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射手の統領053 古都へ
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射手の統領
Zu-Y
№53 古都へ
朝餉の席は針の筵であった。
「昨日はそのー、眠ってしまったようで…。」
「アタル、あれは酔い潰れたと言うのよ。覚えときなさい。」はい。肝に銘じます。
「寝首…掻かれる…。統領…失格…。」返す言葉もございません。
「アタルは、なかなか懲りないのだな。」素面のときは懲りてるのですが、呑むと忘れてしまうのです。
「運ぶの、大変でした。」お手数をお掛けしました。
「アキナと運んだのよぉ。重かったわぁ。」歩いてたつもりだったのですが、引きずられてたんですね。
「本当に、すみませんでしたー。」
キョウちゃんズがニヤニヤしている。こいつらも、加わってたんだろうか?それだけはなかったと思いたいが、こんなこと、聞くに聞けねー。
今日の夕刻には、キノベから派遣されて来るふたりが到着する予定なので、サヤ姉、サジ姉、ホサキ、キョウちゃんズの5人は、今日まではクエストに行くが、アキナとタヅナはユノベに残り、アキナは叔父貴たちから弓の技を学んで、タヅナはユノベの馬に関する施設を点検しつつ、キノベ勢の受け入れ態勢を整える。
俺は流邏石を駆使して、古都の帝家宝物殿に行く。
東都でサンキとチフユに手土産を買い、名府、西都の順に飛ぶ。西都でサンキに、勅許を手に入れたことへの礼を言い、キョウちゃんズの近況を報告。それから古都に行く。
古都に着くのはおそらく夕刻なので、場合によっては古都に泊まることになる。何らかの理由で滞在が伸びても、3日目の晩には一旦ユノベ本拠へ戻る。
俺とクエスト組5人は東都ギルドへ飛んだ。ギルドで5人と別れ、山髙屋東都総本店へ向かった。あそこなら土産物は何でもある。可能なら、社長にも挨拶に行こう。
総本店に着いて、受付で社長の都合を聞くと、受付のふたりは、訝しそうな目で見て来て、
「本日、社長は商談で外出しております。」それなら仕方ないか。
それにしても今日の受付は愛想も悪いし、応対も粗略で印象悪いな。
「そうか。社長が戻られたら、ユノベのアタルが来たと伝えてくれ。」
受付ふたりは血相を変えてガタっと立ち上がった。
「すぐお繋ぎいたします。」なんだと?
「待て。あんたらは今、社長は外出してると言ったよな。」
「申し訳ありません。」ちっ、ふざけやがって。
「よい。会わずに帰る。居留守は不愉快だと社長に伝えよ。」
「社長は居留守を使っておりません。おかしな客もいるので、私たち受付で選別しているのです。」
「そうか。俺はあんたらの眼鏡に適わなかったと言うことだな。だったら構わんよ。」
「そんなことを仰らずに。」
「ひとつ聞く。選別しろと言うのは社長の指示か?」
「いえ…、あの…第3番頭です。」嘘だな。ハンジョーがそんなことを言う訳がない。
「どう言う基準で選抜しろと指示されたのだ?」
「それは…。」俺はふたりの名札をチェックして名を覚えた。
「ユノベのアタルと言うのは嘘だ。」
「え?」明らかに動揺する受付ふたり。
「そなたらは第3番頭の指示通りに動いたのだ。問題はなかろう。そして俺はユノベ・アタルを語る、あんたらが言うところの不審な客だ。それでいいのだろう?」
「「…。」」返事に窮している。
「舅どのは客の選別などせぬ。そなたらの話が本当なら、第3番頭は越権も甚だしいな。舅どのにはよく言っておく。それからハンジョーも叱らねばならぬな。俺が知っているハンジョーはそんなことをせぬが、どうやら慢心してるようだ。」俺はハンジョーもよく知っていること匂わせ、踵を返した。
「「お待ちください。」」待たねーよ。
社長も西本店店長の専務も、非常に腰が低かった。が、受付がこれではな。今までの受付はよかったからこいつらふたりが問題なのだ。おそらくは、山髙屋総本店の受付となり、天狗になっているのだろう。
山髙屋の評判がいいのは、社長以下、従業員が丁寧な接客を心掛けている、その努力の賜物だ。それをぶち壊すこう言う奴らは、受付には向かぬ。
しかし従業員の落ち度は社長の落ち度。きっと舅どのはそう言うに決まってる。あの社長の下ですらこう言う奴らが出るのだから、上に立つ者はよほど目を配らねばならぬな。
俺は店の外まで追いすがって来た受付ふたりを振り切って総本店を後にした。
土産は佃煮か人形焼を考えてたのだが、結局それぞれの専門店で両方買ってくことにした。サンキとチフユのふたり分だ。
専門店で土産を買って、流邏石で名府ギルド、西都ギルドと連続で飛んだ。
西都ギルドに入ると、ヤマホウシのクラマとウジと他ふたりがいた。こいつらが残りのふたりか。
あれ?なんと俺を避けてたクラマが寄って来たぞ。
「アタルはん。」アタルはんだと?いつの間に敬称付になったのだ?
