67 / 183
射手の統領064 トウラクの軍師候補、ハミ
しおりを挟む
射手の統領
Zu-Y
№64 トウラクの軍師候補、ハミ
朝餉の後、早々にトギスを出立した。驚いたことに、村人総出で見送ってくれた。
この日の行程もすこぶる順調で、一行は昼過ぎには東都へ到着した。
堂々たる騎馬の行軍は、東都でも話題を掻っ攫って行った。キノベ騎馬隊の威風堂々とした威容と、それを垣間見た東都の民の熱狂ぶりを、後から伝え聞いた叔父貴たちが歯噛みをしそうだ。笑
キノベ一行はそのままキノベ陸運の東都営業所に入り、一部は近くの宿屋に泊まる。トウラクと夕餉の約束をして別れ、俺たちは、いつもの定宿ではなく、ユノベの御用宿に向かった。ユノベ一行はまだ着いてなかったが、1時間もすると到着した。こちらは、馬車以外は弓隊の徒歩である。
その後、クエストを終えた残りの嫁6人が到着した。合流した俺たちは、東都前寿司へ向かい、タヅナが東都営業所へトウラクを迎えに行った。
東都前寿司では、キョウちゃんズが早速、穴子一本握りを頼み、俺たちはお任せだ。そこへトウラクとタヅナが合流して、俺は嫁たちをトウラクに紹介した。トウラクは眼を瞠っていた。
「アタルよ、わが妹タヅナは飛び切りの美形なのでな、お前の嫁の中では一番だろうと思っておったのだが、他の嫁も負けず劣らず美形であるな。お前はブ男ではないがイケメンと言うほどでもない。なのに何だ、これは?」
ずけずけと言いたいことを言いやがる。泣
「実際のところ、すべて政略だな。もちろん皆を愛おしく思っているがな。」
トウラクは小声で囁いて来た。
「しかしな、子供はいかんぞ。正直見損なったわ。」
「いや、まだ手を出しておらん。が、しかしな、成長したらそうなるので、今から嫁として遇している。」
「そうか。それならよい。疑ってすまなんだの。」
俺たちはたらふく食って、東都前寿司を出た。俺は昼の続きの話をしたいので、トウラクとタヅナともう1軒行くことにして、事情を話し、キノベの内部事情なので、他の嫁たちには遠慮してもらった。
どこか静かに呑めるところで話がしたい。実は、東都前寿司の近くに、前々から目を付けていたショットバーがあって、今日は一見だが行ってみたいと言うと、トウラクもタヅナも承諾した。
そのショットバーに入ると、店の中は、鰻の寝床のように縦に長い作りで、ドアから店の半分までがカウンター、奥は長めのテーブル席1つだ。マスターとママのふたりで切り盛りしているそうだ。
そして何よりも驚いたことに、店の壁の半分に2~3段の薄い棚があり、ずらっと酒の瓶が並んで、店の壁を埋め尽くしている。
ちなみに何本あるか聞いたら、400くらいだと思うと言う何とも曖昧な返事だったが、どの酒がどこにあるかはマスターの頭の中に入ってるそうだ。
俺たちはカウンターに座り、正直によく分らないと言って、お勧めを聞いた。
マスターは、俺たちそれぞれから好みをいくつか聞くと、俺にはロンサカパと言うラムのロックにライムを絞り、トウラクにはジンジャエールではなくジンジャビアを使った正統派モスコミュール、タヅナにはクルミのリキュールをミルクで割ったノチェロミルクを出して来た。
旨い!これはいい。しかもロックのアイスは丸く削った大きい氷がひとつだけ。マスターに聞くと、暇なときに削るとか。丸くないときは忙しかったと思ってくれとのことだ。そんな職人肌のマスターをママさんはにこやかに微笑んでサポートしている。いい感じの夫婦だ。
この店は当たりだ。これからちょこちょこ来よう。俺はこのラムが気に入り、いつも1杯目はこれにすることにした。こう言う大人の雰囲気の店で、常連になって、いつもの、と言うひと言で、ラムのロックが出て来たら、えらくカッコいい気がするのだ。
おっと、店の雰囲気の良さに本題を忘れるところだったが、ハミどのの婿に、トウラクの腹心をと言う話をしなきゃいかんな。
俺たちはマスターに込み入った話をしたいと伝えて、奥のテーブル席へ移った。
