射手の統領

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射手の統領030 小父さんの過去

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射手の統領
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№30 小父さんの過去

 夜中の1時、サンファミと夜警を交代した。ぐっすり眠ってた3人は元気であるが、俺は一睡もできなかったせいでどんよりとしている。
「あらアタル、ひょっとして眠れなかったのね。」
「うん。」
「言って…くれば…いい…のに…。」
「さすがにテントの中じゃ、無理でしょ。」
「ならば、今夜、お世話をしようぞ。サヤとサジにいろいろ伝授されてるからな。」
「ありがとう。」
 ホサキよ、チガサで俺の言うなりだった可憐なお前はどこに行った?いつから肉食になったのだ?あのとき、俺に襲われて震えていたカモシカは、今や俺を襲う、獰猛なチーターになってしまったのだな。
 ま、俺としてはその方がいいけどな♪

 今夜の楽しみに胸を膨らませ、眼が冴えた俺は、ご機嫌で巡視を行っていた。

 いわゆる泣く子も黙る丑三つ時。ボーっと出て来る数体のユラメキ。なにあれ?ゴーストか?ゴーストだ!
 ゴーストなら、現世うつしよならざる幽世かくりよからの妖なので、僧侶か神職か陰陽士でなくてはダメだ。あ、ライの雷属性なら効くかも。
 俺はすぐ嫁3人に伝え、警笛を鳴らした。
 交代してまだ1時間、寝入バナで申し訳ないがサンファミのオミョシが必要だ。
「どうした、敵襲か?」ジュピがすぐ出て来た。
「交代直後にすまん。ゴーストだ。」俺が指さした方をジュピが見る。
「なるほど、丑三つか。確かに俺たちの出番だ。プル、マズ、ゴーストだ。」
「雷撃矢は効くか?」
「発光するからある程度は効くと思うぞ。」

 ジュピとプルとマズは3人で呪を唱えた。
 呪は、オミョシが術の前に取得する正しくオミョシ入門編なのだが、式神も呪で飛ばすし、高度になると除霊もできる。今、ジュピたちが行っているのが、ゴースト対策の除霊だ。
 俺も雷撃矢を試したら、除霊には及ばないが、そこそこは効果があった。

 え?何だと!アキナも除霊の呪を使いこなしているではないか。いったいどう言うことだ?
 村人も起きて来て、村長が村の僧侶と神職を動員し、商隊と村人の協力により、小半時でゴーストは全滅、被害ゼロ。

「いんにゃー、旅のお方ぁー。いち早くゴーストに気付いてくりたぁーで、助かったでやー。」
 村長は第一発見者の俺の手を握りシェイクシェイクだ。俺の手を取って上下にブンブン振っている。苦笑
「村長さん、ゴーストはよく出るのか?」
「たまにだがやー。」
「そりゃ難儀だな。昔なんかあったのかな?」
「おや、旅のお方はご存知にゃーがやー?ここはほれ、その昔、白の軍の統領が配下の裏切りに会うたところの近くだぎゃーよー。だもんでよー、毎年、鎮魂祭を盛大にやるぎゃーよー、この一帯はどこでも出よるだぎゃー。ゴーストが出るぎゃーは、そろそろ祭をやれーっちゅー催促のようなもんだでやー。」
「え?そんな程度なのか?」
「いやいや、鎮魂祭をやらにゃーと、災厄に見舞われるでよー、放置はできにゃーがやー。それにゴーストが出ったら、すぐに除霊しにゃーと、不幸なことも起こるでやー。」
「しかし、昔のせいで今だに大変だな。」
「鎮魂祭で人が集まれば地域が潤うでやー、一概に迷惑とは言えにゃーのよー。歴史も含めてこの地域だでやー。」
「なるほどな。」

 改めて眠るにはすでに中途半端な時間だし、早めの朝餉を済ませて、明け方にナルーを出発した。
 今日は、未明に戦闘があったから、御者の練習はなしだ。昨夜、眠れなかったこともあり、ついついあくびが出てしまう。これじゃあいかんぞ!

 紅の軍と白の軍の戦いか。
 和の国の歴史は長い。古の言い伝えによると、和の国の歴史では何度も大乱があるが、そのひとつに、和の国中の武家が、紅の軍と白の軍に二分して長いこと戦った時期がある。
 紅の軍と白の軍の統領同士の最初の直接対決が西都であり、敗退した白の軍の統領が、巻き返しのために東北和へ撤退する途中、この近くを拠点とする配下に討ち取られたのだ。その配下は、紅の軍に内通していた。白の軍の統領が討ち取られた場所は、諸説あるがすべてこの辺りで、そのうちのひとつは、今夜宿泊したナルーの近くだそうだ。

 とにかくこの和の国の歴史は、戦乱と平和の繰り返しだ。
 帝の祖先と言われる太陽神が弟神を派遣して土着神の長を討った戦い。
 お公家の祖先と当時の帝太子が組んで、帝家を上回る最大勢力の土豪の長を討った戦い。
 今回のゴースト騒動のきっかけとなった、紅の軍と白の軍の戦い。
 帝家が南帝家と北帝家に分かれて帝位を奪い合った戦い。
 帝家と、お公家と、武家をまとめた上げた武家の棟梁、将軍家の、跡目争いが絡まりに絡まって、敵味方が入れ替わりながら延々と続いた戦い。この戦いは群雄割拠の戦国時代を招いて和の国がいくつにも割れた、和の国史上一番の大乱だ。
 そして、西国諸侯を中心とした連合軍が、武家をまとめた将軍家から帝に親政を取り戻した戦い。
 大きなところではこんなところだが、それ以外にも小競り合いならいくらでもある。

 ライによると、その都度、七神龍が和の国の大戦乱を収めるのに、裏でひと役もふた役も買ったそうだ。実際にどうやったかと言うと、そろそろ鎮めようかなと思ったとき、見所のある奴の眷属になって、そいつに鎮めさせたんだとか。

 じゃぁ、俺はそう言う奴なのかと、期待を込めて聞いたら、『分からん。』とバッサリだった。泣
 少なくとも、今は平和な時代だが、大獣、猛獣、妖獣の出現率が異常だから、人同士ではない大乱になる可能性はあると言う。まぁそうなったらなったで、慌てずに対処すればいいだろう。なんたって俺にはライがいるし、セプトの皆もいる。

 あ、思い出した。
「そういえばさー、何でアキナは呪を使えるんだ?しかも除霊の呪って、かなり高度なんだろ?」
「実はママが元巫女でして、ママから教わりました。」
「じゃぁアキナも巫女ができるの?」
「いえいえ、ママから教わっただけなので、いくつかの呪だけで、本格的な修行はしていません。」
「しかし山髙屋の小父さんと巫女さんってどうやって出会ったんだろ?」
「パパが商売繁盛のお参りに行って、巫女をしてたママを見初めたそうです。」
「へぇ。小父さんやるなー。」

「でも、商売にのめり込んだパパとのすれ違いで、5年前に別れちゃいました。」
「え?」
「パパは、ママの不満に気付かずに、仕事に打ち込んでました。仕事をするのがママや私のためだって思ってたそうです。ママの爆発でパパはようやく気付きましたが、時すでに遅し。アタルも、しっかりお嫁さんたちを構ってあげないとダメですよ。」
 俺はブンブンと頷いた。

「お母さんは、今はどうしてるの?」
「東都に住んでるのでたまに会います。パパからの財産分与で悠々自適な生活を送ってますよ。」
「小父さんは迎えに行かなかったの?」
「何度も行きましたけど、もうああなったらママはダメです。」
「小父さん、ちょっと可哀想かな。」
「ええ、端で見てるのが可哀想なくらいの落ち込みようでした。私の前でもおいおい泣きましたから。」
「うんうん、何とかしてあげたいなぁ。」

「でもそのボロボロのとき、行きつけのスナックに慰めてもらいに行って、義姉さんと出会ったんです。」
「え?そう言う展開?」
「義姉さんも元カレに振られたばかりで似た境遇でしたからねぇ、その日のうちに男と女の関係になったそうです。」
「ちょっと、何でそんなに詳しく知ってるの?」
「パパはしゃべりませんよ。義姉さんとマスマのことを、私に隠してるくらいですから。私たちは、義姉さん、お嬢、の仲ですからね。」
「なるほど。女子会で筒抜けな訳か。で、お母さんは何と?」
「どうでもいいそうです。いわゆる無関心ですね。だから、アタル、何とかしなくていいですよ。」
 あ、そりゃもうダメだ。愛の反対は憎しみではなく無関心だと言う。
「そうみたいだね。」
「アタルは大丈夫ですよね。」
「もちろん。」と答えたが、その根拠はまったくない。
 タヅナも真剣に話に聞き入っていた。何か、同じような心配事があるのだろうか?

 そうこうしているうちに、昼前には名府に差し掛かった。
 名府は、各地方に1つある中心都市で、中和の中心都市だ。名府ギルドで、トバシの町を出てすぐに襲って来た猛鳶5羽、ナルーの農村で退治したときに獲得したゴーストの残滓の結晶を換金した。金貨1枚と大銀貨2枚になった。
 ついでに名府ギルドで流邏石を1個登録しておいた。今後、東都と西都を緊急移動するときに、名府は中継点として使える。

 昼過ぎには今夜の宿泊地、オーガの町に到着。早朝出発したせいだ。山髙屋オーガ支店に荷馬車を入れ、近くの宿屋に入った。
 商隊長のアキナから、「明日は山峡越えなので、ゆっくり休んで下さい。」との指示が飛んで、宿屋で解散になった。俺たちはセプト部屋に行く。

 やはり昨夜の完徹は辛い。セプト部屋に入ると、嫁3人にお願いして、今日だけ先にシャワーを浴びさせてもらった。シャワーを終えて、ベットに寝転んだ俺は、今夜のご奉仕に備えて軽く仮眠を取るつもりが、不覚にもそのまま翌朝の薄明まで爆睡してしまったのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/2/27

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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