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射手の統領055 馬の技の稽古
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射手の統領
Zu-Y
№55 馬の技の稽古
翌朝、古都の宿屋で簡単な朝餉を済ますと、俺は流邏石で西都ギルドに飛んだ。西都ギルドに入るとすぐにチフユに頼んでサンキに繋いで貰った。
西都のギルマスルームでサンキと面会し、金剛鏑が手に入った礼を述べて、古都での経緯を詳しく話した。
「アタル、そりゃ、ちとやり過ぎやで。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。
「なんだよ。サンキさんが行ってのお楽しみって言うから、楽しんで来たんじゃないか。」俺も笑う。
「ダイワの奴はな、見込みのありそうな冒険者に難癖付けて、いったん困らせてな、それから自分が便宜を図ってやったと、恩を着せる手口をよく使いよるんや。」
「なんで俺は、見込みがあると思われたんだ?」
「そりゃ、勅許を持って行ったからやろ。」
「なるほどな。」
「しかし今回、勅許に難癖付けたのはあかん。まぁ、そこを上手く突いたアタルの方が、一枚上手やったということやな。」
「ダイワは古都での評判も芳しくなかったぞ。」
「まぁそやろな。小意地悪い奴ちゃからな。
そや、雷撃矢と水撃矢の属性攻撃には、どないな反応をしたんや?」
「カラクリを聞いて来たが、無能な奴に教えるつもりはないと言ってやったよ。あんな奴に教えて堪るか。」
「さよか。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。
ここで話題はオミョシ分家のことに変わる。
「ところでな、昨日、アタルが古都に行った後に、シエンが来よったで。」
「おう、元気にしてたか?」
「相変わらず、妹ふたりを心配しとったさかい、アタルがよう面倒見てるようやと言うておいたわ。」
「そうか。ありがとう。」
「シエンはシスコンやから詳しい話をするとテンバまで行き兼ねんで。それとな、分家権座主宛の言伝や言うて、こっちに来る機会があったら寄ってくれと、シエンに頼んどいたわ。」
「いろいろすまんな。」
「まぁ乗り掛かった舟やしな。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。サンキは本当に頼りになる男だ。
俺は礼を言って西都ギルドを出た。
流邏石で再度古都ギルドに飛び、皆への土産に柿の葉寿司を大人買いして、名府ギルド、テンバのユノベ本拠館の順に流邏石で飛んで帰った。
馬場では早速、サヤ姉、サジ姉、ホサキ、キョウちゃんズが、タヅナとキノベから来た若手ひとりから乗馬の稽古を受けていた。
若手はふたり来てるはずなのだが、もうひとりは、多分アキナとともに的場で弓の稽古だろう。馬の技の教授とともに、弓の技の習得が彼らの目的だからな。
稽古に使う馬は、キノベから購入した4頭、ノアール、ヴァイス、ダーク、セールイと、キノベの若手ふたりが乗って来た馬だ。
嫁3人の馬上姿は堂に入っている。間違いなく実家である程度、乗馬歴があるのだろう。
キョウちゃんズは、馬に乗ると言うよりは、ちょこんと乗っかっている置物のような感じだ。危なっかしそうな気もするが、ふたりとも楽しそうだ。
5人とタヅナが俺に気付いて手を振っている。それにつられてキノベのひとりが辞儀をした。俺は手を振り返した。よし、俺も午後から稽古に加わって頑張るぞ。
これから午前の稽古の総仕上げのようだ。え?駈歩?5人とももう駈歩なの?俺、駈歩はまだなのに。泣
俺が一番未熟らしいことが分かった。まぁ、馬の技は苦手だったからな。
午前の馬の稽古と弓の稽古が終わり、俺はキノベから来たふたりと挨拶を交わした。ギャロとロップという若い男だ。やはりもうひとりは弓の稽古だった訳な。午後は入れ替わるそうだ。
このふたりは、キノベに入門したときから得物に弓を選んでいたので、今回、俺たちへの馬の技の教授とともに、自分たちも弓の技を習得して行くそうだ。ユノベとキノベの婚姻同盟の賜物だ。
