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契約結婚と秘密の交換条件
契約結婚と秘密の交換条件3
しおりを挟む「……こんな時間にすまない。君と交わしたあの時の交換条件で話したことを、今から頼みたい」
交換条件……なにそれ? いったい匡介さんは誰と何を話しているの? 今から頼みたいっていったいどういう事なのか、私は訳も分からず電話で話す匡介さんを見ていた。
「ああ、そうだ。今から彼女を君たちの家に連れて行く。そう時間はかからないだろうからよろしく頼む」
匡介さんの話す内容に私は嫌な予感がした、彼は私をどこかに連れて行く気なのだと。もしかしたら鵜方先生の病院? でもそれなら交換条件だなんて言うはずがない。
「匡介さん……?」
さっさと通話を終えた匡介さんが私をじっと見つめる、その瞳の奥の彼の考えは読めない。彼はゆっくりと私に近づくと、ベッドに手を置き静かに口を開いた。
「君は実家に帰りたいと思うか? もしこの家が辛く杏凛が望むなら……そうしても構わない」
実家に帰る? そんなこと考えた事も無かった、今実家に帰れば家族は私をこの家には戻してくれないかもしれない。そんなのは嫌……!
「実家には帰らないわ、匡介さんが帰って欲しいって思ってても今は帰らない」
「そうか、じょあ鵜方先生に紹介してもらって入院と言う手もある。それならどうだ?」
なぜそんなことを急に出だしたのか、もし私の存在が重荷ならハッキリそう言ってくれてもいいのに。そんなマイナス感情が心の中で渦巻いている。
「入院するつもりも無いです、そこまでするほど困ってませんから」
そんな私の答えを分かっていたかのように匡介さんはもう一度スマホを取り出し操作していた。いったい彼は何がしたいの? 訳が分からず匡介さんを見つめると……
「悪いが着替えてくれ、君をこれからある所へ連れて行く。ある程度の準備は出来ているから、杏凛は外に出る用意さえしてくれれば良い」
「ちょっと待って、私はまだ……!」
匡介さんの言う準備とは何のことなのか、私をどこに連れて行くのかも話さないまま彼はさっさと部屋から出て行ってしまう。こんなに匡介さんが何を考えているのか分からないのは久しぶりの事だった。
それでも何か訳があるのかもしれないと、クローゼットから服を取り出し出掛ける用意を始める。顔を洗って鏡の前に座れば、はっきりとわかる目の下の隈。
……こんな姿を見せられ続ければ、匡介さんだって苦しかったのかもしれない。そう思うと自分の意見だけを押し通すのは出来ない気がした。
「準備出来ました……」
「ああ、じゃあ行こう。外に車を用意させている」
普段は匡介さんが運転するのに今日は他の人に運転を頼んだらしく、彼は私と一緒に後部座席に乗り込んだ。そんな所にも違和感を感じながら、私は匡介さんに身体を抱き寄せられる形で座っていた。
「これからどこに行くんですか……?」
「杏凛は何も心配しなくていい、君の心が落ち着ける場所に連れて行くから」
走り出した車の中、私はそれ以上匡介さんに聞くことも出来ないまま。ただ優しく重ねられた彼の手のひらの温度に集中しているしかなかった。
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