「ハミどのは切れ者ゆえ、並の男では御しきれまい。ハミどのの優秀さを理解して、自分より優秀であることに嫉妬しないような懐の深さが要るな。」
「アタルレベルの有能さがないと、姉上の上には立てん。まぁ、俺の腹心は皆いい奴らばかりだが、姉上には敵わんな。
それとな、姉上を娶ると言うことは主家に婿入りすると言うことだ。俺の義兄になる訳だし、なかなかハードルは高かろうな。」
「あのぉ、アオゲはどうですかぁ?」
アオゲは、山髙屋の荷を東都から商都に護衛したとき、キノベ陸運のタヅナ隊で、タヅナの腹心だった男だ。タヅナの信頼が厚く、タヅナが俺のところに来てキノベを抜けた後、タヅナ隊を引き継いでいる。
とても優秀な奴で、俺にキノベへ馬の技を学びに来いと誘って来たのがアオゲだ。俺を、ユノベの次期統領と知ってて誘うのだから、物事に捕らわれない柔軟性がある。陸運でありながら騎馬を操り、商都への旅ではずっと騎馬として大活躍した。トウラクも、アオゲなら騎馬もこなすだろうと一目置いていた。
「アオゲか。能力的には確かにありだな。しかし姉上の婿としてはいささか年上過ぎるか。奴は30代半ばよな。姉上より15も上だ。」
「切れ者のハミどのには、年上の包容力がある方がいいかもしれんぞ。それに、トウラクの義兄になっても委縮しないのではないか?」
「まぁ、そうだな。俺も姉上もトウラクには馬の技を教わってるからな。」
「私も教わりましたぁ。」
「確かに俺の腹心より、アオゲの方がいいな。あとは父上のご意向と、ふたりの気持ち次第か。」
「まずはアオゲの身辺調査だな。すでに言い交した女がいたら話にならん。アオゲに特定の女がいなければ、その後は、キノベどのにご意見をうかがって、ハミどのとアオゲへの打診か。これらの分担はキノベの内部事情ゆえ、俺は席を外すことにする。ふたりで話してくれ。」
俺はカウンター席に戻って2杯目を頼んだ。個性的なのがいいと言ったら、アードベックと言うアイリッシュウイスキーがロックで出て来た。これはピート臭がきつくてスモーキーだ。おそらく好き嫌いがはっきり分かれるだろう。
ちなみに俺は非常に気に入った。鼻腔をくすぐるスモーキーさが堪らない。この晩のアードベックとの出会い以来、ウイスキーはスモーキーでなくてはならんと言う、変なこだわりができてしまった。
ちなみに和の国では、癖があるウイスキーを敬遠する人の方が多いと、マスターが教えてくれた。ウイスキー初心者にはインパクトが強過ぎるのがその理由らしい。
トウラクとタヅナが戻って来た。ふたりは、それぞれ1杯目と同じものを頼んだ。モスコミュールとノチェロミルクだ。
「アタル、段取りを組んだ。意見を聞かせてくれ。まず俺がアオゲに、心に決めた女がいるか聞く。」
「いきなり核心か?」
「そうだ。俺は小細工などできん。そう言うところを姉上に任せたいのだ。」
「そうだったな。すまん。」
「よい。アオゲに女がいなかったら、紹介したい女がいる。大分若いがいいか?とだけ伝える。
その後、姉上のところに行き、俺がキノベを継いだら、軍師として欲しいから、他家へ嫁かずに、家来から婿を選んでくれと言う。姉上に意中の男が家中にいるかを聞くが、まぁおるまい。
意中の男がいなければ、こいつだけは嫌だと言うのを聞く。これもおそらくはいまいな。」
「ちょっと待て。そんなにトウラクの都合がいい様に運ぶのか?家中に意中の男がいたり、アオゲが嫌だと言う可能性は考慮しないとまずいぞ。」
「それはタヅナが大丈夫だと言っている。タヅナがアタルのもとに嫁くことになって、姉上は妹に先を越されたとぼやき、かなり焦っているのだ。いい男がいたら、焦りはすまい。
それに、アオゲのことは、陸運で頼りにしていると言う。有能な部下と言うよりは、師匠として遇してると言うのだ。少なくとも印象はよい。」
「まぁ、そう言うことになるな。」