弓の技の稽古でひとり別行動のアキナに様子を聞くと、徒手を終えて、素引きに入っていると言う。午後は巻藁稽古に行けるかもしれないそうだ。なかなか上達が早いではないか。
さぁ、昼餉だ。俺は大人買いして来た柿の葉寿司を広げて、皆で食べた。
嫁たちには好評だった。特に西の人であるキョウちゃんズは、古都名物の柿の葉寿司を、以前に食べたことがあったそうで、懐かしいと言って喜んでいた。
ついでに古都のヤマホウシのリーダーがウジになったことと、クラマが改心していたことを伝えた。
「クラマがな、ふたりに詫びを伝えて欲しいと言ってたぞ。」
「なんか信じられへんなー。」「雨でも降りよるんやないの?」
「まあふたりの気持ちは分かるけどそう言うなよ。俺にもずっと敬語だったんだぜ。」
「「へぇー。」」
午後になると、俺が加わったので、キノベから来たふたりの馬もフル稼働になった。キノベの馬は、黒鹿毛のキングと鹿毛のフォレストだ。俺以外の5人は駈歩。俺はタヅナとマンツーマンで軽速歩から。
馬は、特定の馬に偏らないようにローテーションするそうで、俺はキノベのキングに乗ることになった。こいつは脚癖が悪くて、たまに馬場の柵を蹴るそうだ。いきなりそんな奴を当てるなよとも思ったが、
「キングはぁ、悪戯を除けば乗りやすいのよぉ。悪戯させないようにぃ、上手く指示を出してねぇ。」
と、言うことなのだそうだ。
騎乗すると耳をこちらに向けて来たので、舌鼓(舌先を上の歯の根に押し付け、舌の両サイドで音を立てる合図)で答えてやった。まずは挨拶だ。挨拶はとても大事だ。人も馬もコミュニケーションは挨拶からなのだ。
軽速歩からスタート。もう手前合わせはマスターしている。キングは歩幅が広いのでぐいぐい進む。指示もよく聞く。確かに、結構乗り易いな。と思ったとたん、柵蹴りをかましやがった。足癖の悪いキングの悪戯だ。
この野郎!と思ったが、馬に言うことを聞かせるんじゃなくて、指示を出して聞いてもらう。というタヅナやトウラクのアドバイスを思い出した。
馬は同じ場所で同じ行動をしたがる傾向があるので、馬場を一周して、再び蹴った場所に来るとまたやる確率が高い。その前に、やるなという指示を出せばいい。さっきの場所の手前で舌鼓の合図をすると、耳がこちらを向いた。え?何?と言った所だろう。
鞭で外脚の肩を軽く叩いた。ペースを上げて、の合図だ。キングの軽速歩が速くなる。舌鼓と肩鞭でキングの注意を逸らしたので、悪戯ポイントで柵を蹴らずに通過。よしよしと首ポンポンをしてやる。柵を蹴らなかったことを褒めたのだ。耳がこっち向いた。反応してる。こいつ、ひねた奴だと思ってたが、意外と素直かもしれん。
何回か舌鼓と肩鞭で柵蹴りを未然に防ぐと、柵蹴りをしなくなった。それから鐙に立って手放ししながらの速歩。トウラクとの稽古の最終段階まで進んだ。
「アタルぅ、いい感じよぉ。次は駈歩ねぇ。」
速歩のまま、両脚で馬の腹を抱えるようにしてから、スタートの合図は外側の脚を少し後ろにずらすのだ。外脚をずらす前に、念のために舌鼓で合図したら耳を向けて来た。そこで駈歩の合図。キングはすぐに反応して、駈歩になった。
おー、やはり的確な合図は重要だなー。
「駈歩への移行がスムーズねぇ。合図前の舌鼓はいい工夫よぉ。」タヅナに褒められた。ちょっと嬉しい。
そうだ!俺はキングを駈けさせながら、首ポンポンをしてやった。俺も褒められて嬉しいのだから、キングも褒められれば嬉しいに違いない。耳がこっちを向いた。おお、応えて来た。
駈歩を、左回りと右回りでこなした。回る向きが違うと手前が変わるのだが、馬にも回る方向に得手不得手があるようで、キングは右回りの方が上下動が少なくスムーズだ。これは面白い発見だ。あとでタヅナに聞いてみよう。
稽古後、皆で馬の手入れをして馬房に入れた。飼葉をやると喜んでいた。宿坊で寝起きするキノベのふたりとは厩舎で別れ、汗だくの俺たちはそのまま館の湯殿に向かった。
俺は例によって白湯だが、嫁5人は、今日は赤湯に行くと言う。残念。キョウちゃんズは俺と一緒がいいので白湯だそうだ。また子守か。ま、いいけどね。
脱衣所でキョウちゃんズがさっと脱ぐと、マイサンがマイドラゴンになった。なぜだ!俺はロリコンではない!今まで反応しなかったじゃないか!