「何か用か?」
「その節は、ホンマにご迷惑をお掛けしてしもて。」深々と頭を下げるクラマ。
「どう言う風の吹き回しだ?」
「キョウちゃんズは、東都で元気にやってまっしゃろか?」
「ああ。今日もクエストに行ってるよ。」
「そうでっか。ホンマによかった。クラマが詫びてたと、伝えてもらえまへんやろか?」ほう、多少は反省したようだな。
「おう、引き受けた。」
そこへウジもやって来た。
「アタルはん、クラマはあれから大層反省しよりましてな、ヤマホウシのリーダーも降りましたわ。」
「そうなのか。」ちょっと意外だ。
「ウジの渾身の一発で眼が覚めましたよって、リーダーはウジに引き受けてもろたんですわ。わしはリーダーの器やあらへん。」
「そうか、反省したのか。クラマよ、そう言う心根で精進すれば、俺に巻き上げられた分はすぐに戻って来るだろうよ。」
「おおきに。精進しますわ。」根はいい奴だったんだな。
その後、ウジの下で、地道に取り組んだヤマホウシは、西都屈指のパーティにのし上がって行き、クラマもウジの右腕として名を馳せることになるのだが、これは後日譚。
受付に行くとチフユがいた。相変わらずでけぇ。でもアンバランスだ!俺はパス。笑
「あら、アタルさん、お久しぶりです。キョウちゃんズは元気でやってますか?」
「チフユさん、久しぶり。キョウちゃんズは今日もクエストに行ってるよ。これ、東都の土産な。サンキさんに繋いでくれ。」
「ありがとうございます。あ、佃煮と人形焼じゃないですか!西都ではなかなか手に入らないんですよ。商都まで行かないと。ちょっと待っててくださいね。」
チフユはサンキの所へ行き、俺はすぐギルマスルームに通された。
「アタル、よう参ったな。」
「サンキさん、東都の土産だ。」
「ほ。佃煮と人形焼やの。おおきに。どちらも商都でないと手に入らんのや。佃煮はアテにええ。今夜の晩酌が楽しみやなぁ。」
扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。相変わらずだ。
「それと、この通り。サンキさんのおかげだ。」俺は勅許を取り出して、頭を下げた。
「なんの。わしは紹介状を書いただけや。勅許を得たんはアタルの力やで。しかもあの次ノ宮殿下をやり込めたそうやないか。」
公家の情報網は速い。俺は舌を巻いた。
「いやいや、やり込めたんじゃないぞ。諫言したら、殿下が取り上げてくださったのだ。」
「あの宮は奔放での。侍従らも手を焼いておるのやが、聞く耳を持っとることと、下々に気さくに声を掛けるのが、好ましい資質やな。」
なるほど、確かにその通りだな。そう言えば、衛士のサエモンも同じことを言ってたよな。
「ところでキョウちゃんズは元気にしとるか?」
「まあ元気にはしてるんだが…。」
「なんや?気になることがあるんか?」
俺は、最近のキョウちゃんズの俺への依存をサンキに語った。
「とにかく甘えて来て俺にベッタリなのだ。勘当からこの方、ふたりきりで気を張って来た反動だと思う。それに故郷を遠く離れてるのも大きいんじゃないかな?」
「そうやったんか。」
「それと先日話した陽の術を得る条件だがな、ふたりが成人してなお望むなら、俺はやぶさかではない。もちろん男としての責任は取るつもりだ。そのこと、オミョシ分家に通しておいてもらえると助かる。」
「また難儀な話やな。」
「サンキさん、気が乗らんのなら別にいいんだ。分家はふたりを勘当しといて文句を言えた義理ではないからな。古からの習わしか何かは知らんが、分家でまともなのは、下らぬ習わしに異を唱えている世継のシエンだけだ。
そのときが来たら、通達だけはするつもりだ。文句は言わせんし、干渉もさせん。」
