射手の統領

Zu-Y

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射手の統領050 トウラクと意気投合

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射手の統領
Zu-Y

№50 トウラクと意気投合

 昼餉が終わって、休憩した後の午後の騎乗稽古は、軽速歩だ。これは手前を合わせるのがポイントだ。
 つまり、速歩で進む馬の、外側の前脚が前に移動したとき=内側の前脚に体重が乗ったときに、鐙の上に立つ感じで腰を鞍から浮かせ、内側の前脚が前に移動したとき=外側の前脚に体重が乗ったときに、腰を鞍の上に戻すのだ。このとき、腰を鞍にドスンと落とすのはNGだ。

 慣れて来たら、鞍に立ったまま、膝の曲げ伸ばしによる上下動だけにして、腰を下ろした際に鞍に触れるか触れないかの所にするとよい。
 立つときは腰を前に押し出すようにするのだが、ぶっちゃけて言うと、ナニするときの、奥まで突く腰使いに似ているのだ。これをタヅナに言ったら軽蔑されるので絶対に言わないがな。トウラクならきっと分かってくれると思うから、タヅナに内緒で、後でこっそりトウラクに言ってみよう。笑
 体重はやや前に掛けるといい感じだ。

「いいぞ、アタル。頭が後ろに流れる癖も、鐙を前に押し出す癖も出ていない。手綱を引く癖はたまに出るな。気を付けろよ。」
 俺は手綱をできるだけ緩める。
「そうだ、バランスもいいぞ。手綱に頼る癖を出さないために、手綱を離してみろ。」
「兄上ぇ、危ないわぁ!」
「大丈夫だ。アタルならできる。」

 そう、俺は騎射をするために両手は常にフリーの状態にしてなきゃいかん。トウラクは、俺が昼餉のときに相談したこの話を覚えてて、この指導をしてくれているのだ。俺は思い切って手綱を離した。

 うん、いい感じだ。俺は両腕を真横に拡げて大の字になった。よし、これも大丈夫だ。しばらくその姿勢を続けてから、弓を引く動作に切り替えた。打ち起こし、大三から引き分け、会、離れて残身。いい感じだ。
「いいぞ、そうやって自分で練習を工夫しろ。」
 その後、速歩での方向転換からスラロームをこなした。しっかりと俺の合図に反応して、思い通りに動いてくれる。
 午後の稽古3時間があっという間に過ぎた。それにしても騎馬はかなりの運動量だ。もうヘトヘトだ。

 俺は稽古を終えて、タマヒビキという名のこの馬に非常に愛着を感じた。
「アタル、お前はほんとに筋がいい。上達も速い。馬の技が不得手だというのが信じられん。」
「トウラク、ありがとう。本当に分かりやすい指導だった。それとこの相棒がとにかく俺の希望通りに動いてくれた。今日、丸1日付き合ってもらった礼に、ブラッシングをしてやりたいのだが、いいだろうか?」
「ユノベの次期統領がそんなことをするのか?」
「それは関係ないぞ。タマヒビキに感謝の気持ちを伝えたいのだ。」
「私が手入れの仕方を教えますぅ。」
「はいはい、邪魔者は消えますよ。」トウラクは笑って引き揚げて行った。
 それから俺とタヅナは、ふたりっ切りでおよそ1時間、タマヒビキの世話を行った。

 汗だくになったのでシャワーを浴び、トウラクに挨拶に行った。
「トウラク、今日は世話になった。また明日来るのでよろしく頼む。」
「なんだ、帰るのか?泊ってけよ。アタルは行ける口なんだろう?」
 トウラクは手酌の仕草をする。
「まぁ好きな方だが…。」
「タヅナ、お前も付き合え。
 アタル、これならいいだろう?」
「分かった。無断で泊まると、ユノベ本拠が大騒ぎになるから、ちょこっと戻って伝えて来る。」

 俺は流邏石でユノベ本拠に飛んだ。
「あ、若、お帰りなさい。」
「キノベの世継と意気投合してな、あちらで呑むことになった。今夜はキノベに泊まるから、叔父貴どのたちに伝えておいてくれ。」
「承知しました。」
「ところで俺の嫁たちは帰館したか?」
「はい。ギルドの討伐クエストをいくつかこなして来たようです。」
「そうか、今度詳しく話を聞かせろ。と伝えてといてくれ。」
「承知しました。」
「ではな。」
「若、呑み過ぎには、要注意ですぜ。」ニヤリとする家来。参ったな。苦笑