別にぺったんこが膨らみだした訳でもない。そんな、まさかこの俺がロリコンに目覚めてしまったのか?いや、そんな訳はない。だってムラムラしてねーもん。俺は呆気に取られ、マイドラゴンを見つめていると、キョウちゃんズが目聡くそれに気付いた。
「ウキョウ、見てみい。アタル兄がとうとううちらに反応しよったで。」
「ホンマや、ドラちゃんが元気になっとる。」
え?ドラちゃん?今、ドラちゃんて言ったよな。その呼び方はサヤ姉、サジ姉、ホサキが使う隠語だ。なぜこのふたりが、その隠語を知ってるのだ?まさか…一昨日の晩か?
いや、いくら何でもそれはない。混浴で子供がいるからお触りはダメだという嫁たちが、あの場にキョウちゃんズをいさせたとは思えん。
「いや、たまにこうなることがあるから。ふたりに反応したんじゃないと思うぞ。」
「「えー、そうなん?」」ちょっとがっかりしてるふたり。そうだよな、そうに違いない。俺はロリコンではないのだ。
湯船に入って、マッサージタイムだが、やっぱり収まらない。
「アタル兄、ドラちゃんがお尻にアタルー。」こら、サキョウ、ダジャレ言ってる場合じゃないぞ。まるでオヤジギャグだ。
サキョウからウキョウに交代した。
「ホンマや、アタル兄がお尻にアタルー。」こら、ウキョウ、お前まで何を言うか!ってか、ドラちゃんが、アタル兄になってるぞ!
ふたりは子供の無邪気さでケラケラ笑っているが、絵図的にはかなりやばいので、俺は気が気ではない。
ちなみにマッサージしながら確認したが、ふたりともまだ膨らんでない。頂だけは敏感になっており、成長の兆しを見せてはいるが、まわりはぺったんこのままだ。ムラムラして来ない。うん、これなら大丈夫だ。ちょっとほっとしたのだが、結局、風呂の間中、マイドラゴンは収まらなかった。流石に少し不安になって来てしまった。
夕餉には何とか収まった。ほんとに何だったんだろ?
夕餉を皆と共にしながら、アキナには悪いが、話題は馬の技の稽古についてだ。もちろんアキナには弓の技の稽古の話も聞くぞ。後でだけどな。
「皆、結構乗れるのな。乗馬の経験はあったのか?」
「私はトノベでひと通り学んだわ。ただし襲歩はちょっときついわね。でも、やれと言われればやるわよ。」
「私も…ヤクシで…学んだ…。急患の…ため…襲歩も…何とか…。」
「私も重騎兵ができるようにタテベで学んだ。そこそこ得意な方だな。」
「うちらは今日が初めてやねー。」なんですと?
「お馬さんたちにお願いしたらええんよねー。」なんですと?
「あらぁ、ふたりもお馬さんたちとお話しできるのぉ?」タヅナがにこやかに聞く。今、ふたりも、と言ったよな?
「「そやでー。」」さり気なくハモるふたり。流石双子だ。
「ライはんやウズはんと同じで、心に馬たちの声が聞こえて来るんや。な、サキョウ。」マジか?
「そやけど、なんで皆、そないに驚いとんのや?皆は違うんか?」
「そうよねぇ!やっぱりそうよねぇ!」タヅナが食い付いた!