「アタル、違うのや。実際のところは、勘当と言う体にした武者修行や。獅子がわが子を千尋の谷に突き落とすと言う、あれやな。」
「ふん。バカバカしい。分家は百獣の王の獅子気取りか。とにかくふたりは俺が面倒を見る。取り返したくば腕ずくで来ればよい。存分に相手をしてやる。」
「誰もそんなことは言うてへんがな。まぁそないに熱くなるなや。」
「すまん。夜にふたりで泣いてることもあるし、不安がって俺のベッドにもぐり込んで来ることもあるのだ。不憫でならん。分家の権座主を一発、いや、ふたり分で二発だな。ぶん殴ってやりたいと言うのが俺の本音だ。」
「随分、情が移っとるやないか。」
「当たり前だ。あれだけ頼られてみろ。守らなくてはと思うし、俺はすでに身内だと思ってるからな。」
「ふむ。まあ、機会があったら伝えといたるわ。」
「ところでこれから古都に行くのだが、宝物殿に直に行った方がいいかな?それともギルドを通した方がいいかな?」
「どちらも同じやな。古都ギルドのギルマスは帝家宝物殿の館長でもある。ギルドと宝物殿は隣接しとるんや。」
「どんな奴だ?」
「それは会うてのお楽しみや。」サンキのこのワクワク顔、何かあるな。
「ほう。そりゃ楽しみだな。
ついつい長くなった。忙しいところをすまんな。サンキさんには本当に感謝している。これからもよろしく頼む。」
俺たちは固く握手して、俺はギルマスルームを後にした。
俺は、西都から古都に行く途中にある、森や平原での討伐クエストをふたつ受けた。南の平原で猛猪3頭討伐、南の森の大烏4羽討伐と群れの追い払いだ。
チフユはひとりでは無理じゃないかと心配してくれた。まぁ、何とかするさ。成果は古都のギルドで報告することになる。
西都の町中を南下し、平原に出た。お、早速、畑を荒らしてる猛猪が2頭いるではないか!ライ鏑で雷属性を纏わせた雷撃矢を放ち、瞬殺にした。感電死した猛猪2頭を収納腕輪に入れる。
しばらく行くとまた猛猪2頭だ。1頭多くなるがいいか。今度はウズ鏑で水属性を纏った水撃矢を放った。激流に飲み込まれ、溺死した猛猪2頭を収納腕輪に入れる。順調だ。実に順調だ。
その後、昼過ぎに、西都と古都のほぼ中間の森で、烏の群れを発見。烏の群れは、一斉に飛び立って、俺を威嚇して来たのだが、群れのボスと思しき大烏4羽を、次々に射殺して撃墜したら、慌てて霧散して行った。ふん、口ほどにもない!大烏4羽も収納腕輪に仕舞った。
古都はもうすぐだ。が、間もなく日が暮れる。日暮れ前に着くのはちょっと厳しいか?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/4/24
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№53 古都へ
朝餉の席は針の筵であった。
「昨日はそのー、眠ってしまったようで…。」
「アタル、あれは酔い潰れたと言うのよ。覚えときなさい。」はい。肝に銘じます。
「寝首…掻かれる…。統領…失格…。」返す言葉もございません。
「アタルは、なかなか懲りないのだな。」素面のときは懲りてるのですが、呑むと忘れてしまうのです。
「運ぶの、大変でした。」お手数をお掛けしました。
「アキナと運んだのよぉ。重かったわぁ。」歩いてたつもりだったのですが、引きずられてたんですね。
「本当に、すみませんでしたー。」
キョウちゃんズがニヤニヤしている。こいつらも、加わってたんだろうか?それだけはなかったと思いたいが、こんなこと、聞くに聞けねー。