 俺は流邏石で東都に飛び、酒とつまみを仕入れて、ミーブに飛んだ。
 トウラクもごっそり酒を用意していた。つまみは厨房に注文しているのでじきに届くそうだ。ビール、焼酎、ワイン、和酒、ウィスキーと揃っている。
 トウラクの部屋で、俺とトウラクとタヅナは酒盛りを始めた。取り敢えずビールで乾杯だ!
 いろいろな話題で盛り上がる。

「なぁアタル、今の世は戦がない。野盗や獣の被害はあるが、古の戦国に比べれば平和だ。俺は騎馬隊を鍛え上げているが、虚しくなるときがある。お前はそう言うことはないか?」トウラクは杯をあおる。俺は注いでやった。
「ないな。平時の際は、有事に備えて武を磨くのがわれら武家の務めだ。鍛錬を怠って弱体化したら、有事の際に帝家や民を守れん。でも俺たちが訓練だけというのはいいことだぞ。世が平和ということだ。」俺も干す。トウラクが注ぐ。

「やはりアタルは次期統領だな。世継候補の俺とは心構えが違う。」
「トウラク、何を言っている。キノベの騎馬隊は古今無双だ。それを鍛え上げたのはトウラクだろう?」トウラクに杯を掲げ、ふたりで呑み干す。タヅナが、トウラク、俺の順に注いだ。

「しかし、アタルは空しくならんのだろう?」
「それは七神龍攻略という目標があるからだ。」
「俺は、騎馬隊を鍛えているが、その騎馬隊に活躍の場はない。一方、姉上やタヅナの陸運は着実に成果を上げている。」
 トウラクが杯をあおったので、俺が注いでやる。

「騎馬隊にも活躍の場はあるだろう?陸運の護衛に付ければいいではないか。」
「騎馬隊に陸運のお守をせよというのか?」
「お守ではない。実戦訓練だ。商都への護衛の旅でな、タヅナは荷馬車3台に、騎士と馬を5組用意した。3組は荷馬車を引く馬車馬、残りの2組は騎馬だ。ところがこの騎馬が万能なのだ。機動力を生かして、護衛、斥候、伝令、戦闘、何でもこなした。」
「タヅナ、それは真か?」
「兄上がぁ、騎馬隊を貸してくれないからですよぉ。アオゲとアシゲに騎馬をやらせましたぁ。」
「ふむ。あいつらなら十分以上に騎馬もこなしたであろうな。」

「なあ、トウラクよ。ユノベは山髙屋と提携した。ユノベは山髙屋の商隊の護衛を引き受けるが、食費と宿泊費のみで、護衛の費用は取らん。」
「ただ働きか?」
「違う。実戦訓練だ。今はユノベで行っている実戦訓練をな、食費と宿泊費を山髙屋に持たせて、商隊護衛でやらせるのだ。山髙屋は護衛の費用はいらぬと聞いて、破格の条件だと思って喜んでいる。」
 俺はニヤリと笑って杯を干した。すぐにトウラクが俺の杯を満たす。

「なるほど。物は考えようということか?」
「この実戦訓練の着想はな、商都への旅での、タヅナのタヅナ隊運用が大いに参考になっている。七神龍攻略のための馬車の馬を、状況に応じて馬車から外して騎馬運用する発想もな、出発点はタヅナのタヅナ隊運用だ。」
 俺はタヅナに向かって杯を掲げ、呑み干した。すかさず満面の笑顔のタヅナが注いでくれた。
 トウラクは考え込んでいる。護衛は実戦訓練と言う俺の考えを咀嚼しているのだろう。しばらくして、
「ありかもしれんな。」と呟いた。それからも3人で杯を重ねた。

「なぁ、アタルよ。お前は古の大合戦に、自分が大将として出たら、と考えたことはあるか。」
「もちろんある。」俺が一気にあおると、トウラクが注いだ。
「そうか!あるか。俺はいつも考えている。お前は大合戦に際してどのような手配をするか?」
「俺は、まず輜重の手配、それから医薬士の手配を考える。そして最近は陰士の手配も加えるな。」