「どういうことだ?」思わず尋ねてしまった。
「私は馬の声が心に聞こえるんだけどぉ、父上も、姉上も、兄上もぉ、それは大袈裟だって言うのよぉ。」
「ライ、ウズ、どういうことだ?」俺は師匠たちの鏑を取り出して聞いた。
『われらの念話はこちらの力で届けるが、動物の思念はそこまで力が強くない。聞く側の感受性の問題だな。』
『確かにこの3人の感受性は強い。奥方は天性のもの。未来の奥方ふたりは気力量が多いせいだな。』
「ウズはん、未来の奥方ってうちらのこと?」
『他に誰がいるのだ?』
「いやーん、照れてまうやん。」
「未来っていつ頃なんやろか?」
『もう間もなくだな。』
「2年後だ!成人してからだ!」
『アタル、何を言っている。そろそろ成長期に入るぞ。そしたらすぐだと教えたではないか。』
『成人は一定の年数ではなく、体の成長で決まるのだぞ。』
「それは神龍のことだろ!人間は違うんだよ。」
『ふん、バカバカしい。分家の習わしを否定するアタルの言葉とは思えんな。』ウズが呆れている。
『いつぞやの、で・す・よ・ねー!と同じで脳内悪魔にやられるわ。見ておれ。』ライが急所を突いて来た。アキナとタヅナが真っ赤っかだ。
「ぐっ。」俺は言葉に詰まる。返す言葉が見付からない。
『その折は思いっきり笑ろうてやろうぞ。』
『半年以内と心得よ。』
「「おおきに!」」
「おおきに!じゃないってば。」
『アタルよ、冷静になれ。頑なにならずにあるがままを受け入れよ。』
『すでに制御が効かなくなっているではないか。』
「え?どういうことだ?」
『アタルよ。惚けるでない。』『心当たりがあるであろう?』
「…。」ぐぅの音も出ない。
ライとウズは呆れて引っ込んでしまった。キョウちゃんズは勝ち誇った顔でニマニマしている。話題を変えなきゃ。
「ところでアキナ、弓の技はどうだ?」
「巻藁稽古に上がりました。でも話題を変えるために聞かれるのは、あまりいい気はしませんね。」
「ごめんなさい。」
その晩、ニマニマキョウちゃんズの夜討を警戒したが、何もなかった。夜中まで警戒して、もう大丈夫と安心して眠ったら、朝駆の奇襲をされたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/4/24
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№55 馬の技の稽古
翌朝、古都の宿屋で簡単な朝餉を済ますと、俺は流邏石で西都ギルドに飛んだ。西都ギルドに入るとすぐにチフユに頼んでサンキに繋いで貰った。
西都のギルマスルームでサンキと面会し、金剛鏑が手に入った礼を述べて、古都での経緯を詳しく話した。
「アタル、そりゃ、ちとやり過ぎやで。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。
「なんだよ。サンキさんが行ってのお楽しみって言うから、楽しんで来たんじゃないか。」俺も笑う。
「ダイワの奴はな、見込みのありそうな冒険者に難癖付けて、いったん困らせてな、それから自分が便宜を図ってやったと、恩を着せる手口をよく使いよるんや。」
「なんで俺は、見込みがあると思われたんだ?」
「そりゃ、勅許を持って行ったからやろ。」
「なるほどな。」
「しかし今回、勅許に難癖付けたのはあかん。まぁ、そこを上手く突いたアタルの方が、一枚上手やったということやな。」
「ダイワは古都での評判も芳しくなかったぞ。」
「まぁそやろな。小意地悪い奴ちゃからな。
そや、雷撃矢と水撃矢の属性攻撃には、どないな反応をしたんや?」
「カラクリを聞いて来たが、無能な奴に教えるつもりはないと言ってやったよ。あんな奴に教えて堪るか。」
「さよか。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。
ここで話題はオミョシ分家のことに変わる。
「ところでな、昨日、アタルが古都に行った後に、シエンが来よったで。」