「であろう?あとは父上だ。姉上が満更でもなければ、父上に姉上を俺の軍師に欲しいと掛け合う。そのために家中から婿を取れとな。俺を世継として考えていたと言うのが本当なら、反対はすまいよ。」
「ふむ。確かに小細工を弄するより、本音の気持ちをぶつけた方がいいな。この場合は、正攻法が一番よいか。
それとな、万が一キノベどのから、この件を俺に相談したかと聞かれたら、こう言うのだ。ハミどのを軍師にしたいと、トウラクから俺に意見を求めたら、俺が賛成したとな。」
「逆ではないか。」
「ああ、逆だ。でもトウラクは俺が切り出した時点で同じことを考えていたのだったな。状況によってはトウラクから切り出していたかもしれん。そうであろう?」
「うむ、確かに俺から切り出してたかもしれんな。」
「ハミどのの婚姻は、キノベの内情だ。俺が切り出したとあっては、キノベどのは面白くあるまいよ。トウラクが切り出して、俺がそれはいいと賛成したと言っても、嘘にはならん。」
「いや、嘘にはならんと言うのは、ちょっと違う気がするぞ。」いかにも、真っ当なトウラクらしい。
「トウラク、この程度は嘘とは言わんのだ。トウラクはハミどのに策を任せるつもりのであろう?ならばここは、俺に免じて俺の策に乗ってみよ。」
「なるほどな。今はアタルが俺の軍師か。こりゃ愉快だ。」
「兄上ぇ、何てこと言うんですかぁ!アタルはユノベの次期統領なんですよぉ!」タヅナがムッとして、文句を言った。笑
「タヅナ、この鷹揚さがトウラクの長所なのだ。これを騎馬隊隊員も、トギスの村人も慕っている。」
マスターもママも話には一切入って来ない。俺たちが聞かなきゃ答えんのだろうな。実に人間ができている。判断に迷ったらここには意見を聞きに来てもいいかもしれんな。
しばらくして俺たちはこのショットバーから出て、それぞれの宿屋に戻った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/5/15
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№64 トウラクの軍師候補、ハミ
朝餉の後、早々にトギスを出立した。驚いたことに、村人総出で見送ってくれた。
この日の行程もすこぶる順調で、一行は昼過ぎには東都へ到着した。
堂々たる騎馬の行軍は、東都でも話題を掻っ攫って行った。キノベ騎馬隊の威風堂々とした威容と、それを垣間見た東都の民の熱狂ぶりを、後から伝え聞いた叔父貴たちが歯噛みをしそうだ。笑
キノベ一行はそのままキノベ陸運の東都営業所に入り、一部は近くの宿屋に泊まる。トウラクと夕餉の約束をして別れ、俺たちは、いつもの定宿ではなく、ユノベの御用宿に向かった。ユノベ一行はまだ着いてなかったが、1時間もすると到着した。こちらは、馬車以外は弓隊の徒歩である。
その後、クエストを終えた残りの嫁6人が到着した。合流した俺たちは、東都前寿司へ向かい、タヅナが東都営業所へトウラクを迎えに行った。
東都前寿司では、キョウちゃんズが早速、穴子一本握りを頼み、俺たちはお任せだ。そこへトウラクとタヅナが合流して、俺は嫁たちをトウラクに紹介した。トウラクは眼を瞠っていた。
「アタルよ、わが妹タヅナは飛び切りの美形なのでな、お前の嫁の中では一番だろうと思っておったのだが、他の嫁も負けず劣らず美形であるな。お前はブ男ではないがイケメンと言うほどでもない。なのに何だ、これは?」
ずけずけと言いたいことを言いやがる。泣
「実際のところ、すべて政略だな。もちろん皆を愛おしく思っているがな。」
トウラクは小声で囁いて来た。
「しかしな、子供はいかんぞ。正直見損なったわ。」
「いや、まだ手を出しておらん。が、しかしな、成長したらそうなるので、今から嫁として遇している。」
「そうか。それならよい。疑ってすまなんだの。」
俺たちはたらふく食って、東都前寿司を出た。俺は昼の続きの話をしたいので、トウラクとタヅナともう1軒行くことにして、事情を話し、キノベの内部事情なので、他の嫁たちには遠慮してもらった。