「なんだと?主力部隊の編成ではないのか?」
「もちろん主力部隊の編制も考えるぞ。でもそれは最後だな。」
「最初じゃないのか?」
「違うな。古の大合戦なら、俺の手駒は万単位の軍勢だ。こいつらをベストの状態で戦わせるためには飢えさせてはいかん。飢えた豪傑など、満腹の雑兵数人で倒せる。腹が減っては戦ができぬと言うではないか。」
「それはそうだが…。」
「それから、大軍同士の決戦だから持久戦の消耗戦になる。どんなに強い軍でも、回復がなければ持たん。最近は、陰士のデバフとバフの効果が、戦局に大きな影響を及ぼすことを目の当たりにしたのでな、陰士の手配も外せぬ。」
「そうだな。確かにそうだな。」杯を見つめて考え込んでいたトウラクが、一気に干した。俺がその杯を満たす。

「俺は大戦を指揮するなら、キノベは絶対に仲間にする。騎馬隊の機動力、突撃、遠距離斥候も大きな魅力だ。それに、輜重隊をより早く動かせる。」
「すると戦時でも姉上の陸運は重要なのだな。」
「姉上のと言うがトウラクのでもあるのだぞ。」
「いや、俺は騎馬隊だけだ。」
「何を言っている。ハミどのは遠からず嫁に行くであろう?さすれば、トウラクが陸運も仕切らねばならぬではないか?」
「いや、姉上が婿を取ってキノベを継ぐことだってできる。」
「姉上はぁ、兄上がキノベを継ぐのを望んでますよぉ。」
「なんだと?しかし最近、世継候補に格上げされたではないか?」
「それはぁ、父上が勝手にやったことですぅ。姉上はぁ、これでまた婚期が遅れるとぼやいてますぅ。」

「トウラクよ、陸運も手伝ってやれ。早くハミどのを解放してやるのが一番だ。」
「しかし姉上の次はタヅナがいるではないか。」
「お忘れですかぁ。私が先に嫁くんですよぉ。それで姉上はぁ、余計に焦っているのですぅ。」うふふ。とタヅナが笑ってクイっと呑んだ。俺がすかさずタヅナに注ぐ。

「キノベでは、騎馬隊と陸運の両方を掌握してこその統領であろう?トウラクよ、お前は世継として陸運も掌握しろ。俺はユノベを継ぐ。そして俺たちは馬が合う。将来、お前がキノベを継げば、こんなに心強いことはない。」
「そうか、馬が合うか。そうだな。俺たちは今日が初対面なんだよな。しかしアタルとは昔からの友のようだ。」俺たちは杯を上げて、共に干した。

「タヅナ、姉上も呼んで来い。」
「これからですかぁ?」
「そうだ。すぐに来なければこちらから押し掛けると言え。」
「そんな強引なぁ。分かりましたよぉ。」タヅナが部屋から出て行った。ハミを誘いに行ったのだ。

 しばらくしてタヅナがハミを連れて来た。
「トウラク、何ごと?」
「姉上、アタルは面白い奴でしてね、姉上とも話が合うんじゃないかと思います。さぁさぁ、座ってください。何を呑みます?」
「あ、お邪魔してます。」俺はハミにぺこりと頭を下げた。
「じゃぁ、和酒を一杯だけ。」
「え?いっぱいですか?どうぞ好きなだけ呑んでってください。」トウラクは、困惑しているハミに、笑い転げながら和酒を注いだ。おい、こぼすな。笑
「トウラク、何だよそれ。面白ぇな。俺もユノベの宴で使わせてもらうぞ。」俺は笑い転げた。まぁフリなんだけどな。あれ、酔ってるせいで、フリなのにホントに面白くなって来やがった。

「姉上。アタルはね、陸運も騎馬隊と同じくらい重要だと言うんですよ。俺はアタルの話を聞いてましてね、悔しいがストンと腑に落ちてしまいました。」
「では、トウラクも陸運を手伝ってくれるの?」
「はい。もちろん騎馬隊の鍛錬が1番ですが、2番目に、いや、1.5番目に陸運もやりますよ。」
 トウラクがハミに杯を掲げると、ハミがそれに杯をコツンと当てた。そしてふたりで干す。いい眺めだ。タヅナも微笑んで見守っている。

 痛飲したトウラクはそのまま横になって眠ってしまった。あらあらと、ハミがトウラクに布団を掛ける。
 ハミとタヅナは何度も何度も俺に礼を言って、自分たちの部屋に帰って行った。俺はトウラクの部屋でゴロンと横になってそのまま眠った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/4/17

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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