「おう、元気にしてたか?」
「相変わらず、妹ふたりを心配しとったさかい、アタルがよう面倒見てるようやと言うておいたわ。」
「そうか。ありがとう。」
「シエンはシスコンやから詳しい話をするとテンバまで行き兼ねんで。それとな、分家権座主宛の言伝や言うて、こっちに来る機会があったら寄ってくれと、シエンに頼んどいたわ。」
「いろいろすまんな。」
「まぁ乗り掛かった舟やしな。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。サンキは本当に頼りになる男だ。
俺は礼を言って西都ギルドを出た。
流邏石で再度古都ギルドに飛び、皆への土産に柿の葉寿司を大人買いして、名府ギルド、テンバのユノベ本拠館の順に流邏石で飛んで帰った。
馬場では早速、サヤ姉、サジ姉、ホサキ、キョウちゃんズが、タヅナとキノベから来た若手ひとりから乗馬の稽古を受けていた。
若手はふたり来てるはずなのだが、もうひとりは、多分アキナとともに的場で弓の稽古だろう。馬の技の教授とともに、弓の技の習得が彼らの目的だからな。
稽古に使う馬は、キノベから購入した4頭、ノアール、ヴァイス、ダーク、セールイと、キノベの若手ふたりが乗って来た馬だ。
嫁3人の馬上姿は堂に入っている。間違いなく実家である程度、乗馬歴があるのだろう。
キョウちゃんズは、馬に乗ると言うよりは、ちょこんと乗っかっている置物のような感じだ。危なっかしそうな気もするが、ふたりとも楽しそうだ。
5人とタヅナが俺に気付いて手を振っている。それにつられてキノベのひとりが辞儀をした。俺は手を振り返した。よし、俺も午後から稽古に加わって頑張るぞ。
これから午前の稽古の総仕上げのようだ。え?駈歩?5人とももう駈歩なの?俺、駈歩はまだなのに。泣
俺が一番未熟らしいことが分かった。まぁ、馬の技は苦手だったからな。
午前の馬の稽古と弓の稽古が終わり、俺はキノベから来たふたりと挨拶を交わした。ギャロとロップという若い男だ。やはりもうひとりは弓の稽古だった訳な。午後は入れ替わるそうだ。
このふたりは、キノベに入門したときから得物に弓を選んでいたので、今回、俺たちへの馬の技の教授とともに、自分たちも弓の技を習得して行くそうだ。ユノベとキノベの婚姻同盟の賜物だ。
弓の技の稽古でひとり別行動のアキナに様子を聞くと、徒手を終えて、素引きに入っていると言う。午後は巻藁稽古に行けるかもしれないそうだ。なかなか上達が早いではないか。
さぁ、昼餉だ。俺は大人買いして来た柿の葉寿司を広げて、皆で食べた。
嫁たちには好評だった。特に西の人であるキョウちゃんズは、古都名物の柿の葉寿司を、以前に食べたことがあったそうで、懐かしいと言って喜んでいた。
ついでに古都のヤマホウシのリーダーがウジになったことと、クラマが改心していたことを伝えた。
「クラマがな、ふたりに詫びを伝えて欲しいと言ってたぞ。」
「なんか信じられへんなー。」「雨でも降りよるんやないの?」
「まあふたりの気持ちは分かるけどそう言うなよ。俺にもずっと敬語だったんだぜ。」
「「へぇー。」」
午後になると、俺が加わったので、キノベから来たふたりの馬もフル稼働になった。キノベの馬は、黒鹿毛のキングと鹿毛のフォレストだ。俺以外の5人は駈歩。俺はタヅナとマンツーマンで軽速歩から。
馬は、特定の馬に偏らないようにローテーションするそうで、俺はキノベのキングに乗ることになった。こいつは脚癖が悪くて、たまに馬場の柵を蹴るそうだ。いきなりそんな奴を当てるなよとも思ったが、
「キングはぁ、悪戯を除けば乗りやすいのよぉ。悪戯させないようにぃ、上手く指示を出してねぇ。」
と、言うことなのだそうだ。
騎乗すると耳をこちらに向けて来たので、舌鼓(舌先を上の歯の根に押し付け、舌の両サイドで音を立てる合図)で答えてやった。まずは挨拶だ。挨拶はとても大事だ。人も馬もコミュニケーションは挨拶からなのだ。
