射手の統領

Zu-Y

文字の大きさ
上 下
10 / 183

射手の統領007 新たな試練の内容

しおりを挟む
射手の統領
Zu-Y

№7 新たな試練の内容

 俺たち3人は霊峰の麓の樹海に来ている。たった今、雷撃矢によって、一発で大猪を仕留めたところだ。

 ライを眷属にしたことによる大きな収穫は、通常矢をライの金剛鏑(ライ鏑)に触れさせるだけで、通常矢による雷撃の属性攻撃が可能になったことだ。

 これで俺は、通常の弓矢による遠距離攻撃に加えて、弓矢による雷撃の属性攻撃が可能になった。雷撃だけなら、属性攻撃術に特化した陰陽師オミョシの陽士に匹敵する攻撃力を得たと言えるだろう。

 しかしそれよりもさらに貴重なのは、ライの神龍としての知識だ。もはやライは眷属と言うよりは、俺にとっては、尊敬する師匠と言う位置付けになっている。
 親父の仇が師匠と言うのは、冷静に考えると変かもしれないが、それだけライが惜しみなく与えてくれる知識が、俺にとっては眼から鱗なのだ。

 もともとライは、尊敬する親父を倒したと言うことで、一目置いていた存在だ。眷属であり、師であり、仲間だ。

 親しげにライ鏑の中のライと話す俺を見て、サジ姉もサヤ姉も、
「ライに…わだかまりを…持って…ない…。」
「アタルは柔軟よね。そう言うところは素直に凄いと思うわ。」
と、感心していた。

 この国は和の国と言い、海洋に浮かぶ島国で、大きな島は4島で大四島おおよしまと呼ぶ。
 俺たちがいるのは、大四島で最大の和の島わのしまで、弓なりの形をしているため、弓の島ゆのしまとも言う。大四島以外の小さい島は無数にある。

 和の国には帝都が2つあり、東都とと西都せとと言う。
 東都と西都の間が中和ちゅわ
 東都からは北に国土が伸びており東北和とくわ
 西都からはさらに西に国土が伸びており西和せわ
と呼ぶ。

 東北和のさらに北には2番目に大きい北の島=二の島にのしま
 西和のさらに西に3番目に大きい西の島=三の島みのしま
 西和の南に大四島で最小の南の島=四の島しのしま
がある。

 ライによると、ライのような神龍は7体いて七神龍と言い、この国の各地に割拠している。それぞれがライに匹敵するすさまじい力を有していると言う。
 七神龍とは、
 中和の東で東都の近くのフジの霊峰に黄金こがね龍のライ、
 中和の西で西都の近くのビワの聖湖に蒼碧そうへき龍、
 東北和の中央北部のニアの大森林に翠樹すいじゅ龍、
 西和中央北岸のトリトの大砂丘に橙土とうど龍、
 北の島のシカオの大雪原に藍凍らんとう龍、
 西の島のアゾの活火山に紅蓮ぐれん龍、
 そして南の島のズリの断崖岬に紫嵐しらん龍、
である。

 和の国の象徴である帝は、御代替わりのたびに東都と西都に住み替える。
 今上の帝は東都におわす。よってわれらユノベも、トノベもヤクシも、またその他の一党もすべては、東都近くに本拠を構えている。
 帝がご譲位されれば、次の帝は西都におわすことになるので、われらも本拠を西都近くに遷す。今は東都が本拠なので、現在は副拠となっている西の本拠には、代官を置いている。

 ユノベの館に戻り、湯殿で白湯に浸かる。湯殿には白湯と赤湯があり、俺は白湯が好みだ。白湯の中で考えを整理すると、新たな成人の試練がだんだんと形になって来た。
 それは、和の国を巡って、残りの神龍6体もすべて眷属にすることだ。

 俺はライを眷属にしたおかげで、弓矢による雷撃が可能となった。残りの神龍を眷属にするたびに新たな属性攻撃を得られる。弓矢による物理的な攻撃に付加する属性攻撃の種類が増えれば、属性攻撃の陰陽士や陽士を凌駕することができる。

 弓矢の属性攻撃がオミョシの陽の術に勝るのは、属性攻撃に耐性がある相手でも、弓矢による物理的ダメージだは与えられるからだ。陽の術は属性攻撃への耐性がある相手には効かない。

 優秀な陰陽士でも使える陽の術はせいぜい3属性程度であるが、俺は神龍を眷属にするたびに属性が増える。最終的にはあらゆる属性攻撃が可能となるのだ。

 しかしこの試練は、とにかく時間が掛かる。達成までに何年掛かるか分からない。つまり、統領を継ぐのがいつになるのか分からない。叔父貴たちが賛成するはずがない。

 統領を継いでからだと、一党を統べる責任が生じるから、和の国を自由気儘に巡ることはほぼ不可能となろう。

 封龍矢は一手(2本)でいいが、金剛鏑は1つをライに使ったのでもう1つしか残ってない。つまり金剛鏑の入手を、並行して行わなくてはならない。流邏矢も一手しかないが、可能ならさらに欲しい。

 サヤ姉とサジ姉はどうするだろう。戦力的にもふたりには一緒に来て欲しい。しかし成人の試練なら、俺ひとりでこなすべきだろう。
 そもそも、ライを眷属にしたのに、ふたりの力を借りてしまったのが、自分としては納得できず、再試練を受けたいと言ったのだ。さてどうしたものか?