今日の夕刻には、キノベから派遣されて来るふたりが到着する予定なので、サヤ姉、サジ姉、ホサキ、キョウちゃんズの5人は、今日まではクエストに行くが、アキナとタヅナはユノベに残り、アキナは叔父貴たちから弓の技を学んで、タヅナはユノベの馬に関する施設を点検しつつ、キノベ勢の受け入れ態勢を整える。
俺は流邏石を駆使して、古都の帝家宝物殿に行く。
東都でサンキとチフユに手土産を買い、名府、西都の順に飛ぶ。西都でサンキに、勅許を手に入れたことへの礼を言い、キョウちゃんズの近況を報告。それから古都に行く。
古都に着くのはおそらく夕刻なので、場合によっては古都に泊まることになる。何らかの理由で滞在が伸びても、3日目の晩には一旦ユノベ本拠へ戻る。
俺とクエスト組5人は東都ギルドへ飛んだ。ギルドで5人と別れ、山髙屋東都総本店へ向かった。あそこなら土産物は何でもある。可能なら、社長にも挨拶に行こう。
総本店に着いて、受付で社長の都合を聞くと、受付のふたりは、訝しそうな目で見て来て、
「本日、社長は商談で外出しております。」それなら仕方ないか。
それにしても今日の受付は愛想も悪いし、応対も粗略で印象悪いな。
「そうか。社長が戻られたら、ユノベのアタルが来たと伝えてくれ。」
受付ふたりは血相を変えてガタっと立ち上がった。
「すぐお繋ぎいたします。」なんだと?
「待て。あんたらは今、社長は外出してると言ったよな。」
「申し訳ありません。」ちっ、ふざけやがって。
「よい。会わずに帰る。居留守は不愉快だと社長に伝えよ。」
「社長は居留守を使っておりません。おかしな客もいるので、私たち受付で選別しているのです。」
「そうか。俺はあんたらの眼鏡に適わなかったと言うことだな。だったら構わんよ。」
「そんなことを仰らずに。」
「ひとつ聞く。選別しろと言うのは社長の指示か?」
「いえ…、あの…第3番頭です。」嘘だな。ハンジョーがそんなことを言う訳がない。
「どう言う基準で選抜しろと指示されたのだ?」
「それは…。」俺はふたりの名札をチェックして名を覚えた。
「ユノベのアタルと言うのは嘘だ。」
「え?」明らかに動揺する受付ふたり。
「そなたらは第3番頭の指示通りに動いたのだ。問題はなかろう。そして俺はユノベ・アタルを語る、あんたらが言うところの不審な客だ。それでいいのだろう?」
「「…。」」返事に窮している。
「舅どのは客の選別などせぬ。そなたらの話が本当なら、第3番頭は越権も甚だしいな。舅どのにはよく言っておく。それからハンジョーも叱らねばならぬな。俺が知っているハンジョーはそんなことをせぬが、どうやら慢心してるようだ。」俺はハンジョーもよく知っていること匂わせ、踵を返した。
「「お待ちください。」」待たねーよ。
社長も西本店店長の専務も、非常に腰が低かった。が、受付がこれではな。今までの受付はよかったからこいつらふたりが問題なのだ。おそらくは、山髙屋総本店の受付となり、天狗になっているのだろう。
山髙屋の評判がいいのは、社長以下、従業員が丁寧な接客を心掛けている、その努力の賜物だ。それをぶち壊すこう言う奴らは、受付には向かぬ。
しかし従業員の落ち度は社長の落ち度。きっと舅どのはそう言うに決まってる。あの社長の下ですらこう言う奴らが出るのだから、上に立つ者はよほど目を配らねばならぬな。
俺は店の外まで追いすがって来た受付ふたりを振り切って総本店を後にした。
土産は佃煮か人形焼を考えてたのだが、結局それぞれの専門店で両方買ってくことにした。サンキとチフユのふたり分だ。
専門店で土産を買って、流邏石で名府ギルド、西都ギルドと連続で飛んだ。
西都ギルドに入ると、ヤマホウシのクラマとウジと他ふたりがいた。こいつらが残りのふたりか。
あれ?なんと俺を避けてたクラマが寄って来たぞ。
「アタルはん。」アタルはんだと?いつの間に敬称付になったのだ?