軽速歩からスタート。もう手前合わせはマスターしている。キングは歩幅が広いのでぐいぐい進む。指示もよく聞く。確かに、結構乗り易いな。と思ったとたん、柵蹴りをかましやがった。足癖の悪いキングの悪戯だ。
この野郎!と思ったが、馬に言うことを聞かせるんじゃなくて、指示を出して聞いてもらう。というタヅナやトウラクのアドバイスを思い出した。
馬は同じ場所で同じ行動をしたがる傾向があるので、馬場を一周して、再び蹴った場所に来るとまたやる確率が高い。その前に、やるなという指示を出せばいい。さっきの場所の手前で舌鼓の合図をすると、耳がこちらを向いた。え?何?と言った所だろう。
鞭で外脚の肩を軽く叩いた。ペースを上げて、の合図だ。キングの軽速歩が速くなる。舌鼓と肩鞭でキングの注意を逸らしたので、悪戯ポイントで柵を蹴らずに通過。よしよしと首ポンポンをしてやる。柵を蹴らなかったことを褒めたのだ。耳がこっち向いた。反応してる。こいつ、ひねた奴だと思ってたが、意外と素直かもしれん。
何回か舌鼓と肩鞭で柵蹴りを未然に防ぐと、柵蹴りをしなくなった。それから鐙に立って手放ししながらの速歩。トウラクとの稽古の最終段階まで進んだ。
「アタルぅ、いい感じよぉ。次は駈歩ねぇ。」
速歩のまま、両脚で馬の腹を抱えるようにしてから、スタートの合図は外側の脚を少し後ろにずらすのだ。外脚をずらす前に、念のために舌鼓で合図したら耳を向けて来た。そこで駈歩の合図。キングはすぐに反応して、駈歩になった。
おー、やはり的確な合図は重要だなー。
「駈歩への移行がスムーズねぇ。合図前の舌鼓はいい工夫よぉ。」タヅナに褒められた。ちょっと嬉しい。
そうだ!俺はキングを駈けさせながら、首ポンポンをしてやった。俺も褒められて嬉しいのだから、キングも褒められれば嬉しいに違いない。耳がこっちを向いた。おお、応えて来た。
駈歩を、左回りと右回りでこなした。回る向きが違うと手前が変わるのだが、馬にも回る方向に得手不得手があるようで、キングは右回りの方が上下動が少なくスムーズだ。これは面白い発見だ。あとでタヅナに聞いてみよう。
稽古後、皆で馬の手入れをして馬房に入れた。飼葉をやると喜んでいた。宿坊で寝起きするキノベのふたりとは厩舎で別れ、汗だくの俺たちはそのまま館の湯殿に向かった。
俺は例によって白湯だが、嫁5人は、今日は赤湯に行くと言う。残念。キョウちゃんズは俺と一緒がいいので白湯だそうだ。また子守か。ま、いいけどね。
脱衣所でキョウちゃんズがさっと脱ぐと、マイサンがマイドラゴンになった。なぜだ!俺はロリコンではない!今まで反応しなかったじゃないか!
別にぺったんこが膨らみだした訳でもない。そんな、まさかこの俺がロリコンに目覚めてしまったのか?いや、そんな訳はない。だってムラムラしてねーもん。俺は呆気に取られ、マイドラゴンを見つめていると、キョウちゃんズが目聡くそれに気付いた。
「ウキョウ、見てみい。アタル兄がとうとううちらに反応しよったで。」
「ホンマや、ドラちゃんが元気になっとる。」
え?ドラちゃん?今、ドラちゃんて言ったよな。その呼び方はサヤ姉、サジ姉、ホサキが使う隠語だ。なぜこのふたりが、その隠語を知ってるのだ?まさか…一昨日の晩か?
いや、いくら何でもそれはない。混浴で子供がいるからお触りはダメだという嫁たちが、あの場にキョウちゃんズをいさせたとは思えん。
「いや、たまにこうなることがあるから。ふたりに反応したんじゃないと思うぞ。」
「「えー、そうなん?」」ちょっとがっかりしてるふたり。そうだよな、そうに違いない。俺はロリコンではないのだ。
湯船に入って、マッサージタイムだが、やっぱり収まらない。
「アタル兄、ドラちゃんがお尻にアタルー。」こら、サキョウ、ダジャレ言ってる場合じゃないぞ。まるでオヤジギャグだ。
サキョウからウキョウに交代した。
「ホンマや、アタル兄がお尻にアタルー。」こら、ウキョウ、お前まで何を言うか!ってか、ドラちゃんが、アタル兄になってるぞ!
