら抱き合っている!
「ウズはん、何で今まで教えてくれへんかったの?」サキョウがぶー垂れ気味に聞いた。
『効率が悪いからだ。実戦には使えん。』
「どういうことだ?」
『この方法だと、気力の消費量が10倍なのだ。小娘が余に寄越した気力が10倍水撃矢に相当する気力量。余からも同量の気力を出しておる。合わせて20倍だ。これで放てるのは2倍水撃矢だが、小娘のバフの術の効果が5割増ゆえ、3倍水撃矢となった。』
『余の方も同じだな。』シンが相槌を打つ。
「なるほどな。20倍の気力で3倍ということは85%のロスか。確かにこれでは使えんな。」
『さらにな、小娘から余への気力の移動には、余を眷属にしているアタルが仲介せねばならぬ。』とシン。
「俺はいつ仲介したんだ?」
『肩に触れていたであろう?』とウズ。
そこへライの思念が加わった。
『それぞれに鏑を渡して、小娘たちに触れておくのにアタルの両手が取られれば、アタルは弓矢の攻撃ができぬ。アタルの属性攻撃と引き換えに、小娘たちに術を使わせるなど愚の骨頂。攻撃には向かん。』
『以前、雨乞いの代わりに余の力を使うと言ったであろう?雨乞いをする際にはこの方法を教えてもよいと思っていたのだ。』
『アタル、分かったであろう?小娘たちは成長が抑えられていた分、成長が始まれば急速に成長する。そして成長は始まった。間もなく十分に成長するゆえ、そうなったら、変な拘りを捨ててとっとと小娘たちを抉じ開けるがよい。』
ライからのトドメ。結局そこへ落ち着く訳なのな。しかし話の筋は通っている。
「ライはん、うちらはあとどれくらい待てばええの?」
『今の調子なら半年は掛からんな。アタルが念入りにかわいがればさらに加速するぞ。』
「念入りってなんだよ。」
『一部だけではなく、全身くまなくかわいがればよいのだ。さすれば、成熟の成長速度が増す。』
キョウちゃんズがモジモジしながら期待の眼で見つめて来る。もはや総堀は埋められてしまった。万事休す。詰んだ。
この際、戦力アップのためだと割り切って、成長具合でのみ判断し、年齢のことは目を瞑るように俺も腹を括るか。
新たに得た土属性攻撃の震撃矢をひと通り試したし、それそろ昼餉時で腹も減ったので、ここらで帰るかな。俺たちは流邏石でトリトギルドに飛んだ。
なんだがギルドの中が騒がしい。
ギルトに入ると冒険者でごった返していたが、俺たちに気付くと、方々から声が上がる。
「濃紺の規格外や。」
「トリトの救世主や。」
冒険者たちはさっとよけて、受付までの道が開けた。その先にはヨルハンがいる。
そして、俺たちに気付いたヨルハンが凄い勢いで寄って来た。
「おい、橙土龍を倒したってホンマか?」
「ん?なんで知ってるんだ?」
「目撃者が何人もいるからや。アタルが矢を射たら、橙土龍が橙色の粒子になって霧散しよったとか、吸い込まれよったとか、消滅しよったとか、まったく訳が分からん情報なんやが、橙土龍がいのうなったっちゅーことだけは共通しとるんや。
でもその後、小さな地震が何度か起きよったんで、取り逃がしたのではないかっちゅー憶測もある。どうなんや?」
「ここで話すのか?」俺は冒険者たちを見回した。
