射手の統領

Zu-Y

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射手の統領029 セプトの成長戦略

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射手の統領
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№29 セプトの成長戦略

 なんか目覚めが微妙だ。昨夜は眠れたことは眠れたのだが、ぐっすりと言う訳ではなかった。マイドラゴンは今朝も元気だ。そうか、またそろそろ抜かなきゃいかんな。もちろん安眠のために。

 トバシの町を出て早々、先頭車両が停止した。町の近くなのに何か出たのか?と訝しんでいると、アシゲが伝令に来た。
「マズの式神がやられた。理由は分からん。今、ジュピとプルが式神を飛ばしたところだ。ネプとアステは前方に展開して警戒している。」
 アシゲはさらに後尾車両への伝令に向かった。

 俺は中央車両の屋根に上って前方の様子を窺っている。見えるものと言ったら、平原とそれから空には鳥が数羽。両翼を広げ風に乗ってるから鳶かもしれんな。
 お、1羽がダイブしたぞ。急降下の後、地上スレスレで舞い上がった。何か獲物でも捕まえたかな?
 商隊の3車両が集結して停止し、セプトも配置に着いた。アオゲが来て、
「ジュピの式神もやられた。狙撃かもしれないから注意してくれ。」

 まさか!俺はジュピのところへ行って状況を聞いた。
「どの辺でやられたんだ?ひょっとすると1時の方向で200mくらいか?」
「そうだ。アタル、なぜ分った。」
「まさかとは思うが…、」
 俺は空を指さした。その先には、上空に舞う鳶5羽。
「つい今しがた、あのうちの1羽が急降下してから舞い上がって行った。」
「嘘だろ?そんなことが…。」
「プルの竜巻の術で追っ払ってみるか?」
「そうだな。」

 ジュピはプルに気力攻撃上昇の術を掛け、プルが竜巻の術を放った。気流の乱れにいったんは散った5羽だが、再集結してこちらを警戒している。と思ったら、突然2羽が急降下して来た。非常に好戦的だ。猛獣化しているな。プルが風壁の術で急降下を躱す。猛鳶2羽は再び舞い上がった。

 ジュピが、攻撃力上昇の術を掛けて来た。俺は動の的の要領で、雷撃矢で狙い撃つ。上空に向けてであり、距離もあるので、矢勢は落ちるが、狙い通り5羽の猛鳶の群れの中に飛んだ。猛鳶は矢筋を見極めた軽く躱した。が、しかし!
 猛鳶5羽のうちの2羽が上空で硬直して落下した。雷撃矢は躱したものの、雷撃矢が纏っていた雷属性で感電したのだ。混乱している残りの3羽に、雷撃矢を続け様に3本放った。3羽のうち1羽は3連射を躱しきれず直撃で撃墜、残り2羽も感電で落下。5羽の猛鳶をすべて落とした。

「アタル、凄いな。」ジュピが声を掛けて来る。
「ジュピの陰の術のお陰でな。」
「何を言っている?」
「本当のことだ。矢勢も飛距離も雷属性の強さも上がっていた。やはり陰の術の効果は凄まじい。おそらく3割増ぐらいの効果があると思う。」
「いや、そんなにはないが2割強はあるぞ。効果が3割もあったら俺は一流の仲間入りだ。」
「いや、十分一流だろうよ。」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、俺なんてまだまだだよ。」

 猛鳶5羽を回収し、商隊は出発する。やはり陰士の能力はすごい。目立たないが非常に有用だ。考え込む俺に、アキナとタヅナが話し掛けて来た。
「アタル、どうかしたのですか?」
「さっきからぁ、何を考え込んでるんでるのぉ?」
「いや、さっきもなんだけどさ、この護衛の旅でジュピの凄さが際立ってると思ってな。」
「さっきのはぁ、アタルの活躍よぉ。」
「いや、ジュピのバフのお陰なんだよ。あとライの力な。俺の力だけだとそもそも届かないし、直撃は5羽中1羽だけだ。」

「ジュピは、ことあるごとにアタルが凄いと言ってますよ。」
「ジュピはそう言う奴なんだよ。あるいは意識してそうしてるな。相手を立てて、自分が目立たないようにしてるんじゃないかな。」
「確かにぃ、そんなところはぁ、ありますねぇ。」
「サンファミの強さはそこだな。ジュピは決して表に出ないが、しかし仲間がジュピの凄さをしっかりと実感している。」
「ジュピさんも威張らないですからね。」
「どちらかと言うとぉ、メンバーからぁ、弄られてるわよぉ。」
「確かにな。ジュピも弄られるのが好きみたいだし。」俺たち3人は笑った。

「実は、セプトにもジュピみたいな陰士がいるといいなぁと思うんだ。」
「そうよねぇ。陰士がいればぁ、セプトはさらにぃ、バランスが良くなるわよねぇ。」
「そうなんだよ。もともと、サヤ姉の近距離攻撃力、サジ姉の回復力、ライの属性が付いた俺の遠距離攻撃力で、最初からバランス型だったんだけどさ、結成直後にホサキが加わって防御力が飛躍的に上がったお陰で、セプトのバランスはさらに良くなってるんだ。
 そこにこの後、タヅナが加わって機動力と輸送力、アキナが加わって調達力と交易力が大幅に増すからね。この上さらにバランスの向上を図るとしたら支援力、つまり陰士の獲得だな。
 ライとは違う属性攻撃もあればいいけど、それは七神龍の攻略で追々増えて行くから、陽士は必須じゃないんだ。」

