射手の統領

Zu-Y

文字の大きさ
上 下
75 / 183

射手の統領072 初行商と泥棒逮捕

しおりを挟む
射手の統領
Zu-Y

№72 初行商と泥棒逮捕

 目覚めると左右からキョウちゃんズが抱き付いていた。えへへと笑ってもう大丈夫だと言う。精一杯気を張ってるな。まだ子供なんだから無理しないでいいのに。

 朝餉を摂って、西都営業所で北斗号に乗り込み、西都を出発。
 トリトまでは、計画通りに進みたいので、特にクエストを受けずに、遭遇したら狩るってスタンスにした。

 山越えを避けて、西都から街道沿いに一旦西南西に進んだ後、西北西に進むと、カメオという町がある。小高い山を迂回したから、西都からはちょうど西だ。
 宿屋で用意してもらった弁当で、交代交代に昼餉を摂りつつ、カメオの町を素通りして川沿いを北西に進んだ。
 カメオを越えてからは、いくつか農村が点在していた。カメオから続く盆地の最奥にある、山の麓の農村に着いたのは夕方前。ここが今夜の宿泊予定地、ノーベソの農村だ。

 俺は、商人のアキナと、西の出のキョウちゃんズを連れて、村長宅に挨拶に出向いた。アキナは商人装備のフルバージョンだ。普段は掛けていない鑑定の眼鏡を掛けている。
 メガネっ娘…いいではないか。次はアキナの輪番だよな。メガネっ娘でお願いしようかな。
「アタル、何か変なことを考えてませんか?」アキナが覗き込んで来る。か、かわいい。でも鋭すぎないか?
「考えてない。」俺はその場を取り繕ったが、眼を逸らしてしまったので、完全に疑われてしまった。汗

 村長宅では、最初にアキナが切り出す。
「こんにちは。旅の者ですが、村長さんはいらっしゃいますか?」
「わしが村長や。姉ちゃん、けったいな話し方やな。東のお人かえ?」
「そうです。行商の旅をしてまして、村の広場に馬車を止めて行商することと、1泊することを許可してもらえませんか?」
「何を扱うとるんや?」

「こちらでなかなか手に入らないものとしては、東都の職人の手による精巧な簪や櫛や指輪、東都で流行している紅や白粉、東都名物の珍味佃煮、名府名物の八丁味噌ですね。
 あとは西都の西都織の反物や千枚漬もありますが、こちらでは珍しくないでしょう?」
「出店許可に金貨1枚や。」え?そんなに払うのか?
「随分足元を見ますね。そんなに吹っ掛けたら行商は寄り付かないでしょう?」
「いやならええんやで。」

「それなら結構です。行商はやめて、村の外で野宿します。」
「荷はどうするんや。」
「トリトまで行きますから、途中どこでも捌けます。」おお、さすがアキナ。強気の交渉だ。
「大銀貨5枚に負けたるわ。」
「いえ、もう結構です。」
「おっちゃん、アホやなぁ。欲掻いて、みすみすええチャンスを逃してもたでー。」ウキョウが突っ込み…、
「逃がした魚は大きい言うやろ。うちら、山髙屋の移動店舗やで。商品は折り紙付きやったのになぁ。」サキョウが畳み掛けると…、
「分かった!大銀貨1枚でええ。」
「「おっちゃん、この期に及んでセコ過ぎや。」」ふたりで容赦なく村長を攻め立てている。笑

「私たちが行商と分かってるんでしょうね。馬車にはもう村の皆さんが集まり出してますけど、村長さんの許可が得られなかったからと申し上げて、お引き取り頂きますね。」おっと、アキナが勝負に出ましたよっと。笑
「くっ、あー、分かった分かった、もう好きにせいや。」
「はい。そのつもりです。ここから1里先まで行きますので、そこまで買いに来た方にはお売りします。それと、村に泊めて頂けない以上、割引もしませんからね。」強気だねぇ。惚れ惚れするぜ。
「そのことも、村人に伝えたるからな。」「おっちゃん、皆に恨まれるんとちゃう?」おおっと、キョウちゃんズの援護射撃!地味にえげつないぞー。笑