「あ、すまん。ギルマスルームに来てくれるか。」
「いいだろう。
おい、お前ら。トリトの危機に臆して何もせず、それでいて高みの見物とはいい身分だな?冒険者が聞いて呆れるぜ。こんなとこで騒いでる暇があったら鍛錬せんか!」
一喝すると冒険者たちはギルドから出て行った。素直に鍛錬に行ったのならいいがな。
俺はヨルハンに橙土龍を攻略し、シンと名付けて俺の眷属としたことを報告した。攻略の証拠として、口外無用と念を押した上で、ヨルハンにシン鏑を見せた。
「その鏑に橙土龍を封印したのやな?その鏑は渡してもらえるか?」
「馬鹿なことを言うな。俺たちが攻略したのだからどうするかは俺たちの自由のはずだ。それにな、俺たちはシンを眷属にするためにわざわざ来たのだ。渡す訳ないだろう。」
「せやけど、封印が解かれたら元の木阿弥や。厳重に保管したいんやが。」
「俺がシンを逃がすとでもいうのか?」
「そうやないけどな…。」
「あのな、シンが暴れたのはお前らのせいだぞ。トリトの大砂丘はシンの縄張りだ。お前らそれを端から徐々に侵食してるだろ。これ以上、大砂丘を荒らすな。」
「なんでそんなことが分かるんや。」
『余がそう言ったからだ。』
「!」ぶっ魂消るヨルハン。
『しばらくの間、余はアタルと行動を共にする。余が戻るまでに侵食したところを元に戻しておくがよい。』
「なんやて?戻るて、橙土龍を開放するんか?」
「俺が死んだら俺の眷属じゃなくなるからそうなるな。まぁ、俺は当分死ぬつもりはないから、100歳まで生きるとして、あと85年は安泰だな。
シンをすぐに開放したとしても、お前らが大砂丘の無謀な開発をやめさえすれば、シンは暴れたりしないぞ。」
「分かった。それは約束させてもらうわ。」
「ところで、行商の件はいいんだよな。」
「もちろんや。すぐに、地震が無うなったことを皆に告げ、セプトの活躍を知らしめたる。」
「シンを悪く言うなよ。地震は大砂丘を大事にしなかった神罰だからな。荒ぶる神は鎮まったが、大砂丘を大事にしないとまた現れて暴れると言っておけ。」
「それは分かっとるがな。今夜から、町を挙げて地震終息の祭や。」
「そうか。まあ楽しんでくれ。俺たちは明朝、トリトを発つから報酬はそれまでに用意してくれよ。」
「え?祭の間の3日間はいてくれんか?費えはすべて町で持つで。」
「次の予定があるんだよ。気持ちだけ貰っとくわ。」
「さよか。ほなら報酬はすぐ用意させてもらうわ。」
昼餉を摂って宿に帰ると、とんでもないことになっていた。正面の門柱にでかでかと「セプト御一行様御本陣」と掲げられているではないか!御本陣ってなんなんだよ。苦笑
野次馬どもの人だかりも凄い。これじゃぁ宿に入れねぇじゃねえか。夕方の祭までゆっくり休ませろよな。
「すいません。ちょっと通してください。」最初は下手に出た。
とにかくキャーキャーうるさい。
「疲れてるんで宿で休ませてください。」2度目も下手に出た。
それでもキャーキャーうるさい。
「入れないからいい加減にしてください。」3度目も下手に出た。
やっぱりキャーキャーうるさい。
仏の顔も三度までって諺、知ってる?