どこか静かに呑めるところで話がしたい。実は、東都前寿司の近くに、前々から目を付けていたショットバーがあって、今日は一見だが行ってみたいと言うと、トウラクもタヅナも承諾した。
そのショットバーに入ると、店の中は、鰻の寝床のように縦に長い作りで、ドアから店の半分までがカウンター、奥は長めのテーブル席1つだ。マスターとママのふたりで切り盛りしているそうだ。
そして何よりも驚いたことに、店の壁の半分に2~3段の薄い棚があり、ずらっと酒の瓶が並んで、店の壁を埋め尽くしている。
ちなみに何本あるか聞いたら、400くらいだと思うと言う何とも曖昧な返事だったが、どの酒がどこにあるかはマスターの頭の中に入ってるそうだ。
俺たちはカウンターに座り、正直によく分らないと言って、お勧めを聞いた。
マスターは、俺たちそれぞれから好みをいくつか聞くと、俺にはロンサカパと言うラムのロックにライムを絞り、トウラクにはジンジャエールではなくジンジャビアを使った正統派モスコミュール、タヅナにはクルミのリキュールをミルクで割ったノチェロミルクを出して来た。
旨い!これはいい。しかもロックのアイスは丸く削った大きい氷がひとつだけ。マスターに聞くと、暇なときに削るとか。丸くないときは忙しかったと思ってくれとのことだ。そんな職人肌のマスターをママさんはにこやかに微笑んでサポートしている。いい感じの夫婦だ。
この店は当たりだ。これからちょこちょこ来よう。俺はこのラムが気に入り、いつも1杯目はこれにすることにした。こう言う大人の雰囲気の店で、常連になって、いつもの、と言うひと言で、ラムのロックが出て来たら、えらくカッコいい気がするのだ。
おっと、店の雰囲気の良さに本題を忘れるところだったが、ハミどのの婿に、トウラクの腹心をと言う話をしなきゃいかんな。
俺たちはマスターに込み入った話をしたいと伝えて、奥のテーブル席へ移った。
「ハミどのは切れ者ゆえ、並の男では御しきれまい。ハミどのの優秀さを理解して、自分より優秀であることに嫉妬しないような懐の深さが要るな。」
「アタルレベルの有能さがないと、姉上の上には立てん。まぁ、俺の腹心は皆いい奴らばかりだが、姉上には敵わんな。
それとな、姉上を娶ると言うことは主家に婿入りすると言うことだ。俺の義兄になる訳だし、なかなかハードルは高かろうな。」
「あのぉ、アオゲはどうですかぁ?」
アオゲは、山髙屋の荷を東都から商都に護衛したとき、キノベ陸運のタヅナ隊で、タヅナの腹心だった男だ。タヅナの信頼が厚く、タヅナが俺のところに来てキノベを抜けた後、タヅナ隊を引き継いでいる。
とても優秀な奴で、俺にキノベへ馬の技を学びに来いと誘って来たのがアオゲだ。俺を、ユノベの次期統領と知ってて誘うのだから、物事に捕らわれない柔軟性がある。陸運でありながら騎馬を操り、商都への旅ではずっと騎馬として大活躍した。トウラクも、アオゲなら騎馬もこなすだろうと一目置いていた。
「アオゲか。能力的には確かにありだな。しかし姉上の婿としてはいささか年上過ぎるか。奴は30代半ばよな。姉上より15も上だ。」
「切れ者のハミどのには、年上の包容力がある方がいいかもしれんぞ。それに、トウラクの義兄になっても委縮しないのではないか?」
「まぁ、そうだな。俺も姉上もトウラクには馬の技を教わってるからな。」
「私も教わりましたぁ。」
「確かに俺の腹心より、アオゲの方がいいな。あとは父上のご意向と、ふたりの気持ち次第か。」
「まずはアオゲの身辺調査だな。すでに言い交した女がいたら話にならん。アオゲに特定の女がいなければ、その後は、キノベどのにご意見をうかがって、ハミどのとアオゲへの打診か。これらの分担はキノベの内部事情ゆえ、俺は席を外すことにする。ふたりで話してくれ。」
俺はカウンター席に戻って2杯目を頼んだ。個性的なのがいいと言ったら、アードベックと言うアイリッシュウイスキーがロックで出て来た。これはピート臭がきつくてスモーキーだ。おそらく好き嫌いがはっきり分かれるだろう。
