射手の統領

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射手の統領074 カニ鍋、ブリしゃぶ、生ガキ

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射手の統領
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№74 カニ鍋、ブリしゃぶ、生ガキ

 今朝はちょいと早起きをして、タヅナと一緒に朝の牧場に行った。
 昨日、キノベ副拠に到達したのは暗くなってからだ。牧場を見ることができなかった。牧場の朝は早い。すでにあちこちで、馬の世話や調教が始まっていた。

 俺とタヅナは、セプトの馬たちを世話しに馬房に向かった。ふたりで馬の世話を始めるとキノベの家来たちが驚いていた。
 なぜ驚く?キノベ本拠では、タヅナだけではなく、トウラクもハミどのも朝の世話をしていたのにな。
 不思議に思っていたのだが、結局、家来たちが驚いてたのは、俺が馬の世話を始めたことにだった。今の俺はユノベの統領ではなく、セプトのリーダー。率先して雑用をこなすのは当たり前だろうに。

 さて、馬の世話の後、朝餉を摂って、アベヤのキノベ副拠でタヅナ用の流邏石を登録した。俺の分は登録しなくてもいいだろう。将来的に御代替わりがあって、西都が首都になれば武家も本拠を移すから、そのときになったら改めて登録しに来ればよい。

 キノベ副拠のアベヤを出発し、一旦北東に進んで川に出てから、川に沿って谷をクネクネしつつ北へ進むと、じきにツマルの港町に出た。
 ツマルの中心街には行かず、町の西端を掠めるように通過して北西に進み、小高い山を越えるとそこそこの大きさのラーユ河に出た。
 ラーユ河の東岸を北に進み、海を目の前に、橋を渡って北西へ。この辺は漁村だ。その後は、弓手側に山、馬手側に海を見ながら海岸線に沿って西へ進む。

 和の島の北の海、和国海わぐにかいは豊かな漁場がたくさんある。
 このあたりの冬だと、何といってもマツバガニか。あと寒ブリもいいな。他にもいろいろあるだろう。うん、今夜の夕餉は魚介系だな。なんてことを考えてると、ウキョウから報告が来た。
「アタル兄、海が何や、おかしな具合や。」

 海からか、ここは海と山が近いから回避場所もあまりないな。警戒していると馬手側前方、2時の方向100m当たりの海面にブクブク泡が立ちだした。何か出て来そうだ。
 泡はこの道のずっと先の浜に向かって移動して行くようだ。あの浜には漁村がありそうだ。キラークラブとかだと被害が出る。急ごう。
 俺は、見張台指揮所の伝声管から御者台に指示を飛ばす。御者はサジ姉だ。
「サジ姉、2時の方向100mの海面に泡。この先の浜に向かってる。何か出るかもしれないから、浜に急いで。」
「りょ…。」りょ、って、了解ってことだよね。相変わらずサジ姉は口数が少ない。苦笑

 北斗号が速度を上げ、浜に急行する。
 御者のサジ姉と、そのサポートに着いてるタヅナ以外は、皆、見張台に上がって来た。
 浜から半鐘が鳴り響いて来る。緊急事態を告げる擦り半だ。海から姿を現したのは、案の定、キラークラブだった。浜に上陸を始めたが、幸いなことに1匹だけだ。漁村から村人たちが出てさかんに銛を投げているが、甲羅に弾かれて刺さらない。

 ウキョウが皆に各種バフの術を掛けた。
「おーい!加勢に来たぞー!酸の泡に気を付けろー!」バフのおかげで、出る声も大きい。村人が手を振った。了解の合図だろう。
 村人は遠巻きにキラークラブを囲み、警戒し出した。近寄ると酸の泡でやられるからだ。

 キラークラブが村人に近付き、村人が逃げ惑う。ひとりが倒れた危ない。
 サキョウの各種デバフの術が続けざまにキラークラブに飛ぶ。キラークラブの動きが、明らかに鈍った。
「ライ、3倍」
 3倍雷撃矢がキラークラブに命中すると、雷撃の閃光がキラークラブを包み、動かなくなった。

 北斗号を止め、皆でキラークラブへ向かう。
 サジ姉が念のため麻痺の術を掛けると、サヤ姉が二刀流剣舞ですべての肢を次々に根元から落とし、ホサキが正鵠突きで頭部をあっさり貫いた。
「おおー!」と村人から歓声が上がる。
 サジ姉はすぐに負傷者の元に向かい、回復の術を掛けた。サジ姉、杖の二杖流、マジ、カッケーじゃん!
 負傷者は酸の泡を右前腕に浴びたようだ。普通だったら右肘から先は切断だが、サジ姉の回復の術がハンパないのと、ダメージを浴びたてで、組織が完全に死んでなかったのが幸いした。リハビリは必要だが、完全に元に戻るとの見立てだ。よかった。

 村長が出て来て、丁寧に礼を言って来た。ここはタリクの漁村だそうだ。
「旅のお方、ほんまにおおきに。皆さんが来なんだら、村は全滅しとったかもしれんわ。命の恩人や。」
「間に合ってよかったよ。ケガ人がひとり出たのは残念だが、回復が間に合って元に戻るそうだしな。ほんとによかった。」

「何か御礼をさせて頂けんやろか?」
「いいよ、お礼なんて。困ったときはお互い様だし。」
「せめてお泊り下さらんやろか?村を上げて歓待しますよって。」
「うーん、気持ちはありがたいけど、今日はミャーツまで行くんでな。」
「ではキラークラブをミャーツまで運ぶのをお手伝いしますわ。いい値で売れまっせ。」
「お、それはいいね。じゃぁ、村長、ミャーツの冒険者ギルドで売るから、売り上げは運び賃を兼ねて折半でどう?」
「そんな。それじゃぁお礼になりまへんがな。」
「いいんだよ。人助けはお礼目当てじゃないだろ?」
「ほんまに、おおきに。お名前は聞いてもよろしか?」
「ああ、俺はアタル。パーティーはセプト。」

 大きな荷車2台に、胴体、そしてハサミ1本と肢5本を積み分けて、漁村の若い衆が8人、北斗号について来た。荷車1台につき4人だ。ハサミ1本と肢3本は、今夜の村の宴用に寄付した。

 ひと山越えると、ミャーツの港町だ。まずは冒険者ギルドで、タリクの漁村がキラークラブ1匹に襲われたことを報告した。
 そしてキラークラブの素材買取だ。セプトの夕餉用に肢1本は確保した。キラークラブは高級食材の上に、ギルドで解体したら胴体に蟹ミソがたっぷり詰まってたので、金貨8枚にもなった。タリクの漁村の若い衆に、ひとり大銀貨1枚の手間賃をやり、漁村に金貨4枚を渡して、ギルドで別れた。

 それから、ギルドに許可を取って、中央広場に面したギルドの横で行商を始めた。
 商人モードになったアキナの売り上げが抜群ではあるが、口上の上手いキョウちゃんズ、女の子の客が付く姐御系のサヤ姉、オジサンを虜にする癒し系口調のタヅナ、マニアックな客に受ける口数の少ないサジ姉と固い口調のホサキが、それぞれの贔屓の客層にバンバン売りまくっていた。
 皆が頗る美人なのが、絶対に効いていると思う。やはり美人は得だ。

 移動店舗の売り子に俺は不要だ。だから、ノアールに乗って、ミャーツの港町の西の外れにある天の浮橋の目の前の宿屋を予約しに行って来た。
 ギルドからは3キロくらいだから、流羅矢しか使えない。甲矢をミャーツの天の浮橋前の宿屋に登録した。デラックスダブルと3~6人用の和室だ。和室からは真正面の天の浮橋が見える。
 しかもこの宿屋はラッキーなことに温泉だった。炭酸水素泉。大人嫁たちの大好きな、いわゆる美肌の湯である。ガハマのユノベ副拠のトロ湯と同じだ。
 さらに、貸切風呂もあるのだ!ひゃっほーい!昨日のキノベ副拠では俺だけ仲間外れだったからな。その分を取り返してやるぜ。

 ノアールでギルド前に戻り、ギルドの受付に聞いて、持ち込み素材で調理してくれる、ギルド近くの魚介の旨い店を紹介してもらった。
 カニ鍋用に確保した肢1本を、サヤ姉に細かくしてもらって、ヴァイスの背に積んでその店まで曳いて行くと、材料持ち込みだから手間賃のみで調理してくれる交渉が成立。8人の座敷席を予約した。

 店のお勧めを聞いたら、旬の寒ブリのブリしゃぶと、生ガキだと言うので、持ち込みのカニしゃぶに加えてそれも注文した。そしたら大将が待ったを掛けて来た。
「お客はん、持ち込みのキラークラブだけでも15~20人前は取れまっせ。寒ブリも生ガキもええ品なんで、無駄にしたくないんですわ。」
 こういう職人、好きだなぁ。儲けより、商品の無駄にしない方を取ってる。
「うちは皆よく食うから大丈夫だとは思うけどな。でも確かにいい品を無駄にするのは勿体ないから、食えそうなら追加するってことでいいかな?でもなくならないか?」
「どうでっしゃろ?注文を受けた順やさかい、お約束はできまへんな。」
 こういう職人、好きだなぁ。安請け合いしない。
「まぁ、なくならないことを祈るよ。」

 再びギルド前に戻ると、日が暮れて来て、皆は店終いをしていた。
 東都で仕入れた品は飛ぶように売れ、在庫の残りは仕入れの1/4になっていた。あと、名府で仕入れた八丁味噌が半分、西都で仕入れた千枚漬けは仕入れの1/4、西都織の反物も仕入れの1/8が売れたそうだ。やはり村より町の売れ行きの方が凄い。

 山髙屋ミャーツ支店に北斗号を預け、徒歩で予約した店に行く。
 キラークラブのカニ鍋は、やはり非常に旨かった。キラークラブは、マエザの漁村を襲って来た奴を返討にしたときに、焼いたのを食って大層旨かったが、この店のは、鍋にダシも効いているので、旨味がさらに引き出されている。普段のキョウちゃんズ並みに、皆がどんどん平らげて行くので、大将にブリしゃぶ8人前と、生ガキ24個を追加注文した。

 カニ鍋の後は、ブリしゃぶだ。
 脂の乗った寒ブリを薄切りにしており、湯をひと潜りさせるだけで、いい塩梅の半生になる。これを、モミジおろしをたっぷり加えたポン酢で頂くのだ。
 やばい、マジでいくらでも入る。これもあっさり8人前を平らげた。俺はまだ全然行ける。キョウちゃんズも行ける。大人嫁たちはまだ行けるが行かない。お年頃だからだ。笑

 その後、ひとり3個の生ガキなのだが、生ガキのことを海のミルクとはよく言ったものだ。濃厚で旨味が何重にも重なっている。旨いという言葉しか、見当たらない。
 俺とキョウちゃんズが追加注文したブリしゃぶ4人前と、カニ鍋の残り汁で作った雑炊が出て来た。これも平らげる。
 最後にブリしゃぶの残り汁で作ったうどんが出て来た。すべて平らげ、皆満腹で大満足だ。
 実にいい店だった。いつかまた、ミャーツに来る機会があったら是非来たい店だ。

 この店の前で乙矢を登録し、まずは、アキナとタヅナを流邏矢で宿屋に運ぶ。ピストン輸送で、次はキョウちゃんズ、最後にサヤ姉、サジ姉、ホサキの3人。

 取り敢えず皆で和室に入って食休めをした後、貸切風呂に行ったのだが、8人で入るには狭かった。いわゆるイモ洗いだ状態だ。こんな状況ではじっくり頂弄りなどできる筈もなく、俺の目論見は失敗に終わった。
 気を取り直して大浴場へ行く。当たり前だが、男湯と女湯に分かれているので俺はボッチ。隣から聞こえて来る嫁たちの楽しそうな話声が、羨ましかった。

 和室に集まって、天の浮橋の夜景を見ながら軽く呑む。
 天の浮橋は、国作り神話に出て来て、男神と女神が鉾を使って和の国の島をすべて産み落とした場所だと言う。実際は潮の流れにより堆積した砂が作る砂州で、砂州には木が生い茂っているから、見た目は正しく海に浮いた橋である。和の国三景のひとつに数えられだけあって見栄えがいい。
 天の浮橋を肴に酒を呑むと言うのも乙だ。しかし呑み過ぎないようにせねばな。

 夜も更け、お開きとなって俺とアキナはデラックスダブルの別室に向かった。
 今まで道中は原則同衾なしでやって来たのだが、昨夜、キノベの副拠だったので、アキナの番をタヅナと代わってもらった。
 よって、代わってもらったお礼も兼ねて、道中だからと言って先延ばしにせず、今宵はアキナと楽しむのだ。そしてこれを機に、道中同衾なしの原則は堅持しつつも、宿屋に泊まるときは例外にしてやるのだ。笑

 さて、軽く酔ったアキナは何とも艶めかしい。
 俺はアキナにお願いして、鑑定の眼鏡を掛けてもらった。ノーベソの村で思い付いたメガネっ娘である。うーん、ドンピシャ。やはりいいではないかー!

 酒のせいもあるのか、今夜のアキナはメガネっ娘にノリノリで、今までで一番積極的だった。
 ドラゴンあしらいでは積極的に攻めて来て、俺の攻撃には非常に敏感に反応していた。こうなると俺もスイッチが入る。散々アキナを堪能して何度も痙攣させたのだった。
 もちろん本番は抜きなのだがな。例のアレ、早くできてくれ!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/6/12

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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