俺は雷撃矢を「セプト御一行様御本陣」の看板に射込んだ。バリバリバリという物凄い音の後、看板は落雷を受けたように黒焦げになった。シーンとなる野次馬ども。
「じゃまだ!どけ!」と大声で一喝すると、宿屋の門までの道が開けた。
黒焦げになった看板の横で固まっている従業員。
「俺たちは宿の宣伝道具じゃねぇんだよ。ゆっくり休ませねぇなら宿を変えるぞ。」俺は従業員に文句を言った。
部屋に入ると女将がすっ飛んで来て、這い蹲って土下座した。ひたすら平謝りなので、もういいからゆっくりさせてくれ。とだけ伝えた。
俺たちのために、今日の日帰り営業は打ち切ったらしい。宿泊客は昨日から連泊の俺たちと、忍の者8人組だ。
俺は大浴場の男湯に行って浸かった。橙土龍攻略の疲れを落とすのだ。すると、忍の者3人組が入って来た。
「急に跡を継いだシエンに有能な側近はいるか?」
「はい。3名程おります。守役とそのお子たちです。」
「されば、シエンに伝えてくれ。
明日トリトを発つ。アーカに着くのはトリトを出てから3日後。病気療養中の隠居に、サキョウとウキョウを通して湯治を勧める。湯治先はユノベ副拠。場合によっては本拠に連れて行く。
シエンから見て邪魔な隠居派の家臣をすべて湯治に同道させよ。ユノベ副拠で翻意を促し、翻意しない奴は全員幽閉する。」
「承知。」ひとりが頷いた。こいつがシエンの所に行くんだな。
「隠居一行は、影の者を湯治に大勢連れて来ような。そ奴らを隠居から外してシエンに付くように工作せよ。可能か?」
「隠居は影の者を使い捨てにします。そのやり口には辟易してる影の者もおりますが、お約束はできかねます。」
「何とかならぬか。」
「全員ではありませぬが、工作費で動く者もかなりいるかと思われます。」
「いかほどだ?」
「大金貨5枚ほどは必要かと。」
「大金貨10枚を預ける。それでシエンに影の者が付いて、忍の者と影の者が敵対しないのであれば安いものだ。」
「「「!」」」要求額の倍額の提示に忍の者3人が驚く。
「ここが正念場ぞ。金で動くなら糸目は付けるな。ひとりでも多く味方に付けよ。そなたたち忍の者や、影の者が犠牲になるよりよっぽど安上がりだ。我が嫁の護衛を残して総動員せよ。」
「「「承知。」」」3人が頷いた。
「明日までに軍資金を用意する。それまで、ゆるりと湯に浸かって英気を養っておいてくれ。」
夕方の祭に中央広場へ出た。
俺とアキナはトリト支店へ行き、移動店舗証明書を使って、大金貨10枚を短期借入し、忍の者のアーカでの工作資金を確保した。
他の皆はトリト営業所で北斗号を一旦引き取り、中央広場で出店準備をした。
夕方の祭では、ギルマスの宣伝もあって30分で残りの在庫が完売。それから俺たちは祭で夕餉を済ませ、軽く酌を受けて、大いに楽しんで宿に戻った。
トリトはこの晩から3晩続けて祭でどんちゃん騒ぎをするらしい。
俺たちは程々で宿に戻り、日帰り営業を打ち切ってくれたお礼に、ガラガラの宿でもうひと部屋借りた。
そう、今夜の輪番はサジ姉だ。サジ姉と夜遅くまで淫らな快楽に耽ったのだった。本番抜きなのだけが、残念ではあるが。
例のアレの開発はまだか!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/6/19
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№79 トリトに凱旋
橙土龍の攻略に成功して眷属にできたので、まずは大砂丘で新たに得た土属性攻撃の震撃矢を試すことにした。
シン鏑に通常矢で触れて土属性を纏わせた震撃矢を放つ。大砂丘での実験だったので、激しく砂が舞い上がり、地響きが起きた。これはかなりの破壊力だ。
3倍震撃矢を試すと、舞い上がった砂も凄かったが、地響きが地震レベルになった。
岩に震撃矢を打ち込んだらどうなるのだろうか?岩を粉砕するのかな?シンに聞いてみよう。
「なぁ、シン。震撃矢は砂を巻き上げるようだが、岩はどうなる?岩を吹っ飛ばすのか?砕くのか?」
『我が属性攻撃に耐えられる岩などないわ。砕くどころか粉々よな。』
「そうか、粉砕するのか。ならば土木や農地改良にも応用できそうだな!」
「アタル、何か思い付いたのね?」
「うん。まず、でかい岩が道を塞いでたり、川の流れを堰き止めてたりしたら、震撃矢で粉砕だ。石ころだらけの荒れた土地も、石を粉々にしつつ一気に耕せる。」
「それ…いい…かも…。」
「アタルは民思いなのだな。よき統領となろう。」
「以前、水撃矢で雨乞いができんか?と提案して来た家来のおかげだ。攻撃だけではなく、民の生活を助けるために使うと言う発想が、俺の眼を開かせてくれた。」
『余の力を便利屋として使う気か?』
「いいではないか。これからは畏れられるのではなく、崇められるぞ。」
『ふん。余は崇められるより、畏れられる方がよいのだ。
ところでアタルよ。試したいことがある。余を先程の小娘に持たせよ。』
「さっき試したではないか?」俺は半信半疑でウキョウにシン鏑を渡す。ウキョウが橙色に光り出す。さっきと同じだ。
『アタル、どこでもよい。小娘に触れておれ。』
俺はウキョウの肩に手を置いた。
「これでいいか?」
『よい。そのまま離すなよ。
小娘、その桁外れの気力を余に流し込め。』
「こう?」ウキョウが応じて、シン鏑に気力を流し込んだ。
『そうだ。もっともっと流し込め。遠慮はいらん。』
ウキョウが真剣な顔になり、ウキョウとシン鏑が呼応して、ウキョウとシン鏑の橙色の発光がどんどん強くなる。
『よし、余を正面に向けて高く掲げよ。』
ウキョウはシン鏑を高く掲げた。
『そのまま、術を放出する要領でな、放て。』
ウキョウが掲げるシン鏑から土の術が放出され、3倍震撃矢ほどの効果が出た。ウキョウは放心している。
『ふむ。思ったより効果が出たな。』
「シン、どういうことだ?」
『アタル、お前がまだ小娘を抉じ開けておらんから、小娘は土の術を放てん。ところが小娘は桁外れの気力持ちだ。その気力を余に流させて、余の気力と合わせて放出したのだ。』
「うちもできるやろか?」サキョウが乗り出す。
『できるぞ。やってみるか?』ウズの思念が飛んで来た。
俺はサキョウにウズ鏑を渡して、肩に手を添える。サキョウとウズ鏑は呼応して青く光る。
『いいぞ。気力を寄越せ。』
サキョウがウズ鏑に気力を流し込むと、青い発光がどんどん強さを増して行く。
『もっとだ。遠慮するな。そうだその調子だ。よし、余を高く掲げよ。』
サキョウはウズ鏑を高く掲げた。
『放て!』
ウズ鏑が水の術が放出され、やはり3倍水撃矢の効果が出た。
「「やったー!」」ふたりで泣きながら抱き合っている!
「ウズはん、何で今まで教えてくれへんかったの?」サキョウがぶー垂れ気味に聞いた。
『効率が悪いからだ。実戦には使えん。』
「どういうことだ?」
『この方法だと、気力の消費量が10倍なのだ。小娘が余に寄越した気力が10倍水撃矢に相当する気力量。余からも同量の気力を出しておる。合わせて20倍だ。これで放てるのは2倍水撃矢だが、小娘のバフの術の効果が5割増ゆえ、3倍水撃矢となった。』
『余の方も同じだな。』シンが相槌を打つ。
「なるほどな。20倍の気力で3倍ということは85%のロスか。確かにこれでは使えんな。」
『さらにな、小娘から余への気力の移動には、余を眷属にしているアタルが仲介せねばならぬ。』とシン。
「俺はいつ仲介したんだ?」
『肩に触れていたであろう?』とウズ。
そこへライの思念が加わった。
『それぞれに鏑を渡して、小娘たちに触れておくのにアタルの両手が取られれば、アタルは弓矢の攻撃ができぬ。アタルの属性攻撃と引き換えに、小娘たちに術を使わせるなど愚の骨頂。攻撃には向かん。』
『以前、雨乞いの代わりに余の力を使うと言ったであろう?雨乞いをする際にはこの方法を教えてもよいと思っていたのだ。』
『アタル、分かったであろう?小娘たちは成長が抑えられていた分、成長が始まれば急速に成長する。そして成長は始まった。間もなく十分に成長するゆえ、そうなったら、変な拘りを捨ててとっとと小娘たちを抉じ開けるがよい。』
ライからのトドメ。結局そこへ落ち着く訳なのな。しかし話の筋は通っている。
「ライはん、うちらはあとどれくらい待てばええの?」
『今の調子なら半年は掛からんな。アタルが念入りにかわいがればさらに加速するぞ。』
「念入りってなんだよ。」