ちなみに俺は非常に気に入った。鼻腔をくすぐるスモーキーさが堪らない。この晩のアードベックとの出会い以来、ウイスキーはスモーキーでなくてはならんと言う、変なこだわりができてしまった。
ちなみに和の国では、癖があるウイスキーを敬遠する人の方が多いと、マスターが教えてくれた。ウイスキー初心者にはインパクトが強過ぎるのがその理由らしい。
トウラクとタヅナが戻って来た。ふたりは、それぞれ1杯目と同じものを頼んだ。モスコミュールとノチェロミルクだ。
「アタル、段取りを組んだ。意見を聞かせてくれ。まず俺がアオゲに、心に決めた女がいるか聞く。」
「いきなり核心か?」
「そうだ。俺は小細工などできん。そう言うところを姉上に任せたいのだ。」
「そうだったな。すまん。」
「よい。アオゲに女がいなかったら、紹介したい女がいる。大分若いがいいか?とだけ伝える。
その後、姉上のところに行き、俺がキノベを継いだら、軍師として欲しいから、他家へ嫁かずに、家来から婿を選んでくれと言う。姉上に意中の男が家中にいるかを聞くが、まぁおるまい。
意中の男がいなければ、こいつだけは嫌だと言うのを聞く。これもおそらくはいまいな。」
「ちょっと待て。そんなにトウラクの都合がいい様に運ぶのか?家中に意中の男がいたり、アオゲが嫌だと言う可能性は考慮しないとまずいぞ。」
「それはタヅナが大丈夫だと言っている。タヅナがアタルのもとに嫁くことになって、姉上は妹に先を越されたとぼやき、かなり焦っているのだ。いい男がいたら、焦りはすまい。
それに、アオゲのことは、陸運で頼りにしていると言う。有能な部下と言うよりは、師匠として遇してると言うのだ。少なくとも印象はよい。」
「まぁ、そう言うことになるな。」
「であろう?あとは父上だ。姉上が満更でもなければ、父上に姉上を俺の軍師に欲しいと掛け合う。そのために家中から婿を取れとな。俺を世継として考えていたと言うのが本当なら、反対はすまいよ。」
「ふむ。確かに小細工を弄するより、本音の気持ちをぶつけた方がいいな。この場合は、正攻法が一番よいか。
それとな、万が一キノベどのから、この件を俺に相談したかと聞かれたら、こう言うのだ。ハミどのを軍師にしたいと、トウラクから俺に意見を求めたら、俺が賛成したとな。」
「逆ではないか。」
「ああ、逆だ。でもトウラクは俺が切り出した時点で同じことを考えていたのだったな。状況によってはトウラクから切り出していたかもしれん。そうであろう?」
「うむ、確かに俺から切り出してたかもしれんな。」
「ハミどのの婚姻は、キノベの内情だ。俺が切り出したとあっては、キノベどのは面白くあるまいよ。トウラクが切り出して、俺がそれはいいと賛成したと言っても、嘘にはならん。」
「いや、嘘にはならんと言うのは、ちょっと違う気がするぞ。」いかにも、真っ当なトウラクらしい。
「トウラク、この程度は嘘とは言わんのだ。トウラクはハミどのに策を任せるつもりのであろう?ならばここは、俺に免じて俺の策に乗ってみよ。」
「なるほどな。今はアタルが俺の軍師か。こりゃ愉快だ。」
「兄上ぇ、何てこと言うんですかぁ!アタルはユノベの次期統領なんですよぉ!」タヅナがムッとして、文句を言った。笑
「タヅナ、この鷹揚さがトウラクの長所なのだ。これを騎馬隊隊員も、トギスの村人も慕っている。」
マスターもママも話には一切入って来ない。俺たちが聞かなきゃ答えんのだろうな。実に人間ができている。判断に迷ったらここには意見を聞きに来てもいいかもしれんな。
しばらくして俺たちはこのショットバーから出て、それぞれの宿屋に戻った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/5/15
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる