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契約結婚で隠した過去には
契約結婚で隠した過去には4
しおりを挟む「話してくれるわよね? 私にはそれを知る権利があるはずよ」
強い口調でそう言えば、両親は諦めたような表情でお互いの顔を見合わせていた。
そこまで言いたくない理由ならば、私にとってもいい事ではないとさすがに分かってしまう。それでも私は自分の失った記憶ときちんと向き合いたい気持ちがあった。
……この時はまだ、自分はきっと大丈夫だという自信があったのかもしれない。
「いつまでも隠しておけないとは思っていたが、本当に覚悟は出来ているんだな? 杏凛」
大きな溜息を吐く父と、オロオロと落ち着かない母。二人が私の事を心配してくれているのは有難かったが、私も前に進みたかったから……
「出来てます、だから全部聞かせてください」
真っ直ぐに父を見つめて、そのまま目を逸らさない。私が今日ここまで来たのは中途半端な気持ちじゃないと両親に伝えるために。
「そうか、分かった。何から話そうか、そうだな……杏凛は橋茂 郁人君を憶えているか?」
「郁人君? ええ、うちの会社や鏡谷コンツェルンと関わりのある橋茂社長の息子さんよね? 確か子供の頃よく遊んでくれていた……」
匡介さんと同じく郁人君も昔は親同志の集まりによく顔を出していた。少し引っ込み思案だった彼を「お兄ちゃん」と呼び、私はよく連れまわしたものだった。
しかし、その郁人君がなんだというのだろう?
私の記憶の中の郁人君は大人しいが優しい人だった。しかしいつの間にか親同士の集まりにも顔を出さなくなって、誰も彼の話をしなくなった。
そういえば私は彼が今どこで何をしているのかも知らない……そのことになぜか妙に胸がバクバクと音を立て始める。
「ああ、その郁人君だ。杏凛は彼に懐いていたからな、やはり今もその気持ちは変わらないのか……」
「それは、どういう意味ですか?」
それではまるで私が郁人君に対し良い印象を持っているのがおかしいような言い方だ。彼は私に優しかったし、いつもテレたようなはにかんだ笑顔を見せてくれた。嫌いになる理由がない。
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「このまま覚えていないほうが幸せだと思わないか、杏凛。彼との思い出は綺麗なままがいいだろう?」
悲し気な父の表情に、さすがの私も何かが郁人君との間で起こったのだと理解した。それが何なのかはまだ思い出すことが出来なかったが。
「それでも知りたいと言ったら、教えてもらえますか?」
郁人君の事は複雑だが、それでも過去と向き合いたい気持ちは変わらない。父の視線から目を逸らさないで、私は真っ直ぐな気持ちを答えた。
「そうか、覚悟は出来ているという事だな。ならば落ち着いてしっかりと聞きなさい。杏凛が高校二年生だったあの雷雨の日に、お前は郁人君の……彼の手によって監禁されたんだ」
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