「私たちも計算に入ってるんですね。」アキナとタヅナの眼がキラキラし出した。
「当然あてにしてるけど、いいんだよな?」
「もちろんよぉ。必ず父上を説得するからぁ。」
「キノベには馬の技を習いに行くつもりなんだ。そこもよろしく。」
「あらぁ、ユノベの統領がぁ、直々にキノベに学びに来るのねぇ。」
「タヅナ、俺は次期統領だよ。次期。流石に統領になったら行けないよ。
 キノベ本拠に直接乗り込んで、馬の技を学びながら、タヅナと一緒に御父上を説得して同盟に加わってもらうのさ。」
「心強いわぁ。」

「タヅナはもう地固めしてるみたいだしね。」
「え?何のことぉ。」
「タヅナ隊には根回しを終えてるだろ?ここんとこ、アオゲたちの視線が随分フレンドリーになってるぜ。」
「あ、ばれちゃってたぁ?でもぉ、アタルの力が大きいのよぉ。馬の技のコツを掴めたのはぁ、私のアドバイスのお陰だと言ってくれたのでぇ、うちの隊員のアタルへの印象がぁ、よくなってたんだけどぉ、そこへさらにぃ、荷馬車の馬を気遣う工夫がぁ、隊員たちにはとても好評なのよぉ。」
「でもあれって、もうすでにある工夫なんだろ?」
「既に使われていると言うことはぁ、効果的な工夫なのだけどぉ、素人のアタルがぁ、そこにすぐ思い至ったと言うのがぁ、うちの隊員の心を鷲掴みにしたのよぉ。」

「それなら、タヅナは上手く説得できそうですね。私は、アタルのお陰で、ハンジョーを味方に付けましたが、まだ五分五分です。どちらへ転ぶか分かりません。」
「ハンジョーはまだアキナを諦めてないから、全幅的には信頼しない方がいいぞ。小父さんからアキナの婿になって山髙屋を頼むと言われたら、すぐに転ぶだろうな。」
「そうなんです。ハンジョーは私を好きと言うよりは、私の婿になって山髙屋の次期社長になりたいと言うのが本音なんです。実はパパにも結構その気があって、それでハンジョーを商隊の副長に就けたのです。商隊顔合わせ前に、私のそばで私を守れと言ったのも、常に一緒にいるようにするためなんです。」
 あ、それでアキナは、顔合わせのときに、小父さんに対してあんなに目力を込めて抵抗した訳ね。笑

「ただし、ハンジョーは計算高いからな、もしマスマが跡継ぎになったら、アキナと結婚する意味は薄れてしまう。ハンジョーは、おそらくアキナが指摘したマスマの利発さに気付いているのだろう。
 アキナが俺を好きだと言ったのを聞いて、アキナの気性から、俺に嫁ぐと決めたら何が何でも小父さんを説得すると踏んで、応援する側に回ったんだと思う。アキナに恩を売りつつ、アキナの推薦で利発なマスマの後見になれば、次期社長は無理でも、ナンバー2にはなれる。うまく行けばマスマを傀儡にしてすべてを牛耳れる。」

「ハンジョーさんってぇ、そんな悪人だったのぉ?ショックぅ。と言うかぁ、ちょっと信じられないわぁ。」
「タヅナ、ハンジョーは悪人ではないぞ。あいつは善良だ。ただ野心があるだけだ。野心がある善人は、使いこなせば非常に優秀な手駒になる。小父さんは、ハンジョーを買っている。この旅を通じて、ハンジョーがアキナを口説き落として婿入りするもよし、アキナがバンジョーを制して優秀な手駒にするのもよし、と踏んでいるのだ。一番食えないのは小父さんだ。」
「筋が通ってますね。パパの考えそうなことです。」
「それなら、マスマを次期社長に就ける方向でアプローチすればいい。アキナは、マスマの母親とはいい関係なんだよな?」
「そうですね。義姉さん、お嬢と呼び合う仲です。」
「ならばそこを味方に付けるのが最初だな。」

「アタル、ありがとうございます。五分五分かと思ってましたが、持って行き方では状況は私たちに有利です。私が嫁ぐせいでマスマを鍛え上げなければならなくなる。ふふふ。パパにひと泡吹かせてやりましょう。」
 アキナはうれしそうだが、小父さんがその線を見落としてるとは思えない。アキナが山高屋に残ったとしても、マスマが優秀ならマスマも手駒に育てるはずだ。アキナが嫁ぐ相手が、会って間もない俺と言うのは想定外だろうがな。
「あとは小父さんが承諾しやすくなるように、俺が何か儲けの種を見付けられれば一番なんだけどな。」

 昼餉の後、俺はまた中央車両の御者をやらせてもらった。もうそれこそタヅナはベッタリで手取り足取り、アオゲとアシゲは巡回して来る度に、ニヤリと微笑んでいた。

 やがて商隊は野営地のナルーの農村に到着。村長宅に野営の挨拶をし、ナルーの農村の田んぼを一望できる小高い丘で野営に入った。今夜の夜警は、前回とは逆で、サンファミが先でセプトが後。

 午前1時の交代に向けて早めに寝よう。でもこのテントに4人はぎゅうぎゅうで密着せざるを得ない。マイサンはマイドラゴンに変身して暴れさせろと喚いている。もちろん実際には喚いてないけど、そう言う思念がドクンドクンと言う鼓動で伝わって来るのだ。
 なんでサヤ姉、サジ姉ホサキの3人はスヤスヤ眠れるのかな?俺は3人に背を向け、テントの生地に向かって、生地の目の数を数えながら眠くなるのを待ったが、眠くなる前に交代の午前1時になってしまった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/2/27

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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