「何か用か?」
「その節は、ホンマにご迷惑をお掛けしてしもて。」深々と頭を下げるクラマ。
「どう言う風の吹き回しだ?」
「キョウちゃんズは、東都で元気にやってまっしゃろか?」
「ああ。今日もクエストに行ってるよ。」
「そうでっか。ホンマによかった。クラマが詫びてたと、伝えてもらえまへんやろか?」ほう、多少は反省したようだな。
「おう、引き受けた。」
そこへウジもやって来た。
「アタルはん、クラマはあれから大層反省しよりましてな、ヤマホウシのリーダーも降りましたわ。」
「そうなのか。」ちょっと意外だ。
「ウジの渾身の一発で眼が覚めましたよって、リーダーはウジに引き受けてもろたんですわ。わしはリーダーの器やあらへん。」
「そうか、反省したのか。クラマよ、そう言う心根で精進すれば、俺に巻き上げられた分はすぐに戻って来るだろうよ。」
「おおきに。精進しますわ。」根はいい奴だったんだな。
その後、ウジの下で、地道に取り組んだヤマホウシは、西都屈指のパーティにのし上がって行き、クラマもウジの右腕として名を馳せることになるのだが、これは後日譚。
受付に行くとチフユがいた。相変わらずでけぇ。でもアンバランスだ!俺はパス。笑
「あら、アタルさん、お久しぶりです。キョウちゃんズは元気でやってますか?」
「チフユさん、久しぶり。キョウちゃんズは今日もクエストに行ってるよ。これ、東都の土産な。サンキさんに繋いでくれ。」
「ありがとうございます。あ、佃煮と人形焼じゃないですか!西都ではなかなか手に入らないんですよ。商都まで行かないと。ちょっと待っててくださいね。」
チフユはサンキの所へ行き、俺はすぐギルマスルームに通された。
「アタル、よう参ったな。」
「サンキさん、東都の土産だ。」
「ほ。佃煮と人形焼やの。おおきに。どちらも商都でないと手に入らんのや。佃煮はアテにええ。今夜の晩酌が楽しみやなぁ。」
扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。相変わらずだ。
「それと、この通り。サンキさんのおかげだ。」俺は勅許を取り出して、頭を下げた。
「なんの。わしは紹介状を書いただけや。勅許を得たんはアタルの力やで。しかもあの次ノ宮殿下をやり込めたそうやないか。」
公家の情報網は速い。俺は舌を巻いた。
「いやいや、やり込めたんじゃないぞ。諫言したら、殿下が取り上げてくださったのだ。」
「あの宮は奔放での。侍従らも手を焼いておるのやが、聞く耳を持っとることと、下々に気さくに声を掛けるのが、好ましい資質やな。」
なるほど、確かにその通りだな。そう言えば、衛士のサエモンも同じことを言ってたよな。
「ところでキョウちゃんズは元気にしとるか?」
「まあ元気にはしてるんだが…。」
「なんや?気になることがあるんか?」
俺は、最近のキョウちゃんズの俺への依存をサンキに語った。
「とにかく甘えて来て俺にベッタリなのだ。勘当からこの方、ふたりきりで気を張って来た反動だと思う。それに故郷を遠く離れてるのも大きいんじゃないかな?」
「そうやったんか。」
「それと先日話した陽の術を得る条件だがな、ふたりが成人してなお望むなら、俺はやぶさかではない。もちろん男としての責任は取るつもりだ。そのこと、オミョシ分家に通しておいてもらえると助かる。」