『一部だけではなく、全身くまなくかわいがればよいのだ。さすれば、成熟の成長速度が増す。』
キョウちゃんズがモジモジしながら期待の眼で見つめて来る。もはや総堀は埋められてしまった。万事休す。詰んだ。
この際、戦力アップのためだと割り切って、成長具合でのみ判断し、年齢のことは目を瞑るように俺も腹を括るか。
新たに得た土属性攻撃の震撃矢をひと通り試したし、それそろ昼餉時で腹も減ったので、ここらで帰るかな。俺たちは流邏石でトリトギルドに飛んだ。
なんだがギルドの中が騒がしい。
ギルトに入ると冒険者でごった返していたが、俺たちに気付くと、方々から声が上がる。
「濃紺の規格外や。」
「トリトの救世主や。」
冒険者たちはさっとよけて、受付までの道が開けた。その先にはヨルハンがいる。
そして、俺たちに気付いたヨルハンが凄い勢いで寄って来た。
「おい、橙土龍を倒したってホンマか?」
「ん?なんで知ってるんだ?」
「目撃者が何人もいるからや。アタルが矢を射たら、橙土龍が橙色の粒子になって霧散しよったとか、吸い込まれよったとか、消滅しよったとか、まったく訳が分からん情報なんやが、橙土龍がいのうなったっちゅーことだけは共通しとるんや。
でもその後、小さな地震が何度か起きよったんで、取り逃がしたのではないかっちゅー憶測もある。どうなんや?」
「ここで話すのか?」俺は冒険者たちを見回した。
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「いいだろう。
おい、お前ら。トリトの危機に臆して何もせず、それでいて高みの見物とはいい身分だな?冒険者が聞いて呆れるぜ。こんなとこで騒いでる暇があったら鍛錬せんか!」
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「その鏑に橙土龍を封印したのやな?その鏑は渡してもらえるか?」
「馬鹿なことを言うな。俺たちが攻略したのだからどうするかは俺たちの自由のはずだ。それにな、俺たちはシンを眷属にするためにわざわざ来たのだ。渡す訳ないだろう。」
「せやけど、封印が解かれたら元の木阿弥や。厳重に保管したいんやが。」
「俺がシンを逃がすとでもいうのか?」
「そうやないけどな…。」
「あのな、シンが暴れたのはお前らのせいだぞ。トリトの大砂丘はシンの縄張りだ。お前らそれを端から徐々に侵食してるだろ。これ以上、大砂丘を荒らすな。」
「なんでそんなことが分かるんや。」
『余がそう言ったからだ。』
「!」ぶっ魂消るヨルハン。
『しばらくの間、余はアタルと行動を共にする。余が戻るまでに侵食したところを元に戻しておくがよい。』
「なんやて?戻るて、橙土龍を開放するんか?」
「俺が死んだら俺の眷属じゃなくなるからそうなるな。まぁ、俺は当分死ぬつもりはないから、100歳まで生きるとして、あと85年は安泰だな。
シンをすぐに開放したとしても、お前らが大砂丘の無謀な開発をやめさえすれば、シンは暴れたりしないぞ。」
「分かった。それは約束させてもらうわ。」
「ところで、行商の件はいいんだよな。」
「もちろんや。すぐに、地震が無うなったことを皆に告げ、セプトの活躍を知らしめたる。」
「シンを悪く言うなよ。地震は大砂丘を大事にしなかった神罰だからな。荒ぶる神は鎮まったが、大砂丘を大事にしないとまた現れて暴れると言っておけ。」
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「さよか。ほなら報酬はすぐ用意させてもらうわ。」
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野次馬どもの人だかりも凄い。これじゃぁ宿に入れねぇじゃねえか。夕方の祭までゆっくり休ませろよな。
「すいません。ちょっと通してください。」最初は下手に出た。
とにかくキャーキャーうるさい。
「疲れてるんで宿で休ませてください。」2度目も下手に出た。
それでもキャーキャーうるさい。
「入れないからいい加減にしてください。」3度目も下手に出た。
やっぱりキャーキャーうるさい。
仏の顔も三度までって諺、知ってる?
俺は雷撃矢を「セプト御一行様御本陣」の看板に射込んだ。バリバリバリという物凄い音の後、看板は落雷を受けたように黒焦げになった。シーンとなる野次馬ども。
「じゃまだ!どけ!」と大声で一喝すると、宿屋の門までの道が開けた。
黒焦げになった看板の横で固まっている従業員。
「俺たちは宿の宣伝道具じゃねぇんだよ。ゆっくり休ませねぇなら宿を変えるぞ。」俺は従業員に文句を言った。
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俺たちのために、今日の日帰り営業は打ち切ったらしい。宿泊客は昨日から連泊の俺たちと、忍の者8人組だ。
俺は大浴場の男湯に行って浸かった。橙土龍攻略の疲れを落とすのだ。すると、忍の者3人組が入って来た。
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「はい。3名程おります。守役とそのお子たちです。」
「されば、シエンに伝えてくれ。
明日トリトを発つ。アーカに着くのはトリトを出てから3日後。病気療養中の隠居に、サキョウとウキョウを通して湯治を勧める。湯治先はユノベ副拠。場合によっては本拠に連れて行く。
シエンから見て邪魔な隠居派の家臣をすべて湯治に同道させよ。ユノベ副拠で翻意を促し、翻意しない奴は全員幽閉する。」
「承知。」ひとりが頷いた。こいつがシエンの所に行くんだな。
「隠居一行は、影の者を湯治に大勢連れて来ような。そ奴らを隠居から外してシエンに付くように工作せよ。可能か?」
「隠居は影の者を使い捨てにします。そのやり口には辟易してる影の者もおりますが、お約束はできかねます。」
「何とかならぬか。」
「全員ではありませぬが、工作費で動く者もかなりいるかと思われます。」
「いかほどだ?」
「大金貨5枚ほどは必要かと。」
「大金貨10枚を預ける。それでシエンに影の者が付いて、忍の者と影の者が敵対しないのであれば安いものだ。」
「「「!」」」要求額の倍額の提示に忍の者3人が驚く。
「ここが正念場ぞ。金で動くなら糸目は付けるな。ひとりでも多く味方に付けよ。そなたたち忍の者や、影の者が犠牲になるよりよっぽど安上がりだ。我が嫁の護衛を残して総動員せよ。」
「「「承知。」」」3人が頷いた。
「明日までに軍資金を用意する。それまで、ゆるりと湯に浸かって英気を養っておいてくれ。」
夕方の祭に中央広場へ出た。
俺とアキナはトリト支店へ行き、移動店舗証明書を使って、大金貨10枚を短期借入し、忍の者のアーカでの工作資金を確保した。
他の皆はトリト営業所で北斗号を一旦引き取り、中央広場で出店準備をした。
夕方の祭では、ギルマスの宣伝もあって30分で残りの在庫が完売。それから俺たちは祭で夕餉を済ませ、軽く酌を受けて、大いに楽しんで宿に戻った。
トリトはこの晩から3晩続けて祭でどんちゃん騒ぎをするらしい。
俺たちは程々で宿に戻り、日帰り営業を打ち切ってくれたお礼に、ガラガラの宿でもうひと部屋借りた。
そう、今夜の輪番はサジ姉だ。サジ姉と夜遅くまで淫らな快楽に耽ったのだった。本番抜きなのだけが、残念ではあるが。
例のアレの開発はまだか!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/6/19
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
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ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
百合ランジェリーカフェにようこそ!
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主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
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