 これ以上考えてもいい考えが浮かばないし、いい加減、白湯でのぼせちまう。もう、温泉から上がろう。

 湯殿の入り口で、サヤ姉とサジ姉とばったり会った。ふたりは赤湯から出て来たとこだった。ふたりとも長い髪をアップでまとめていて、うなじが妙にそそる。
「あら、アタルも今出たとこ?アタルはたいてい白湯よね。」
「あぁ。いかにも温泉って匂いが好きなんだよ。」
「残念…だったね…。赤湯に…してたら…私たちと…混浴…。」
「サジ姉、俺が先に入ってたら、入って来ないだろ?俺が後から入ったら、俺はふたりにボコられるだろ?」
「うふふ…今は…ダメ…。」将来的にはいいんかい?あ、娶ったらありか。婚約でもいいかな?
「いいわよ。婚約してからなら。」
「えっ?えー?」
「やっぱり、婚約したらいいかな?とか考えてたわね。」
「考えてる…こと…すぐ…分かる…。単純…。」
「敵わんなー。」
 勝ち誇るふたり。小振りな双丘が上を向いている。

「ところでさ。成人の試練の仕切り直しのことなんだけど…。」
 俺は和の国を巡り、ライ以外の残りの神龍6体を眷属にしたいこと、でも叔父貴たちは許してくれないだろうこと、ふたりとの婚儀がいつになるか分からなくなること、などなど懸念事項を告げた。

「それは成人の試練にしては壮大過ぎるわね。次期統領就任に向けての武者修行ってことでいいんじゃないかしら?ね?サジ。」
 こくり。
「試練は…叔父様…たちの…顔を…立てて…樹海の…獣…10体…。サヤ…?」
「そうね。そして次期統領就任のための武者修行に出るってことにしたら?ね?サジ。」
 こくり。
「サヤ…そしたら…私たちも…一緒に…行ける…。」
「そうね。それに流邏矢でちょくちょくユノベに帰れば、あまり文句も出ないでしょ?ね?サジ。」
 こくり。
「それだ!」

 俺は思わずふたりを抱き締めた。
「「ふぇっ」」
「頭いいなー、ふたりとも。俺、さんざん悩んでも答えが出なかったんだけどさ。あっさり解決だな。
 何より、ふたりが一緒に来てくれることが嬉しいよ。戦力的にも大幅アップだ。」
 ハグを解くと、真っ赤になってるふたり。かわいい。

 翌日、介添のふたりを連れて再び樹海へ。前日と合わせて、雷撃矢で瞬殺した獣は、大猪3頭、大狼2頭、大熊2頭、大鹿5頭の計12頭。弓矢による属性攻撃の威力を改めて思い知った。

 ユノベの館に帰還して叔父貴たちに報告。
「叔父貴どのたち、サヤ姉とサジ姉を介添に樹海の獣12頭を狩って来た。ご検分あれ。」
「なんと。2日でか?しかも大獣ばかりではないか!」
「見事じゃ。天晴ぞ、アタル。」
「これで次期統領に文句はあるまい。ふたりとも、介添ご苦労であった。」

「叔父貴どのたち、折り入って頼みがあるのだが。」
「なんだ?試練での手柄に免じて、大抵のことは聞くぞ。」
「されば、願いは2つある。まずは大熊1頭をライの食糧として賜りたい。ライから受けた雷の力を纏いし矢で、此度の獲物12頭すべてを瞬殺だ。ライの手柄でもある。」
「よかろう。」

「2つ目は、ライと同等の力を持つ神龍があと6体、和の国に割拠している。統領就任のための武者修行を兼ねて、そのすべてをわが眷属とし、あらゆる属性攻撃を手に入れたい。」
「なんと。しかし、成人の試練を終えたら、統領就任と婚約発表の段取りなのだぞ。」
「統領に就任したら、おいそれとは出歩けぬ。統領内定で如何か? また、統領内定と合わせて、サヤ姉とサジ姉のふたりとの婚約を発表する。
 それと、武者修行の間は、叔父貴どのたちに今まで通りの統領代理を頼みたい。」

「しかしな、婚約発表と同時に婚約者をほったらかすのはいかがなものか。トノベやヤクシへの手前もあるのだぞ。」
「ふたりは連れて行く。それならトノベもヤクシも文句はあるまい。それに、ふたりとも、戦力として大いに期待している。」
「しかしなぁ…。」

「叔父貴どのたち、よくよく考えよ。神龍による属性獲得は弓矢の戦闘力を飛躍的に上げ、属性攻撃を占有していたオミョシを凌ぐ力を身に付けるのだ。何を迷うことがある?」
「「「うーむ。」」」
「われら3人のパーティは、遠距離攻撃の俺、近距離攻撃のサヤ姉、回復のサジ姉とバランスはかなりよい。
 適当な人材がいれば、防御役と支援役を加えてもよい。さすればパーティは盤石となる。
 さらには流邏矢でちょくちょく帰還し、近況報告もしようぞ。」

「しかしなぁ。姉貴たちに何と言えばよいか。」
「何を言うか。嫁いだ伯母御どのたちに、ユノベの方針に対して、とやかく言わせてよいはずがなかろう!
 叔父貴どのたち、シャキッとせよ。そんな弱腰では、亡き親父どのが嘆こうぞ。」
「それもそうだの。アタルの言う通りぞ。確かにわれらは姉貴たちの顔色を気にし過ぎていたかもしれん。」

「それにな、俺には、サヤ姉とサジ姉が付いているのだ。そもそもこのアイディアの出どころはふたりだからな。」
「なるほど。姉貴たちが文句を言って来たら、アタルを焚き付けたのは、サヤとサジだと言えばよいのだな。」
「ククク…姉貴たちの唖然とする顔が目に浮かぶわ。」
「いい気味じゃ。よし、アタル、武者修行を認めようぞ。」
「サヤもサジもアタルをよろしく頼むぞ。」
「いや、俺がふたりを守るんだよ。」
「アタル、最後のセリフは言わない方がカッコよかったわよ。」
「アタル…詰めが…甘い…。」
「…ごめんなさい。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...