「また難儀な話やな。」
「サンキさん、気が乗らんのなら別にいいんだ。分家はふたりを勘当しといて文句を言えた義理ではないからな。古からの習わしか何かは知らんが、分家でまともなのは、下らぬ習わしに異を唱えている世継のシエンだけだ。
そのときが来たら、通達だけはするつもりだ。文句は言わせんし、干渉もさせん。」
「アタル、違うのや。実際のところは、勘当と言う体にした武者修行や。獅子がわが子を千尋の谷に突き落とすと言う、あれやな。」
「ふん。バカバカしい。分家は百獣の王の獅子気取りか。とにかくふたりは俺が面倒を見る。取り返したくば腕ずくで来ればよい。存分に相手をしてやる。」
「誰もそんなことは言うてへんがな。まぁそないに熱くなるなや。」
「すまん。夜にふたりで泣いてることもあるし、不安がって俺のベッドにもぐり込んで来ることもあるのだ。不憫でならん。分家の権座主を一発、いや、ふたり分で二発だな。ぶん殴ってやりたいと言うのが俺の本音だ。」
「随分、情が移っとるやないか。」
「当たり前だ。あれだけ頼られてみろ。守らなくてはと思うし、俺はすでに身内だと思ってるからな。」
「ふむ。まあ、機会があったら伝えといたるわ。」
「ところでこれから古都に行くのだが、宝物殿に直に行った方がいいかな?それともギルドを通した方がいいかな?」
「どちらも同じやな。古都ギルドのギルマスは帝家宝物殿の館長でもある。ギルドと宝物殿は隣接しとるんや。」
「どんな奴だ?」
「それは会うてのお楽しみや。」サンキのこのワクワク顔、何かあるな。
「ほう。そりゃ楽しみだな。
ついつい長くなった。忙しいところをすまんな。サンキさんには本当に感謝している。これからもよろしく頼む。」
俺たちは固く握手して、俺はギルマスルームを後にした。
俺は、西都から古都に行く途中にある、森や平原での討伐クエストをふたつ受けた。南の平原で猛猪3頭討伐、南の森の大烏4羽討伐と群れの追い払いだ。
チフユはひとりでは無理じゃないかと心配してくれた。まぁ、何とかするさ。成果は古都のギルドで報告することになる。
西都の町中を南下し、平原に出た。お、早速、畑を荒らしてる猛猪が2頭いるではないか!ライ鏑で雷属性を纏わせた雷撃矢を放ち、瞬殺にした。感電死した猛猪2頭を収納腕輪に入れる。
しばらく行くとまた猛猪2頭だ。1頭多くなるがいいか。今度はウズ鏑で水属性を纏った水撃矢を放った。激流に飲み込まれ、溺死した猛猪2頭を収納腕輪に入れる。順調だ。実に順調だ。
その後、昼過ぎに、西都と古都のほぼ中間の森で、烏の群れを発見。烏の群れは、一斉に飛び立って、俺を威嚇して来たのだが、群れのボスと思しき大烏4羽を、次々に射殺して撃墜したら、慌てて霧散して行った。ふん、口ほどにもない!大烏4羽も収納腕輪に仕舞った。
古都はもうすぐだ。が、間もなく日が暮れる。日暮れ前に着くのはちょっと厳しいか?
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設定を更新しました。R4/4/24
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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