ふたりは子供の無邪気さでケラケラ笑っているが、絵図的にはかなりやばいので、俺は気が気ではない。
ちなみにマッサージしながら確認したが、ふたりともまだ膨らんでない。頂だけは敏感になっており、成長の兆しを見せてはいるが、まわりはぺったんこのままだ。ムラムラして来ない。うん、これなら大丈夫だ。ちょっとほっとしたのだが、結局、風呂の間中、マイドラゴンは収まらなかった。流石に少し不安になって来てしまった。
夕餉には何とか収まった。ほんとに何だったんだろ?
夕餉を皆と共にしながら、アキナには悪いが、話題は馬の技の稽古についてだ。もちろんアキナには弓の技の稽古の話も聞くぞ。後でだけどな。
「皆、結構乗れるのな。乗馬の経験はあったのか?」
「私はトノベでひと通り学んだわ。ただし襲歩はちょっときついわね。でも、やれと言われればやるわよ。」
「私も…ヤクシで…学んだ…。急患の…ため…襲歩も…何とか…。」
「私も重騎兵ができるようにタテベで学んだ。そこそこ得意な方だな。」
「うちらは今日が初めてやねー。」なんですと?
「お馬さんたちにお願いしたらええんよねー。」なんですと?
「あらぁ、ふたりもお馬さんたちとお話しできるのぉ?」タヅナがにこやかに聞く。今、ふたりも、と言ったよな?
「「そやでー。」」さり気なくハモるふたり。流石双子だ。
「ライはんやウズはんと同じで、心に馬たちの声が聞こえて来るんや。な、サキョウ。」マジか?
「そやけど、なんで皆、そないに驚いとんのや?皆は違うんか?」
「そうよねぇ!やっぱりそうよねぇ!」タヅナが食い付いた!
「どういうことだ?」思わず尋ねてしまった。
「私は馬の声が心に聞こえるんだけどぉ、父上も、姉上も、兄上もぉ、それは大袈裟だって言うのよぉ。」
「ライ、ウズ、どういうことだ?」俺は師匠たちの鏑を取り出して聞いた。
『われらの念話はこちらの力で届けるが、動物の思念はそこまで力が強くない。聞く側の感受性の問題だな。』
『確かにこの3人の感受性は強い。奥方は天性のもの。未来の奥方ふたりは気力量が多いせいだな。』
「ウズはん、未来の奥方ってうちらのこと?」
『他に誰がいるのだ?』
「いやーん、照れてまうやん。」
「未来っていつ頃なんやろか?」
『もう間もなくだな。』
「2年後だ!成人してからだ!」
『アタル、何を言っている。そろそろ成長期に入るぞ。そしたらすぐだと教えたではないか。』
『成人は一定の年数ではなく、体の成長で決まるのだぞ。』
「それは神龍のことだろ!人間は違うんだよ。」
『ふん、バカバカしい。分家の習わしを否定するアタルの言葉とは思えんな。』ウズが呆れている。
『いつぞやの、で・す・よ・ねー!と同じで脳内悪魔にやられるわ。見ておれ。』ライが急所を突いて来た。アキナとタヅナが真っ赤っかだ。
「ぐっ。」俺は言葉に詰まる。返す言葉が見付からない。
『その折は思いっきり笑ろうてやろうぞ。』
『半年以内と心得よ。』
「「おおきに!」」
「おおきに!じゃないってば。」
『アタルよ、冷静になれ。頑なにならずにあるがままを受け入れよ。』
『すでに制御が効かなくなっているではないか。』
「え?どういうことだ?」
『アタルよ。惚けるでない。』『心当たりがあるであろう?』
「…。」ぐぅの音も出ない。
ライとウズは呆れて引っ込んでしまった。キョウちゃんズは勝ち誇った顔でニマニマしている。話題を変えなきゃ。
「ところでアキナ、弓の技はどうだ?」
「巻藁稽古に上がりました。でも話題を変えるために聞かれるのは、あまりいい気はしませんね。」
「ごめんなさい。」
その晩、ニマニマキョウちゃんズの夜討を警戒したが、何もなかった。夜中まで警戒して、もう大丈夫と安心して眠ったら、朝駆の奇襲をされたのだった。
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設定を更新しました。R4/4/24
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
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※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
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