「どうすりゃええんや?」村長が折れた。笑
「そうですね。金貨1枚頂ければ、村に泊まって出店して差し上げてもいいですよ。」え?マジか!それはいくら何でもアコギなんじゃね?
「そんな無茶な!」
「無茶なもんですか。そちらが最初に金貨1枚って仰ったんですよ。」
「後生や。少し負けてんか?」
「大銀貨5枚までなら負けましょう。これ以上は負けません。どうします?」
「分かったわ。それでええ。その代わり割引もしたってや。」
「村の広場に泊めて頂けるんでしたら、そのつもりですよ。」
「あー、もうなんちゅーこっちゃ。踏んだり蹴ったりやがな。」
 アキナは村長から大銀貨5枚を容赦なくせしめた。…凄い。

 俺たちは村長宅を出た。
「アキナ、容赦ないのな。」
「あれくらいでいいんですよ。これで懲りれば他の行商人に無理を言わなくなります。それに調度品を見る限り、村長はかなり裕福ですからね。」
「え?そんなとこまで見てたの?」
「うふふ。当然ですよ。」
「アキ姉、流石や。」「アキ姉、凄いなぁ。」

「ふたりの援護射撃も心強かったですよ。」
「あの…役立たずですみません。」俺は交渉に加わらなかったことを詫びた。
「いいえ、アタルがいてくれただけで頼もしかったですよ。女だけだと、あの村長のような方は舐めて来ますからね。」
「そうなの?」
「そうなんです。女商人はそれなりに大変なんですよ。」にっこり笑うアキナ。流石に余裕だなぁ。

 店を開けると、村人が寄って来て、簪、櫛、指輪、紅、白粉が、女性陣に飛ぶように売れた。老いも若きも女性の美に対する欲求は変わらない。アキナはもちろんだが、キョウちゃんズの客あしらいは見事だった。

「あら、お兄さん、随分別嬪さん連れとるやないのぉ。」
「そうやね、別嬪の彼女さんにはこの簪なんか似合いそうやねぇ。」
「まいどー。」

「ちょっとそこのイケメンのお兄さん。」
「そないイケメンやったら随分モテモテやろ?意中の彼女にこの紅なんかどうやろ?」
「そうやね、紅をプレゼントして、ちょっとずつ返してもろたらええやん。」
「きゃー、恥ずかし。ウキョウ、何言うてんのー。」
「まいどー。」
てな感じの軽妙な掛け合いでどんどん売りまくっている。

 姐御系のサヤ姉は若い女の子、ほんわか癒し系のタヅナはオジサンが寄って来るので、なかなかの売り上げを上げていた。
 口数の少ないサジ姉や、固い口調のホサキは苦戦するかと思ったが、意外や意外、そういう系統が好みの、いわゆる特殊な男たちにモテモテで、ガンガン売り捌いていた。

 男たちは酒のつまみに佃煮を買ってゆく。
 東都では相当量を仕入れたが、仕入品の1/6くらいが売れて、売上は大金貨1枚に届きそうだった。人口の少ない農村でこんなに売れたのだから、町ではもっと売れるだろう。
 ところで、遠目に見ているだけの買いに来ない村人も結構いた。別に買わなくたって、商品を直接見に来るだけもいいのにな。

 日が暮れる前にはもう店終いをし、夕餉の支度を始めた。冬は焚火をして大鍋だ。
 八丁味噌で味付けをして、肉、魚介、野菜、芋などを手あたり次第ぶち込んで、ガンガンに生姜を効かせた。寒い夜に熱々の鍋で体の芯から温めるのだ。

 夜は北斗号での初めての野営だ。村の中なので見張りは立てずに寝た。もちろん、万が一に備えて、北斗号のまわりを取り巻くように、警戒する紐を張って鈴を仕掛けておいたがな。ちなみに二重にしたのがミソだ。

 チリン、チリン…。え?敵襲?村の中なのに?
「おい、敵襲だ。起きろ。」皆を起こして屋上の見張台に上がる。
 人影が3人サブ車両の取り付いている。泥棒か?
 ウキョウが皆にバフの術を掛けると同時に、サキョウが泥棒3人にデバフの術を掛けた。
 サジ姉が賊どもに麻痺の術を掛け、動けなくなったところを皆で取り囲んだ。サヤ姉が剣舞で3人の覆面を切り落とした後、ホサキが槍の柄、タヅナが薙刀の柄で、首根っこを打ち据え、3人を昏倒させ縛り上げた。

 この騒ぎに村人たちが出て来ると3人の正体はすぐに判明した。
 3人は村の厄介者、いわゆる不良グループだったのだ。
 農家の仕事が嫌で村を飛び出し、あちこちで盗みや、カツアゲ、畑荒らしなどを働いており、村人はほとほと手を焼いていると言う。3人のひとりは村長の息子だった。
「おい、わいは村長の息子や。早く縄を解かんかい。」
 不貞腐れた態度に、サヤ姉とサジ姉がかなりご機嫌斜めになっていた。俺はふたりを怒らせたときの怖さを知ってる。こいつら、コネハの盗賊の二の前にならなきゃいいが。
「旅のお方、どうしようもない息子やが、堪忍したってんか。」村長が頭を下げ、村人は溜息をついている。なるほどな、バカ息子が調子に乗る訳だ。
「村長、他のふたりはどうする?」
「それぞれに親がいるよって、わしからは何とも言いようがありまへんな。」自分の息子だけ助けりゃいいってか。このアホ村長、救いようがねぇな。

「おい、お前は村長の息子だからって、自分だけ助けてもらうつもりか?」
「早く縄を解け言うとるやろ?」
「お前、自分の立場が分かってんの?俺はこの村の者じゃねぇからな、村長に従う義務はないんだぜ。このまま盗賊としてどこかの町の衛兵に引き渡してやろうか?」
「親父ぃ。こいつら、親父を舐めとるで。」
「旅のお方、もうこの辺で納めてくれんと、わしも引けなくなりますがな。」虚勢を張って来やがった。少し締めるか。

「ほぅ。面白れぇことを言うじゃねぇか。ライ、3倍。」
 俺は村長宅に3倍雷撃矢を射込んだ。雷撃矢による轟音に、集まっていた村人は地面に全員ひれ伏し、村長宅はと言うと、落雷の直撃を受けたように半壊している。
 村長は腰を抜かしていた。

「村長、よく聞こえなかった。『もうこの辺で納めてくれんと、』の後、何て言ったかもう一遍言ってくれないか。」
「か、か、堪忍しとくれやす。」村長は這い蹲って俺を拝んでいる。
「よく考えて答えろよ。バカ息子をどうしたらいい?」
「もう、どうぞご存分に。」
「だとよ。小僧、言いたいことはあるか?」あれ?失禁しやがった。言葉にならねぇか。
「なぁ、あんたら、何でこんな奴を村長にしてるんだ?」村人全員が項垂れた。何かあるな。まぁ、余所者の俺の知ったこっちゃないがな。

 俺は村人に指示して、縛ったままの3人を、村の木に吊るさせた。一晩頭を冷やさせて、明日はアベヤの町の衛兵に引き渡そう。しばらく強制労働でもさせた方がいいだろう。
「さあ、皆、朝まで間がある。家に帰ってもうひと眠りしようぜ。それから、こいつらには一切構うなよ。」

 あのバカ息子を、サヤ姉とサジ姉の拷問から救ってやったぜ。俺、グッジョブ!人助けの後は、気持ちよく眠れる。
 俺たちも北斗号でもうひと眠りした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/6/5

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

【完結】暁の荒野

Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。 いつしか周囲は朱から白銀染まった。 西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。 スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。 謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。 Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。 Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。 キャラクターイラスト:はちれお様 ===== 別で投稿している「暁の草原」と連動しています。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 ===== この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。

処理中です...